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第23話


「カハッ…、くそ…!」


 地面にうずくまり、口からボタボタと垂れる血を袖で拭うダリオ。


「くそくそくそくそくそくそくそくそくそっ!

ぉおまえぇええ゛え゛!」


 まるで親の仇でも見るような目で、俺を睨んでくる。


「どうした坊ちゃん。

殴られたのがそんなに悔しかったか?」

「うるさい! 同じ地球人だから手加減してやってたが、もうやめだ!」


 そう言って立ち上がり、右手を高々と掲げるダリオ。


「灰も残らない程、燃やし尽くしてやる!」


 そう言ったダリオの掲げた右手から、野球ボールだいの大きさの炎が現れる。

 すると、さっきまで静かだったマリアさんや兵士の皆がざわつき始める。


「あれは…。ダメだ少年、逃げろっ。あれを食らっては、いくら君でも命はないぞ!」

「そうだ坊主っ。あの炎が大きくなる前に、ここから逃げろ!」


 逃げろったって、どこに?

っていうか、逃げるつもりなんてさらさらないけど。

だって多分、あれ平気だし。


「大丈夫ですよ。あいつの攻撃は俺には効きません」

「いや、いくら君が魔法耐性の強い身体だろうと、彼の魔法は無理だ。

彼はこの世界に召還された時から、その身に炎帝の加護を宿している。

彼の炎の魔法は、全てを焼き尽くす地獄の業火だ。防ぐすべなんてないぞ!」


 うん。多分それも召還チートとかそんなやつなんだろうな。

正直、あれが能力から発生した炎ならヤバかったけど、魔法の炎なら大丈夫だ。

 例えいくら強力だろうと、それが魔法であるかぎり、俺には無意味だ。


「大丈夫。あの攻撃が魔法である以上、俺には効k…」

「ハハハハハハハハハッ! もう命乞いしたって無駄だ! 全て燃やし尽くしてやる!」

「しかし、少年…」

「だぁいじょぶですって。なんてったって俺は、魔法無こ…」

「クハッ、クハハハハッ!

ヒャハハハハハハ!」

「俺には魔法m…」

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!

アヒャ、パハハハハハハ!」

「魔h…」

「ブヒャヒャヒャヒャ!

ヒッ、ヒハッ、ハハハハハハ!死ぃぃいねぇええ!」

「うるせぇなぁっ!!」


 ダリオが放った、いつの間にか直径2メートルくらいの大きさになっていた炎の球に、八つ当たり気味に拳を叩き込む。


 霧散する炎。炎球どころか、熱気すら残っていない。


「…は?」

「…え?」

「なん…」


 一同、信じられないものを見た、というような顔をしている。


「俺の能力は、魔法無効化。

俺に影響を及ぼす、全ての魔法を無効化するものです。

だから、ご覧の通り大丈夫ですよ、マリアさん」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているマリアさんに、ニカッと笑いかける。

 すると、ポッと顔の赤くなるマリアさん。


 どうしたんだろう?


「え? いや、その…、え?」


 まだ信じられないのか、混乱している様子。

美人な女性がこんな風にしていると、どこか微笑ましいな。


「なんだそれは! そんな能力、俺は信じないぞ!」


 すると、混乱からいち早く立ち直ったダリオが、声を荒げて絡んでくる。

 いや、まだ混乱してるのか?


「そうは言っても、現に魔法が効かなかっただろ。

自分の見たものを信じろよ」

「うるさいうるさいうるさいうるさい!

なら、もう一度だ! 今度はもっと強力なのを食らわせてやる!」


 どうもこの坊ちゃんは、相当な意地っ張りみたいだな。

自分の魔法が効かない者など存在しない、とか考えてるっぽい。


「うぉおおおおおおお!!」


 さっき以上の馬鹿でかい炎球が、一瞬で出来上がる。

触れてもいないのに、ここまで熱気がくる。


「あつ…って、あ」


 と思ったら、パシュっと音を立てて炎球が消えた。


 そっか、影響を及ぼす…だから、これだけでもうアウトなのか。


「ちくしょぉおおお! 馬鹿にしやがって!!

なら、これならどうだ!」


 目が血走って、最初のイケメン振りがすっ飛んでるな。

もはや逝け面ですね。


 とか考えてたら、バッと両腕を横に広げ、中空に無数の炎の槍を精製していくダリオ。

その数は十や二十ではきかない。千はあるのではないだろうか。


「やば…」


 あの数の炎の槍、全部俺の方にくればいいが、もし逸れたら周りの人達に被害が…


「ニィッ…」


 俺のその反応から、これならダメージを与えられると勘違いしたのか、上機嫌…というか、俺からしたら嫌らしい笑みを浮かべる。


 しかしどうするか。

こんな魔法、俺以外の人に当たったら、恐らく一溜まりもないぞ。



「おいルイ、なんだ今のは!」

「あの大きな炎はいったい……!」

「ぁあ゛ん?」



 最悪のタイミングだ。


 ダリオがぶつかって壊れた塀の隙間から、ディアスさんとリーシャさんが、俺を心配してか、慌てた様子で出て来た。

 目の前に広がる光景に、驚いた表情を見せる二人。

それに気付いたダリオは、まるでお楽しみを邪魔されたかのように、不機嫌な顔を二人に向ける。


「なんだお前ら? 今いいところなんだよ。急に出て来て…

水を差してんじゃねぇよっ、虫共が!!!」


 標的を変え、一斉に放たれる炎の槍。その先には、ディアスさんとリーシャさんの姿。


 まずい!


