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【閑話】それは、報いというにはあまりに残酷な・2

一攫千金を夢見てリャンナに行った結果www




1:名無しの権兵衛


怪しげな売人さんから財宝が隠された洞窟の情報を購入


出費:銀貨五枚

成果:変なウロコ一枚。ちな、売却額銅貨五十枚



……あ、暑くなってきたから海水浴ついでに

ゴールドラッシュ夢見ただけだし!


水着姿の可愛い女の子見れただけで満足だし!




2:名無しの権兵衛


>>1


涙拭けよ



4:名無しの権兵衛


>>1


胸を貸してやるぜ

存分に泣け


おっさんのぶよぶよ雄っぱいで良けりゃな



6:名無しの権兵衛


>>4


頼むから消えてくれ



8:名無しの権兵衛


>>1


>水着姿の可愛い女の子見れただけで ←ここのところ詳しく



10:名無しの権兵衛


てか、海水浴ついでの財宝探しって……

お兄さん幸せの壺とか購入しちゃうタイプ?


くれぐれもゼルヴィナ教の勧誘には気を付けろよな!



11:名無しの権兵衛


>>10


馬鹿にすんなよ!

勇者伝説だぞ! あんなカルト宗教と一緒にすんなよな!



13:名無しの権兵衛


>>11


勇者伝説とか埃臭いもんマジで信じてんのかよww

あんなもんガキの子守話だろw



14:名無しの権兵衛


今更手遅れだろうが

リャンナ付近の海辺って詐欺の温床らしいぞ

ギルド“赤い影”が注意喚起してたわ



17:名無しの権兵衛


>>11


リャンナ近くのタァパって村じゃ語り聞かせが名物らしいな

精霊伝承だの神龍物語だの、勇者伝説だの……


言っちゃ悪いが、時代遅れだよな



19:無しの権兵衛


>>17


だいぶ前に聞いたことあるが

勇者伝説けっこう面白いぞ

異世界出身だとか、光で編まれた輝く鎧とか

夢があるだろ



21:無しの権兵衛


異世界かぁ


定番なところで

一歩歩いただけで美少女にエンカウント!

モテハーレム可能系って感じか?


作り話とはいえ、そんないい世界からウチみたいな

モンスターくんにむさくるしいおじさんいっぱいの

危険世界に飛ばされちゃう勇者くんかわいそう



22:無しの権兵衛


>>21


お前下心の権化みたいなやつだな



───



 どうあっても、タクトを勇者として語り継ぎたいと思った。

 事実、彼が歩んだ道程は肩書に恥じぬものであったし、彼自身とてそうだ。……ただ、その最後がどうしようもなく救いがなかった。

 ……タクトの最期が──勇者がその身に忌々しい皇蟲を寄生させたなどと。なかったことにしなくてはならぬ。

 ゆえに、脚色して広めた。こうであってほしかったという……妄想劇を、恥ずかしげもなく。懲りることもなく。

 

 手段を選ぶつもりはなかった。

 自らへ幻を施し、吟遊詩人の振りをして好き勝手に妄想を振りまいて回る。

 ……私にしては、随分とあくせくとやったように思う。

 現実逃避をするように……いや。事実逃げていたのだろう。タクトを嚙み殺した時のあの感触を── 一刻も早く記憶の中から消し去ってしまいたい、と。

 

 当然の話をする。

 人外の生を永くやっていると……ふと、冷静になる瞬間というのが訪れる。自らの行いを振り返って嫌悪に駆られて動けなくなる時というのが何度も来る。

 

 ……私はいったい何をやっているのか?

 そも、タクトが皇蟲に寄生されたなど……世には広まっていなかった。彼の仲間達はそうまで薄情な者達でなかった。

 わかっていたはずだ。

 勇者の足跡は、脚色など加えずとも光り輝いていたということを……。

 

 うつろな一人芝居だ。

 それに気が付いたら……何もかも嫌気が差してしまった。



 逃げ込んだのは、リャンナという南方の地だった。

 そも、タクトを失ってすぐに転がり込んでいたのがここだった。


 リャンナは何かと都合が良かった。

 戦火とは無縁であったし、住民達も素直で人を信じやすい──素朴な者が多かった。何より、私やタクトを知る者がいなかった。

 ゆえに……この地へ密かにタクトの遺骸と宝物を隠すと決めた。その上で、伝説を広めるのに躍起になっていたのだ。


 そして今……虚しい気持ちになったからと、付近の森へ閉じ籠っている。

 引き籠って、過去の思い出に逃げ、現実逃避を繰り返している。



 しかしそれも幾十年もの時間、繰り返していれば飽きもする。

 いかに思い出に逃げたとて、思い出は思い出。現実ではない。永遠に今から目を逸らし続けることなどできはしなかった。

 ……どうしようもなく人が恋しくなってしまった。私を見て、私を肯定してくれる誰かがほしい。

 

