第17話
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「………えぇと、もしかしてお前、ルイか?」
ディアスさんが目を点にして、額に若干の汗を垂らしながら訊ねてくる。
『そうですよ。それ以外の誰に見えるっていうんです?』
俺はその質問に対し、首を傾げて真面目に答える。
「………よろい」
『ん?』
ボソッと呟くディアスさん。
俺はその言葉が聞こえなくて、つい聞き返した。
「いや、と言うかお前、いま自分がどんな格好をしてるか考えてみろ。そんな全身鎧の姿で誰に見えるとか聞かれても、そうそう答えられるワケがないだろう」
先ほどの固まった姿勢から一転して、ディアスさんは「はぁ~っ」と息を吐いて肩を落とし、額に手を当ててそう言った。
『……え? あ、そうか。そういえばそうだった』
ディアスさんの言葉を聞き、漸く自分の今の格好を思い出した俺は、自分が全身に纏っていた鎧の兜だけを外し、ディアスさんに顔を見せた。
「いやぁ、あんまり着心地が良いもんだから、鎧を着けてるって事を忘れてましたよ」
「まず兜の視界で気づくだろ」
「いやいや、信じられないでしょうけど、コレ普通の時と視界変わらないんですよ」
俺はそう言いながら、小脇に抱えていた兜をヒョイと持ち上げ、ディアスさんの前に出してみせた。
「そんなに良い鎧なのか?」
「えぇまぁ、完成系と言われるほどのモノですからね」
ちなみに今現在俺が身に着けている鎧は、某小説の五話目に出てくる刀的な鎧さんだ。
さて、今更だが、なぜ俺がこんな版権ギリギリな行為をするに至ったのか、少し説明しよう。
まず昨日みんなで話し合った作戦だが…、いやまぁ、作戦と呼ぶのもおこがましい内容なんだがね……
作戦そのいち。
端的に言うと、皆を安全な場所に避難させて、俺1人で敵陣に突撃というものだ。
まぁ俺には武器も魔法も効かないし、普通の人間の身体能力を軽く凌駕しているからこそ、そんなムチャな作戦を提案したのだが。
しかしいくら武器も魔法も効かないとは言え、素手で殴られたら痛い。
それに数の差を利用され、抑えこまれたら一巻の終わりだろう。
というワケで、千刃の指輪より創りだした、この鎧の出番である。
この鉄壁の鎧さえあれば、殴られても蹴られても痛くない。
俺はただ戦場を文字通り、縦横無尽に駆け回るだけで敵を掃討できるしね。
それにこの鎧、俺のアイデアでちょっとした能力を付加している。
ホント、イメージ通りの武具を具現化するとか反則過ぎるよね。
そういえばガン〇ムって武具に入るのかな?
まぁ今はその話は置いといて。
その付加した能力とは、鎧の全身に雷を纏う(オン・オフ可)というものだ。
これで、大勢の敵に無理やり抑えこまれるという心配がなくなる。
ちなみにこの雷。雷みたいな~とかの比喩ではなく、マジで雷です。ボルト数はんぱないです。
まぁ騎士の人達は属性魔法耐性の付いてる鎧を着ているらしいから、死にはしないでしょ。
まぁ下手したら、とかあるかもしれないけど、そんなん知らん。
いちいち他人の生死なぞ心配してられるか。
さて、長くなったが…
作戦そのに。
いくら俺が1人で騎士団一個中隊を相手取るといっても、やはり限界はある。
