第3話
剣や槍を持った男達に囲まれ、降参してから数十分後。
俺はさっきより頑丈な牢屋に入れられ、直径六十センチ位の大きな鉄球に両手両足を鎖で繋がれていた。
まぁ頑丈な牢屋と言っても、鉄格子がちょっと太くなっただけなのだが…
「なんでこう事態が悪い方にいくかなぁ…」
ども、絶対不幸美少年 有沢累です。
あれ、名前言うのって初めてだっけ?
まいっか、案内ページに乗ってるし。
なんの事かって?
俺も知らない。
閑話休題
とりあえず、俺は今言った様な状況にあるのだ。
ちなみに、顔に嵌ったままの格子はどうしたかと言うと。
顔を挟んでる二つの棒を掴んで両端に引っ張ったら、くにゃっと曲がって取れました。
なにこれ、相当モロい格子だったんだね。
とか思ったら、それを見ていた男達に更に警戒されて、この扱いです。
しかしこの格好不便なのよね~、鎖短いからロクに手足動かせないし。
あ、ちなみに牢屋の位置は、さっきまでの男性用のところから少し離れました。
俺の牢屋は女性用の牢屋の通路を挟んだ向かいにあります。
「ハァー…」
ついつい溜め息が零れる。
本当にもう、何でこんなコトなっちゃうのかねぇ。
誰かに説明して欲しいよ。
そんなこんな考えていると、牢屋の前に槍を持った男とキラキラ肥満髭オヤジがやってきた。
「ボス、コイツがさっき言った、信じられない怪力のガキです」
「ほぅ、コイツが…」
そう言って、髭を弄りながら俺を観察するキラキラ肥満髭オヤジ。
「おい小僧、年は幾つだ?」
「あ?十八だけど?」
「ほぅ、見た目より上だな…。武術の経験はあるか?」
「そんな事聞いてどうすんだよ」
「いいから答えろ!」
俺が不機嫌そうに言うと、槍を持った男が叫んだ。
「…剣道と空手」
まぁいいか、減るもんじゃないし。
ちなみに、剣道は小学1年から中3までやっていて、小1から小6までは道場で。
中学からは、道場に通いつつ部活でもやっていた。
空手の方は、入った高校に剣道部がなかったので、とりあえず武道系の部活がいいかなー、と思ってやってみた。
両方とも戦績は結構良い方だ。
閑話休題
俺が質問に答えると、キラキラ肥満髭オヤジ…(メンドイ、髭オヤジでいいや)が、首を傾げる。
ウェッ、気持ちワル…
「ケンドー、カラテ…、聞いた事ない武術だな」
あれ?
そうなんだ?
まぁどうでもいいか。
「ふむ…、小僧、ついて来い。おい、開けてやれ」
「はい」
すると、槍を持った男が牢屋の鍵を開けて近付いてきた。
「変な真似はするなよ?」
そう言うと、鉄球から鎖を外し、その間にもう一本鎖を繋げていく。
両手の鎖を繋げ終わると、短かった鎖は一メートルくらいの長さになる。
まぁ立ち上がるのに支障がなくなった感じだ。
髭オヤジと槍男に連れられてやって来た場所は、兵士の訓練場みたいな場所だった。
なぜ一目で分かったかって?
だってなんか厳ついニイチャン達が剣やら槍やらで訓練してるんだもん。
ん?
よく見ると全員、ビー玉みたいなのが嵌った首輪してるぞ?
なんだろあれ?
「全員手を止めろ!」
俺が訓練場の人達をボーっと眺めていると、横で槍男が大きな声を出した。
言われた通り手を止め、訝しげな顔で一斉に此方を睨んでくる。
ひぃっ!
ちょっと怖いんですけど!