「リーシャさんっ、ディアスさんっ、逃げ…」



「全てを拒絶する、絶対零度の結界よ。我等を護りたまえ」



――ドドドドドドドドドドッ!!!


 轟音を立て、標的へと飛来してゆく炎の槍の嵐。

だが、それらが二人に中ることはなかった。

なぜなら、二人の前に展開する強固な壁に当たり、全ての槍が阻まれているからだ。


「……て」


 ああ。多分いま俺は、相当な間抜け面を晒している事だろう。

 目の前の光景が信じられないと言うか、なんと言うか。

まさか、あんなアホみたいな攻撃を受けて、傷一つ付いてない馬鹿でかい氷の壁を作ったのが…


「びっくりした。なんですか、今のは?」


 リーシャさんとは。


 炎の槍の嵐が止み、氷の壁の向こうから現れたリーシャさんは、まるで子供のイタズラに驚かされたおか…ゲフン、お姉さんという様な感じだった。


 リーシャさんからの殺気なんて感じてませんよ。

ええ、気のせいですとも。


 んで、例の嵐のような魔法を放った当の本人はと言うと。



「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」


 リーシャさんを見てハァハァしていました。



 嘘です。

たぶん、今ので魔力とかを使い過ぎたのだろう。

 自分の魔法をいとも容易く防いでみせたリーシャさんを、苦しそうに肩で呼吸しながら睨みつけている。


 何も知らない人が見たら、ただの怪しい人である。


「なんだ、この怪しいやつは?

リーシャを変な目で見るな」


 リーシャさんの前にスッと立ち、ダリオの視界から隠すディアスさん。


 思ってるそばから…


「おい、しょうね…いや、ルイ。

彼らはいったい何者なんだ?」

「むっ?」


 突然の闖入者に対し驚いているマリアさんが、俺に説明を求めてくる。

 っていうか、むっ?ってなんですかリーシャさん?

心なしか顔が…コワイノデスガ?


「えっと、彼らは…」

「その人から離れて下さい、ルイさん」


 一瞬で俺の側に寄って来て(結構な距離あったんだけどなぁ)、マリアさんから引き離そうと、俺の腕を引くリーシャさん。


「……あれ?」


 いつの間に、という感じで自分の後ろを見るディアスさん。


「む、一体なんだキミは。

ルイはいま私と話をしようとしていたのだぞ」

「お生憎様、敵と話すことなんて何もありません。

さ、行きましょうルイさん」

「ちょっと待てっ。

私と話すかどうかを決めるのは、ルイであってキミではない!」

「まぁ声なんて荒げて。

これだから騎士の女性は嫌なんです。

粗野で乱暴で下品。

しかもなんですか、ルイさんを呼び捨てなんかにして」

「なっ…。貴様っ、騎士を愚弄する気か!

だいたい、呼び捨てで良いと言ったのはルイだ!

貴様にとやかく言われる筋合いはない!」

「あー、えーと…」


 なぜか俺を挟んで口喧嘩を始めた二人。

俺は助けを求めて、ディアスさんの方を見る。



「はぁ~」


 なんか1人取り残されたのが居たたまれなくなったのか、トボトボとこちらに歩いてくるディアスさん。

 とりあえずといった風に、途中にいたダリオをロープで縛り(お前ェ…)、小脇に抱えてやってくる。

 ちなみにダリオも抵抗したが、ディアスさんに呆気なく組み伏せられていた。


 なんて言うか、うん。

最初の威厳はどこへやら。

 しかもその一連、見てたのは俺だけです。


「というか、なんなのだキミは! さっきからルイに馴れ馴れしく!

っていうかいい加減その手をルイから離せ!」

「嫌です~。離しません~。

別にいいじゃないですか。

私とルイさんは、と~~っても親しい間柄なんですから。

この間だって、一夜を共にした仲ですし。 ね?ルイさん」

「うぇっ?」


 一夜を共にって、もしかしていつの間にか俺の隣で寝てたアレか?

それは何か意味が違うような…

っていうか! そんな事言ったらディアスさんが!


「……ほぅ?」


 ホラきた。


「ルイ貴様、リーシャにそんな事をして、責任を取る気はあるのだろうな?」


 ナニソレ責任ッテ?


「やだっ、責任だなんて兄さん///」


 両手を頬にあて、くねくねするリーシャさん。

あなたは空気を読みなさい。


 そしてディアスさん。なぜ剣を抜くんですか?


「もちろん、責任は取るよな?

お前のその命で」


 やだこわい。


「待てっ。それを言うなら、私の責任も取ってもらうぞ!」


 もうやだこの人たち~(涙)

助けてガリウスさん~、馬と遊んでないで~。


「なんでルイさんがあなたの事で責任を取らなくちゃいけないんですか!」

「そうだそうだぁ~、責任をとれぇ~♪」

「だからっ………へ?」

「ん?」

「え?」

「……だれ?」


 その場にいた全員が、聞き慣れない声のした方向く。


 そこには、やたらと扇情的な格好をした、プラチナブロンドのお姉さんが、ニッコリとした笑顔を浮かべて立っていた。


「やっほー。 迎えに来たわよ、ダリオ」

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