第12話
今話より新展開!
新キャラも登場でっす!
真っ白でまっさらな世界。
地面も空も真っ白で、この世界には俺以外誰もいない、何も無い。
「ん~と…、どこ?」
確か俺はアノ後、アルネオの屋敷を占拠して、アルネオとその部下達を追い出し、解放された奴隷の人達と、屋敷中の酒や食べ物で祝勝会的なものをやったいたはずだ。
そうそう、奴隷の人達は皆生き生きとした顔をしていて、俺とディアスさんは感謝の言葉攻め、酒攻めになった。
これから皆に降りかかるであろう困難に、俺は負い目を持っていたのだが、その件で俺が謝ると、皆口々に「気にするな!」「望むところだ!」などと言ってくれた。
リーシャさんも、「今まで自分達は、ただ自分の運命を呪う事しか出来なかった、いえ、しなかった。でもこれからは、自分で運命を切り開く。自らの足で立ち、自らの足で進む。それを教えてくれたのは、ルイさんです。だから、あなたは謝る必要はありません」と言ってくれた。
嬉しかった。
自分のやった事が、皆を助け、皆を勇気づけ、皆に元気を与えた。
初めて人の役にたった気がした。
そうそう。話は変わるが、アルネオに着けたあの首輪。
とある人に協力してもらい…と言ってたいたそのとある人。
実は、この異世界に来て一番最初に親切にしてもらったオジサン。俺が奴隷商の馬車に放り込まれた時、俺に汚水(あれでも貴重な水らしいです。ゴメンナサイ)を飲ませてくれたオジサンだ。
名前はマーカスさんというらしい。
アルネオがあの行動に出るのを予想し、誰かに協力してもらい首輪を…と思って協力者を探していたら、偶然マーカスさんに会ったのだ。
マーカスさんに事情を説明し、協力をお願いしたところ、快く了承してくれた。
さて、話がだいぶ逸れたな。
つまり俺は、ディアスさんやその他大勢に無理やり酒を飲まされた後、酔っ払ってダウンしてしまった…って事なのかな?
うむぅ…、酒を飲まされてからの記憶が曖昧だ。
ええと、あまり頼りにならない記憶を総合すると…
うん、これは夢だな。
だって、俺はさっきまで屋敷の中で色んな人達とワイワイガヤガヤやっていた筈なのに、ここには誰もいないし。
こんな真っ白で何も無い世界見た事ないし。
ここがさっきまでいた異世界とは、また別の異世界でもない限り………
………
ぐぉぉおおおおっ、ちょっと待てぇ!!
え?
まさか!
そのまさか!?
なに? 俺また飛んじゃった!?
世界間跳躍とかしちゃった系!?
寝てる間にバビューンと世界跳躍!!?
神さまぁぁあああ!!
あ、そうだ!
イオ!!
イオ助けてぇぇええ!!
こんな何も無い世界イヤだよぉぉおお!!
「やれやれ。二人きりで話をするために、わざわざこの場所に案内したというのに、1人でも騒がしいな君は」
「………ほわい?」
「間の抜けた顔だな。こんな少年がこの世界の神達に対抗できるのやら…」
え~と…、だれ? この渋いオジサマ。
「ふーあーゆぅ?」
「おや? そういえば顔を合わせるのは初めてだったかな」
そう言うと、渋いオジサマは右手を胸に置き、キザったらしく挨拶してきた。
「初めまして。私はこの世界の神の一柱、ヒカードだ。君のことは、この世界に来た時からずっと見ていたよ」
「あぁはん?」
「…日本語を話したまえ。せっかく私も日本語で話しているのだから」
どうやら混乱しすぎて頭がおかしくなっているらしい。
なんか神様を名乗るビジネススーツを着た渋いオジサマが見える。
しかも話し掛けてくるし。
まぼろし? 幻見ちゃってる?
それともやっぱりインマイドリーム?
現在進行形でインマイドリーミング?
