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【長編】ムラクモちゃんズストーリー劇場版『帝都燃ゆ』!・終

 わたし、華亥ムラクモ♡ ひとよひとよにひとみごろ。法が裁ける悪をこれ見よがしに成敗しちゃう系自己満善意押し付け侍が一人……。

 ペケペンペンペンペンのおっぺけぺー! 世は彼女を、“暴君”と呼んだ! 承認欲求人一倍系女の子♡



 はい。

 チグ子取り逃がしてから何日か経ったよ。帝都ね、メラメラに燃えちゃったでしょ。お宿も燃えちゃってねえ。

 そんなもんだから野宿になったんだよ。ムラクモちゃんはぜんぜん気になんないだケド、れっちんの方がね、めっちゃぶつくさ言ってたよね。文句。やれ地面が固いとか、やれ配給のご飯がまずいとか。……こやつほんとうに探索者か? ムラクモちゃんよりワガママじゃない?

 ……。

 それはないか。


 暇すること自体はなかったかなって。

 れっちんが一緒に居たのもあるケド、あっちんもちょくちょく遊びに来てねえ。めっちゃ喧嘩してたよ。顔合わせるたび。

 あっちんなんてねえ、「ごきげんよう、姉さま。今日も大変すばらしく時代を先取りしたセンスでけっこうですね。涙で前が見えなくなってしまいますよ」とかって挨拶みたいに毎回言うし、れっちんも「いちいちうっとうしいわね! アンタこそ、いい加減ガキみたいなセンス卒業しなさいよね」って言うの。

 ……ムラクモちゃんのこと挟んでさぁ。

 この謀叛人姉妹、なにゆえいつもムラクモちゃんを挟んで喧嘩するのん? やめてほしいんですケド。


 ……ひりしあには会えてないよ。

 まあ、これについてはしゃーないかなって。あの子お姫様だし。

 ……おじいちゃんとうまくいったかなって気になりは……うーん、そこまで気になんないかも。むしろ普通に興味ない。でも、うまくやってたらいいねってお祈りはしとくよ。……や、もう遅いか。

 ただ、軍隊さんの大名行列帰ってきてからはね、帝都に来たばっかの時にあったぴりぴり、もう感じなくなったかなって。……街がしっちゃかめっちゃかになっちゃって大変なのもあるかもしんないケド、たまに見回りに来る軍人さん達も「むむっ! そこに見えるはあのプリティ狂言一本釣りで一世を風靡した銀河最強アイドルのムラクモちゃん様では? うおーっ! ラブリーすぎて目玉が水銀製になっちゃった!」って感じにのほほんしとる。……つまり何もかも、ムラクモちゃんがプリティなおかげでいい方に向かってるってお話ですねえ。……ホントぉ?


 お仕事自体は終わってるし、帝都も無事……ではないケドね。戦いも終わった。

 だからムラクモちゃん、今回の観光ツアーもおしまいにして帰りたいなって思っとるところだったの。……じょーちゃんにも会いたいし。

 でもねえ、どういうわけかブルおじ止めてくるんだよねえ。「ほら見ろ。あの仲良し姉妹がイチャコチャしとるん引き裂くんか? お前人の心ある?」っつってぇ。……や、知りませんケド。ムラクモちゃんは一刻も早く帰宅したいって言っとるでしょって。まー薄情! この鬼! 冷血女! 姉妹仲引き裂き業者ムラクモ! うっせぇ! 残りたきゃ残りゃいいだろ! それがし止めへんで!


