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第19話


「クソッ、止まれっ、とまれぇーー!」


2m近くある体躯の敵が、俺を必死で止めようと、武器を捨てて両手で抑えにかかる。

しかし俺はそれを全く意に介さず、右肘を突き出した体制で、ひたすらに突っ走る。



「ぎゃぁああ!」


俺のタックルを受けた敵は、例え誰であろうと問答無用にふっ飛ぶ。


勢い良く走る俺に、タイミングを合わせてバットのフルスイングの様に剣を振る敵。

しかし、それも効かない。


むしろ、相手の剣の方が折れてしまう。


「畜生っ、俺の剣が!」


よほど自分の剣が大事だったのだろう。

剣を折られた相手は、自分の折れた剣を悔しそうに見る。

…けど、それは敵の前でやる事じゃないなぁ。

「馬鹿っ、前を見ろ!」

「ぐっ、がぁあああ!」



仲間の忠告も虚しく、そいつは俺に体当たりされて宙を舞った。


「クソッ、化け物がぁああ!」


そう叫んで、鎧の兜の目の部分を正確に突きで狙ってくる敵。

うむ、狙いは悪くないなぁ。


…でも。


「――っ!」


俺はその剣を易々と躱し、相手の顔に文字通り、鉄拳を叩き込む。


「ぐはっ!」


綺麗に放物線を描いて跳んで行く敵。


というか、この戦いで何人が初の空中浮遊体験をしていることやら。


ってか、この鎧チートにしすぎたかな?

いやいや、やっぱりここは自分の体第一でしょ。


なんか端の方で、自分のあまりの不甲斐なさに泣いてる人とかいたけど、気にしない気にしない。


「百戦錬磨の我が隊が…」とか言ってるけど、気にしない気にしない。


みんなのためならエンヤコラ!


俺は敵のメンタルなんか気にせず、ただひたすらに突っ走る。



っていうか、走ってる俺を敵さんが追っかけたり、前からタックルで止めようとしてるから、だんだんアメフトやってる様な絵になってきた…




………




俺はつい倒れてる敵の鎧兜を引ったくり、そのまま敵陣の後ろの方に向けて走る。


「あ、貴様っ返せ!」


兜を盗まれて激怒した髭面のオッサンは、走って俺を追っかけてきた。


そしてなぜか、兜を取り返そうとする周りの仲間。


うむ、アメフトだ。

人数違い過ぎるけどな。


走る俺。


追い掛ける敵。


逃げる俺。


数人で壁を作って立ちふさがる敵。


タックルする俺。


吹っ飛ぶ敵。



「シューーーッ!!」


持っていた敵の兜を、高く掲げられていた敵の二本の軍旗の間にシュートする。


「ウィィイーーー!!!」



両手を天高く上げ、意味もなくガッツポーズする俺。



「あぁ……」

「ちくしょう……」


そしてなぜか項垂れる敵。


ノリ良いなおい。



「って、何やっとるかお前等!」

「――はっ!? 小隊長っ」

「お、俺は何を?」

「何故か凄く負けた気分になってた…」


「さっさとあいつを仕留めろ!」

「「「はっ!」」」



む、来るか。

さて、じゃあもうひとっ走りするか。



そう思って俺が走り出そうとした瞬間



――ドンッ!!


目の前に、3mはある馬鹿デカいランスが落ちてきて、地面に突き刺さった。



――今のは危なかった。

あと一瞬後ろへ飛ぶのが遅かったら、確実に直撃してた。

しかもこれは俺の勘だが、今の一撃、恐らくこの鎧では防ぎきれなかった。



「誰だっ!」


槍の飛んできた方向へ叫ぶ。



「よく今のを避けたな。やはり、一筋縄ではいかない相手か」


すると、蒼いマントを付けた白銀の鎧を纏い、馬に乗った金髪の女性が、此方に近づきながらそう言った。

あの人は…、さっき目が合った人?



「私は、この国家正規騎士団マグナス中隊の隊長、マリア・マグナス。

貴殿に、尋常の勝負を申し込む!」


そう言いながら自らの投げた槍を拾う、マリアと名乗る女性。



なるほど、この人が隊長か。

なら、この人さえ倒せば終わる…のかな?