「こらこら、幻でも夢でもないぞ。私は正真正銘の神だ。先程まで君がいた世界…、君があの男、アルネオと戦った世界のね」
「え、あー、んと、ここは?」
「ここは私が作り出した空想世界だ。君と二人で話がしたかったのでね、悪いが無理やり連れて来た」
あ、そすか。無理やりですか。
「んで、その神様が自分に何の用ですか?」
「いやなに、君にこの世界の神を敵に回す覚悟があるか否か。それを聞いておきたくてね」
「この世界の世界の神を、敵に回す? どういう意味だ?」
話が突飛すぎて理解できない。
どういうことだ?
「…君は、神というのがどうやって生まれるのか知っているかね?」
「え? いや、神様って最初っから居るもんじゃないのか?」
っていうか、そもそも神様って何者なのか。それすら考えた事もなかった。
だって今時の普通の日本人なら、神様なんて存在信じてないだろ?
神様の存在を知るどころか、考えた事さえないよ。
まぁつい最近、特殊な性癖を持った神様とお知り合いになりましたが。
「まぁ、普通は分からないだろうな。なら今ここで、君に教えよう。我々神が生まれた由縁を」
そして、自称この世界の神様、ヒカードは語り始めた。
「神というのは、人々の思念の集合体。つまり、人の想いによって生まれるモノなのだよ。
こうあってほしい。こうであってもらいたい。こういうものだろう。
そんな人々の想像や理念、思念が我々神を作る。
我々は人の創造物であり、想像物でもあるのだ。
君の世界…というより、国には、沢山の神が居るだろう?
八百万の神と言ったか?
あれも、人々の想像による産物なのだよ。」
「じ、じゃあ、イオも、あんたも?」
「そうだ」
そんなまさか。
あのイオが、人々の想像から生まれた存在?
あんなにしっかりとした意思があるのに?
あれも作りものなのか?
「まぁ彼女の場合は、元になった人間がいるがね。彼女は、人々の願望によって神になった。
しかし、この世界の神は違う。この世界の上位神達は歪だ。歪んでいる。穢れていると言ってもいい。それだけ、この世界の人々の思念は酷いものなのだよ。
奴隷が欲しい。奴隷が出来た。神よ、奴隷とは斯くも良き物なのか。感謝する。
奴隷になりたくない。奴隷になった。神よ、何故自分を奴隷にしたのか。
この世に神がいるとしたら、私は恨む。私をこの様な運命の歯車に乗せたのは神だ。奴隷にしたのは神だ。
神は酷い。神は憎い。神は無慈悲だ。
そんな勝手な想いから、この世界の神達は生まれた。
かく言う、この私もな」
そんなバカな…
じゃあもしかして、この世界がこんなになったのは…
「そう。この世界に住まう人間達の思想を、神が具現化した為だ。だから、この世界には奴隷が溢れている。奴隷とそうでない者の違いが大きく出るのだ」
「えっと、つまりさっきあんたが言った、この世界の神達と戦う覚悟があるか否かっていうのは、この世界の奴隷達を救うっていう事は、この世界の神様と戦うっていう意味になるから…ってワケか?」
「そういう事だ」
おぉ、ジーザス。
なんてこったい。
「じゃあつまり、あんたも俺の敵?」
「いや、私は違うよ。というより、まだ説明していなかったな。君がこの世界と契約するに当たって、この世界との仲介を行ったのはこの私だよ」
今度こそ本当にほわい?
え、つまりなんだ?
俺がこの世界と契約して、元の世界に帰れなくなったのは、このオッサンのせい?