 あ、れっちんのことね。どうでもいいと思ってるんじゃないよ。友達だもん。……自己弁護乙。

 だ、だがしかし……。

 れっちんと帰りたいを天秤にかけてなお、拙僧おうちに帰りたいが勝ってござる。……むしろ最低なのでは? おっしゃる通りですぅ。

 でもさぁ。しょうがないんだよぉ。帝都の人達ってば、なんだかすんごくムラクモちゃんに絡んでくるしぃ。……何これ怖ぁ。

 ……まぁ。帝国お散歩ツアーではね。長きにわたって封じられてたこのプリティ・フェイスがね、ついにご開帳あそばされましたからね。キュート後光に照らし出された民衆がプリティ如来ムラクモちゃんをありがたがってるんだなって理解しとくよ。

 なのでお礼はノーセンキュー。顔も知らないそなたよ、「なんか知らんけど命が助かった! ラッキー!」と己が幸運に感謝するがよい。ぴかぴかー。



 さておきさておき。

 そんなご多忙なホームレス旅行者わたしとして過ごしてるムラクモちゃんだったんだケド。日々をぐーたら無為に過ごしてるさなか、突如としてブルおじが語りかけてきたんだよぉ。「もしもし。もしもし。ムラクモよ。麻呂は今そちの心へ語り掛けておじゃる。近くのコンビニで雑誌買ってきて。あとなんかチップス」みたいな? ……冗談。


 ウトウトしてたんだよぉ。

 お片付けのお手伝い早く終わったからさぁ。積み上げたがれきに座ってたのん。……これがガレキ・ソファか。思ったよりもお尻に負担がかかる設計だな。……なんつって。

 そんなところにねえ、ブルおじが出現してさぁ。となりのがれきに座ったの。そんでね、なんかとっても眩しそうなお顔して、


「……一つだ。たった一つだけだが……ようやく気がかりが減った」


 とかって言ったの。


 ?????


 帝都のお空って雲が覆ってて太陽見えないよ。……あ。もしかしてムラクモちゃんの美しさが貴公の瞳を焼いてしまっとるのん? だからそんなに眩しそう? ……ふっ。すまねえな、プリティすぎちゃってよ。


 うん。

 ブルおじのお目々ね、謀反人姉妹に向いとるよ。

 そんで、なんだかとっても聞いてほしそうな感じ醸し出してるんだケド……残念! しかしムラクモちゃんは空気を読まない! ので。聞きませんよぉ。

 特に興味ないしねえ。……それに、今のムラクモちゃんには大切な使命があるのだーっ。……そう、惰眠を貪るという、至高の使命がな……。

 なんで、今のムラクモちゃんには決して話しかけるべからず! つって。こんなにも脳内で警告出したげてるのに、ブルおじったらガン無視だよ。

 「“暴君”。……過ちは、取り戻せるものだと思うか?」だなんて意味深なこと聞いてきおる。急になあに? 哲学? なんか無神経なこと言って誰かに嫌われたのん?


 ……まあいいや。

 過ちがどうのこうのってお話しでしたっけ? うーん。

 ……知らないっすね。好きにしたらいいんじゃないのって。何をもって取り戻したかって人によるもん。

 ちなみにムラクモちゃんは取り戻そうとは思わないよ。取り戻したいとも思わない。それで恨んだり嫌ったりされるんなら、それもしゃーないかなって。……ふっ! 見たかブルおじ。これが“孤高の迷惑生産者”たる者の生きざまだ! 退かず、媚びず、顧みず! ……なんというダメ人間。見習っちゃダメだよ!

 ……つーことでね。


「ん。……人生相談なら相手間違ってるよ」

「…………みてぇだな。ちと、舞い上がりすぎてたみてぇだ。どうかしてた」


 ホントだよ。

 自分で言うのも悲しくなるけど、ムラクモちゃんほど人生の助言を求めるのに不適格な存在ってそういないよ。そのような輩にあのような問いを投げるなど……舞い上がっていたでは済まされぬのではなかろうか? ──つまり! 殿下は狐憑きになってしまわれた! きえーい! 悪霊退散! ぎゃーてはらぎゃーて!

