第93話 パーティーに呼ばれて
早いもので一年が終わり新しい年がやって来た。
といっても、この世界では新年は別にめでたくもないらしく貴族達が社交パーティーを開く以外は、備蓄食糧にて堪え忍ぶだけの季節であり、平民達は家で出来る作業で春に売りに行ける物を作ったりして過ごすぐらいしかやることがない。
しかし、本日の僕は、
「はぁ~、本当に行かなきゃダメ?」
と我が家の裁縫上手な奥様であるマチさんと、長年子爵家でメイドをしていたメリーさんが協力してパーティー用に仕立ててくれた貴族風の服を着て、居間にて最後の抵抗をしているのである。
しかし、面倒臭いという理由だけではパーティーのキャンセルは許してもらえず、カサール子爵様のお屋敷のパーティーに行く事が決定しているのだが…我が家でもう一人、
「なんで皆は行けないの?」
と、他のお子さまチームが招待されていない事に不満をもらしているベルが可愛らしいドレスのままヘソを曲げてしまっている。
今回のパーティーはカサール子爵家の領内の貴族(マルダート男爵家)がカサール領の代官としてやっと落ち着いて返還されたマルダートの町を治める事が出来た事を祝ってのパーティーであり、マルダートの町の有力者などを領主であるカサール子爵様のお屋敷に招待して行われる。
なので、今回カサール子爵家やマルダート男爵家が領地を与えられたり、出世した件の始まりであるダンジョンでドロップした祝福の腕輪や盗賊討伐の件に絡んだメンバーとして僕とベルが呼ばれているのである。
しかし、ベルは仲良しな皆が留守番なのに一人だけ招待されたのが気に入らないらしく、
「盗賊のヤツならリーグのおっちゃんも関係者じゃん!」
と、あの時は盗賊側として関わっていたリーグさんにまで飛び火し、
「いや…その…ベルちゃん…それは蒸し返さないで」
とお願いするも、メリーさんが、
「そうでした…」
と未だにあのクソ親父を裏で操っていた奴の下っぱ連絡員だったリーグさんの過去も含め、盗賊として僕と敵対した事も完全に許してない雰囲気であり、リーグさんが、
「旦那様ぁ~」
と泣きつくというかなりカオスな状態である。
だけど、お世話になっている貴族からのご招待を断る訳にも行かず、客間代わりの離れで寝泊まりしている魔法師のゼルエルガさんと弟子のカイン君もカサールの町の石壁の功労者として呼ばれており、
「準備出来ました」
と、母屋へ集まって来てくれ、
『行くしかないな…』
と、覚悟を決めたのである。
本当はライト兄さんやバラッドさんもゴーレムの件で呼ばれていたのであるが、二人が先に、
「翌日の新型ゴーレムの引き渡し式には出ますがパーティーは…」
と断った為に我が家が断り難くなったというのが本音である。
『断ろうとしたらカサール子爵様が捨てられた子犬みたいな目で、「お主たちもか…」って呟くから…』
という事で、カサール騎士団の馬車が我が家まで迎えに来て、うっすら雪の積もる道を強制連行されたのであった。
お屋敷に到着すると、ゼルエルガさん師弟コンビはカサール子爵様が、魔力が弱いが魔法ギフト持ちのお孫さんに贈るサプライズプレゼントの魔力供給魔道具の為の使用者適正訓練も兼ねている為に到着するなり何処かへ案内されて行き、以前このお屋敷の片隅を間借りしていた僕とベルは、メイドさんに、
「広間へ…」
と、『知ってるよね』というテンションでパーティー会場へと案内されて、待ち構えていたクリスト様が、
「パーティーが始まる前に紹介しておくよ…」
と言って、男性の前に僕たちを誘導し、
「こちらが、噂のジョン君だ…」
と、僕の事を相手方に紹介してくれたのであるが、目の前の男性が静かに、