「君ならば、この世界の乱れた歯車を修正してくれるかと思ってね」
「…………ッハァー、まぁいっか、今さら怒ったってしょうがないしなぁ…」
「おや? 予想外だ。てっきり恨み言を言われると思ったのだが」
「そりゃまぁ、最初はそうだったよ。自分をこんな目に合わせた運命を呪ったし、元の世界に帰れなくなった事も悔やんだ。でも」
そう、でも…
「俺はもう、決意しちまったからな。リーシャさんやディアスさん、そして、この世界の奴隷の人達を助けると。この世界の救世主になると」
そう言うと、ヒカードは目をまん丸にして驚いた顔をし、ふぅとため息を吐いた。
「やれやれ、どうやら君の決意は本物らしいな」
「まぁな。たとえこの世界の運命を操る神様が相手だろうと、俺は戦う。そんな馬鹿げた運命なんて、この俺がぶっ壊してやるよ」
そうだ。
何が神様だ。
何が運命だ。
そんなもの関係ない。
他の誰かが決めた運命なんて、他の誰かが敷いたレールなんて、誰が走ってやるものか。
俺は俺の信じた道を行く。
誰かの言いなりになるなんて、まっぴらゴメンだ。
「それが困難で、険しい道だとしても…、いや、道すら無いとしてもかい?」
「関係ないね。道が無ければ自分で作る」
「…そういえば、彼女が君にそんな事を言っていたな。君が進む道を選ぶのは君だ、道を作り出すのは君だと」
「あぁ、そうだとも。これは、イオが俺に教えてくれた事だ」
あの日、俺がこの世界の救世主になると決意したあの夜。
イオが俺に言ってくれた言葉だ。
あの言葉のおかげで、俺は決意できた。
自らの足で進む事ができたんだ。
「全く、うらやましいな。君の世界には素晴らしい神様がいるようだ」
「ああ、最高の女神様だよ」
自慢するように、ヒカードに言ってのける。
するとヒカードは苦笑し、やれやれといった風に両手を持ち上げる。
「そんな事で惚気られてもなぁ…」
「は? 何言っ」
「しかし、君の決意が本物だと分かった以上、私ももう何も言うまい。君に助力する事は出来ないが、応援はしているよ。なにせ私も、この世界の運命とやらを嫌っているからね」
「そうなのか?」
「おや? 今までの会話で気が付かなったのかい? 私はこの世界では珍しい、奴隷反対派の神だよ」
「なんか政治家みたいだな」
「似たようなものさ」
そう言って、ヒカードはスーツのポケットに手を突っ込み、懐中時計を取り出した。
「そろそろ時間だな。私が君をこの場所に留めておけるのも、ここまでが限界のようだ」
「やぁ~れやれ、やっと現実に戻れるのか…」
「あ、そうそう。いま君の肉体は睡眠状態にあるが、精神はこの世界で活動していたから、疲れはあまり取れていないのだが、私という神様との貴重な対面のためという事で、悪しからず」
「無理やり連れて来たくせして…」
「まぁそう言うな。では、さようなら。頑張りたまえよ、少年」
そう言ってやたらあっさりとした挨拶を済ませると、自称神様ヒカードは、笑顔で手を降った。
そうして、俺の意識は暗闇へと落ちていく。
「――はっ」
目が覚めると、そこは床の上だった。
周りには酒瓶を抱えゴゥゴゥと眠る人や、ソファやクッションでスヤスヤと眠る人。
皆一様に、幸せそうな顔をしている。
その顔を見て、穏やかな気持ちになると、俺はまた眠くなり(ヒカードのせいで疲れが取れてない)、欠伸をし、再び目を閉じようとした。
すると突然、部屋の扉が勢いよく開き、ディアスさんが駆け込んで来た。
「ルイ! 起きろ!」
「ほへ? ディアスさん?」
その騒がしさに、周りで眠っていた人達も「何だ何だ」と言って起きだす。
「どうしたの兄さん、そんなに慌てて?」
おっと、リーシャさん?
なんで、俺の真横で寝てたの?
おにーさんの顔が怖くなってるよ?
…俺、何もしてないからね?
ディアスさんは一瞬俺を睨んだが、直ぐに真剣な顔に戻り、部屋の皆に聞こえる声で叫んだ。
「騎士団が…、国が俺達を討伐するために、騎士団を送り込んできた!」
今回の新キャラ(片方は名前だけおにゅう)は、二人共オジサンでした。
…べつに自分、オジサマ趣味とかないですから。
自分、男ですから。