 ……事情とかわかんないからなんも言わないケド。別に舞い上がんのはいいんじゃない? ムラクモちゃんなんて常に舞い上がってるよ。脳内。舞い上がりすぎて大気圏突破して、銀河系飛び出しちゃう勢いなんだから。精神的宇宙存在わたし。


 ……。

 そんでしばらくね。ブルおじってば、たそがれてたの。……これかっこいいな。今度マネしよ。

 んーで、かっこつけブルおじが言ったのん。「お転婆姫もよ、多忙にひと段落ついたみてえだから会いに行ってやれ」って。


 ……。

 そうだねぇ。帰宅の前に挨拶すんのって、大切だもんね。せっかくできた新しい友達なんだし。……手土産の一つくらいは持参しとこうかな。ムラクモちゃんは模範的文明人なので。



 ───



 お城だよ。

 前に来たときはじっくり見れなかったケド。よくよく眺めてみると、めっちゃ風通しのよさそうな素敵なデザインですねえ。デコボコも風情がありますよぉ。家屋破壊見て見ぬふり系加害者わたし。

 うん。


 門番さんに来たよって挨拶するとね、ペこりんちょっつってうやうやしく頭下げられちゃうよ。……うーん、居心地が悪い。

 んで、案内されて豪華イスのお部屋に案内されちゃうとね、ひりしあと、マッチョ爺となんか幸薄そうなおじさんがお出迎えしてくれたのん。

 どうもどうも! みんなが待ち望んだプリティがご来場したよ! こにゃにちはー!

 っつってね。

 脳内で挨拶しつつ、しつつ。突っ立っとったらねぇ。案内してくれた軍人さんが、「皇帝陛下の御前ですよ。……せめて目礼だけでも」って言ってきおったのん。……ええ? テレパス習得されてないのん? まあいいけど。

 ムラクモちゃんってばちゃぁんと礼節を弁えておりますからね。手土産も持ってきたし。

 ……強制されてこうべを垂れるのは気に食わないケド、いちおうやってあげるよ。


 ……。

 そーれニコー☆


 はい。

 ご挨拶のプリティ・スマイルです。ムラクモちゃんの笑顔なんてそう見れるもんじゃないんだからね! 感謝してよね!

 ……けっこう自信ある感じの笑顔だったんですけどねえ。なんだか、しらーってしちゃったよぉ。……ちょっと! ムラクモちゃんを滑った感じになさるのやめてよね!

 

 でね。幸うすおじさん……うーん。

 ご紹介によるとこの人、皇帝さんらしいよ。……薄帝とかどう? はくてい。かっこよくない? 響きだけ。

 その薄帝さんってば、すんごい困惑したお顔なさってねえ。「これが……“暴君”。うつけの振りをして油断させる腹積もりか……! 底が知れぬ……!」とかってボソボソ言っとる。……うつけってなあに? 天下布武しようとしてるってこと? ……言っとくケド、ムラクモちゃん天下一統に興味ないよ。

 なに言ってんだこいつって思っとったら、マッチョ爺が「深読みをするな。……アレに野心はない。……あれば、この世などとうに地獄と化しておろう」とか失礼なこと言ってくださったの。

 ……むむっ。知らんおじいちゃんに知った顔されんの、腹立つんですケド。……でも今回は見逃してあげるよ。ひりしあに免じてね。……なんか仲直りしたみたいだからね。おそらく。メイビー。そのお祝いでね。

 でも二度目はないからねえ。気を付けていただきたい! ……ちなみに二度目をやるとどうなるの? ……うーん。マッチョ爺のお部屋ムチャクチャに空き巣して恥ずかしい過去の黒歴史暴いちゃう。



 お話しされたよ。なんだか文官さんっぽい……侘び寂びヘッドおじさん来てね。

 なんかもう、すんごい長話なうえに興味もぜんぜんなかったから、ほとんどウトウトしちゃったんだケド。かろうじてなんとなく聞いたところを要約するねえ。


「なんかもうぜるびなとかってヤバい宗教マジ卍! あいつらのせいで帝都とかめっちゃ荒れちゃったし! 肌年齢いくつよ? マジぽよー。でもムラクモちゃんとかって超絶クラスの美少女アイドルが降臨したから、世界はプリティで包まれた! ……あ、あといちおう法国とは和解しました。別に戦争続けてもよかったけど、国内にあんな奴ら潜んでるって思ったらおちおちナイトプールにも興じれない! パーリーピーポー!」

 ……ってことみたい。


 お話終わったらねえ、ご褒美上げるよだって。

 なんか知らんけどムラクモちゃんの不法侵入とか無かったことになって、帝国が直接依頼した探索者ってことで報酬を渡しますってことになるって。……?

