第91話 要らないから
本当に面倒臭い事になってしまった。
せっかくタンカランダンジョンで壊れたゴーレムコアをたんまり拾ってきたから、
『冬の間はゴーレムコアの修復メインでのんびり…』
などと考えていたところに、急なカサール子爵様からの呼び出しでお屋敷に来てみたら、カルセルの町の時みたいに通信魔道具にてのリモート会議の様であり、今回の通話のお相手は、なんと国王陛下達だというではないか…
『なんで王様が僕なんかに…』
と思うが、そんな事を質問出来る雰囲気ではなく、とりあえずカサール子爵様が通信魔道具に向かい、
「ジョン殿が到着致しました」
と報告すると、通信魔道具のスピーカー部分から、落ち着いた男性の声で、
「うむ…ニルバ王国宰相、エドモントと申します…」
と自己紹介してくれ、そして、
「エルバート殿の弟子の中でも驚くべき発想で新型ゴーレムに、新型兵器、既にこちらに情報が上がっておる修復師のラベル殿専用の魔道具から発展させた魔力供給魔道具なる潜在魔力が乏しいニルバ王国の魔法ギフト所持者が夢にまで見た装置を完成に導いた件等々の功績は大きく、そなたが望むのならば陛下は爵位を与えたいとお考えであり…」
などと言うので僕は脊髄反射的に、
「いや、お気持ちだけで結構です」
と答えてしまったのである。
これにはカサール子爵様もクリスト様も呆気にとられ、通信魔道具の向こうのメンバーからも声が聞こえてこないところを見ると同じ感じにキョトンとしているのであろう。
『いや、今さら貴族なんて勘弁して欲しいよ…逮捕されたり追放されたりと、かなり荒っぽかったが貴族という面倒なしがらみから解放されたというのに…』
というのが正直な気持ちであり、現状不自由な事がない上に、貴族の面倒臭さも何となく知っているので、僕は現在爵位に何の魅力も感じないのである。
すると、通信魔道具の相手方がゴニョゴニョとあちらサイドで相談している様子であり、こちらではカサール子爵様が、
「ジョン君…」
と久々に君呼びで僕に対して親戚のおじちゃんみたいに、
「爵位だよ…要らないの?」
と心配しているのだが、
「はい」
と僕が満面の笑顔で返事をすると、クリスト様までも、
「もしかして、ジョン君はニルバ王国から出ていくつもり?」
などと不安げに聞いてくるので、僕は、
「いえ、今の所はそんな予定も無いですけど?」
とだけ答えると、今度は通信魔道具の向こうからエドモント宰相様が、
「予定は無いが出ていく可能性はあるのですかな?」
と聞いてくるので、一瞬「う~ん…」と考えた後に僕が、
「家も有りますし出て行きたくは無いですが、どうしてもの場合は…」
と気持ちを伝えると、通信魔道具の向こうから、
「どうしましょう陛下…」
と、宰相様が陛下に泣きついている声が聞こえるのである。
『リント王国からは追い出されたけど、ニルバ王国はどうやら僕を囲い込みたいらしい…まぁ、ありがたい反面、ちょっと迷惑でもあるな…』
とは思うが、少し派手に動き過ぎた様な気もする僕は、
「あのぉ~、とりあえず僕に対して褒美とかは気にしないで下さい…あっ、それと国王陛下にゼルエルガさんを派遣して頂き誠にありがとうございますとお伝えください…立派な石壁が出来て家畜が森狼から狙われる心配がなくなりましたと…」
と、既に感謝しているのでニルバ王国を捨てたり、もちろん裏切るつもりも無いことだけは伝えたのであるが、その後に、
「いや、何か欲しいものは?」
とか、
「そうだ、結婚の予定はあるのか?」
などと、宰相様が手を変え品を変え僕に色々な褒美を与えようと必死なので、僕は少しウンザリしながら、
「今のところ生活には困っていませんし、モテはしませんが無理やり嫁に来た母を見て育ちましたので令嬢の人生を狂わす様な提案はご遠慮願います…」
