第11話
やっとこさ一区切り?
リーシャさんの首輪の魔石が、強い光を放った。
そして…
――パリンッ!
魔石は音を立て、派手に割れた。
「ふぅ、何とか間に合ったか…」
俺の手は、リーシャさんの首輪に触れている。
「え、あれ? なにが…」
何が起こったのか理解出来ていないリーシャさん。
「な、バカな…、なぜ魔法が発動しない!?」
アルネオもリーシャさん同様に驚いている。
「簡単な事だよ。俺の能力は、魔法無効化。俺に影響を及ぼす全ての魔法を無効化する能力だ」
「ならば何故その女が生きている! ワシはその女に対して魔法を使ったのだぞ!」
「だぁかぁら、言っただろ。"俺に影響を及ぼす全ての魔法"って。この魔法は、首輪に付いた魔石を小爆発させ、首輪を着けた者の首を吹き飛ばすって聞いた。ならもし、その首輪に俺が触れた状態で、魔法が発動したらどうなる?」
「あ、まさか…」
リーシャさんはその意味に気付いたようだ。
しかし、アルネオは未だに分からない様子。
バーカバーカ。
「もしルイさんが首輪に触れた状態で魔法が発動すれば、ルイさんの手も吹き飛ぶ。でもルイさんは、その身に影響を及ぼす全ての魔法を無効化する。だから…」
「そ、だからその首輪の魔法は無効化されたってワケ」
そう言って、俺はリーシャさんの首輪を分解で外してあげた。
「あ…」
そしてリーシャさんを体の後ろに置き、アルネオの方に向き直る。
「アルネオ、お前の負けだ。もうお前には何も手はない」
アルネオを睨み付け、降伏を促す。
しかしアルネオは、まだ諦めてはいない表情だ。
「ふっ、ふふふ…、その女の首輪は無理だったか。…ならば!」
魔石を持った手を前に突き出し、俺達に見せる様に掲げる。
「その女の兄、ディアスの首を吹き飛ばしてくれよう!」
「ああ、それは無理だな」
「な…に?」
意気揚々と言うアルネオであったが、あっさりとそれを無理と言われ、勢いも止まる。
「コレ、なぁ~んだ?」
ポケットの中からとある物を取り出し、目の前でヒラヒラさせる。
「まさか、それは!?」
「そ、ディアスさんの首輪だよん」
こんな事もあろうかと、昨日会った時にこっそり外しておいたのだ。
「くっ、おのれ…」
ワナワナと震え、怒りを露わにするアルネオ。
『ボスッ、ボスッ!』
すると突然、机の上にある、電話みたいな機械(昔のヨーロッパとかで使われてそうなオシャレなやつ)からアルネオを呼ぶ声が聞こえた。
向こうの声聞こえるから、無線みたいな物か?
アルネオは俺を警戒してか、それに出ようとしない。
「出てやれよ。待っててやるからさ」
「く…」
悔しそうな表情をしながらも、受話器を取る。
「なんだ!」
『ボス、大変です! 屋敷にいる奴隷達が、暴動を起こしました!』
「なに!? なぜ奴隷共が牢屋から出ているんだ! 誰が鍵を開けた!」
『そ、それが、全ての牢屋の鍵が破壊されておりまして』
あ、それやったの俺。
「ええぇい! とにかく、早く鎮めろ! そんなクズ共に手間取るな!」
『あの、それが…』
「なんだ!」
『奴隷達は、何故か全員武器を所持しておりまして。しかもそれらは、昨晩何者かによって武器庫から盗み出された物かと思われます』
「なんだと!?」
それやったのも俺~。
実は昨晩盗んだ武器は、全て分解で粉々にした後、全ての牢屋の中にバラまいておいたのだ。
そして俺がアルネオの部屋に入った時、遠距離から念じて、全て還元の能力で戻した。
「ぐっ、くぅぅ! 殺せ! 奴隷共を全員殺すのだ!!」
『む、無理です。我々はほぼ全員が丸腰の状態です』
「ならばケストを出せ! 魔法士達を総動員させろ!」
『それが、ケスト殿は昨晩から行方が知れず…。しかも、暴動の先頭に立っているのは、あのディアスでして、並みの魔法士では相手になりません』
「バカな! ディアスは小僧との戦いの怪我で、動けない状態の筈だ」
『いえしかし、どうも見たところ、怪我は完治しているようでして…』
俺が治したからねぇ。
「ぬぅぅ! どんな手段を使っても構わん! とにかく、暴動を直ぐに治めろ!」
そう吐き捨てて、電話を机に叩きつけるアルネオ。
ハァハァと息切れして、だいぶお怒りのようで。
「八方塞がりだな。さぁどうする、アルネオ」
「お…のれ、おのれおのれおのれおのれおのれ! 小僧!! これも貴様の仕業かぁ!」
「その通り♪」
「貴様……」
俺を怒りの形相で睨み付け、右手に持った魔石を握り締める。
しかしそこで、アルネオは手に持った魔石に気づき、ハッとする。
