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第13話



だいぶ遅くなりましたが、やっとこさUPできました。



 ――かの奴隷商アルネオが、奴隷達の反抗によって屋敷を奪われた。

 このニュースは、瞬く間に国中に広まった。

 奴隷が奴隷商に逆らうという前代未聞の事件。しかもその首謀者は、不思議な力を持つ異国の少年で、魔法も武器も効かない。

 この知らせを受けたクルジア国国王は、彼らを討伐するために、国家正規騎士団一個中隊を投入した。









「そんな…」

「まさかこんなに早く国が動くとは…」


 俺達は現在、アルネオの屋敷にある執務室の様な場所にいる。

今朝ディアスさんから受けた、国が正規騎士団を派兵したという話により、急遽ここに集まったのだ。 ちなみに現在この場にいるのは、俺、ディアスさん、リーシャさん、マーカスさんの四人だ。

俺とディアスさんはこの屋敷にいる元奴隷の皆からリーダーの様に扱われているので、こうしてこの場にいるのだが、リーシャさんとマーカスさんは、『大勢いた方が色々と案も出るだろう』という事で俺が呼んで、来てもらった。


 しかし話し合いは一向に進まず、ただ重い空気だけがこの場を支配していた。





「おしまいだ。騎士団が相手では、いくら俺達が束になろうと…」


 ソファに座り両膝に肘を乗せ、両手で頭を抱えるディアスさん。


「兄さん…」


 そう呟きディアスさんの肩に手を置くリーシャさんの顔にも、絶望の色が見て取れる。


「終わりって…、何とかなりますって! こっちは百人近くいるんですよ? 昨日だって、アルネオの手下や衛兵相手に戦えたじゃないですか!」


 俺はディアスさんを勇気付けるように、明るく振る舞って言った。


「今度の相手は戦闘の訓練を受けた国の正規騎士団だぞ! それにアルネオの手下達は殆どが丸腰の状態だったんだ! しかも俺達の中でちゃんと戦えるのは奴隷剣闘士だった二十数人だけ。どう考えても不利だ!」

「兄さん、そんな怒鳴らなくても…」


 リーシャさんに窘められ、ディアスさんは大きく息を吸い、ゆっくり吐いた。

それである程度落ち着いたのか、ディアスさんは俺を見て小さく「すまん…」とだけ言って俯いた。


「しかし、ディアス君が言うのも尤も(もっとも)だ。今の我々の戦力では、正規騎士団一個中隊には歯が立たない」


 気まずくなってしまったディアスさんを気遣ってか、マーカスさんが落ち着いた口調でそう言った。


「今の我々に取れる選択肢は投降するか、玉砕覚悟の抵抗か…。この二つだけでしょう。しかし投降したとして、その先にあるのは再びの奴隷生活か、処刑台行きがせいぜいと言ったところでしょうな」

「そんな、マーカスさんまで…」

「私だって本当は諦めたくはないさ。しかしこればかりはどうにも…。相手は剣や槍で武装し、頑強な鎧まで着込んだ騎士だからね。アルネオの手下達とは文字通り、桁が違う」

「桁が…違う………?」



 そこで俺はふと、マーカスさんの言った言葉を思い出した。

剣や槍で武装し、頑強な鎧を着込んだ騎士…。


そういえば、昨日の戦いで分かったんだけど、俺って武器での攻撃が一切効かないんだよな。触れた瞬間に分解できるから。

ただ頭の中で『俺の身体に触れた敵の武器を分解』とだけ念じていれば、剣だろうと槍だろうと矢だろうと、恐らく銃弾だろうと、俺の身体に傷を付ける前に粉と化してしまう。


 そしてイオから貰った、空想の武器を現実化する、この千刃の指輪。


………あれ?