 無論、不可能だ。理解しているとも。

 夢物語のような理想を語るタクトはもういない。

 であれば、人の世界に……人外の居場所などありはしない。……あってはならぬ。

 だのに……もしかしたら、という希望が捨てられぬ。


 ……地獄に落ちたような気分だった。

 他ならぬタクトに受け入れられてしまった思い出が……ヘドロのような希望をこびりつかせてくる。

 小竜に化けてしまえば、幻を被せてしまえば。……私は人と共に生きられるのではないか?

 ──上辺だけとはいえ、私はまた人に戻れるのではないか? 人間社会に属せるのではないか、と。

 ……地球にいた頃のように。


 それは何処までも恥知らずで、おぞましいほどに利己に塗れた思考だった。

 そうとも。わかっていた。理解していた。

 だが──。


 ……。



 ───



 とどのつまり、いい気になっていたのだろう。

 タァパの者達から神龍と奉じられ、祭壇まで用意してもらった。

 彼らからへりくだられる度、言いようのない優越感がわいて出でて──私の内にあった孤独が、徐々に埋められていくのを感じた。

 ……人の在りようなどそう容易く変わるものではないのだろう。

 欲と傲慢に染まった老人の心は、勇者たるべき少年の慈悲を持ってすら、変わらなかった。……あの旅で、変われたのかもしれぬと思っていたのは……単なる勘違いだった。

 歪んだ順風満帆な日々。


 そんな折だ。我が身に異変があった。

 まず、魔力が抑えられなくなった。……何故か? わからぬ。

 ありがちなのは、魔力量の増大による制御の難化だが、私に限ってそれはない。それに、自覚する限り力が増したようには感じなかったのもある。

 しかれど、事実として制御ができぬ。しみ出した魔力のせいで、タァパへ被害をもたらしてしまうことが増えた。

 

 故意にではない。

 釈明はしてみたが……怯えに満ちた瞳だけが返ってきた。

 それは、まるで化け物を見やるような……。

 そう。いつか、どこかで……。誰かへ向けたような眼差しだった。

 

 次に、意識が飛ぶことが多くなった。まるで夢遊病のように。

 この間の記憶は曖昧だが……ほんの少し、うっすらと残っている。……悪夢にうなされた後に目を覚ますような気分だ。

 時を経るごとに気が遠くなる回数は増え……もしかすると、私は何者かに乗っ取られようとしているのか? そんな疑問を感じるようになった。


 次第に体内へ耐えがたい苦痛を感じるようにもなった。

 どうやら、私は作り変えられようとしているらしい。

 そう気が付いたのは、頭の内側に知らぬ記憶が植え付けられていたからだ。大抵は反吐が出るような蹂躙だが……。反吐が出るよりもっと冒涜的な記憶がよぎることもあった。

 知らぬ生命体。知っている惑星(世界)。無数にうごめく蟲ども。華亥ムラクモ。魔王。勇者タクト──私。


 思い至った。

 私は──皇蟲に寄生されている。

 タクトを食い殺したあの日……気付かぬうちに産卵されていたのだ。

 


 無論、抵抗はした。

 意識を飛ばされぬよう防御したり、癒しの術をかけてみたりもした。……その場しのぎにしかならぬ。

 特に、身を癒すのは効果的かと思ったが、逆効果だった。ヤツは私の体内で肉を喰らって成長している。餌を増やす行為にしかならない。


 あの最終決戦を思い出す。

 華亥ムラクモは皇蟲の産卵に対し、自らを抉ったり、もろともに焼くことで対処していたが……出来るわけがない。

 もう一度言わせていただくが、出来るわけがない。

 皇蟲は私とて憎い。あのようなモノが体内にいると思うだけで気が狂いそうだ。……しかし。


 このままで良いとは思っておらぬ。

 ゆえに、私は私を殺してくれるものを待つことにした。勇者の財宝が眠るとウワサでも流せば、愚か者は食いつこう。

 そして成果の一つでも持ち帰れば、強欲な商人共がこぞって探索者を派遣してくるに違いない。

 


