第27話
あの後の流れ。
説明を要求した。
説明された。
納得した。
改めて自己紹介した。
うん、何のこっちゃって話しですよね。
いやもぅ何て言うか、疲れてて説明もめんどいって感じで…
ん?誰に説明するんだ?
ついに電波でも受信しちゃったか俺。
でも大丈夫だ俺。
恐らくまだアンテナは一本だ。バリ3とかなったら大変だがまだ平気。
このまま圏外まで逃げ切れ!
・・・
とりあえず、回想をどうぞ。
(´・ω・`)
「えっと、つまりこういう事ですか。フィーナさんに、帰って来なくても良いから好きにしろと言われたから、好きにして俺達の所へ来たと」
「ああ、要点を纏めるとそうだな」
はい、おれ説明乙。
「でもいくら好きにしろと言われたからって、何で俺達の所へ? さっきまで敵だった相手ですよ?」
「ルイさん、そんな事聞くまでもありません。どうせ下心を持って近付いて来たに決まってるんですから」
下心ってなに?と思って視線をマリアさんに向ける。
「なっ!? ち、違うぞ! 私はただ、敗者は勝者の言う事に従おうと思い、それでルイに私のからd…ゴホンッ、私達の隊の運命を委ねるためにやって来たのだ!」
「ほらっ、聞きましたかルイさん!? 今もの凄く不穏な事を言おうとしてましたよこの人!」
ん?ちょっと俺には聞こえ難かったんだけど、何か言ったのか?
耳悪くなったかな?
「い、言い間違えそうになっただけだ!君はあれだ、被害妄想が激しいんじゃないのか?」
「言うに事欠いて、私が悪いと仰いますか。そうですか。ところで、少し表に出ませんか?」
「そうだな。ちょっと外で気晴らしに素振りでもしてくるか。まぁその過程で誰かに槍が掠っても仕方がないな」
「ええそうですね。魔法の練習中に誰かが氷っていても、私には知らぬところです」
ふふふ…、と笑い合う2人。
なんか怖い…
「はいストップ。理由は分かりませんが、喧嘩は止めてください。それと話を戻しますが、マリアさん、あなたの隊の皆もそれで良いと言っているんですか?」
「「………」」
何故かジト目で見つめてくる二人。なんで?
「彼のあれは素なのか? だとしたら相当な朴念仁だな」
「ええ、あれが素です。残念ながら…」
残念ってなんですか。失礼な!
っていうかまぁ、言いたい事はなんとなく分かるんですがね。
でも何て言うか、前の世界でのトラウマが…
実は俺、前の世界で告白した女の子とはてっきり両想いだと思ってたんだよね。
周りの人達も、絶対うまくいくから早く告白しろ!なんて持て囃してたし。でも結果はあれです。
何て言うか、もう女性の事が分からないんです。はい。
ヘタレですね。分かってます。
「ああ、すまない。私の隊の皆も同じ意見だ。自分達の処遇はルイに任せると言っている」
俺が心の中で勝手にアンニュイな気分になっていると、マリアさんが話を戻して答えてくれた。
「そうですか。マリアさん達みたいな強い人が仲間になってくれると言うのなら、別に否やはないですけど…」
そう言って、チラリとリーシャさんの方を見る。
「私は反対です。さっきまで敵だった人達を、そう簡単に信用は出来ません。もし敵との戦闘中に寝返りなどされたら、私達はひとたまりもありませんし」
「そう…ですか」
「……」
まぁ、リーシャさんの言う事にも一理ある。
