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第7話

累、決意する!

「明日同じ時間にまた来る。それまでに必ず決めておけ」


俺を牢屋に入れた後、槍男はそう言い残すと、この場から去って行った。



さて、訓練場でアルネオに選択を迫られた俺が、どんな答えを返したかと言うと…



『あのー、やっぱ少しだけ時間くれないっすか? せめて明日まで』



………。




チキンと罵るがいいさ。

えぇ、それに優柔不断ですとも。



いや、別に決めるのが怖いとか、そういう理由じゃないからね?

ちょっと相談したい方がいたんです。あの現代っ娘ミーハー神様にね。

 あんなんでも一応神様だから、相談ぐらいには乗ってくれるかなー、とか考えてたり。

それに日本の神様だからね、同じ日本人(?)の方が相談しやすいし。

…見た目は日本人離れしてるけど。



 とにかく!

俺は、昨日また来ると言ったイオを信じて、夜になるのを待つことにした。






まぁ夜まで待つと言っても、それまでに結構時間はあるワケで。

晩飯を挟む事になるワケで…



「どうぞ…」

「あぐ、んぐんぐ…、ゴクン」


俺は再びリーシャさんのお世話になっていた。

あ、ちなみに昼飯はありませんでした。

奴隷のクセに一日三食とか、贅沢言うな、というコトです。

自分達は毎日贅沢三昧なクセして、よく言うよねまったく。


「もっきゅもっきゅ…」


しかし気のせいか、このパン昨日より固いな。

それでも最初のあれよりマシだけどね。


「あの…」


俺が一生懸命固いパンを咀嚼していると、リーシャさんが恐る恐る話し掛けてきた。


「着けられなかったんですね。首輪…」

「え? あぁ、ちょっと色々あって…」

「……すみません」

「何がです?」

「さっきの言い方です。まるで、貴方が首輪を着けられる事を、私が望んでるみたいで」

「あ、あぁ。別に気にしてないですよ」

「……」


そして黙りこくってしまったリーシャさん。

えーとえーと、他に何か話題を!


「…累でいいですよ」

「え?」

「貴方とか呼ばれるの、なんかムズかゆいんで。だから累でいいです」

「……?」


先ほどとは違う沈黙。

ポカーンとした顔になるリーシャさん。

キョトンとした目が、俺を見つめる。


「――っ!」


その顔に見つめられて、一瞬ドキリとしてしまった。


なんて言うか、今まで綺麗な人だとは思ってたけど、この顔は…


「可愛い…」

「っ!?」


やっべ!

つい心の声が漏れてしまった。

ああああ…

なんかリーシャさん真っ赤になって俯いちゃってるし。

それさえも可愛い…じゃなくて、落ち着けオレ!!


俺がワタワタと慌てていると、まだ若干顔を赤くしたリーシャさんが顔を上げた。


「あの…」

「は、はい!」

「私も、リーシャでいいです。あな…ルイさんも、私の事を貴方って呼んでましたよね? ですから」

「はいっ、わきゃりましちゃ」


…噛んだ。

あぁもう! 落ち着け!!


「え、えーと、ぁああああの、そのっ」

「…プッ、クスクス…」

「…え?」


笑った?


「ご、ごめんなさい。その、ルイさんが、あまりにも慌てるものですから」

「あ、あうえ、えと、申しわけない」

「クスクス…いえ」


そう言いながら、目尻を拭うリーシャさん。

涙が出るほどおかしかったの!?

