第90話 思ってたのと違う
半月ほどでササッと帰ってくるマーチンの町への訪問予定が、なんだかんだとずれ込み、カサールの我が家に帰ってきたのは出発から1ヶ月程経った年の瀬であった。
まぁ、おかげでマーチンの町とも太いパイプが出来て、材料などの仕入れ先や各分野の職人さんなどの人脈が広がった事も大きいのであるが…
『何故だろう…我が家を含めた新町のエリアが広がって大きくなっている…』
と寒い風が吹くなかで、ゼルエルガさんとカイン君の師弟が魔力供給魔道具を使いニョキニョキと生やしたであろう石の壁が並んでいる。
『半分づつずらして二枚構造にしてあるよ…』
と感心する反面、高さ2メートル程と低めではあるが、
『これを二人でほぼ1ヶ月ちょっとか…レンガを焼いて積み上げた収容施設での日々がバカらしくなるな…』
などと、少し呆れてしまう光景である。
そしてそのストーンウォールの魔法で生成した石の壁と石の壁の隙間や表面を町の方々をカサール子爵様の指示でアルバイトとして募集して錬金素材である防水石粘土で埋めたり、硬化コーティング液剤などを塗布しており、もう少しで完成するといった感じである。
しかも、それを指揮するのはクリスト様であり、王都から来たゴーレムマスターギフト持ちの方々と協力し、ライト兄さんが貰い受けた試作型ゴーレムフレームをバラッドさんや職人さん達を巻き込み改造して、僕が前にライト兄さんと話していた、
【建設用ゴーレム構想】
の第一段として、ゴーレムマスターでなくても使える片手にショベルカーの様なバケットがついたゴーレムと、ゴーレムが頑丈な荷車を引くというゴーレムダンプが完成しており、クリスト様は、
「ゴーレム乗りの練習にもなるからと父上もノリノリで…ちょっとゼルエルガ殿に無理を言って大きめに作ってもらったんだ…」
などと、まだ自分用のゴーレムを持っていない王都から来たゴーレム乗り候補の騎士団の方々が、試作ゴーレムを改造したショベルゴーレムで土を掘り、ダンプゴーレムで壁の外側の堀を作るために出た土を運んでゴーレムの操縦訓練を頑張った為に気がつけばこの大きさになったらしく、
「土を掘る方のゴーレムは乗り手の練習というよりはゴーレムマスターがゴーレムに行動を教え込む為の良い練習になったし、荷車のゴーレムは乗り手の足運びの練習に持ってこいだから、父上とも相談してカサールとマルダートの町の中間にこの調子で壁を作ってゴーレムの訓練場にする案が有って…」
などと、説明してくれているのだが、明らかに、
「ここから先はジョン殿の敷地だ…」
と言われていた我が家のエリアが奥行きも幅も当初の五割増し以上あるのでクリスト様の全く話が入って来ない…僕もだが一緒に帰ってきたメンバーも、タンカランの村ぐらいならギュッと詰め込めば余裕で入りそうな広さに唖然としてしまったのであるが、これには孫に魔力供給魔道具をプレゼント出来る事になったカサール子爵様からの感謝も含まれているらしく、
『まぁ、孫大好きお爺ちゃんが頑張り過ぎたのだろう…』
と、一旦広くなった敷地は春まで放置する事にして、とりあえず我が家へと帰還したのであった。
暖かな居間に入ってようやく、
『帰ってきたなぁ…』
と実感し、そして居残り組にお土産話などもそこそこに、寒さに負けずに走り回っている幼子チームの成長を軽く喜んだ後に、僕はメリーさんの煎れたお茶を飲んで、一瞬、
『このまま風呂に入って寝たいな…』
などとも思いつつも、頭には広がった敷地の件や帰って来たらやろうと思っていたアレコレが過ったのであるが、しかし、
『何か色々と同時に起こっているが…先ずはライト兄さんとイデアさんの件に集中だ!』
と決意し、
「タンカランから帰って来たら、娘にちゃんと告白するんですねっ!?」