と言うか普通は考えるよな、そういう事は。
でも何て言うか、これは完全に俺のカンなんだけど、マリアさんはそういう事をする人じゃないと思う。
でも、こんな事言ってもリーシャさんは納得してくれないだろうなぁ。
「ん~~…」
リーシャさんの顔を見ながら、どんな風に言えば納得してくれるか考えてみる。
「うっ…、何ですかその顔は…。そんな顔で見ても私は妥協しませんよ?」
微妙に顔が赤くなるリーシャさん。
そんな顔ってのがどんな顔なのかは分からんが、だめかなぁ…。
リーシャさんの言葉を聞き、少しシュンとしてしまう俺。
「しょうがないさ、ルイ。そう思われるのも仕方のない事だ。ある程度覚悟はしていた。だからそう落ち込むな」
うなだれる俺の肩に、マリアさんがポンと手を置いてなぐさめてくれる。
「な、なんですか。まるで私が悪者みたいじゃないですか」
リーシャさんの顔を見る。
「しょ、しょうがないですね。ちゃんとルイさんが面倒を見るんですよ?」
「え? いいの!?」
「おい、私は犬か?」
なんかお許しが出たみたいだ。
「ご飯もちゃんと俺があげるし、散歩も俺が行きます!」
「おい、だから…」
「まぁ、それは冗談として」
「ルイ!?」
ちょっとマリアさんをからかってみました。
テヘペロ♪
「マリアさん達には悪いですけど、暫くは様子見という事で、仲間にはなってもらいます。他の人達の目もありますからね」
いくら俺達がいいと言っても、他の元奴隷の人達がそう簡単に納得出来るかどうかは難しい。
対外的には、様子見で仲間に…、という事にして、皆が慣れていくのを待とう。
「いや、此方はどうこう言える立場ではないからな。それでもありがたい」
「では、他の皆さんには後で集まって頂いて、そこで説明しましょう」
「そうですね。そうしましょう」
ひとまず、そういう事になった。
「では、改めて自己紹介しよう。元クルジア王国国家正規騎士団中隊長、マリア・マグナスだ。これからよろしく頼む」
「有沢累です。有沢が性で累が名。マリアさんみたいな格好いい肩書きはありせん」
ただの有沢累ですから。
「リーシャ・ハーネスです。よろしくお願いしますマリアさん」
「ハーネス? まさかあのリーシャ・ハーネスか?」
「あの、とは随分抽象的な言い方ですね。何を仰いたいんですか?」
「む、…失礼。君が、あの『流麗の魔女』の二つ名を持つリーシャ・ハーネスなのか?」
しかし何度聞いても廚二臭い二つ名だな。むしろ二つ名自体が廚二臭いか。
「ええ、まあ。そう呼ばれる事もあります」
「では君が兄と言っていた男性は、蒼聖の剣士のディアス・ハーネスか」
「ええ、そうです」
へぇ、ディアスさんにも二つ名あったんだ。
やっぱり何度聞いても廚二くさ…以下略。
この後取り留めもない話をしながら、途中で参加してきたマーカスさんやガリウスさん、復活したディアスさんを交えて、改めて自己紹介をしていた。
そしてふと会話が途切れた拍子に、マリアさんが真面目な表情で話を切り出してきた。
「仮にとは言え、仲間にしてもらって急にで悪いのだが、少しの間我々は別行動をしようと思う」
「別行動? 何かやる事でも?なんだったら手伝いますよ」
仲間になる前にやっておきたい事でもあるのだろうか?