 ……。

 ??????


 ちょっとよくわかんない。

 ……わかんないケド。一つだけ言えることあるよ。そのご褒美いらない。だってわたしが受けたお仕事、ひりしあをマッチョ爺に合わせるってところまで。そのあとにやったことって、観光ついで、お散歩ついでだよ。お礼されるいわれがないの。だからいらない。

 つってねえ。そんな感じにお伝えしたんだけど、薄帝さんも侘びおじもしつこくごねやがるの。……ちょ、いらんいらん!


 押し問答やっとるとね、ひりしあが、「父上。彼女は、その……少々変わり者です。我が強いというか……はい。無理に取り込もうとせず、良き隣人として付き合うが賢明かと」って。そしたら薄帝さんね、うーんってなったよ。なってね。


「……無欲な英雄など、無秩序な賊より始末に負えぬぞ。それは美点でないと忠言しておく。……せめてもの感謝としてな」


 だってぇ。

 や、余計なお世話ですケド。ムラクモちゃん別に無欲ってワケじゃないしぃ。

 薄帝さんね、んじゃご褒美の押し付けやめたるから、ほしいの言えやって。……ええ? うーん。特にありませんけど。街の人にもおやついっぱいもらったしぃ。

 ……でも、薄帝と侘びおじ、どうしてもファンメと差し入れ、受け取ってほしいみたいなの。むーん、厄介ファン。

 ……仕方ないにゃあ。厄介ファンの押し付け善意を受け止めるのも、アイドルの務めだもんねぇ。そういうことなら、一つだけもらおうかな。


「……ん。じゃあ、これあげる」

「──は?」

「え?」


 仰々しく悩んだふりをしつつ、しつつ。

 さも今思い付きましたよ名案をって感じを演出! 匠の技ですね!

 んで、何がなんだかわかんないって顔のひりしあに近寄って、ムラクモちゃんメダルを進呈しちゃう。


 手土産だよ。

 騎士ロボくんの残骸から掘ったんだあ。かわいいでしょ。ニッコリ笑顔のムラクモちゃんの絵だよ。しかも、例のごとく気休めの生命維持魔法かけてあるから、持ってるだけでくたばりにくくなる優れもの!

 こんなのもらえちゃうなんて……この果報者♡


「……いやいや。それは因果が逆であろう。こちらが礼をしたいと言っている。何故フィリシアがその……天へ羽ばたく鷲の、コイン……だろうか。……ソレを受け取ることになる?」

「……。ひりしあ、お姫様なんでしょ? だから、ソレ。あげる権利ちょうだい。……それが報酬でいいよ」


 あとそれ、ニッコリ笑顔のムラクモちゃんだケドね。ニッコリ笑顔のムラクモちゃんだよ。鷲じゃないからね。

 二度と間違えないでね! つってね。


 じゃあ、もらうものもらったしもういい? って思ったんだけど、なおも薄帝さんったら食い下がってくるよ。「……いやいや。それおかしいだろムラクモップ」って。

 ……べつにおかしいことなくない? なくもない。なくなくもない。なくなくなくもない。

 ゲシュのタルトがフルーツ特盛になってムラクモちゃんの胃袋に消え……ドロドロになって崩壊しとるとねえ、マッチョ爺がガハハ笑い始めたよ。……えぇ?