と、酔った勢いで突撃してきたバルディオさんとの約束の為に準備しているであろうライト兄さんの工房へと、
「帰って来た挨拶だけだから付き添いは要らないよ」
と、イデアさんとバルディオさんを我が家に残して僕一人で向かったのであった。
『イデアさんが居たら作戦会議にならないし、バルディオさんが居たら娘さんへの告白作戦会議にパパが同席なんて、ライト兄さんが緊張しちゃうもんね…』
などと、気が利く弟弟子である僕が到着した錬金工房ではライト兄さんが大きな鍋でグツグツと何かを煮立たせ、長い棒でグルグルと焦げ付かないようにかき混ぜており、見るからに錬金術師っぽいイメージの作業を続けていた。
「ライト兄さん、戻りましたよ…」
と僕が挨拶しても、
「もうイヤ…硬化コーティング液剤なんて…もう作りたくない…」
などとブツブツと呟きながら作業をしていおり、全くこちらに気付いて居ないのである。
本日担当の護衛騎士の男性が僕に、
「あれが出来上がればカサール子爵様からの注文が一旦終了となるんですが…大事な時期だからと注文を断りたいのを我慢して作り始めたら…ほら、壁が増設されましたので…」
と教えてくれ、騎士さんは呆れた様に、
「結局、なんの準備も出来ずに片思いのお嬢さんが帰って来られましたか…ライト殿もお気の毒に…」
と、石壁に使う硬化コーティング液剤を目の下にクマを作りながら作り続けているライト兄さんを暫く僕と二人で眺めていたのであった。
騎士さんの報告と、ライト兄さんの姿見るからに、
『これは作戦なんて無いな…絶対…』
という事を確信したので、ノープラン状態のライト兄さんに下手なプレッシャーをかけたくないので、
「あれが完成したら一旦グッスリ寝かせてあげて下さい…イデアさんが帰って来たというのは起きた後で教えて頂ければ…」
と、護衛騎士さんに伝言を頼んで自宅に戻ったのであった。
もう、ほとんどお手上げ状態であり僕が出来る事は、
『こうなりゃ、楽しく眺めるだけだな…』
という事で、あちらはライト兄さん任せにして、自宅に戻りゼルエルガさんとカイン君に、
「どう、魔力供給魔道具の使い心地は…」
などと聞いて、今後の改良などの参考にしたかったのであるが、ゼルエルガさんは、
「魔法の発動分の魔力だけで後は魔石から補うので信じられない回数の魔法が放てます」
と満足しており、カイン君も、
「これを使ってから毎日自分でも感じる程に土魔法が上達してます」
と、なにやらテレビショッピングの【あくまでも使用者の感想】みたいな台詞を言っており、かなり満足してくれている様子である。
『もう後は素材やカラーバリエーションで何とかなりそうだな…』
と、魔力供給魔道具の件も片付いてしまった為に、
『これはこの冬…暇になったかな?』
などと思っていたが、どうやらそうも言ってられない事が…それは帰宅して翌朝の事である。
朝早くに我が家のドアを叩く音がし、
『仕事が終わったライト兄さんが来たのかな?』
などと思いながらもメリーさんが開けた扉から入ってきたのはお屋敷の騎士の方であり、
「ジョン殿に主から屋敷の方へ来て頂きたいと…」
という伝言役で我が家に来たのであるが、
『用事が有っても、無くても、暇潰しに我が家に遊びに来るカサール子爵様がワザワザ呼び出しとは…』
と、嫌な雰囲気しかしないが、
『お世話になっているご領主様だし…』
という事で、いつライト兄さんが来ても良い様にイデアさんとバルディオさんには今回も、
「カサール騎士団の方が居るから…」
と護衛を断り留守番を頼みカサール子爵様が待つお屋敷に向かったのである。
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