「……受けよう」


嘗められないよう、なるべく低い声で答える。



「………」



馬から降りずに、そのまま槍を構える相手。



「………」


俺も先ほどまでの突っ走るだけの戦い方とは違い、構えをとる。



周りの敵が巻き添えを恐れてか、段々と離れていく。



「………」


俺を中心にして円を描く様に、カッポカッポと馬を歩かせる相手。


俺はそれに合わせて体を動かすなどという事はせず、先ほどの構えを崩さないで、岩の様にどっしりとしている。


なにせこれだけの闘気を隠しもせず、さらに馬の歩く音まで聞こえるのだ。わざわざ目で追う必要は無い。

それに下手に体を動かせば、逆にその隙を狙われる、という事もある。


「………」

「………」



どれくらいの時間そうしていただろうか。

5分は経ったように感じるが、実際には1分も経っていないかもしれない。



「――シッ!」



不意に、相手が右側から攻撃を仕掛けてきた。

地上と高低差のある、馬上からによるランスの重い刺突。


俺はそれを右腕で往なそうとして



「――ガァッ!」



後ろに大きく吹っ飛ばされた。


「なん…だ、いまの…!」


尻餅をついた俺に、再び刺突で追い討ちを掛ける相手。


「クッ」


今度は往なさずに、紙一重で躱す。


「グァッ」


しかし、躱したはずの攻撃をまたくらう。



「クソッ、一体どうなってるんだ!」


俺は再び追い討ちを掛けられないように、地面を転がって離れてから立ち上がる。


「ふむ、どうやら私の攻撃は通じるようだな。先ほどの戦いを見た限り、化け物の様なやつだとは思っていたが……まだ化け物としては成長途中と言うやつか?」



そう言って、槍の切っ先を向けてくる。



「化け物化け物って、俺は立派な人間だってーの!」


向けてられた切っ先を払いのけ、相手に向かって突進する。


「あまいっ!」


が、絶妙な手綱さばきと、人馬一体とでも言うような動きにより、躱されてしまう。


そして躱しざまに、再び槍を突いてくる。


俺は今度こそこの攻撃のカラクリを突き止めるため、自身の胴体視力をフルに活用し、突きを躱しながらも、槍を凝視していた。


そして


「――ッ!? グァッ!」


躱したはずの槍によって、宙を舞わされた。


俺はなんとか受け身を取り、隙を作らないように、直ぐに立ち上がる。




――なるほど、そういう事か。

全く、デタラメにも程があるぞ。


まさか…



「まさか、突いた槍の軌道を瞬時に変えて、横凪の攻撃に変化させていたとはね。

ただでさえ難しいっていうのに、その重い槍で軽々とやってのけるってのは正直驚いたよ」



そう。

彼女がやっていたのは、俺が突きを躱した瞬間に、その槍を俺が避けた方に凪ぐ。

ただそれだけだ。


武術なんかを余りよく知らない人とかは、漫画やアニメなんかのキャラクター達はよくそんな事を平然とやってのけているので、出来るんじゃね?

とか思うかもしれない。


いやいや、実はあれ、単純そうに見えて相当に難しい。

特にスポーツなどとは違い、こういった真剣勝負になると特にだ。


なにせ相手は、俺を殺すために、必殺の突きをもって攻撃してきている。

必殺技とかの必殺ではない。


この一撃で敵を屠ると、覚悟を以て放つ事だ。


そんな一撃を放ってる最中に、瞬時に軌道を変えるなんてやってみろ。しかもこんな重たい槍で。


下手をすれば腕の筋どころか、腱が切れる。


それを俺の目の前にいるこの人は、いとも容易くやってのけているのだ。

デタラメ過ぎる。



「なるほど、私の攻撃に気付いたか。

しかし驚いたのは此方の方だ、少年。

まさかこの技を三度も喰らい、平然としているとはな。

今まで戦った敵は全て、一撃当たっただけで屠ってきたのだがな。

敢えてもう一度言わせてもらおう。まったく、化け物め」

「だから人間だっての。

っていうか、それはお互い様でしょうに。

一体どんな骨格と筋肉してるんですかマジで。

あんなデタラメな攻撃見た事ないですよ」

「失礼な。この私の様なうら若き乙女を前にして化け物だと?

そんな冗談、寝てからでも言うものではないぞ」


……うら若き乙女とか、自分で言うか。


しかも言い終わった後に若干顔赤くなってるし。

恥ずかしけりゃ言わなきゃいいのに。


「というか、平然としてるワケでもないけどね。

見てこれ、鎧にヒビが入ってる」


そう言って、鎧の腹の辺りを指差す。

そこには、1センチ程の小さな罅が入っていた。


「私としては、そんな小さな罅で済んでいるその鎧に驚きだ。

しかもその鎧、強力な雷系魔法が付与されているだろう?

もし私に雷系の魔法に耐性が無ければ、一撃当てた瞬間に負けていたところだ」


あ、忘れてた。

そういやそんな効果付けてたな。


っていうか、耐性ってなんだ?

雷系の魔法が得意とかなのかな?



「さて、お喋りはここまでだ。

そろそろ決着といこうか」



そう言って槍を構え直し、切っ先を此方に向ける。



「行くぞ!」




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