第85話 ご挨拶に行こう
お貴族様からの招待状が来たのでマーチンの町にやってきたのであるが、グラーナ達が山や森に帰ってしまった湖は、
『本当にあの五月蝿かった湖と同じ場所か?』
と思えるほどに静まりかえり、町も毎日お祭りの様に賑わっていた屋台の数もまばらであり、既に冬支度が終わり春を待つ様な雰囲気すら感じられる。
しかし、グラーナとグラーナを狙う大型魔物で今年分の稼ぎをしっかり稼いだ冒険者や住人達が、昼間から酒場で盛り上がっている事から、今年はワイバーンのような空を飛ぶ厄介な魔物が町に飛来せずに住民に被害が無かったらしく、無事にグラーナのシーズンを終えた様である。
『貴族が僕に会いたいのなら、そちらから来ても…』
なんて思う方も居るかも知れないが、わざわざ平民の顔を見る為にぞろぞろとカサールの町に来られてはカサール子爵様達が貴族としての色々なしがらみにより相手貴族をもてなしたりしなければ成らなくなるので、呼ばれた僕が乗り合い馬車よりも融通の効く我が家の馬車にて、馬魔物達の無理にならない程度に急いで馳せ参じる…これが一番平和的な解決方法なのである。
『ただ、ちゃんと面倒臭いのではあるが…』
とは思う。
今回の我が家のメンバーは全員一応冒険者ではあるので冒険者宿を利用できるが、あの宿は狩りに行くのも寒くて一苦労なこのシーズンは、【休業】と決め込み朝から酒を飲んでいる冒険者が、宿に併設された酒場に入り浸っている為に、
『我が家の女の子冒険者チームの教育によろしくないから、冒険者宿でなく普通の宿屋にするか…』
という事で、何時もの宿屋にチェックインしたのであった。
宿にてベル達が早速町に遊びに出たがるので、リーグさんに少し多めなお金の渡して、
「子供たちの中でララちゃんとターニャちゃんだけマジックバック持ってないからこれで…なんでかマーチンの町はマジックバックの品揃えが良いからね…」
とお願いしてから、イデアさんにもお金を渡して、
「皆、ちびっ子チームのお世話を頑張ってくれているから女の子チームにイデアさんが可愛い服を選んであげてくれる?」
とお願いし、追加で彼女にも、
「それでこっちのお金はイデアさんの服の分ね」
と言って小金貨が数枚入った皮の巾着を渡すと、イデアさんは、
「いえ、奴隷である私にその様な…」
と受け取ろうとしてくれないので、
「いや、前から言ってるでしょ…奴隷とかじゃなくて家族だって…いつも作業着か鎧姿なんだから…」
と、帰ったらライト兄さんが告白する予定なのに、その時にお洒落の一つでもして欲しいという僕の唯一出来る二人へのアシストなのである。
イデアさんは、ソワソワしながらも、
「いや…しかし…」
と、お洒落がしたい気持ちと、戦争奴隷としての自分の間で揺れ動いていたので、
「ベル~、ララちゃ~ん、ターニャちゃ~ん! イデアお姉ちゃんがお洋服買ってくれるから、皆はイデアお姉ちゃんに似合う服をお礼に選んであげて下さい、いっぱい買っても良いようにリーグさんが荷物持ちをしてくれるから…」
と、ベル達にイデアさんを連行してもらい、僕は、
「では、テイカーさんとバルディオさんはご領主様のお屋敷にとりあえず招待されたので町に来た事を報告に行きますか…」
と、二人を連れて町の奥にあるお屋敷に向かうことにしたのであった。
マーチンの町には以前1ヶ月程居た事があるが、あちらの金持ちが住む様なお屋敷が建つエリアには近づいた事もなく、街角に居た兵士の方に招待状を見せて、
「マーチン子爵様のお屋敷に行きたいのですが…」
と、唯一お屋敷に行った事のあるテイカーさんも、行きは騎士団にドナドナされて、帰りは放心状態で宿まで馬車で送られた為に、全く道案内として機能しておらず、兵士さんに泣きついたのであるが、どうやら既に
『招待状を持った冒険者が来たら…』
という指示かされていたらしく、兵士さんは、