と、それらを拒否したのであるが、目の前のカサール子爵様から
「ジョン君…こういう時はあまり拒否すると反逆の意志があると思われるから…」
とアドバイスされて、仕方なく、
「そうですね…ニルバ王国との国境に面したリント王国側にペアって町がありまして、そこの現在のご領主様であるバートン様っていう僕の恩人が居ますのでニルバ王国の方々には戦争のきっかけになったりと何かと因縁のある町でしょうが、今のご領主とは全くの無関係なのでどうか仲良くしていただけるだけで…」
と、お願いを絞り出したのであった。
ニルバ王国の各地で、戦争がらみのアレやコレを聞く度に、
『誰かに踊らされていたらしいが、クソ親父が噛んでいたのは確実な戦争だもんな…』
と、僕のガラスのハートにチクチクとダメージが入るので、せめて僕が生きている間ぐらいは戦争は起こって欲しくないのである。
そんなお願いを聞いた通信魔道具の向こうから、
「と言っておりますが…陛下…」
と困っている宰相様の声がするが、遠くから笑い声が聞こえたかと思うと、
「これは、なかなか大きくて、難しい褒美を…その町と仲良くするにはリント王国と仲良くせねばな…」
と、楽しそうな声がして、
「エドモントよ褒美の件、彼に承知したと伝えよ」
という指示を受けた宰相様が、
「国王陛下が、爵位の代わりに今回の褒美の件を約束して下さった…」
と、少々困惑気味に伝えてくれたのであった。
『おぉ、間接的だけど国王陛下と話しちゃったよ…』
と満足している僕は、
「要件も終わったみたいですので…」
と、帰ろうとしたのであるが、カサール子爵様が、
「これこれ…話はまだあるから…」
と僕を引き留め、クリスト様まで呆れた様に、
「いや、王家からの通話を切り上げようとする人間を初めて見たよ…」
と驚かれ、再び通話魔道具の向こうから、笑い声がしたかと思うと、
「エドモントよ、彼に会える日を楽しみにしておると伝えてくれ…余は褒美の件でリント国王に文を書きに戻るとしよう…」
と聞こえ、宰相様が、
「陛下!?」
という驚きの声を上げておられるので、どうやら怒って帰った訳ではなく国王陛下はご機嫌で僕への要件を済ませて下さったらしく、その後に宰相様から、
「実はエルバート殿が年が明けた春に一番弟子のオルフェン殿にゴーレム研究を託してカサールの町へ戻る事になったので、軍務大臣派閥からと、今回は魔力供給魔道具の生産について協力すると報告のあったマーチン子爵が所属する文部大臣派閥からもジョン殿を是非貴族へとの推薦もあり、ジョン殿を師匠であるエルバート殿の迎えに王都に来てもらうついでに準男爵として王国に迎える予定であったのであるが…」
と、僕はどうやらギリギリの判断で面倒臭い貴族に成らなくて済んだのであるが、
『国王陛下が楽しみにしているから、王都には師匠を迎えに来るついでに来て陛下と謁見するように』
という強制ミッションが発生してしまったのである。
『まぁ、師匠もかなりお歳だし王都の暮らしが合わなかったのかな?』
と、僕がゴーレムの件に巻き込んだ形である師匠の体が心配なので、
「わかりました…エルバート師匠のお迎えに王都に参ります…」
と、渋々ではあるが了承する僕に、カサール子爵様は、
「いや…普通は国王陛下に会えるなんて名誉な事だから、もっと喜ぶだろ…」
と、呆れており、クリスト様まで、
「父上…もうジョン殿を普通の青年と思う所から認識を改めないと…国王陛下から直接賜る爵位すら拒否する人物を私は見た事が有りませんし、この先の人生でも多分…」
と、何故か可哀想な子を見る様な何とも言えない目で僕を見つめていたのであった。
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