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第22話

「ダリオ…ガリバルディ?」


 俺はマリアさんが口にしたヤツの名前に、疑問を覚え、ついその名を復唱していた。


「――え? ちょ、ちょっと待って下さい、マリアさん。

本当にあの男が、俺と同じ異世界から来た人間なんですか?」

「あぁ、そうだ」

「え? でも…」


 おかしい。

 異世界から来たのは、俺と同じ日本人じゃなかったのか?

 今までのマリアさんの言葉から、もう一人の異世界人は日本人だと思っていた。

でもあいつはどう見たって日本人じゃないし、名前も…


「うん。どうやら君はその女の言葉から、俺の事を日本人だと思っていたみたいだね。

正確には、異世界人の事を日本人だと思っていた。違うかい?」


 突然、ダリオと呼ばれた青年が、そう言ってニッコリと笑いかけてきた。

 「よっと」と軽くジャンプして門から降りる。



 その通りだ。

ダリオは、まさに俺が考えていた通りの事を言い当てた。


「でも、君の推測は正しいよ。

確かに、異世界から…地球から召還された人間のうち、2人は日本人なのだから。

君と同じね」


 ダリオは大げさな身振り手振りをし、さながら舞台俳優かの如く仕草で語る。


 しかし、今ヤツは気になる事を言った。

『地球から召還された人間のうち、2人は日本人』


「まさか、異世界から来た人間は3人いるのか?」

「ハズレ」

「――!?」



 さっきまで門の目の前にいたはずのダリオが、いつの間に近づいたのか、俺の目の前にいた。


「3人ではなく、4人だよ。アリサワルイ君。

そして、つい先日君が新たに加わり、5人になった」


 くるりとターンして、俺に背中を向けて歩きながら語る。


「君を歓迎しよう、アリサワルイ君。

ようこそ、異世界へ。

ようこそ、我らがクルジア王国へ」


 そして此方に振り返り、ニヤリと笑った。

 先ほどまでの機嫌の良さそうな、愛想の良い笑顔ではない。

三日月のように口元を歪め、まるで全てをのみ込む闇のような目。


「さぁ戦うんだ、アリサワルイ!

苛烈に!激烈に!炎のように!煉獄のように!その身を焦がし、焼き尽くすまで!」


 こいつ、何を言ってるんだ?

 っていうか、さっきからあの妙な身振り手振りはなんだ。


 んでもってあの顔。

完全にイッちゃってるね。


 うん、無視しよう。


 正直、同じ地球からきた人間なら、なにか分かり合えるかもとか思ったけど、どうやら敵みたいだし。

なにより、俺があんまり関わり合いたくない人種の方のようだ。


「何をしているんだ。

さぁ、戦いたまえアリサワルイ。

まだ目の前に敵はたくさんいるぞ。

彼らを殺し尽くさなければ、君に勝利は訪れない」

「あーはいはい。そーですか。

でも残念ながら、さっき勝負は着きました。

それに、俺は人殺しじゃないんでね。命を奪う気なんかさらさらありません」


 俺は適当に返事をして、マリアさんとの会話を続行するべく、マリアさんの方を向く。


「さぁ、お前らも戦え!

反乱した奴隷共を滅ぼすべく、その命尽きるまで戦うんだ!

まずは手始めに、そこの少年、アリサワルイ君だ!

苛烈に殺し合え!」


 …こいつ、俺の話を聞いてなかったのか?


「ダリオ殿、もう勝敗は着きました。

私がルイと一騎打ちし、負けたのです。

此方の兵にも負傷者が多数出ております。この場は撤退し、もう一度我々に機会をいただ――!」

「うるさいよ」


 瞬間、紅蓮の閃光がダリオの手から放たれ、真っ直ぐに飛来し、マリアさんを貫いた。


「――なっ」

「――ぐっ!」

「――たっ…」


 腹部と口から鮮血を吹き出し、ゆっくりと倒れていくマリアさん。


ドサッ!


『たいちょーーー!!!』


 マリアさんの部下達が一斉に動きだし、マリアさんの方へと駆けて行く。


「隊長!しっかりしてくだせぇ!たいちょー!

衛生兵っ、早く来い!」


 ガリウスさんがマリアさんを抱き起こし、腹部の傷口を必死に抑えている。


「あっははは、脆いなぁ。弱いなぁ。

まさかあの程度の魔法で倒れるなんて」


 うるせぇ。

なに笑ってやがる。


「さぁ、やりたまえ。アリサワルイ君。

僕がやったように、他の者達も殺すんだ」



 うるせぇ…


「ほら、お前達もなにやってる。

戦え、すぐ戦え、そら戦え!」


 うるせぇ…!


「そんな女に構ってないで、今すぐ剣を取ってた…」

「うるせぇっ!!!」


ドゴォ!


