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スロプーおじさん、何もしてないのに幽霊が勝手に成仏する(旧題:スロプーおじさんは除霊なんてしたくない。)  作者: Samail
おじさんと日常

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7話 眼鏡のお化け

昼過ぎ。


店内は、いつも通りうるさい。

リール音と電子音が混ざって、 頭の奥に残る。


「……お、悪くない演出。」


レバーオン。

リールが回転する。

止める。

外れ。


「あぁ、外れやがった。」


もう一回。

その時。


「その台、期待値マイナスです。」


「……あ?」


横を見る。

誰もいない。


「CZ確率が悪すぎます。」


反対側。

空席。

——いや、いた。

細い男。

メガネ。

スマホを片手に、データカウンターを見ている。


「……誰だよ。」


「通りすがりです。」


「嘘つけ。」


例によって霊のごとくじゃないか。


「初当たり合算も悪い。」


「うるさいよ。」


「設定1濃厚です。」


「わかってるっての。」


手は止めない。


「……で、なんだよ。」


「お願いがあります。」


もういいよ、帰ってくれないかな。


「なんだ。」


「その台、やめてください。」


「は?」


「期待値がありません。」


「知らないよ。」


レバーオン。

リールが回転する。

止める。

外れ。


「……ほら。」


「ほらじゃねえよ。」


「移動すべきです。」


「放っとけ。」


手は止めない。


「で?何が言いたいの。」


少しだけ間。


「——私は、期待値だけを追いかけて打っていました。」


「そうか。」


「無駄を排除して。」


「そうかよ。」


「でも。」


言葉が止まる。


「わからなくなったんです。期待値を追っているのか、期待値に追われているのか。」


「だろうな。」


「それでも——」


スマホを握る手が、わずかに震える。


「やめられませんでした。」


店内の音が、やけに遠くなる。


「……で?」


「この台は、無価値です。」


「うん。」


「だから、私なら打ちません。」


「うん。」


「でも——」


少しだけ、顔を上げる。


「気になってしまったんです。」


「……。」


「“打たなかった台”だから。」


「……、はぁ。」


レバーオン。

リールが回転する。

止める。

外れ。


「だから、やめろって言ってんだろ。」


「……。」


もう一度。

レバーオン。

リールが回転する。

止める。

外れ。


「やはり——」


「黙ってろ。」


三回目。

レバーオン。

リールが回転する。

——

止まる。

レア役。


プチュン。


店内の音が、一気に戻ってくる。


「……そんな。」


幽霊が、固まっている。


「期待値が……。」


「知らないよ。」


けたたましい音で祝福する台。


「……。」


「……ありえません。」


幽霊の声が、揺れる。


「理論と——」


あり得ない確率の奇跡。


「……はは。」


思わず笑う。


「すごいな、これ超出る。」


「……。」


幽霊は、台を見ている。

さっきまでと同じはずなのに、

完全に、違う顔で。


「……なあ。」


「……はい。」


「期待値だけ追っかけてもさ。」


レバーオン。

終わらない上乗せ。


「——つまんねえだろ。」


「……。」


店内の音。

リール音。

誰かの歓声。

全部が混ざる。


「……私は。」


小さく、口を開く。


「勝つことだけを、考えていました。」


「だろうな。」


「無駄を排除して。」


「うん。」


「でも——」


少しだけ、間。

画面の光が、顔を照らす。


「今の方が、理解できません。」


「そりゃそうだ。」


「……ですが。」


ほんの少しだけ、

口元が緩む。


「少しだけ、楽しいです。」


「……そうか。」


コインは増え続ける。


「これで、終われます。」


「勝ち逃げか。」


「……はい。」


その体が、少しずつ透けていく。


「ありがとうございました。」


「別に。」


「——非合理ですが。」


最後に、小さく笑う。


「悪くないですね。」


ふっと、消えた。


「……行ったか。」


「行ったね。」


ユウトが言う。


「めちゃくちゃだね。」


「そうか?」


「うん。期待値ガン無視。」


「そもそもこの店に来てる時点でだけどな。」


「これ万枚行くんじゃね?」


「行かねぇよ。」


しばらくして通常に戻る台。


「——えぇ、プチュンしといてそんなもん??」


もう一回、レバーを叩く。


「まあでも。



悪くない、か。」

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