「誰でもいい、この小僧と手合わせをしろ」
そして急に、髭オヤジがそんな事をのたまいやがった。
ザワザワと騒がしくなる訓練場内。
しかし、名乗りを挙げる者は一人もいなかった。
「何だつまらん…。よし、この小僧に勝った者は特例として、奴隷身分からの解放を約束してやろう」
その言葉を聞き、より一層騒がしくなる訓練場内。
先ほどとは違い、何人もの人間が手を挙げていた。
「俺だ!俺にやらせろ!」
「いや、俺だ!」
「俺にやらせればそんな小僧一瞬でぶっ殺してやるぜ!」
と、喧々囂々となる訓練場内。
「ふむ、誰にするか…」
と、満足げな顔で思案しる髭オヤジ。
そして、訓練場内の一角を見て目を細めた。
「ディアス!此方へ来い」
瞬間、ピタリと静かになる男達。
全員がある一方へと注目した。
「おいジジィ。俺はいま手を挙げていなかったんだが?」
そして全員の注目するその男が、不機嫌そうに喋る。
ディアスと呼ばれた男、見た目は身長百八十くらいで、黒のタンクトップみたいな服に麻色のズボンを履いており、青色の髪を短く切り、元の世界でいうスポーツ狩りの様な髪型をしている。
細いながらも筋肉はしっかりと付いており、その端正な顔立ちは誰が見てもイケメンと言うようなものだった。
「貴様!ボスに対してその言い草はなんだ!」
「よい。…ディアス、この私に何か不満でもあるのか?」
騒ぐ槍男を諫めると、髭オヤジは静かにそう言った。
「別に。ただ気乗りしねぇだけさ」
「なるほど。ならばこうしよう。貴様が勝ったら、貴様の指定した奴隷を一人解放してやる」
ピクッ―
ディアスと呼ばれた男が、僅かに反応した。
それを見て、髭オヤジはイヤらしい笑顔を浮かべる。
「さぁどうする?貴様が嫌だと言うならこの権利、別の者に譲るが?」
「……分かった、受けよう。ただ、その小僧の命は保証しねぇぞ」
「いいとも」
いやいや、良くないし!
あんた等なに勝手に人の生殺与奪を握ってるんですか!?
そんな俺の心の叫びなど露知らず、訓練場内の男達は俺とディアスの間の道を避けて空間を作った。
そして、槍男は俺の手足に付いた鉄球の鎖を外すと武器が大量に置いてある所を指差して言った。
「あの中から好きな武器をえらべ」
いやだから、俺の意見は聞いてくれないんですか?
「…俺、戦うなんて一言も言ってないんだけど?」
「ふむ、勝手にしろ。ただ、戦わなければ確実にディアスに殺されるぞ?」
俺がそう言うと、髭オヤジは詰まらなそうな顔で、前を指差して答えた。
髭オヤジの指差す方向を見ると、ディアスと呼ばれた男がいつの間にか剣(西洋剣としか分からない)を構え、此方を睨んでいた。
「さぁ、どうした。早く始めないか」
イヤらしい笑顔を浮かべ、俺達を催促する髭オヤジ。
そして次の瞬間――
「フッ!」
ディアスと呼ばれた男が此方に駆け込み、俺目掛けてその剣を横に一閃した。
「わわっ!」
慌ててしゃがみ、剣を躱す俺。
そしてフッと後ろを見ると、いつの間にか髭オヤジと槍男が離れていた。
はやっ!
ブォン!
「ちょっ、あんた危ないって!」
今度は縦に剣を振り下ろしてきたディアス。
俺は横に半歩踏み出し、剣を躱した。
「死にたくないのなら、お前も手を出してこい!」
そう言って、俺の顔目掛けて突きを繰り出す。
「アブネッ!」
俺は突きを右に避けて躱すと、反射的に左足で回し蹴りを出していた。
「ッ!!」
蹴りはディアスのわき腹に当たり、蹴られたディアスは一瞬よろめいた。
「ック…、なんだ今の蹴りは。真横から飛んできたぞ」
ん?