「ジョン殿でしたか! 言って下されば我らがご領主様まで報告に走りましたのに…」
と、テキパキと部下にお屋敷の騎士団の方々に報告に行く様に指示を出し、
「本日面会の予定が取れるかは私には解りませんが、お屋敷まではもう少しですのでご案内させて頂きます」
と、無駄足になるかもしれないがお屋敷までの道案内をかってでてくれたのであった。
そうして無事に到着したマーチン子爵様のお屋敷では、やはり急な訪問の為にご本人とは会えなかったが、執事長だという紳士と騎士団長さんが現れ、前回ドナドナしてきたテイカーさんはどうやら面識があるらしく、
「お久しぶりです…」
などと頭をさげている彼に、二人は、
「これはテイカー殿、門兵にでも言っていただければ、すべてこちらで…」
などと、お屋敷の客室にて全員泊まれる様にしてくれたらしいのであるが、
『冗談じゃない…なんで堅苦しい貴族のお屋敷に寝泊まりしないと…顔見知りのカサール様のお屋敷の端を間借りしてた時も、ベルが壺とか絵を壊さないかドキドキだったのに…』
と思いながらも僕は、リント王国式ではあるが、軽く貴族家の息子だった時の所作を思いだしつつ、背筋を伸ばして軽く一礼してから、
「お気遣い誠に感謝致します。 しかし、既に馴染みの宿にて部屋をおさえました故…冬の社交の時期の準備でお忙しい時にお屋敷にこの様な冒険者を泊めて頂こうとされたお気持ちだけで…」
と遠回しに、
『泊まらないから早く要件を済ませて!』
と、貴族的な言い回しで伝えたのであった。
どうやら執事長殿は、僕の言いたい意味をすぐに理解してくれたらしく、
「では、こちらで宿の代金は…」
と、代替え案を出してきたのであるが、こっちも貴族だった経験がある為に、
『やだよ…まだどんな内容で呼ばれたかハッキリとは分からないし、この後、もしかして強く出る場合があるかも知れないから借りは作りたくない!』
という理由から、
「いえ、冒険者が泊まる宿ですので前金にて既に支払っておりますし、お手紙を頂き、返事の手紙を出す前に勝手に馳せ参じたのはこちらですので…本日はご挨拶だけ…」
と言って、
『ほな、帰ります』
という、意思を伝える為に、
「では、テイカーさん、バルディオさん…そろそろ…」
と二人に声をかけると、騎士団長さんが、
「では、私が宿までお供を…主からの伝言を受けた時にすぐに向かえる様に宿の場所を知っておきたいので…」
と、言ってくれたので、
「お屋敷までの道を知っていたら我が家の荷馬車で来ましたが、本日は徒歩でして…それでも構いませんか?」
とだけ確認を取ると、騎士団長さんは、
「普段から鍛えておりますのでご心配には…それと町の案内や買い物の荷物係でも致しますよ」
と、歩くのは苦じゃないらしいので、僕は、
「いや、騎士団長殿に町の案内なんてしていただいたらバチが当たります…」
と、ここでもやんわりと借りを作るのを拒否しておいたのだった。
『いきなり仲良くし過ぎると、無理難題を出された時に断り辛いし…それにカサール子爵様がヤキモチ焼いちゃうもん…』
と思いながらも、騎士団長さんから軽く情報収集がてら宿屋までの道にて、
「マーチン子爵様ってどんなご領主様ですか?」
などと聞いていたのだが、どうやら威張り散らさないタイプの貴族の方らしく騎士団長さんも気さくに、
「主は国王陛下から書簡がいきなり届いた時なんて、お屋敷中をウロウロされて、だれかバルザックなる錬金術師の事を知らぬか? って…それは、それは…」
と、バルザックさんの功績を称える為に国王陛下から届いた手紙を見たマーチン子爵様が狼狽えていた姿を楽しそうに語ってくれていたので、
『配下の人達とも距離の近いご領主様なんだな…』
という事に少し安心した僕であった。
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