 ───



 二つ、計算違いがあった。


 一つは、財宝のウワサが効果を発揮するより前に、チンピラ者に利用されてしまったこと。

 そのせいで、聞きつけてくる者は食い詰め者か、観光気取りのツアー客ばかり。

 ……これでは私を殺せぬ。


 自死は何度も考えてはみた。

 考えたが、出来そうになかった。

 単純に死にたくはなかったし……正直なところを白状してしまえば、他者のために自ら死を選ぶような真似を理不尽だと感じてしまうからだ。

 大義を掲げて、本当に殉死できる者など多くはない。まして、私のようにそれを強いる立場であったならなおのこと。


 ……滅茶苦茶を言っている。

 皇蟲などの宿主で居続けたくはないから死ぬべきだと理解しながら、それでいて自分では死ねそうにないからと殺してくれと願う。

 ……私は、どこまで行っても我が身可愛さを捨て切れぬ。

 


 二つ目。

 華亥ムラクモの追放先が、この世界であったこと。

 龍となった私の感知にすれば、例え無力な人間であった遠い記憶といえど、華亥ムラクモほどの気配は間違えぬ。

 あの狂おしいほどに憤怒と憎悪に満ちた気配──懐かしさすら覚えたものだ。……懐かしい? 何故私はそう感じたのか?

 ……皇蟲との境界が曖昧になっているやもしれぬ。私に残された時間は少ない。

 どうあれ、それは得難い幸運だった。華亥ムラクモならば、人外を殺すのに手心など加えぬだろう。

 

 そして今、その華亥ムラクモと邂逅する機を得た。

 幸運だなどと思いたくはないが、逃せば二度ない好機に違いない。

 それを活かすべく、私はわざと魔力を励起した。タァパ村の者達には申し訳ないが、これも彼女を釣り出すため。

 これが最後の地震と納得していただきたい。



 ───



 久しく見た華亥ムラクモは、相も変わらず童女のような面差しに、気の抜けた表情を張り付けている。

 しかして小柄な体躯よりみなぎる魔力は激烈極まりなく。その源泉より引き出された欠片程度の力でも並の生命体は粉砕されて余りあるだろう。

 そして、その魔力からは懐かしき憎悪と憤怒に満ちた感情の気配が──感じられなかった。

 ……?


 いや、殺意は感じる。怒りも。しかし……。

 彼女特有の泣き笑いをするような憎悪を感じない。アレは、魔力など感知できずともわかるほどに明確な感情のうごめきだった。

 それがどうだ。今、少女の気配は……不自然なまでに凪いでいる。


 ……これは、本当に華亥ムラクモなのだろうか?

 これは、本当に私を殺してくれるのか?

 不安になった。

 ゆえ、傷を抉ってやることにした。

 【……飽きもセズに、人間を守っているようだネ? 華亥ムラクモ】と。

 彼女に護られ、裏切った……その一人である私が、傷跡を開き直し、指を突き入れてかき回すようにして、言ってやった。

 反応は……期待したものではなかった。多少の苛立ちは感じたようだが、憎悪にはほど遠い。

 足りぬのか? 憎しみを引き出すには……。

 言葉を重ねようと思考を回していると、華亥ムラクモが動いた。弾かれたように向かい来る。

 振りかぶるは小さなてのひら。地球においてはありとあらゆる外敵を粉砕し、引き千切り、撃滅してきた絶死の象徴。

 見たことがある。アレが無数の巨大蟲を引き千切り、臓の腑を引きずり出し、血煙と変えるところを、幾度となく。


 その恐ろしさに──思わず、防御をしてしまった。そしてそれは私の命を救った。

 ……救ってしまった。

 この期に及んでも、ここに至っても、私は……!


 ……。

 追撃は、来なかった。

 

【熱心だネ。いじましイ。……しかしそうしテ君は一体何を手にしタ? 疎外と追放。それだけダ】

「……この世界に飛ばされたこと言ってるの? それなら、わたし感謝してるくらいだよ」

【本当にそうかナ? 本気で然りと答えられるかイ? ワタシには……目的を失って、ただ漠然と生きているだけのウツロに見えル。殺すべき敵、果たすべき復讐を終えた燃え残りが君ダト】


 ……躍起になって重ねた言葉は、華亥ムラクモに向けているようで……もしかすると、自らを裁くモノであったかもしれなかった。


 わかっているとも。

 八つ当たりだ、こんなものは。……しかし、気に食わなかった。

 異界に落ちて、人外となって……私は喪失ばかり知ってきた。とてもではないが、ここに来てよかったとは思わない。戻れるものならば、地球へ戻りたい。……いや、贅沢は言わぬ。タクトがいたあの日々に戻りたい。

 だのに、華亥ムラクモ。彼女に後悔はなかった。恨みさえ。


 ──なんだそれは。

 人外たる私よりもずっと怪物的なくせに。貴様を愛する者などいるわけがないのに。……地球ではそうだったろう?

