第96話 心からのお願い
カサールの町を旅立ち1ヶ月近く経つが、
「これでまだ半分とちょっとって…」
と、嫌になってくる長旅である。
まぁ、特にやる事もなく小型や中型魔物が出ても大概は騎士団の方々がサクッと倒してくれるし、先日なんて、春先で活発に動きはじめた腹ペコっぽいワイバーンの小規模な群れに襲われていた酪農が盛んな村を見かけたのだが、
「献上品だが民を助ける為だからな…」
と、クリスト様がゴーレムを起動させ、彼女であるゼルエルガさんが土魔法で空飛ぶ恐竜みたいなワイバーンの翼を破いて地面に叩き落とし、クリスト様がゴーレム用にバラッドさんが丹精籠めてこしらえた大剣にてトドメを刺すという連携にてワイバーンを全滅させ、かなり被害のあった村の方々に、クリスト様は、
「倒したワイバーンは柵や家畜に被害出ているから村で使いなさい」
と、獲物を村にプレゼントし、村長さん達が、
「いや、しかし…」
などと、遠慮するとクリスト様はニコリと笑いながら、
「実はこのゴーレムは国王陛下に献上する品なので、これは国王陛下が皆さんを救ったのと同じです…だから、ご領主を通して国王陛下に感謝を伝えて頂かないと…ほら、勝手に使ったから叱られるかもしれませんので…」
と、口裏を合わせる対価として無理やりワイバーンをプレゼントしたのであった。
『ひゅ~クリスト様、カッコいい!』
と思ったのは僕だけでは無いらしく、その後に我が家の幌馬車にて、カイン少年が、
「連日こちらの馬車にご厄介になっているのを師匠に注意されてクリスト様の馬車に乗っておりましたが…もう、先日の一件から…」
とウンザリしながらこちらの幌馬車に避難してくるほどにゼルエルガさんもクリスト様の漢っぷりにメロメロらしく、彼は、
「これは早く独り立ちしないと師匠がカサール子爵家にお嫁に行けませんから…」
と、荷馬車の振動で腰や背中が辛い日々に嫌気がさしている僕の横で、帰ったらすぐに進級試験に挑めるように勉強をはじめているのである。
僕が、
「カイン君…馬車で文字を読んだら酔っちゃうから…」
と心配すると、カイン少年は爽やかな笑顔で、
「私も貴族家に産まれた者として幼い頃より馬車で本を読んで過ごして来ましたので大丈夫ですよ…」
などと自慢気に語っているを見て僕は、
『いや、僕だって産まれだけは貴族の家に産まれましたが、馬車で細かい文字を見たら酔う自信しかないよ…』
と心の中だけでツッコミを入れていたのであるが、幌馬車の運転台に座るテイカーさんは、
「流石は公爵家のご子息様…馬車にて資料を酔わずに読むのは商人でも一流の者しか出来ない芸当ですが、それをサラリと…」
と言って感心しているので…
『ん? 公爵…』
と気になるワードが耳に入りこの時、世界がスローモーションに感じる程に僕は脳を高速回転をさせたのであるが、確かに「公爵」と言ってたし、カイン君も、
「へへっ、そんな…」
と謙遜している為に『公爵』なのは決定である。
そして今までの自分の振る舞いと、
『公爵って王家の親戚でしょ…』
と認識した僕の頭には幌馬車の中で、
「王都までなっげぇ~な~」
とか、
「王様に謁見って…ほんと、面倒臭い…」
などと散々文句を言っていた自分の姿がフラッシュバックして知らないうちに綺麗な土下座をカイン様に披露しながら、
「どうかお許しを!」
と、謝罪し、
「国王陛下にだけは謁見を面倒臭がっていた件などのアレやコレは是非御内密に…」
と、誠心誠意お願いしたのであった。
すると、カイン様は顔を真っ赤にして、
「あっ、こちらこそ…ダッパの町から来た事と、ボトム家の家名を名乗れば伝わるとばかり…」
と、「知らない…」と言われた有名人みたいな反応をしており、早口で、
