第25話
今回は作者の遊び心がふんだんに盛り込まれています。
え?いつも?
ふわふわと闇の中をさ迷う様に、定まらない意識。
そのハズなのに、体の感覚だけは嫌になるほど明瞭だ。いつもよりハッキリしていると言っていい。
そんな俺の体が感じるのは、何も無い空虚。 無だ。
水の中を漂うと言うより、説明はし辛いが、何と言うか本当に、何も無い空間をプカプカと浮いているような感覚。
なぜ、俺はここにいるんだろう?
さっきまで何をしてたんだっけ?
もやもやとした頭で、必死に思い出そうとしてみる。
………
ああ
そっか
俺は負けたんだ。
それで…
どうなったんだっけ?
死んだのかな?
なるほど、ここは天国か。
「やっほー」
それならば、この感覚も何となくだが理解できる。
「おーい」
しかし死後の世界とはこんな場所だったのか。
俺はもっとお花畑とか、三途の川とかを想像してたんだけどな。
「聞こえてる?」
この後、俺はどうなるんだろう?
「あ、ダメだ。顔が逝っちゃってる」
そう逝っちゃってる。
失礼だな。
ん? なんだろ今の?
「しょうがない。コレだけは使いたかったんだけど…」
使いたかったのかよ。
あれ?この声はもしかして…
「いっくよー。スーパーエキセントリックデンジャラスハイパーナチュラルジェノサイドインポッシブル…」
どっちだよ。
っていうか、この声ってもしかしなくても…
「サンダァアアア!!」
――スガシャアアアン!!!
「アビバッ!!」
「のんのん?」
金髪ロリっ娘駄女神が俺の目の前で首を傾げている。
「良っい湯っだっな!ってコラ!! 髪がチリチリになったわ!!」
「大丈夫っ。ここ仮想空間…っていうかキミの夢の中だから!」
あん?仮想空間? 夢の中?
「ああ、あのヒカードのおっさんと会ったトコと同じ空間か」
なるほど、辺り一面真っ白だな。
「ってことは、俺は死んだわけじゃないのか。 あー良かった」
「普通の人なら体中の骨が粉々になってたけどね。
キミも無茶するよほんと」
「って、何しに現れたんだよイオ」
「今更!? っていうか、ふーん…、何しにとは、随分な扱いしてくれるじゃない」
「うるへー。こちとらお前には鬱憤が溜まりまくっとるんじゃ」
勇者のコトとか勇者のコトとか勇者のコトとか勇者のコトとかな!
計4人分です!
「ああ、王国に召還された勇者達のコト? 別に私のせいじゃないじゃん」
「教えてくれたっていいじゃない」
「だって私も知らなかったんだもん。
まだ神様やって2年目なんだもん」
だもんじゃねぇよ。
それでいいのか神様。
「あれに関しては、八百万神たちにも予想外だったみたいだけどね。
なんせ無理やり時空こじ開けて、無理やりかっ攫ってかれたみたいだし。 さっき先輩から聞いた」
なにそれオゴトー。
「しっかしまさか俺の前にこの世界に来てた人達がいたとはなぁ。
しかも勇者として召還されてたとは…」
「ね、私もビックリ」
神様を驚かせちゃったよこの世界ってば。
「あっ、そうそう。本題を忘れるところだったわ…」
「なに?」
ポンッと拳で掌を打ち、ゴソゴソと肩掛けポーチを漁るイオ。
「じゃじゃーん! 能力付与キットー!」
「なんそれ?」
某青狸のようなだみ声で、なんか小さなライトを取り出して見せた。
「えっとぉ、ちょっと待ってね…」
そう言ってまたポーチをガサゴソと漁る。
そして今度は、A4サイズの紙を取り出した。
「んーと…
あなたは、世界の渡航者である異能者の1人に勝利しました!
わーっ、ドンドンパフパフー♪
よってボーナスとして、新しい能力をあなたにプレゼント♪
どの能力を選ぶか、またその能力をどんな事に使うか、それはあなた次第。
でもエッチな事に使うと、気になるあの子に嫌われちゃうかも?(ノ△T)
さぁ!奇々怪々、摩訶不思議な能力を、今こそその手にぃ!
…だって」
「誰だよその紙書いたの」
普通に説明分書けや。
「部長だよ。中級神クラスの」
随分と世俗にまみれた神様だな。まぁ今更か。
俺は目の前のイオを見て1人納得すると、その紙をイオの手から取った。
「なんか今凄く貶された気がするんだけど?」
「気にするな。で、つまりこれは、要するにあれだろ?
新しい能力を貰えるっていう…」
……
「新しい能力を…」
………
「貰えるっていう…」
…………
「なぁにぃいいいいいいいいいいいいいいいーー!!!?」
「うるさっ」
空間を揺るがす俺の悲鳴に、耳を塞ぐイオ。
いやいやいや!
