第88話 牢屋での約束
まぁ、問題を起こした貴族の息子が牢屋で反省させられているのに、同じく貴族にジャンピングキックをするという問題を起こした平民サイドの保護者が宿屋のベッドでグッスリと眠る訳には行かないので地下牢へと望んでやってきたのではあるが、
『う~ん、これこれぇ…寒くて死んじゃうかもって感覚だよ…懐かしい~』
と、最近は何不自由なく暖かい布団にくるまったり暖炉や焚き火でヌクヌクとした生活が出来ていたという幸せを再確認しながら、
『木の板のベッドと毛皮の膝掛けサイズの毛布の収容所に比べたら地下な分、隙間風はないし毛布も上等なヤツだけど…マルコ少年には厳しかろう…』
と、同じ牢の中で寒さではなく涙で鼻をズルズル言わせている小太りボーイを眺めている。
普段は優しいお母様にかなり強火でしっかりと叱られたらしくなかなか泣き止まないマルコ少年に、僕は、
『あれかな…騎士団長さんにお願いしてマルコ少年にベルのキック分で投獄された可哀想な保護者を演出する為にやや乱暴に牢屋に放り込む演技をお願いしたけど…騎士団長さんがあれ程に迫真の演技をするとはこっちも想像して無かったからな…ビックリさせ過ぎたか?』
と反省していると、平和過ぎるマーチンの町の騎士団の牢には現在、僕とマルコ少年しか居らず、流石に泣き続けるテンションも持続しなかったらしい小太りボーイが、
『なんで同じ部屋なんだよ…』
みたいな目でこちらを見ているので、
「あっ、どうも…」
とだけ挨拶をしてみたのであった。
パーティー前に正直軽く挨拶をしたとはいえ、僕も彼がベルに蹴られたりしなけれ『小太り次男坊』ぐらいの印象で名前までしっかり覚えて居なかった様に、彼も、
「あぁ、兄上が会いたがっていた…」
と、僕にはあまり興味が無かったようで名前まで記憶して居なかったらしい…なので、
「マルコ様、改めまして貴殿にジャンピングキックをかました少女の保護者のジョンにございます」
とだけ伝えると彼は一瞬ビクッと身構えたが、すぐに冷静になり、
「いや…母上にも言われて自分でも考えたが、あれは僕が悪かった…だからジョン殿が牢屋に入れられずとも…」
と、僕に言ってくれるという案外まともな感覚がある様子に、
『おっ、話せるタイプの貴族のご子息だな…たまに人間の言語で会話が成り立つか不安になるようなヤバい奴も学校にはゴロゴロ居たからな…』
と、貴族という生き物を懐かしみながら、離れた場所に見張りの騎士団の方が居るとはいえ、牢屋の中で二人っきりな僕は、彼との有り余る時間と、この寒さを紛らわせる為に色々な話をしたのである。
マルコ少年は、賢くて頼れる兄が居る為に、
『跡継ぎは居るし…』
と、逃げる様に学校を退学して冒険者になって知らない場所に行こうと考えていたのだが、
「成人までは我が家に居て勉強しなさい…優秀なギフトも授かったのに…」
と両親に言われ、人物鑑定ギフトを活かせる仕事に就ける為の採用試験に向けた勉強をしていたのだが、
「学校を出ていない人間の採用枠は狭いし、地方の学校に通い直せと兄上は言うのだけど…僕は勉強が苦手で…」
と自分で言う程にお勉強が嫌いなご様子なのである。
『まぁ、勉強が得意なら我が家に師匠と来ているカイン君みたいに試験だけ受けに学校に行って、あとは修行に全振りできるらしいからな…ニルバ王国は…』
と、もう家庭での勉強にも疲れきった所にベル達我が家の女の子冒険者チームが現れ、
『えっ、僕より年下っぽい女の子でも冒険者として頑張ってるんだ!』
と興奮しながらお喋りしたのだが、マルコ少年は両親からも、
「無闇に鑑定してはいけません!」
と注意されていたのも忘れて、ダンジョン踏破の称号がベルについているのを見た勢いで、ララちゃんとターニャちゃんを鑑定してしまい、