「ぶぁっ!!」


 ヘラヘラと笑っているダリオの顔に、思いっ切り拳を叩きつける。

 殴られた勢いで、後方にふっ飛び、そのまま屋敷の塀に叩き付けられるダリオ。


「坊主、お前ぇ…」

「ガリウスさん、マリアさんの傷を見せて下さい」

「え?」

「俺が治します」

「は? 治すったってお前…」

「いいから、早く!」

「お、おう」


 マリアさんの周りにいた数名が退き、俺はマリアさんの横にしゃがみ込む。


「しょ…少年。無駄…だ、この…ゲホッ、傷では、もう…」

「喋らないで下さい、マリアさん。大丈夫。治ります」


 傷口を見る。


「……」


 一瞬、意識が飛びそうになった。

酷い傷だ。腹部にゴルフボールくらいの穴がぽっかりと開いている。

 でも、俺なら治せる。

俺のこの能力ちからなら。


 俺はマリアさんの傷口に手を当て、念じる。


「還元…」


 すると、見る見るうちに傷が塞がっていき、周りからはどよめきが起こる。


「坊主、お前こりゃ一体…」


 ガリウスさんが、驚きを隠せないといった表情で俺を見る。


「…ふぅ、終わりました。

これで大丈夫なはずです。

どうですか、マリアさん」

「え?…あ、バカな。傷が…塞がっている?」


 傷があった辺りを何度も触って確かめるマリアさん。


「少年、君は…」


 何かを言おうとするマリアさんを手で制し、ダリオが吹っ飛んでいった屋敷の塀の方を睨む。


「ククッ、ハハハッ、ハハハハハハッ!

まさか、あのレベルの傷を完全に癒やすとはね。恐れ入ったよ。いやはや、凄まじい」


 そこには、無傷のダリオが、あの不気味な笑いを浮かべて立っていた。

右手で目を覆い隠し、堪えきれないといった感じだ。


「でも…」


 ピタリと笑いをやめ、右手の指の隙間から此方をギロリと睨む。


「不愉快だなぁ。実に不愉快だ。そして不可解だ。なぜその女を助ける?

まるで理解できない」

「理解できないのはこっちだ。

なんであんたは、味方のはずのマリアさんをこんな目に」

「はっ、味方? 味方だって?

何を言い出すかと思えば。

僕の味方は、この世界には3人しか存在しない。

地球から一緒にやってきた、あの3人だけが味方だ。

他の存在は全てが敵だ!

この国の人間共も!

この大陸に住む生物も!

この世界さえも敵だ!!

そんなやつらっ、踏み潰そうが殺そうが、関係ないだろ!!!」


 急に興奮しだして、声を荒げるダリオ。


「ほら、早く殺し合えよ虫ども。

今すぐ殺し合え。

じゃないと…」


 言いながら、腰の剣に手を掛けるダリオ。

そしてゆっくりと剣を抜き…


「僕がお前等を殺したくなるだろうがぁああああ!!」

「な!?」


 もの凄い勢いで突進してくるダリオ。

 俺は咄嗟にダリオに一番近かった兵士の前に出て、千刃の指輪を剣に変える。


ガキィィン!


 剣と剣がぶつかり合い、甲高い音が響く。


「くっ…」

「なぜ邪魔をするアリサワルイ。

コイツらは君の敵だろう。どうなろうと、君には関係ないはずだ」

「うるせぇっ! ならこの人達を俺と戦うように命令したのは、あんただろうが! なのにそのあんたが、この人達を殺すのか!?」


 鍔迫り合いの状態から、一気に力を入れて押し返す。

剣が離れた隙に、蹴りを叩き込む。

それを後ろに退いてかわすダリオ。


「だぁかぁらぁ、そんな虫ども、どうなろうと俺の知った事じゃないんだよ。

死んだところで、雑草共の肥やしになるだけだっつーの!」


 鋭い剣捌きで、様々な角度から放たれるダリオの剣。

俺はそれを、持ち前の反射神経と、底上げされた身体能力でなんとか防ぐ。


「くっ…。 なら、なんであの屋敷にいる人達まで殺そうとするんだ!

あんたにとっちゃ、あの人達が自由を手に入れようが関係ないんだろ!」

「気に入らないんだよ! この世界のヤツらは、みんな俺達の奴隷だ!

自由? そんなものあるワケないだろ! 生意気なんだよ!」


 ダリオの剣に、どんどん力が入っていく。そのくせ剣筋は乱れないのだから、厄介だ。


「――くっ、じゃああんたは、その味方の3人以外は、この世界の人達は、死んだって構わないって言うのか!?」

「ああその通りだ! こんなクソみたいな世界に住んでる蛆虫共は、生きてる価値なんてない!

皆々、みんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな死ねばいいんだぁああ!」


 今までで一番鋭い速さで、ダリオの剣が迫る。


「この…!」


 剣を指輪に戻し、右脇で拳を思いっ切り握り締める。


 眼前まで迫る剣。

左腕を頭の上に突き出し、空手でいう上段受けの体勢に。



 勝利を確信したダリオの顔。

 剣が俺の左腕を切断しようと、振り落とされる。


 しかし…


「な…に?」


 ダリオの剣は、俺の腕に触れた瞬間、文字通り粉々になる。


 頭上の左腕を、左脇に素早く引き寄せ、左足を思い切り踏み込む。


「アホったれがぁあああ!!」


 全身の力を全て連動させた、渾身の右拳をダリオの頬に打ち込む。


 地面を抉りながら、派手に吹き飛ぶダリオ。



「立て、クソ野郎!

お前の性根、俺が叩き直してやる!」

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