「マリク。……もう諦めよ。そやつは政治や大人の理屈で理解できるものではない。……人慣れした熊と思え」

「えぇ……(困惑)。ち、父上……それは流石に」


 ……そのあともぺちゃらこぺちゃらこーつってねえ。なんかお話ししたの。

 で、お話しがひと段落したくらいかな。ご飯でもいかがですか? ってお誘い受けちゃった。「“暴君”殿は美食に目がないと伺っておりますれば」って。

 うん。

 ムラクモちゃんはトカゲくんのブチブチ鍋からお宿のゴリゴリ黒パン汁まで、お腹に入ればだいたいおいしく食べれる美食家だよぉ。そういう歓迎なら大歓迎! なんてねえ。



 なんかすっごい長くてでっかい机のお部屋に案内されたの。

 どんな悪い奴が暴れ散らかしたのか、そこら中穴だらけで机もヒビ入っとってねえ。……クッ! 許さぬぞ犯人! キサマを必ず捕えてやる! ……鏡ご覧になってねえ。


 出てきたご飯はね、なんかお肉。あとお野菜とお魚。あと汁。

 ……うーん。

 全体的に味が薄くってねえ。健康志向ってヤツ? ムラクモちゃんの好みとはちょろっち違うかも。身体に毒なくらいがおいしいもんね、ご飯って。

 まあいいけどね。うん。そういうものって思えばこれはこれでおいしいし。もぐもぐ。


 ご飯食べてるとね、なんか視線感じるよ。

 マッチョ爺とか薄帝さんとか。あとなんか色々。信じられんもん見たってお顔だよ。


 ……なぁに? ムラクモちゃんのやつ分けてほしいの? ……そっちにはそっちのご飯あるでしょ。あげないよ。

 ……どうしても欲しいならちみっとだけ分けたげても……いいケド。クッ!


 つって警戒しとったらね。

 「お前、ちゃんとテーブルマナー知ってんだな。手掴みで食うもんだと思ってたわ」って。……失敬だな!

 ムラクモちゃんは文明人だよ! 文明が生んだ破壊の申し子! 得意技は無意味なジャンプとパンチ! そして強さこそが価値観のすべてなのだーっ! ……それは蛮族では? なんつって。



 ご飯食べたら、一休み。

 んで、ひりしあとちょっぴりだけお話ししたよ。内容はねえ、ないようだ。うん。マジでしょうもないお話し。

 好きな食べ物とか、趣味とか、そういうの。旅の間はなんも話さなかったからねって。改めて君を知りたいんだって。……ナンパかな?

 ……まあ、悪い時間じゃなかったよ。ムラクモちゃんってば自分語り大好きだし。



 ───



 帝都旅行最終日だよ。


 帰りはね、モノレールもどきに乗って帰るんだぁ。……ちょっとホッとしてますよ、ムラクモちゃんってば。行きに乗ってきたアレ、帰りも乗せられたらどうしようかって、ちょろっちビビってたのん。さすがの最強も、三半規管の強さまではコントロールができないのでね。アイドル美少女としてはね。えずいちゃうようなシーンはね、なるたけカットしたいですよねって。


 ホームでね、待ってたんだよ。モノレールもどき来んの。

 そしたらさぁ、すまし顔あっちんがねえ。れっちんへダイブしたよ。「行かないでよぉ」つって。

 れっちんね、拒まなかったよ。……ただ、れっちんらしくない手つきでなでなで~。

 ……別に興味とかないけどね。ないケド……。散々に挟まれて姉妹喧嘩されたから、ついつい見ちゃうよね。……チクショウ! 興味なんてねえのに……見ちまう! なんか負けた気がするぜ……。



 あくびを噛み殺しつつ、噛み殺しつつ。……バウワウ! ムラクモドッグですわん! 茶号はチャーリー! お茶だけ! 茶ー利ー! (ドッ!

 ふっ。茶聖の座はいただいたぜ……。まあムラクモちゃんが名器なんて扱ったら秒で粉砕しちゃうと思うケド。……この蛮族!