でも…


「えと、その…、そっちの方がいいですよ」

「え?」

「こんな言い方もあれですけど…、リーシャさん、ずっと怖い顔してましたから。やっぱり貴方みたいな人は、笑顔の方がいいですよ」

「……」

「その…、こんな状況で、笑顔でいろって言うのも、無理な話しかと、思いますが…」


ああもう、何を言ってるんだろう俺は。

でも、自然と口が開いてしまうのだ。言葉を紡いでしまうのだ。

何となく、この人には笑顔が一番似合うと思ったから。


「あの…そんなに、怖い顔をしてましたか?」

「えぇ、そりゃもう。こんな風に眉間にシワ寄せて」


俺はそう言って、自分の眉間を人差し指で抑えて、悪戯っぽく言ってみた。


「…失礼な人ですね」


そっぽを向いてしまった。


しかし、それでも本気で怒ってる様子は無く、プイッと拗ねた様にだった。


か、可愛い。

えと、話題を…


「あの、それから」

「はい?」


あ、振り向いてくれた。


「敬語も使わなくていいですよ。リーシャさん、俺より年上でしょう?」

「まぁ、女の子に対して年の話しですか?」

「す、スイマセン(汗)。でも、十八の若僧に敬語なんて必要ないですから」

「……」





あれ?

どうしたんだろう。

急にリーシャさんの顔が固まったぞ?


「…ルイさん?」

「は、はい」


気のせいか、リーシャさんの声のトーンがやたらと低いような。


「いま、幾つって言いました?」


ひぃ!

なんですかその顔!

メチャメチャ怖いんですけど!

ほ、ほらっ。笑顔でいましょうって言ったばっかりじゃないですか!


「貴方は、私の事を、幾つだと思ってたんですか?」

「えと…、え?」


な、何をお怒りであらせられますのでしょうか?



「ワタシノコトヲ、イクツダト、オモッタンデスカ?」

「その、二十一・二歳かと…」


―ピキッ


ん? 何の音?


「ワタシは…」


わなわなと震えながら声を絞り出すリーシャさん。


…あ、今更きづきました。

でも、遅いよね?


「じゅうはちです!!!」

「ごめんなさー!」



その日、俺は生まれて初めて宙を舞いました。










その後俺は、何とかしてリーシャさんの機嫌を直そうとし、――リーシャさんは怒りながらも俺の口に飯を運んで――いつの間にか食事を終えた。



そして、目的の夜がきた。


 

「こんばん…ゴメンナサイ」


とりあえず軽く挨拶を、と思ってこんばんはと言おうとしたのだが、会って早々なぜか機嫌の悪いイオに、俺はつい謝った。

なんか凄くムスッとしてるんだもん。


「なんで謝るの?」

「いや、機嫌の悪そうな女性を見るとつい…。っていうか何かあった?」

「そうなの! ちょっと聞いてよ!」

「な、何だなんだ?」


急に身を乗り出して、喚きだしたイオ。


「昨日あのあと天界に帰ったらさっ、上司に『なんでこんなに早く帰って来てるんだ! ドラマなんて見てないで仕事しろ!』って言われてさ!」


いや、その通りだよね。

仕事しろよ。


「そういえば、イオが好きって言ってたそのドラマってなに? 天界でしかやってないやつとか?」


ちょっと気になってたんだよね。

天界ってどんな番組流れてるんだろー、とか。



「ん~ん、下界でもやってるよ。狂気的な彼氏ってやつ」


え?

それってもしかして、彼氏がひたすら彼女にドメスティックでヴァイオレンスな事をする、あのクソドラマですか?