【奴隷】
という一文を目にした途端にトラウマになっていたクラスメイトとの一件を思い出して、
『裏切られた!』
みたいな気持ちになってしまい、あのような事になってしまったらしく、彼は、
「あの子達に大変失礼な事をした…」
と、言ってくれたのであった。
それからは二人で腹を割って話をして、僕が元は貴族の息子で学校も逮捕からの強制退学になり、収容所で2年過ごしてから追放されて今に至る過去を知ると、
「そんな…ないない…」
と信じなかっので、
「無闇に見ちゃ駄目ってママに叱られた鑑定だろうけど、本人が許可するから見てごらんよ」
と人物鑑定を促すと、彼は
「えっ、本当に元子爵家だ!」
と軽く驚いたかと思うと、
「サウスとタンカランに加えてベーレのダンジョンも踏破してる!」
と、凄く驚いた後に、
「へぇ~、こんなチビで弱そうな人でもCランク冒険者に成れるんだ…」
と、大変失礼な感想を言いやがったのであった。
『弱そうなのは認めるが、まだ17歳…チビではなく成長前なんだ…きっと…』
と、自分に言い聞かせながら、
『はい、落ち着いて深呼吸…』
などと僕もあの時のベルに負けないくらいこの小太りボーイに蹴りをかましたい気持ちと闘いつつではあるが、何処と無く憎めないマルコ少年の笑顔に、
『ダンジョン踏破にやたら興味があるみたいだな…1個ぐらいダンジョンを踏破したら自分に自信が持てる様になるかもな…』
と感じた僕は、
『よし、退学者の先輩として少し手を貸してやるか…』
と思い、彼に、
「もしかして、ダンジョンに行ってみたい?」
と聞くと、小太りボーイは、
「勿論!」
とキラキラした瞳で、ボスとの命がけの死闘の後に宝箱を手にするという漢のロマンについて語り出し、
「ダンジョンにチャレンジ出来るのならボクは何だって頑張る!」
と言い出したので、もう一度僕が、
「何でも?」
と聞くと、マルコ少年は、
「何でもだ!」
という言質を取ったので、地下室の階段口に居る見張りの騎士団さんに、
「今の報告書にメモしといてねっ!」
とお願いすると、騎士団のお兄さんは、薄暗い闇の中でもキラリと光る白い歯を見せ、魔石ランプの明かりの下、カサカサとペンを走らせ始め、
『なんだか分からないが、コイツの罠にハメられた!』
と感じた様子のマルコ少年は、毛布を頭から被り自分の殻の中でふて腐れて眠りについたのであった。
その後、見張りの人から報告が入ったのか騎士団長さんが牢屋を訪れ、
「マルコ様と話して頂きありがとございました…」
と言って、
「では、外へ…」
と、僕を釈放しようとするのを、
「馬鹿言わないで下さい…僕も朝までちゃんとココに居ないと、マルコ少年から嘘つきな奴と思われちゃいますよ…喧嘩両成敗なら同じ罰をきっちり受けますよ…保護者代表ですので…」
と追い返して、朝まで地下の牢屋を満喫したのであった。
翌朝少しお寝坊さん気味に起きたマルコ少年は、まだ僕が牢屋に居る事に、
「父上や兄上から頼まれて僕から何かを約束させる為に来たんじゃ無かったの?」
と不思議そうにしているので、僕は、
「退学の先輩として約束は守る姿を先に見せとかないと、これからパパやママを一緒に説得してダンジョンに連れて行ってやるって言っても信用してくれないだろ…」
と彼に言うと、小太りボーイは、
「本当にダンジョンに行けるの?」
とビックリしているので、
「今から説得しないと駄目だから、マルコ少年がしっかりとご両親に頑張る気持ちを伝えないとね…出来る?」
と聞くと、彼は、
「頑張ります!」
と、元気に宣言したのであった。
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