「ねぇねぇディアスさん」

「…なんだ?」


 ディアスさんは顔を下に向けたまま、ぶっきらぼうに返事した。


「もしかしたらだけど、何とかなるかも」

「そんな気休め…」

「いやいや、気休めとかじゃなくてさ。その騎士団一個中隊? 俺1人で撃退出来るかも」

「ぁあ、そうか………はぁ!?」


 またぶっきらぼうに言ったかと思うと、数秒間止まった後にガバッと顔を上げた。


あ、驚いてる驚いてる。


「それはえっと…どういう意味ですか?」


 リーシャさんは驚いているというよりも、不思議そうな顔で首を傾げている。頭の上にいっぱい"?"マークが浮かんでそうな感じだ。

 マーカスさんは静かに俺の次の言葉を待っている。


「そのまんまの意味ですよ、リーシャさん。その騎士団一個中隊、俺が相手をします」

「しかしルイ、一体どうやって?」

「いやほら、俺って武器による攻撃が一切効かないんだよね。こんな風に…」


そう言って、俺は床に落ちていた空の酒瓶を手に取り、酒瓶を分解して見せた。


「触れた物を粉々に分解できちゃったりするからさ。敵の武器も、俺に触れた途端に粉々に出来るんだよね」

「あっ! そういえば、たしか昨日も…」


 リーシャさんが昨日のアルネオの手下との戦闘を思い出したのか、そう呟いた。


「昨日…どうしたんだ?」


 その呟きを聞いたディアスさんが、リーシャさんに訪ねる。


「昨日アルネオの手下と戦闘した時なんだけど。敵の武器がルイさんの身体を貫いたかと思ったら、あんな風に粉々になっていたの。あの時は何が起こったか分からないでいたけど…」


 そう説明し、「そういう事だったんですか」と言って俺の方に振り向くリーシャさん。


「しかしルイ君、敵の武器は剣や槍だけではない。騎士の中には、ディアス君の様に魔法を使いながら剣を振るう、魔法剣士もいるのだよ?」



これまで静かに聞いていたマーカスさんが、冷静に言った。


「いや、マーカスさん。それが、ルイには魔法が効かないんだ」

「なんだって!?」

「俺も最初は驚きましたよ。なんせ普通の精霊魔法どころか、俺の聖霊魔法ですら打ち消したんですから」


ん?

なんか分からない単語が出てきたぞ?

普通のせいれい魔法?

ディアスさんのせいれい魔法?

…どう違うの?



「あのー…」


 真面目な場面ながらも、俺はその単語が気になって恐る恐る手を挙げて聞いてみる事にした。

だって分からないままだとなんか嫌だし。


「今のってどうゆう意味? せいれい魔法って? 魔法って二種類あるの?」


 すると、俺の言葉を聞いた三人が同時に止まった。


なんで?


「えっと、そのー…」

「なんと言うか…」


 なんか気まずそうな表情を浮かべるリーシャさんとマーカスさん。


「ルイ、一般常識だぞ…」

「!? 兄さん!!」

「な、なんだリーシャ?」


 呆れた様な顔で言ったディアスさんに対し、急にリーシャさんが怒った。

そして俺の方をチラッと見ると、そっとディアスさんに耳打ちした。


『そんな呆れた様な顔で言わないで。世の中には文字を書けない人もいれば、そういう常識を教えてもらえずに育った人だっているんだから!』

『そ、そうか! いや、すまん…』


 聞こえてますよー。

なんか俺かわいそうな人になってる?


 そしてディアスさんはゴホンッと一つ咳払いすると、俺の方を向き「まぁ、世の中色々あるよな」とか言った。


「フンッ!」

「ぐふっ!!」


 今度は腹に肘打ちを喰らうディアスさん。

オッチョコチョイな人だな…


「すいません。えっと、魔法の事でしたね…」


 そう言って笑顔で話を続けるリーシャさんの横で、悶絶しているディアスさん。


南無…


「先ほどルイさんが言われた通り、この世界には大きく分けて、二つの魔法が存在します」


 リーシャさんはそう言いながら、ソファの前にあるテーブルの上に、紙とペンを出した。


「一つは、魔力を持っている人なら誰もが使える、精霊魔法」


 そう言って、紙に漢字で゛精霊魔法゛と書いた。


…って、漢字!?