「クソドラマじゃない! 確かに物語はアレだけど、主人公は最高じゃん!」

「主人公って…、あのDV男の事? アレのどこがいいのさ」

「全然DVなんかじゃないし~、あれくらい強気の方が男は良いんです~」

「…イオって、もしかしてドM?」

「違うよっ、失礼な! でもさ、私もあんな風にビシバシやってもらったり、叱って欲しいな~とか思うんだょねぇ…ハァハァ」



…ああ、ドMじゃなかったか。

ド変態でしたか。


現代っ娘でミーハーでド変態な神様か…

ロクでもねぇな。


「…キミ、本当に失礼な事考えるよね」

「人間いつでも腹の中は混沌としてるんだよ。人の心をそうポンポン覗くな」

「あ、そうゆう事言うんだ。私帰ろっかな。せっかく良いモノあげようと思ったのに」

「え、なになに良いモノって?」


ゴメンナサイ、スイマセン、調子に乗ってました、許して下さい。


「手のひら返すの早っ!」

「ふっ、男とは時に下げたくない頭を下げるものだ」

「…まぁその台詞は分かるけど、キミのは違うよね」

「そんな事より、良いモノってなに?」


俺は目をキラキラとさせながら聞いた。


「うっ…。ぁあ、ちょっと待ってて」


そう言って、肩に下げたポーチをゴソゴソするイオ。

そして、綺麗な彫刻が施された、白金色の指輪を取り出した。


「はい、コレ」

「ん? 指輪?」

「ただの指輪じゃないよ。コレは千刃の指輪と言って、高位神が作った伝説級の武器なんだから」

「武器? これが?」


俺の掌に乗せられた指輪を見つめる。

単なる指輪にしか見えないけど?


「ふっふーん。ちょっとはめてみ?」

「…?」


とりあえず、右手の人差し指にはめてみる。


「…で?」


何も起きないよ?


「指輪に念じてみて。剣になれと」

「は?」

「いいからっ、念じるの!」

「…?」


えらく不親切な説明だな。

とりあえず、剣になるよう念じればいいんだな。


……なんの剣?


「キミが知ってる剣でも刀でもなんでもいいから」

「…じゃあ」


俺は頭の中に、シンプルな日本刀をイメージし、それを指輪に念じた。

すると


「うぉっ!?」


いつの間にか俺の右手にイメージ通りの日本刀が握られており、代わりに指輪が無くなっていた。


「え、これってもしかして…」

「そう、その千刃の指輪はね、持ち主の空想した武具を具現化するアイテムなの」

「……ま じ で?」

「マジマジ」



うぉぉおおお!

すげぇ! なんじゃそりゃ!

夢のアイテムじゃん!

中二病男子のロマンじやないっすか!


「ふふっ、喜んでくれたみたいだね。苦労して手に入れた甲斐あるよ」

「え、もともと持ってたんじゃないの? どうして?」

「いや、異世界に飛ばされたうえに戻れなくなっちゃったキミに、せめてもの救いとを思ってね。本当は新しい能力を付与してやれって言われたんだけど、ワタシその方法知らなくてさぁ、だから代わりにそれをね」

「ふーん。まぁ能力は今ので十分だったから、コレは普通に嬉しいよ」

「そ、そう? 喜んでくれて良かったよ」

「うん、ありがと」


そう礼を言って、イオの頭をポンポンと叩く俺。


「コレって、元に戻す時はどうすればいいの?」

「ぁあ、元の指輪をイメージすれば戻るよ。ちなみに、別の武具をイメージするとその武具に変わるから」


俺は元の白金色の指輪をイメージし、戻るよう念じた。

すると、右手にあった日本刀は消え、人差し指に指輪が戻った。


「ほぇー、すっげぇー」

「むふふんっ、そうでしょそうでしょ。あ、いちおう説明書も渡しておくね」


あるんだ、説明書。

伝説のアイテムに説明書とか、なんかシュールだな。


俺は受け取った説明書を、取り敢えずズボンのポケットにしまう。

そして、今日イオに話したかった一番の本題を切り出す。


「…あのさ、イオ」

「ん、なに?」

「ちょっと、相談があるんだけど」



俺はイオに、今日訓練場で起こったコトを事細かに説明し、俺が選択を迫られている事、それについて悩んでいる事を話した。


「――という訳でして。どうしよう?」

「どうしようって…、キミはどうしたいのさ」

「う~ん…。アルネオに雇われるのは癪に触るし、雇われたとしても、他の奴隷の人達に目の敵にされそうだし」

「じゃあ断ったら?」

「いやでも、う~ん…。衣食住は手に入れたいし、このまま奴隷っていうのも嫌なんだよね」

「…だったら雇われればいいじゃない」

「だからー、アルネオに雇われるのも癪だし、他の――」

「(イラッ)ああもうっ、面倒臭い男! ウジウジウジウジ悩んでないで、さっさと決めちゃいなさいよ!」


うぉっ、イオがキレた!?

…どして?