「いや、ありがたいが気持ちだけ受け取っておこう。これは我々の問題なのだ。君達を巻き込むわけにはいかない」
「巻き込むとは、些か穏やかではありませんね。何をするのですか?」
リーシャさんが若干鋭い語気で問う。
「……」
困った顔で沈黙するマリアさん。
その沈黙を後ろめたい事があると解釈したのか、更に問いただす。
「私達は、まだあなた方を完全に信用したわけではありません。もし話さないと言うのならそれは構いませんが、私達からの信用が下がるのを覚悟して下さい」
「リーシャさん、そこまで言わなくても…」
「ルイ、これは当然の事だ。俺達と彼女達は元々は対立していた立場なのだからな。いきなり何もかも信用するのは無理な話だ」
「それは、分かっていますけど…」
なんか悪い雰囲気になってきたな。
どうするか…
そう思ってマリアさんの方をチラリと見ると、ハァッと小さく息を吐き、観念したかのように話し始めた。
「分かった、理由を話そう」
ディアスさんとリーシャさんは論ずるのをやめ、マリアさんに向き直る。
「先ほどの戦いの最中にルイに言ったが、我々騎士団が戦等で負け帰った場合、貴族階級の者でない限り、一族郎党みな奴隷階級に落とされる、という法律があるのだが…」
「ちょっと待て、なんだその法律は? そんな法律、俺達が奴隷になる前はなかった筈だ」
驚いたディアスさんが、マリアさんの話を止める。
リーシャさんの顔を見ると、やはり驚いた表情をしている。
「確かに、少し前まではこんな法律は無かった。だが去年の中頃に、急に王政府から御触れが出たんだよ。この度、我が王国を正しく導き律するために、新しき法律を戒する。王国民は此を守り、より一層王への忠を尽くすべし。ってね。正直、なんの冗談かと思ったよ。いまマリアさんが言った物の他にも、色々と酷い法律が追加、もしくは改定されていたからね」
と、マーカスさんが説明してくれた。
この法律は、つい最近変わった物なのか。
いったいこの国の王は何を考えているんだ?
そんな法律を作ったら、下手したらこの国は一般人より奴隷が大多数を締める国になってしまうだろうに。
もしくは、これも神の影響なのか?
「なんという事を…」
「クルジアの愚王、ここに極まれりと言った感じだな」
「王ではなく民に忠誠を誓った身とは言え、そう言われては返す言葉も無いな。…話を戻すぞ。先ほど言った理由により、我等中隊の家族も、今では奴隷になるのをただ待つのみとなっている。そこでだ、我等マグナス中隊は、明日の深夜に街に忍び込み、家族を連れて逃げようと思う」
つまりあれだ。
自分達は負けたから、一族郎党みな奴隷にされちゃうぞと。
でもそれは嫌だから、こっそり家族を逃がしちゃえと。
なんだ、別に言い淀む事でもないじゃん。
「うん、別にいいんじゃないですか? むしろ手伝いますよ」
「「………」」
なぜかマリアさんとガリウスさん沈黙。
しかも微妙に呆れた顔してない?
「だからあまり言いたくなかったのだ…」
「ですね。坊主なら十中八九そう言うと思ったぜ…」
どゆこと?
「ああ、なるほど。そういう事でしたか」
「まぁ、何となく気持ちは分かるな」
「ルイ君は人が良いからねぇ」
え?なに?
「え~と。マリアさんにガリウスさん、どゆこと? それとそっちの三人はなんで妙に納得してるの?」
俺1人置いてきぼりですか。
ぼっちは嫌です。
「気にするな。お前はそのままのお前でいればいいんだ」
「え? いや、あ、うん」
なんかディアスさんに優しく諭されてしまった。
「えっと、つまりあれですね。明日の夜に街にこっそり忍び込んで、中隊の皆の家族を救出! んでもって、またこっそり屋敷に戻れ! エスコートミッション! みたいな?」
「えすこ? みしょん? 最後のはよく分からんが、まぁそんなところだ。 というか、やはり着いて来るのか、ルイ?」
「え? 当たり前ですよ。 っていうか、ここで動かなきゃ男が廃るってやつです」
フンっと胸を張って言う俺。
「ふ、ふふっ…、さも当然の事のように言うのだな、君は。まぁ、そこがルイの良い所なのだろうが」
「??」
口元を拳で抑え、若干笑いつつ言うマリアさん。
なんか笑うとこあったかな?
「ならば、私も素直にその好意を受け取ろう。いや、こちらから改めてお願いしよう。ルイ、手伝ってくれるか?」
「もちろんです。だってマリアさん達は、俺達の仲間じゃないですか」
マリアさんが差し出した右手に、俺の右手を重ねがっしり握る。
方針は決まった。
次は、救出作戦だ!