 なんつってしょうもないこと考えてたところにね。

 「おはろーはろー」つってなんかとっても立派なお姉さんが話しかけてきたよ。……な、なぁんて大きさだぁ。背もご立派もムラクモちゃんじゃ太刀打ちできそうにない。まるで小人と巨人じゃないかぁ……。ガクブル。


「どうもこんにちは。初めまして。お噂はかねがね聞いておりますわ」

「ん」

「ふふっ。聞いた通り、寡黙な人なのね。……シュカがお世話になったみたいですから。これ、つまらないものですがどうぞ」


 つってね。

 ご立派女さん。……うーん。なんか鳥みたいな髪飾り付けてるからトリッパさんでいいや。なんか室内履きみたいなあだな。

 トリッパさんがどうぞってくださったのねえ、なんだか高級そうなお菓子だよ。ムラクモちゃんもらったことないケド、お中元みたいな袋に入っとる。

 ……んん?


「あの子……あの通り、素直じゃない子ですから。真面目なんですけれどねえ。真面目過ぎちゃって。考え過ぎちゃうんですよ、色々。……でも、少しは心の整理が付けられたみたいでよかった」

「……???」


 ……いや、知りませんけど。

 いきなりなんでござるの? なんのお話? あっちんの話? なしていきなりムラクモちゃんへ?


 ま、まあね。ムラクモちゃんは鈍感系じゃないからね。わかることくらいあるよ。状況を見ればね。おのずとね。……つまり。

 謀反人姉妹の別れをド派手に演出しろってことでしょ。涙の別れを、笑顔の再開へ変えるために、スタンディングでおっぺけぺーなフラッシュモブをやりなさいって、依頼されとるんでしょ。

 ……いやそれ、ちょっと空気読めてないのでは?

 むむむって思っとるとね、


「……あ。ごめんなさいね。孤児院の子にもよく言われちゃうんだけれど、話がちょっと回りくどかったわね。

 気にかけてあげてほしいなって、お願いに来たんです。……クリムさんのこと」

「???」

「ふふ。シュカのお姉さんですからね。……私にとっても娘みたいなものなんです」

「……そっかぁ。物好きだね」


 つまり贈賄ってことですねえ。……なんてこったい、大人は汚いぜ! し、しかし……。

 ん。……ま。気が向いたらね。気が向いたら、なんとなーく、ちょっかい出すくらいはしたげる。……約束はしないケドね。

 トリッパさんとお話ししてると、モノレールもどき来たよ。




 で、ご乗車~。フカフカだぁ。

 ソファの柔らかさにウトウトしとるとね、れっちん話しかけてきたの。


「本当に長い依頼だったわね。

 ……ところで。アンタ、覚悟しといた方がいいんじゃない?」

「ん?」

「アシュベリーよ。あの激重飼い主気取り、首を長ーくして待ってんだろうから」

「……」


 ぽわぽわーん。


『あらまあ。お帰りなさい、ちゃーちゃん♡ 大変なお仕事やってきて、疲れてるでしょう? たぁくさん、甘やかしてあげますからねえ。

 手始めにほら! 疲れが取れる毛並みブラシですわよ。しゃこしゃこー。それから、世界一リッチなドッグフードももちろんご用意してますわ。極めつけは──鉄格子付きチャリクモ・ドッグハウスの建設! お喜びになって? ちゃーちゃんは今日からここが住まいですのよ……。

 ちゃ、ちゃーちゃんが悪いんですからねぇ。そのプリティがわたくしを狂わせる……!』

 ……みたいな?


 ……。

 つまりムラクモちゃんは長期間の外出によってじょーちゃんをプリティ欠乏症に追いやってしまったがため、その清算としてこれよりはセレブリティ・ペットドッグとして一生を犬小屋で過ごさねばならないって……こと? うーん。

 ……まあいいや。



 んで、れっちんと話したりウトウトしたりしとったら、あっという間に迷宮都市だよぉ。

 ふっ。なんだかとても長い間ここを離れていた気がするぜ……。だが、変わらないな、この街も。なんつって。

 ギルドへご報告に行かなきゃって思ったんだケド、それはもう済んでるんだって。「アンタ国家規模の依頼になったってこと忘れたワケ? しっかりしなさいよね!」って怒られちまったぁ。うえーん。

 ギルド行かなくっていいんなら、もうやることないよねって。現地解散になったよ。

 ……そんでね。


「……待って」

「何よ? 言っとくけど、アシュベリーのとこには付いてかないわよ」

「これ。まだ渡してなかったし」

「!!!!!!?