 生まれ故郷でそうならば、この異世界だとて変わらぬ。貴様を愛する者などいない。


 ──何故貴様は変わったのだ。

 理不尽だとは自覚している。自分勝手だとはわかっている。

 だが……。

 ただで死んでやるのはもうやめだ。



 全霊で力を振るう。

 長年で身に着けてきた成果を全て投入し、華亥ムラクモを殺しにかかる。……だが、まるで通用しない。

 少女の形をした怪物は、“あの時のように”ただ愚直に、愚鈍に向かってくる。

 時空を削るほどの攻撃をまともに食らわせたとて、何食わぬ顔をして……一歩たりとも止まらぬのだ。恐怖でしかなかった。


 やがて、結界へと魔力がのしかかってくる。

 重力や時空を操る術ではない。無色透明、無加工の魔力をそのまま叩きつけて握り潰そうとして来ているのだ。

 到底、まともなやり方ではない。あまりに乱暴が過ぎる。

 魔力は素材だ。素材ゆえ、加工して使わねば何の意味もなさぬ。

 ……華亥ムラクモが狂っているのは、その非効率極まりないやり方で……この私と拮抗していることだった。


 何より恐ろしいのは、彼女が未だに全力を出していないということだった。

 彼女固有の魔法……『魔獣の手』といったか。皇蟲を八つ裂きにしたあれを展開してすらいない。

 ……届かぬ。


 諦観が心に闇を落とした瞬間、結界を突き破ってあのてのひらが迫りくる。

 それは私の翼を引っ掴むと、まるで花を摘むようにむしり取っていった。思わず痛苦の絶叫をあげようとしたが、それさえ潰された。

 華亥ムラクモは、私の首を掴んだまま地面に向かって急降下した。

 勝敗は明らかだった。



 ───



「わたし、華亥ムラクモ♡ 全身全霊、全力前進! あなたを滅ぼす魔法少女だよ。覚えて逝ってね♡」



 少女の甘ったるい声が、愛嬌たっぷりに投げかけられた。

 しかして、その瞳は油断なく私を貫いていたし、振りかぶった腕は間違いなく私を殺すべく構えられている。

 ……色々と計算違いもあったが、望んだとおりの展開へ辿りつけた。

 思わず漏れ出てしまいそうな命乞いを嚙み潰し、最期の時を待つ。どの道、皇蟲がこの身に巣食う限り、同じことなのだ。……そう思わねばみっともない姿をさらしてしまいそうだ。



 ──止めの一瞬。

 割って入るものがあった。「お待ちください」などと言ってきたのは、タァパの者達だった。

 彼らは私と華亥ムラクモの間に立ち塞がり、命乞いを始めた。


 ……やめてくれ。

 村に閉じこもり、騒ぎが去るまで縮こまっていればいいものを。いったい何故、あなた達はここに来たのだ。

 覚悟を決めたというのに、これでは。……鈍ってしまう。


 華亥ムラクモは明らかに困惑していたが、それとして手を止める気はないようだった。

 ただ、村人が邪魔になっているせいで何もできずにいる。


 ……華亥ムラクモが?

 違うだろう? お前はもっと暴を体現した存在でなくてはならぬ。

 他者を思うな、手を止めるな。考える必要などないだろう。必要ならば、村人もろとも私を殺してみせろ!

 ……なのに。 


 華亥ムラクモは動かない。

 さらに悪いことに、女が割り込んだ。信じがたいことにあの怪物の友人をやっているようで、親し気な感情すら発している。

 その女が説得するような言葉を吐くと、華亥ムラクモの殺意が目に見えて萎み……ついには構えさえ解いてしまった。

 ──そうか。

 この女が、華亥ムラクモを変えた……。……あの時の、タクトのように。

 ……何が違ったのだ。

 どうして違ったのだ。

 なぜお前だけが変われたのだ。


【……相も変わらズ、人間に甘いネ】


 気が付けば、そんな言葉を吐いていた。

 とにかく傷を付けたかった。汚したかった。……あの憎悪に満ちた華亥ムラクモを取り戻してほしかった。


【華亥ムラクモ。それで君はどうなったんだイ? 地球でどうなっタ? 何もかも君が悪いということになったろウ。誰も感謝など渡しはしなかったろウ。

 ……いい加減に気付きたまエ。君ハ──】


 人の世では生きられぬ。生きたところで必ず破滅へたどり着く。

 何故ならお前は化け物なのだ。……今の私と同じく。


 かくあるべきだ。そうでなくてはならぬ。

 ──でなければ。

 いったい私は何のために……。


「お礼がほしくてやってない。……でも、ご忠告ありがと。忘れるまで覚えとくよ」

 