そして、不気味な笑みを浮かべた。
「フフッ、そうか。暴動を鎮めるのに、わざわざ部下共の手を借りるまでもない」
そう言って、右手に持った魔石を目の前に翳す。
「こいつさえあれば、暴徒など一瞬で皆殺しだ」
「なっ! そんな…」
リーシャさんが驚きの声を上げる。
しかしそれでも尚、俺は余裕の表情を崩さない。
「やってみろよ、アルネオ。ただし…」
俺は服のポケットに手を突っ込み、中からとある粉末を手に取る。
そしてそれを、アルネオの顔目掛けて投げつける。
「ブハッ! な、なんだコレは!」
そしてその粉に還元を念じ、分解される前の状態に戻す。
するとあら不思議、アルネオの首に奴隷用の首輪が装着されました。
「…自分も死ぬ覚悟があるなら、の話だが」
「な、なんだコレは! なぜワシの首にこんな物が!?」
「ああそれねぇ、とある人から外しておいた首輪だよ」
昨日の夜、ある人に協力してもらい、その首輪を分解させてもらったのだ。
「さぁやってみろよアルネオ。でもそれが誰の首輪か分からない以上、不用意に魔法を発動すれば、お前の首も吹っ飛ぶぞ」
「く…そ、小僧ぉお!」
遂に怒りでプッツンいったのか、アルネオは落ちていた部下の武器を取り、俺に斬り掛かって来た。
「無茶すんなよオッサン」
俺は千刃の指輪にイメージを送り、棒状の武器…所謂スタンロッドに変えた。
「そんなオモチャで!」
そう言って斬り掛かって来たアルネオの剣を往なし、スタンロッドをアルネオのむき出しの腹部に叩きつけ、スイッチを入れる。
「あべばっ!」
奇妙な悲鳴を上げ、床に倒れ伏すアルネオ。
ひっくり返ったカエルの様な体勢で、ピクピクと痙攣している。
いや~、全裸でこの体勢はだいぶ厳しいものがあるな。
「ルイさん…」
リーシャさんが両手を胸の前で組み、涙目で俺に近付いてきた。
「はい?」
「ルイさん!」
「おわっ!?」
そして急に俺に抱きつき、わんわんと泣き始めた。
「えーと、あの…。リーシャさん?」
「ありがとう、ありがとうございます。私…本当に、怖くて。ルイさんがいなければ、私…あのままアルネオに…」
そう言って、更にギュッと強く抱き付くリーシャさん。
お、おう!
なんだか柔らかな感触が!
「ありがとうございます。本当に…ありがとうございます」
「そ、そんな、お礼なんて。俺はただ、そうしたかったから行動しただけでですね…」
アワアワと慌てながら答える。
彼女いない歴=年齢の自分には、このシチュエーションは正直言ってかなりくるものが…
「あの、それは…」
すると、リーシャさんが俺に抱き付いた腕を少しだけ緩め、顔を上げて俺を見つめてきた。
えと、あの、その、顔が…ち、近いです!
「それはもしかして、アルネオから私を助けたかったから、っていう事ですか?」
「ぅへっ!?」
クソッ、テンパり過ぎて変な声が出てしまった。
「私の…ために?」
若干顔を紅潮させ、ウルウルした瞳で俺にそう聞く。
…ヤバい。
なんか、理性の箍が外れてしまいそうだ。
いや、っていうかもう、外していいんじゃない?
外そうぜ、俺。
…うん。
っていう事で、さらば理性!
「り、リーシャさん!」
俺はリーシャさんの肩を掴み、リーシャさんの顔に自分の顔を近づけ…
「リーシャ! 助けに来たぞ!」
…ようとした所で、部屋に勢いよくとある御方が飛び込んで来た。
「………」
「………」
「………」
空気が止まった。
「あ…、兄さん…」
「ディ、ディアスさん…」
部屋に入った瞬間、フリーズしたディアスさん。
そして無表情のまま、抜き身の剣を携え、こちらに近付いてくる。
「あ、あの…お兄さん? け、剣を収めませんか?」
「……」
俺達の目の前まで近付くと、ニコッと微笑み、剣を振り上げた。
「誰が…」
「ルイさんっ、逃げて!」
真っ青な顔でそう叫ぶリーシャさん。
「へっ?」
「お兄さんだぁぁあああ!!」
「ひきゃぁあああ!」
般若の様な顔で剣を振りかざし、俺を追いかけるディアスさん。
「兄さんっ、やめてぇ!」
「撲殺滅殺斬殺惨殺!」
「ちょっ、ディアスさん! かんべん! ごめんなさい!」
結局その後、ディアスさんは俺をさんざん追い掛け回した後、リーシャさんの跳び蹴りによって、やっとこさ理性を取り戻した。
恐るべし、シスコン兄貴。
しかし真に恐ろしいのは、そのディアスさんを跳び蹴り一発で止めたリーシャさんだなんて、口が裂けても言えませんでした。
最後まで服を着る事はなかったアルネオ…
次回更新は遅くなるかもです。