新しい能力って何よそれ!?
くれるの!?
しかも選ばせてくれるの!?
え? いいの?
「ちょっと、1人で勝手に驚いて勝手に混乱しないでよね。
なんか私が空気みたいじゃん」
なんだよ、別に無視してるワケじゃないからいいじゃん。スネを蹴るな。
「はぁ…。で、どうすんの?」
「……なにを?」
っていうかどれを?
「のーりょく! せっかくくれるって言うんだから、貰えるもんは貰っておきなさいよ。そうすれば、生き残れる確率も上がるんだから」
ああ、それか。
「んーー…、て言ってもなぁ。
欲しい能力なんて今すぐ思いつかないし」
「誰が欲しい能力を考えろって言ったのよ」
「…え?」
どゆこと?
くれないの?
「じゃなくて、その紙ちゃんと読んでみなさい」
チョイチョイと俺の手にある紙を指差すイオ。
「ちゃんと読めっつったって、もう内容は理解……あ」
『よってボーナスとして、新しい能力をあなたにプレゼント♪
どの能力を選ぶか、またその能力をどんな事に使うか……』
『どの能力を選ぶか…』
うん、見逃してたね。
紙の下の方を見ると、『能力一覧は裏面にあるよ♪』と書かれていた。
「好きな能力を考えろなんて一言も書いてないでしょ?」
「選べって書いてありますね」
「で、どんな能力があるの?」
「お前も知らんのか」
「『これ持ってあの子に能力あげて来て~♪』って言われただけだし」
無理やり艶っぽく喋るイオ。
「なにそれ? NIKKO(某釜)の物真似?」
「買うよ? そのケンカ」
さーせんした。
「で、早く裏面見てみなさいよ」
「わーたって。…どれどれ?」
『 能力一覧
A-1 発火能力
A-2 製氷&製水能力
A-3 放雷能力
A-4 繰土能力
A-5 繰風能力
B-1 念動能力
B-2 透視能力
B-3 予知能力
B-4 巨大化能力
B-5 透明化能力
C-1 推理能力
C-2 飛行能力
C-3 狂戦士化能力
C-4 霧化能力
C-5 自爆能力
能力の詳細が知りたい時は、文字を指でなぞってみてね♪』
ふーん、色々あるんだなー。
透視能力とか透明化能力とか、男子の夢的な能力もあるし、飛行能力とかなんか楽しそうのから、推理能力とかわけ解らんのまである。
まぁ、それらはいいとしよう。うん。
他のはいいとして…
最後のはなんだ。
「へぇー、使い方によっては便利そうなのとか色々あるね。
個人的には自爆能力が見てみたいかな」
「死ねと?」
「ほらきっとあれだよ、身体から爆発みたいな衝撃を出すけど、自分はなんともないみたいな?」
「服とかも爆散しそうだなそれ」
とりあえず、自爆能力を指でなぞってみる。
『身体が爆散します。
あると押したくなるよね、自爆スイッチって♪
押すなよ?押すなよ?みたいな(笑)
選ぶなよ?選ぶなよ?』
「じゃあ作るなやそんな能力!!」
つい紙を地面に投げつけてしまった。
俺「………」
イオ「………」
………
俺「……(ヒョイ)」
イオ「………」
「さて、どの能力にしようかな」
「…いや、いいけどさ」
え?なに?なにもなかったよ?
ゴホンッ、気を取り直して参りましょう。
「っていうかあれな、やっぱり魔法は使えないのな」
ちょっと憧れてたんだけどなぁ。
「使おうとした時点で、キミの魔法無効化能力に相殺されるからねー」
「まぁしょうがないか。魔法無効化も便利だし。っていうか無いとこの世界じゃ危ないし」
能力がなかったら何回死んでたことか。
うーん、飛行能力とか良さげだなぁ。
『空を飛べます。
空を飛ぶって、小さい頃からの夢だよね♪
そんなあなたの夢を叶えます☆
飛行高度はどこまでも!(酸素の保証はしません)
飛行速度は、光より速くなれる!(身体の保証はしません)』
燃え尽きろと?
…巨大化能力は?
『全身から細部に至るまで、身体を巨大化する事ができます。
これさえあれば、もう小さいなんて言わせない!
気になるあの娘の【ピー】を、【ドキューン】巨大化で突きまくれ!』
真面目に使いましょう。
「イオ、お前の上司って…」
「…ごめん、なにも言わないで」
疲れた顔で胃の辺りを抑えるイオ。
「お前も何気に苦労してるんだな…」
これからはちょっとだけ優しくしてあげよう。
ちょっとだけな。