 俺はこの国(世界共通かはまだ分からない)が日本と同じ文字文化だという事を驚きつつも、リーシャさんの話に耳を傾けた。


「この精霊魔法は、この世界の至る所に満ちている精霊の力を借りて使います。ただし力を借りる代わりに、自らの魔力を対価として支払わなければなりません。」


 そして゛精霊魔法゛と書いた文字の周りに、なんか可愛らしいチビキャラ(精霊?)を描いていくリーシャさん。

「力貸すよー」とか「魔力ちょうだーい」とか吹き出しを付けてる。


…リーシャさん?


「そしてもう一つが、精霊よりも高位の存在。聖霊と契約し、大量の魔力を対価に力を借りる聖霊魔法」


 今度は゛精霊魔法゛と書いた文字の隣に、゛聖霊魔法゛と描く。


「あ、もしかしてそれがディアスさんの使ってたっていう魔法?」

「そうだ。ただし先ほどもリーシャが言った通り、その聖霊魔法は大量の魔力を対価に必要とする。その上、神に近しい存在である聖霊と契約しないといけないため、使用者は世界でも数少ないんだ」


 あ、ディアスさん復活した。

「へ~、じゃあディアスさんって結構凄い人なんだ?」

「そんな事はないさ。俺は聖霊魔法はまだ下位のものしか使えないからな。その点リーシャは、上位の聖霊とも契約している世界に数少ない上位聖霊魔法使いなんだぞ」

「え! リーシャさんってそんな凄い魔法使えたの!?」


 俺はその言葉に驚いて、リーシャさんの顔をマジマジと見つめる。


「あ、あの…、私は別にそんなっ、大した者では…」


 頬を赤くし、ワタワタと慌てるリーシャさん。


「そんな謙遜しなくても。゛流麗の魔女゛の二つ名の通り、美しく聡明な立派な魔法使いじゃないか」

「へぇ~、スゲェー…」


 マーカスさんのその言葉を聞いた俺は、尊敬と憧れを抱いた眼差しでリーシャさんを見つめる。


「いえ、そのっ、はぅ……」


 とうとう耳まで真っ赤にし、俯いてしまったリーシャさん。


 誉められたりするのに慣れてないから恥ずかしいのかな?

それとも二つ名が恥ずかしいとか?



ん?そういえば…


「リーシャさんってそんな凄い魔法使いなのに、首輪の魔法は解除出来なかったんですか?」

「それが、あの奴隷の首輪には様々な制約があって、私や兄さんの様な魔法や武術で腕の立つ者は、その力を半分以下に制限されてしまうんです」

「ただし、剣闘の試合の時はその制限も解除されるがな」

「なるほど…。じゃあ今は二人とも全力で戦えるんだ?」

「はい」

「ああ」


 自信満々に頷く二人。


「えっと、自分で話を逸らしといてなんだけど、話を元に戻しましょうか」


 なんか今日はみんな驚いてばっかりだな…


「ああ、そうだな」


 そう言って、ディアスさんはソファに深く座り直す。



「ディアスさん、その騎士団がこの屋敷に攻めて来るまで、あとどのくらい時間がかかるか分かりますか?」

「うむ、そうだな。細かくは分からんが、恐らく明日中には攻めて来るだろう。さすがに今日中にと言う事はないだろうな」

「なるほど、じゃあある程度準備する時間はありますね」

「騎士団が攻めて来るとしたら、屋敷の正門からの正面突破しかないだろうね。この屋敷は奴隷の脱走防止のために、出入り口はそこしかないから」


 マーカスさんが付け足すようにそう言った。


「じゃあ、正門さえ押さえ切ればなんとかなるか………よしっ!」


 俺はこの屋敷の構造、こちらの戦える人数、ディアスさんとリーシャさんの実力を考慮し、一つの作戦を考えついた。


「これから皆に、俺の考えついた作戦を説明します。これが上手くいけば、ヤツらに一泡どころか三つも四つも泡を吹かせてやれますよ」


 そう言って俺はディアスさん、リーシャさん、マーカスさんの顔を順に見て、ニヤリと笑った。


「この世界に、革命を起こしてやりましょう」






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