「どうして? 今どうしてって言った?」

「いやいや、言ってない。思っただけ」

「どっちでも同じよこのアンポンタン! 」

「ぇえ!?」


理不尽!

そして何でそんなに怒ってるのさ。


「キミがどっちつかずで、さっさと決めないからでしょうがっ」

「だ、だから俺は、どっちにしようか悩んでるからイオに相談してるんじゃん」

「相談? 相談ですって? キミのはただ、他人に自分の選択肢を委ねようとしてるだけじゃない」

「それは…」


俺は反論しようと口を開きかけるが、言葉が思い付かなかった。


「じゃあ聞くけど、もしワタシが奴隷のままでいなさいって言ったら、キミはこの世界で死ぬまで奴隷でいるつもり?」

「ち、違うっ…」

「……」


俺は反射的にそう反論した。

イオはそんな俺を、じっと無言で睨んでくる。


「……」

「……」



するとイオはハァー…、と大きな溜め息を吐き、額に手を当てた。


「キミは…、キミにはその二つの選択肢しかないの?」

「え?」


イオが呆れた様な、否、呆れた声でそう言った。

『二つの選択肢しかないの?』

つまり…


「えと、自分で選択肢を作り出せ、…ってコト?」


俺は半ば自信なさげにそう聞いた。

ムスッとした顔をして腕組みをしながら、コクッと頷くイオ。


「確かに、キミはこの世界の事は右も左も分からない。でも、キミにはこの世界で自力で生きていけるだけの力がある、能力がある。もし何かに躓いたり、立ち止まりそうになったら、ワタシに相談すればいい。でも、自分が進む道を選ぶのはキミでしょ? 道を作り出すのはキミでしょ?」

「……」


イオの言葉が、胸の奥深くに突き刺さった。

頭をハンマーで殴られた様な衝撃が走る。


「……俺はこの世界に来て、この世界の理不尽さに触れて、物凄い苛立ちを感じたんだ」

「……」


半ば無意識に、なぜか唐突にそんな事を語り始めた俺。

しかし、イオはそんな俺の言葉を黙って聞いてくれている。


「でも、そんなこの世界の理不尽に苛立ちながら、それを目の前にして何も出来ない自分に、もっと強い苛立ちを感じたんだ。力があれば、この理不尽に立ち向かえる力があるばって。でも…」


そこまで言うと、俺は拳をギュッと握り、言葉に力を込めた。


「いざ力を手に入れても、何もしなかった。ただ流されるがままに、自分さえ良ければって、そんな汚い事を考えてたんだ」

「…自分を守ろうと思うのは、人間の(さが)だよ。だからああは言ったけど、キミの葛藤は人間として仕方のないものだ」

「でも、俺は…」


握っていた拳を緩め、目を瞑んで深く深呼吸をする。

そして頭の中をクリアにし、体中に自分の意識を張り巡らせる。


…大丈夫だ。

俺にはこの能力がある。

イオから貰ったこの指輪がある。

背中を押してくれる神様がいる。


そして、目を見開き、再び拳を、今度は決意を込めて強く握る。


「ありがとう、イオ。俺は決めた」

「そ、どうするの?」


フワリと微笑み、優しい声で聞いてくるイオ。

…ほんと、かなわないなぁ。


俺は真っ直ぐにイオの目を見つめ、自らの決意を言霊にのせる。



「俺は、この世界の…」


 この世界に来て、色々な人に出会った。

無償の優しさをくれた人、必死で生きようとする人、必死で家族を守ろうとする人、生きる事に絶望してしまった人。俺は、この人達を守りたい。

エゴだと言われてもいい。

俺は、あのアルネオの様な男から、不幸な人達を嘲り貶めるヤツらから、あの人達を守りたい。


だから…



「この世界の、救世主になる!」




なんだか、書きたいを事つらつらと書いていたら、今までよりだいぶ長くなりました。

最後まで読んで下さってありがとうございます。




あ、この言い方だと最終回みたいですね…

まだまだ続きますので、異世界下克上物語を今後ともよろしくお願いします!!

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