真横から?
…もしかして
俺はとある事を考え、確認のため少し攻撃をしてみる。
「シッ!」
「!?…グゥッ」
思った通りだ。
俺がディアスに放ったのは、空手の中段突き。
膝を曲げ、腰を落として相手の腹部に真っ直ぐに拳を突き出す、空手では割とオーソドックスな突きだ。
ただ、他の格闘技からすれば珍しい形式で、知らない人からすれば空手の技は対処し辛いらしい。
それが、ここでも当てはまったみたいだ。
どうやらディアスは空手特有の蹴りに戸惑ったらしく、それであの言葉が出てき様だ。
「またもや不思議な攻撃を…。小僧、キサマ何者だ」
「小僧じゃない。俺には有沢累っていう親から貰った名前があるんだ…よ!」
今度は上から打ち降ろす下段回し蹴りを放った。
「ッ!」
しかしホントに面白いぐらい当たるな。
いくら珍しい型の攻撃だからって、当たりすぎだろ。
それにそんなに強く当ててないのに凄いダメージだし。
「クソッ!!」
「おっと」
躍起になって、剣を振るうディアス。
しかし躍起になっているとは言え、その剣筋は正確なものだった。
そう、正確ではあるのだが…
「ほっ、よっ」
「くっ、ちょこまかと!」
その剣はただの一撃も当たらないのだ。
…しかし、う~んコレは…
「あのーもしかして、手加減してますか?」
「なにっ!?」
「いやだって、遅いから…」
そう、ディアスの放つ剣撃は確かに正確無比なものだが、その速さはあからさまに手加減している様にしか見えないスピードなのだ。
「っ!……小僧ぉ!!」
その俺の言葉で怒ったのか、ディアスはもの凄い形相で俺を睨み付けると、その場から一気に後ろへ跳んだ。
そして右腕を俺の方へ真っ直ぐと突き出して、なにやらブツブツと言い始めた。
「我契約の名の下に汝が力を求めん、求めるは水球、我が敵を押し潰す水球…」
すると、今まで嬉々として傍観をしていた他のヤツらが、ザワザワと騒ぎ始めた。
「ディアスのヤツ、契約魔法を使うつもりだ!」
「精霊魔法なんかとは威力が比べ物にならないぞ!」
「離れろっ、巻き込まれるぞ!!」
はい?
まほう?
…魔法!?
「…聖霊の力を持って、我が敵を打ち砕け!」
瞬間、俺の頭上に直径3メートル程の水球が現れた。
「あ、きれい…」
…じゃなくて!
やっばーい!
何がヤバいか分からないけど、とにかくヤバい!
俺は本能的に危機を感じ、水球の下から逃げようとする。
が…
「遅いっ!」
ドンッ!!!!
直後、水球が俺目掛けて落下した。
水球が落下した瞬間、とても水が落下したとは思えない音が響いた。
そして落下した水球は…
「あれ?まぼろし?」
跡形も無く消えていた。
「なっ!?バカな!!」
右腕を此方に突き出したまま、驚愕の表情を浮かべ硬直するディアス。
「隙アリッ」
俺はその一瞬を好機と見て、地面を蹴り込み一気に駆け出す。
それに気付いたディアスは慌てて剣を振り上げ、俺に向かい振り下ろそうとするが…
「だから遅いんだって」
俺は左手でディアスの剣を持つ腕を取り、右手で腕のツボに指突を放つ。
「がっ…」
腕に電流が走った様な衝撃を受たディアスは、手にしていた剣をつい落としてしまう。
「フッ」
そして、丸腰になったディアスを背負い投げの要領で投げ飛ばす。
ドサッ!
「グハッ!」
勢い良く背中から落ちたディアス。
そして先程まで、俺達の戦いを離れて傍観していた髭オヤジが出てきて、高らかに宣言する。
「そこまで。この勝負、小僧の勝ちだ」