 ……しかし、返ってきたのは相も変わらず……嘘がない言葉だった。

 

 そして私を殺さねばと思う華亥ムラクモと、それを阻止したい友人の間で口論が起こった。

 じょーちゃんというらしいその友人の少女は、無茶苦茶だった。支離滅裂で……いわく、華亥ムラクモが好きだから、彼女を止めると。


 わからぬ考えだ。

 ……だが、華亥ムラクモには何か響くものがあったらしい。迷いが深まっている。

 何故迷う? どうして迷う?

 ……そこまで考えて、ふと思い出した。


 華亥ムラクモは地球から排除される時──最後まで無抵抗だったことを。

 ……人か。

 村民が私を庇うから、迷っているのか。


 悩みこんで……やがて。

 絞り出すようにじょーちゃんとやらへ……お前は正しいのかと問うた。……いや、問いの形をしていたが、恐らくはそうではなかろう。

 どこか縋るような響きがあった。わずかに苛立つような響きがあった。……そして、どうしようもなく戸惑うような響きがあった。まるで後押しを願うような。


 ──そして。


【グ、アアァァァアッ!】


 突然、華亥ムラクモは私へ魔力を放った。膨大な魔力だ。

 そしてそれは無理やりに私の体細胞を活性化させた。むしり取られた翼が生え変わり、戦闘中に付いた細かな傷も残さず治った。

 ……ただし、気が狂うほどの苦痛付きだ。

 よもや、新手の攻撃か? 拷問のつもりか? と疑ったが治療しようという以外に他意はないようだった。


 傷が治癒すると、華亥ムラクモは暴れぬように言ってきた。

 ……どうやら彼女は、友人に説得されてしまったようだった。


 無論、好きで村へ被害を与えているのではない。

 しばしの問答ののち、皇蟲のことを話すに至った。ヤツに寄生されているのだと。

 ……次の瞬間、華亥ムラクモの気配がひどく懐かしいものに変わった。ほんの一瞬だったがね。


 そして彼女は、


「……今からお腹に手を突っ込むよ。あなたなら多分死なないと思うから、我慢して」


 と言ってきた。


 ──は? え? いったいどういう……。

 困惑する私の腹へ、容赦なく腕が突き込まれた。再び地獄のような痛みがやってくる。

 彼女はどうやら、寄生虫を探しているようなのだが、正直に言わせてほしい。

 あらかじめ居場所を突き止めてからやってほしかった。体内を無遠慮にかき回されて……思わず殺してくれって気分になってしまった。


 そして引きずり出される寄生虫。魔力で抵抗し続けたためか、羽化はしていないようだったが、だいぶ巨大に育っていた。

 ……これが成虫と化していたらと思うとゾッとする。一つ間違えば、皇蟲本体に匹敵する怪物となっていたかもしれない。

 華亥ムラクモはそいつを容易く引き千切ると、圧縮して消し去った。


 ──終わったのか?

 ……皇蟲は本当にいなくなったのだろうか?

 華亥ムラクモは何もかもを力でストレートに解決しすぎるから、実感が沸かぬ。

 と思っていると、「……お腹穴開けちゃってごめんね。治したげる」と華亥ムラクモ。

 や、やめてくれ! 自分で治せ──ぐああーっ!



 ……。


 見やる先には、友人らしき少女らと談笑する華亥ムラクモの姿。未だに信じがたい光景だ。されど、現実としてここにある。

 ……私は間違っていたのだろうか? 何故、私は……ああいう風になれなかったのだ。

 ……タクト。

 もはや戻らぬ。


【殺さぬのカ? 我は人外だゾ】

「……やんない。約束したから」

【そうカ。…………すまなかっタ】

「なんで謝るの?」

【それハ……。……言うつもりはなイ】

「??? ……ん。いいよ」

【……借りたままでいるつもりはなイ。返すゾ】


 卑怯な聞き方をした。

 最後まで私は私のまま、傲慢で強欲な老人のまま。

 ならばせめて、ごうつくばりの老人らしい礼をさせていただく。

 この報いというには残酷が過ぎる生の返礼に……ため込んだ財宝の一部くらいはくれてやってもよい。

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