 こっ! こここっ、これ! アンタ、作ってくれたの!?」

「うん」


 ひりしあにメダルあげたでしょ。その時にフィギュアも作っといたの。ちょろっち気合い入れて作ったやつだよ。せくしーぽーずのお色気ムラクモちゃん像。れっちんってば友達なのに、まだ渡してなかったでしょ。

 これねえ。自信作だよぉ。自分でもびっくりするくらいにうまく作れたの。……どう? どう? 気に入った?


「か、かっこいい……! この猛り狂うドラゴン像、今まで見た中でも会心の出来だわ!

 ……やっぱアンタ、芸術的センス高いわね……!」

「ちがう」


 ……こやつまたムラクモちゃんフィギュアをドラゴン扱いしおって! ゆるせぬ! 今回は造形にこだわったから自信あったのに! チクショウ!

 ま、まあ! ……いいけどね。いいよ別に(震え声)。ムラクモちゃんは他者の価値観を尊重するタイプの“暴君”だからね。れっちんの節穴アイがせくしームラクモちゃんをドラゴンと誤認したならね、うん。それはそれでね。受け手の技量が試されるのがムラクモちゃんグッズだからね、うん。

 ……負け惜しみじゃないからね!



 ……渡すもの渡したら、解散だよ。

 そんでね。……ムラクモちゃんちょろっち迷ったけど、決めちゃったのん。じょーちゃんち行ってみよって。

 ……お土産とか渡したいしね。あとその、お話しもしたいし。……会いたいし。


 で、行ってみたんだぁ。

 場所はねえ、高級住宅街のところだよ。

 道行く人々から向けられる「なんやねんあのみすぼらしい格好の小娘……。……ん? うおっ! あやつムラクモちゃんじゃね? 実物マジでかわええやん! 推しちゃお」的視線を受け流しつつ、受け流しつつ。

 目的にたどり着いたらスイッチポン。りーんごーん! じょーおーちゃん! あっそびっましょ!


 ……なんかチャイムみたいなやつ鳴らして待つことほんの少し。

 ガチャコンドアを開けてお目見えしたのは──じょーちゃん。……実は一瞬メイドさんとか出てくるんじゃないかなって思ったケド、別にそんなことなかったのん。

 じょーちゃんね、お目々を優しく細めて、言ってくれたの。


「おかえりなさい、ちゃーちゃん。……ごはん、もう済ませましたの?」

「食べてない。……これ、お土産」

「あらまぁ、素敵ですわね。……ちょうど、お昼を食べるところでしたの。一緒にどうかしら?」

「ん。……食べたい」


 そんでじょーちゃんのお家でご飯食べたよ。

 なんかお花の揚げ物みたいなやつ。むぐむぐ。

 じょーちゃんねぇ。色々お話ししてくれたの。迷宮都市で最近あった面白いこととか、Aランクの試験に合格できたこととか。……すごいねえ。

 だからね、ムラクモちゃんも自分語りしようかなって。色んなことあったからね。


「……ね。お話したい。聞いてくれる?」

「もちろん。なんだって、どんなことだって。あなたが話したいだけ聞きますわ」

「……ありがと」


 じゃあお話しするね。

 なんだかとっても長くって、気疲ればっかりしたような気がする。でもなんだか大切なことも見つけられた気がする旅行のお話し。

 そうだなあ。タイトルを付けるなら。


 ──ムラクモちゃんズストーリー劇場版『帝都燃ゆ』!


 って感じかも。

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