「初めまして、ラルク・ツー・マルダートと申します…この度は娘の腕輪の件や我が家の…」
とご挨拶をして頂いている最中に僕の体は勝手に土下座へとスムーズに移行し、
「今さらですが申し訳ありませんでした!」
と深々と頭を下げると、マルダート男爵様が慌てながら、
「止めて、止めて…もう…」
と、僕を立たせてキョロキョロと辺りを見回しながら、
「なんだか私がやらせたみたいに見られるから…」
と膨れており、
「ふ~、奥さんと娘に見られてないのが唯一の救いだ…」
と、呟いていたのであるが、マルダートの町から来た関係者チームの方々が、
「男爵様が青年を土下座させて…何事かと…」
集まり出しており、その輪の中で凄く見た事のあるクマ耳のオッサンが、見たことも無いよそいきの服を身に纏い、
「よぉ、ジョン、元気だったか?」
と場違いなタイミングで声をかけてくれ、僕も、
「えっ、ガインさん…」
と驚きの声を出したのであった。
マルダートの町の方々にガインさんが、
「ほれ皆、前から言ってたジョンって少年…いや、青年だ」
と僕の簡単な紹介をした途端に、マルダートの町の方々は何やら理解したらしく、
「なら、息子に土下座させるのは違うと思うぜ男爵様ぁ…」
とか、
「何だかんだでお世話になってるのに…」
などと、マルダート男爵様を責めだして、マルダート男爵様は、
「だから…」
と切なそうに僕を見つめて助けてほしそうにしている。
僕はようやくここでハッと自分がした事に気がつき、
「いきなり土下座なんてして申しございません…これは…その…条件反射と言いましょうか…」
と、皆さんに説明したのであるが、マルダートの町の方々は、
「すまなかったな男爵様が…」
とか、
「あっちで俺達と話さないか?」
などと庇ってくれ、
『マルダート男爵様は町の方々と仲が良いんだな…』
などと感じている僕に熊耳のガインさんが、
「ところで、隣の可愛らしいお嬢ちゃんは…婚約者か何かか?」
とベルの事を聞くので、僕は、
「あぁ、追放された後で色々ありましてね…ほら、ベル…」
と、自己紹介を促すと普通なら元気よく「ベルだよ」とか言いそうな彼女が僕の後ろでモジモジしながら、
「どうも…」
とだけ頭を下げており、
『おいおい、人見知り発動か?』
と珍しいベルの姿に驚きながらも、
「ベルと言います…普段はハキハキ喋るんですが、パーティーで緊張してるみたいで…今は僕や沢山の家族達と一緒に暮らしてまして…」
と彼女の紹介をすると、ガインさんは、
「そうか、そうか…じゃぁ、ベルの嬢ちゃんはオジサン達とジョン君の事でお話してくれるかな?」
と、半ば強引にベルを連れて行ってしまい、
『まぁ、ガインさん達だから大丈夫だろう…ベルがジャンピングキックしても…』
と、ベルが嫌がり暴れても、
『まぁ死者は出ないか…』
と判断した僕は、ベルに、
「嫌な事されたら熊耳のオジサンはシバいて大丈夫だからね…」
と被害を最小限にするアドバイスをしながら送り出したのであった。
「さて、これで安心してお話が…」
と僕がクリスト様達の方を見ると、
「ジョン君…」
と、クリスト様が真剣な顔で僕を見ながら話しかけ、そして、
「それならもっと早く言ってくれたら…」
と残念そうに僕の肩に手を置き、
「ベルちゃんが婚約者だったんだな…」
と目を瞑りながら頷くクリスト様に、
「へっ?」
と驚いた僕は、
「なんでそうなるの?」
と聞いたのであるが、クリスト様は勿論、本日初対面のマルダート男爵様までもが、
『あぁ、鈍い男だな…』
みたいな顔で僕に可哀想な子を見るような哀れみの視線で見つめているのであった。
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