一度に全部の敵を相手には出来ないからだ。
そうなれば、打ち漏れた敵が俺をすり抜け、皆のところまで行くという心配がある。まぁ2人や3人なら、ディアスさんやリーシャさんがいれば問題ないだろうが、もしもという事もある。
そのため皆が避難するのは、高い塀で囲まれた屋敷の中だ。
しかも塀を越えたとして、屋敷に入るには様々なトラップを掻い潜らなければならない。
そして敷地内への唯一の侵入経路である正門は、昨日のウチに木やら鉄板やらで補強してあり、更に正門の外側には、土魔法で積み上げた頑丈な土壁がある。
とまぁ、これが作戦の内容である。
んで、あと数時間もすれば作戦開始、というか敵が攻めてくるので、俺は鎧を着て準備をしていたのだ。
「そうか、しかしそれが優れた鎧だというのは分かったが…。ルイ、一つ聞いていいか?」
「はい? なんです?」
「せっかく鎧を着て準備をしてくれたのはいいが、どうやってそれを着たまま門を越えるんだ?」
「………あ」
うん。今の俺の身体能力なら、身一つでならあの門をなんとか飛び越える事は出来るだろうけど、この重い鎧を装着したままじゃ……
「向こうで着け直します」
そう言って、俺は鎧を指輪の状態に戻した。
「うむ、それがいいだろう」
「兄さん、ルイさん、食事です」
とそこへ、リーシャさんが大きめのカゴにパンとスープを入れて持って来てくれた。
「あぁ、ありがとうリーシャ」
「いただきまーす」
パンはいつぞやのボソボソのやつとは違って、焼きたての香りが食欲をそそる、ふかふかのパンだった。
スープは、シンプルな豆のスープだが塩加減が絶妙で、パンを浸して食べても美味しい。
「うまうま!」
「うむ、スープも美味いな。流石リーシャだ」
「ほぇ? もめみーみゃまんまむむっまも?」
「……飲み込んでから喋れ」
ディアスさんに窘められてしまった。
「…んぐっ、これリーシャさんが作ったの?」
リーシャさんって料理上手だったのか。
「えぇ、パンは他の方達と作りましたが、スープは私が作らせていただきました。お口に合いますか?」
「凄く美味しいですよ。毎日食べたいくらいです」
「ま、毎日だなんて、そんな…///」
リーシャさんは両頬に手を添え、何故か嬉しそうな顔をしている。
「る、ルイさんさえよけれ「許さん」
リーシャさんが何かを言おうとしたところに、ディアスさんが割って入った。
「………」
無言でディアスさんを睨み付けるリーシャさん。
「許さん」
というか、ディアスさんはさっきから何の事を許さんと言っているのだろう?
「……これから兄さんにはご飯を作ってあげませんっ」
「――――!!!」
ちょっと拗ねた様にそう言って、横をプイッと向いたリーシャさん。
端から見たら可愛らしい仕草なのだが、どうやらディアスさんには効果は絶大だったようだ。
両手をつきガックリと項垂れて、OTLのポーズになっている。
「お兄ちゃんはな……お兄ちゃんはな……」
そしてワナワナと震え、小さい声で呟き、急にバッと立ち上がると…
「寂しいと死んじゃう生き物なんだーーーーーー!!」
と言って、右腕で目の部分を抑えながら走って行ってしまった。
「………」
「………」
……え~と、あれは確かにディアスさんだよな?
