4話 オカルティックお化け
「……。」
リールが止まる。
「……はいはい。」
特に何も起きない。
レバーを叩く。
リールが 回転する。
止まる。
何もない。
「……なんもねえな。」
「負けてるしね。」
ユウトが横で言う。
「うるさいよ。」
コインはじわじわ減っている。
こういう日もある。
「……やめるか。」
そう思って、手を止めたときだった。
「違う。」
「あ?」
またかよ。
横を見る。
見知らぬ男が立っていた。
三十代くらい。 無駄に真剣な顔。
そして——透けている。
「あー……。」
「はい、出ました。」
ユウトが呆れた声を出す。
男は、俺の手元をじっと見ていた。
「その打ち方がダメなんだよ。」
「は?」
「だから負ける。」
「いや知らんがな。」
ため息をつく。
「お前、なんなんだよ。」
「……オカルトだ。」
自己紹介かな。
最たるものが何を言うか。
「違う!」
男は真剣だ。
「スロットには“流れ”があるんだよ!」
「あー、そういうオカルトね。」
「オカルトは、ある!」
「そういう人もいるよねー。」
気にせず続ける。
「いや聞け!」
「生憎と間に合っておりますので。」
こういう輩の熱量ってなんだろう。
「……はあ。」
「まずな!」
男は無視して続ける。
「レバーは優しく叩け!」
「もう叩いてるけど。」
「違う、気持ちだ!」
「気持ち?」
「当たれって気持ちを込めるんだよ!」
「宗教かよ。」
ユウトが笑う。
「あとボタンな!」
「まだあんの。」
「左から順番に、“来い”って念じながら押す!」
「効率が悪い。」
「それが大事なんだよ!」
「はいはい。」
適当に返す。
「で、今のはダメ。」
「なにが。」
「今、風来ただろ?」
「来てないよ。」
「来た!」
「これ、搭載されてないんだけど。」
「来たんだよ!」
「うるさいよ。」
めんどくさい。
「とにかく!」
男は腕を組んだ。
「この台はな、朝イチ3ゲームが熱い。」
「もう何ゲーム回してると思ってんだ。」
「関係ない。」
「あるだろ。」
「今から3ゲーム意識しろ。」
「どういうことだよ。」
「いいから回せ!」
うるさい。
仕方なく、レバーを叩く。
「優しく!」
「……はあ。」
ちょっとだけ弱めに叩く。
リールが回転する。
止まる。
「……。」
「ほら見ろ!」
「なにも起きてないけど。」
「まだ1ゲーム目だ!」
「はいはい。」
もう一回。
レバー。
「気持ち!」
「めんどくせえ。」
リールが回転する。
止まる。
「……。」
「次だ!気合いを入れろ!!」
3回目。
渾身のレバーオン。
リールが回転する。
「今だぁぁあ!!!」
止める。
——ランプが光る。
「うそだろ。」
「ほらぁ!!」
男が叫ぶ。
「言っただろ!?3ゲームだって!」
「いやいや、まさか。たまたまだろ。」
「違う!これは流れだ!」
「はいはい。」
ボーナス。
コインが増える。
悪くない。
「な?」
男はドヤ顔だ。
ウザい。
「これがオカルトだ。」
「ただのヒキだろ。」
「違う!お前のヒキなんぞ大したものではない!!」
「ヒキ弱みたいに言うなや。」
ユウトが笑っている。
「でも当たったじゃん。」
「まあなぁ。」
「ほらぁ!!」
うるさい。
ボーナスを消化する。
終わる。
通常に戻る。
レバーを叩く。
「気持ち!」
「やらないって。」
普通に叩く。
リールが回転する。
止める。
何もない。
「ほら見ろ!」
「なにがだよ。」
「今のはダメだ!」
「もういいよそれ。」
「ちゃんとやれ!」
「嫌だよ。」
数ゲーム回す。
当たらない。
「……ほらな?」
「ほらな、じゃねえよ。」
「オカルト、大事。」
「関係ないって。」
さらに回す。
当たらない。
コインが減る。
「……。」
「……。」
少し静かになる。
何?このプレッシャー。
「……やるか。」
ぽつりと、男が言う。
「なにを。」
「全部だ。」
「は?」
「全部ちゃんとやる。」
「お前が?」
「俺が見てるから、お前がやれ。」
「意味わかんないんだけど。」
「いいから!」
めんどくさい。
でもまあ——
「……あとちょっとだけな。」
レバーを構える。
「優しく!」
「はいはい。」
軽く叩く。
「気持ち!」
「来い来い来い……これでいいか。」
「いい!」
リールが回転する。
止める。
何もない。
「次!」
「はいはい。」
第一停止。
左から。
「来い。」
中。
「来い。」
右。
「来い。」
「完璧だ!」
「そうかよ。」
回す。
外れる。
回す。
外れる。
回す。
外れる。
「……。」
「……。」
静かになる。
「……あれ?」
男が言う。
「な?」
「……おかしいな。」
「おかしくないよ。」
コインは減っている。
普通に。
「……もう一回だ。」
「やだよ。」
「ラスト一回!」
「それさっきも言っただろ。」
仕方ない。
レバー。
「気持ち。」
「はいはい。」
回る。
止まる。
——外れ。
「……。」
「……。」
沈黙。
しばらくして、男がぽつりと言った。
「……あの本、デマだったのか。」
「だろ。」
「……全部。」
「うん。」
「……信じてたんだけどな。」
少しだけ、笑う。
「まあ、そういうもんだろ。」
「そうだな。」
男は、ゆっくりと息を吐いた。
「でもまあ。」
空を見る。
「楽しかったから、いいか。」
「そうか。」
「お前、ちゃんと付き合ってくれたしな。」
「暇だっただけだ。」
「優しいな。」
「違う。」
「違わない。」
少しずつ、その体が透けていく。
「あーあ。」
男は肩をすくめた。
「結局、ヒキか。」
「そうだよ。」
「夢も希望もねえな。」
「ヒキだからこそ楽しいんだろ。」
男は驚いた表情をして、
そして笑った。
「じゃあな。」
「ああ。」
「今度はちゃんと勝てよ。」
「気持ちは負けてない。」
「はは。」
風が、少し吹いた。
次の瞬間、男の姿は消えていた。
「……行ったか。」
「行ったね。」
ユウトが伸びをする。
「結局何が未練だったんだろ。」
「ほんとにな。」
コインを見る。
減っている。
「……やめるか。」
「そうする?」
立ち上がる。
レバーに手をかける。
「……いや。」
もう一回だけ。
レバーオン。
「気持ち、ねえ。」
適当に呟く。
リールが回転する。
今だ。
止める。
——ランプが光った。
「……。」
「……。」
ユウトがこっちを見る。
「今のは?」
「……オカルトだろ?」
少しだけ、笑う。
もう一度、レバーオン。
ほんの少しだけ。
気持ちを込めた。