「そ、そうですよね他国に比べて領土は小さいとはいえ東西に長い国の端と端ですから…」
と、『知らなくても仕方ない…』みたいな空気をかもし出して下さるのであるが、僕は必死に、
「違うんです…ただ、ただワタクシが無知なだけでして…」
と弁解するが、カイン様は、
「いえ、博識なジョン殿なら知っていて当然などと、私が自惚れていたのです」
などと、
『かなりプライドを傷つけたのでは…』
と心配になる彼を見て、僕は、
『はい、もう死んだ…王家の罠にハマって悪口を聞かれました…例えそっちの件が許されたとしても公爵様の息子に恥をかかせました…はい、終わりです』
と諦め、僕の事を洗いざらい白状し、家の皆やカサール子爵家に罰を与えないで欲しい事をバルディオさんやテイカーさんが止めるのも聞かずに幌馬車の荷台の床に額を擦り付けながらお願いしたのであるが、カイン少年は暫く難しい顔をして悩んだ後に、
「う~ん、リント王国出身ならニルバ王国の地理を知らなくて当然ですし、確かに王都が国の東寄りにあるのでカサールからは遠いですもんね…」
と大人な対応で僕の王家への「面倒臭い」発言も無かった事にしてくれたのであった。
『ありがとうごぜぇやす…アッシはカインお坊っちゃまについて行きやす…』
と、僕は何かあった際はカインお坊っちゃまに味方する事を心に決め、残りの道中に望んだのであった。
そして、まだ寒かったカサールを出発し、王都に到着したのはポカポカとした春の盛り頃であり、僕の心は、
『サクッと用事を終わらせて、さっき通りすぎた上級ダンジョンのあるグロースの町で買い物三昧してやる!』
と既に、
『ダンジョン産のマジックバックは絶対欲しいでしょ…』
とか、
『高難易度のダンジョンなら強いマジックアイテムも売ってるかも!』
などとウキウキであり、クリスト様は、
「ジョン君も国王陛下に謁見できる事に興奮している様だね…私も二回目であるがもう今から…」
と、鼻息荒く王都入り口での入門チェックに望んでいるのであるが、僕としては、この馬鹿デカい壁の向こうよりも先ほどのカルセルより一回り大きなグロースの町の壁の内側に早く行きたいので、クリスト様に同意する気になれずにスンと真顔になり、
「いえ、特に…」
とだけ答え、そんな僕の態度にクリスト様は、
「えっ、どうしたのジョン君…」
と驚きながらも、
「ゼルエルガさ~ん、なんかジョン君が冷たいんだよぉ…」
と彼女に泣きつくクリスト様を少しウンザリしながら見ているカイン少年の隣で暫く鑑賞した後に、
「ささっ、カインお坊っちゃま参りましょう」
と促して王都へと入ったのであった。
見事な石壁の中には石畳の大通りが真っ直ぐ伸びており、奥まで立派な建物が並び、その更に先に大きなお城が見えるのであるが、カイン少年が、
「ジョン殿、あの城に行くには大通りを真っ直ぐ進んでも辿り着かないですよ、一旦右の少し細く見える道に入り、ぐるりと大回りすると違う大通りに入りまして…」
と道案内してくれたのであるが、
『こりゃ迷路だな…』
と、感じる道の両脇には広い庭の有る豪邸が並び、屈強な兵士が見回りをしていたり、番犬というより猛獣が放し飼いされている庭など、
『流石はこの国の金持ちだけの町…』
と、リント王国の王都すら見たことはないが、追放されていない世界線では多分見る事は無かったであろうニルバ王国の王都を満喫し、
「まぁ、追放されたから見れたと思えば…儲けては…ないか…」
と気分的にプラス・マイナスで言えば『まだマイナス』な僕を乗せた馬車は立派なお城へと進むのであった。
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