うん、見なかったことにしよう。
「いまディアス君が泣きながら走り去って行ったけど、何かあったのかい?」
そう言いながら近づいて来たのは、マーカスさんだ。
「いえ、ちょっとした病気の様なものです」
シス魂という名のな。
リーシャさんの言葉に、心の中でそう付け足す。
「それはそうと、何か御用ですか? マーカスさん」
リーシャさんが話を切り替え、マーカスさんに尋ねる。
「ああ、いま街に出た仲間から連絡があってね、あと1時間ほどで騎士団が到着するそうだ」
いよいよか。
「………」
俺は息を飲み、自らの身体を奮い立たせる。
大丈夫、やれる。
「分かっていると思うが、くれぐれも無茶はしないようにね。我々は君1人を犠牲にして助かろうなんて、誰1人思っていないのだから」
「ありがとうございます、マーカスさん」
「まぁ、君1人を戦地に送り出して、安全な場所に避難するような人間の言えた事ではないがね」
そう言って苦笑するマーカスさん。
その顔はどこか悔しそうであり悲しそうであり、また自身に対する苛立たしさをも感じさせた。
「この作戦を考えたのは自分です。ですから、マーカスさんがそんなに気にする事じゃないですよ」
俺は少し笑ってそう言ってみせる。
しかしマーカスさんは、さらに悲しそうな顔をするのだった。
「君は優しいなぁ、それにとてもしっかりしている。私の子供も、君の様な人間に育ってくれるといいのだが…」
そしてどこか遠くを見る様な顔をした。
「お子さんが…いるんですか?」
そう聞いたのはリーシャさんだ。
「あぁ、すまないねぇ。つい関係ない話をしてしまった」
「いえ、よろしければ、その…お子さんの話を聞いても?」
俺はつい気になって聞いてしまった。
もしかしたら本人にも辛い話になるかもしれないのにだ。
「そうだねぇ……。
私には子供が二人いてね。双子の子供だ。本当に可愛い子供達だった。親バカかもしれんが、目に入れても痛くないとも思っていたよ。
だが1年ほど前の話だ。
ある日の夜、私が不甲斐ないばかりに、その二人の子供を奴隷商に連れて行かれてしまってね。
もちろん私も妻も抗った。
自分達はどうなっても構わない。家の物も自由に持って行ってくれ。だがどうか子供達だけは……と。しかし、子供達は連れて行かれた。
男達に引っ張られながらも、助けて、お父さん、お母さん! と、何度も泣き叫んでいたよ。
私は未だに……あの時の子供達の声が耳から離れない……」
話していくにつれて、マーカスさんの両の目からは涙が溢れてきていた。
「……それからすぐに、もともと身体の弱かった妻は、その時のショックで寝込んでしまってね、1ヶ月と保たずに、妻は聖霊の下へと旅立った。
そして私は、奴隷商からなんとか子供達を取り返すために、死に物狂いでお金を集めた。
だがそのお金も、領主の理不尽な徴税により、すぐに底をつき、またさらに借金。
そして、今に至るというわけだ」
「………」
「………」
言葉が出ない。
なんていう世界だ、なんていう国だ、なんていう人間達だ!
俺は徐々に腹の底から、怒りが沸いてきた。
「だから私は、これからの世にそんな子供達が生まれないように、この世界を変えたい。
この革命を気にそう決意した。
……弱い決意かもしれんがね」
そう言って、再び苦笑するマーカスさん。
「……確かに、弱い決意ですね」
「――っ!? ルイさん!」
俺の言葉にリーシャさんが反応し、諫めようとする。
しかし俺はリーシャさんを手で制し、次の言葉を続ける。
「これからじゃない、今まで被害に合ってきた人達、今も尚奴隷となって苦しんでいる人達、あなたの…マーカスさんのお子さん達も助けるんです!」
「……ルイさん」
「ルイ君」
リーシャさんとマーカスさんが、驚いた顔で俺を見る。
「し、しかし…」
「しかしも案山子もない! 助けるって言ったら助けるんです!」
マーカスさんが何か話そうとするが、それを遮る。
「だってそれが、マーカスさんの一番やりたい事でしょう?」
そう言って俺は、ニッとマーカスさんに笑いかける。
「ルイ君………、ありがとう……、ありがとう……!」
泣きながら、何度も俺にありがとうと言うマーカスさん。
「お礼はまだ早いですよ、マーカスさん。それはマーカスさんの子供達を助け出してからです」
すると不意に、遠くの方から闘気を纏った集団が近づいて来るのが感じられた。
昔から人の気配などには敏感だったけど、この世界に来てからはそれが更に強化されたようだ。
これも異世界補正の影響だろうか。
「そんでもってこの戦いが……」
俺は正門の方へ身体を向け、歩きながら首だけマーカスさんへ向ける。
「その革命への出発点です」
そして俺は正門の上を颯爽と飛び越え、戦地へと赴くのだった。
今更ですが、マーカスさんのプロフィール。
マーカス・ワグナー(45)男
赤髪、翠眼、若干垂れ目。
会ったばかりのルイに、親切にしてくれた優しいオジサン。
二児の父。
声のイメージは、大塚芳忠さんです。
次回はいよいよ決戦です!