第84話 バレたらバレたで
「ぬおぁぁぁ!」
と言葉に成らない奇声をあげながらライト兄さんが床で悶えている。
それもその筈であり、意中の女性のパパがいきなり自宅に突撃して来て、晩御飯のメニューを聞くぐらいのテンションで、
「どう、ウチの娘…好きなの? 嫌いなの?」
と聞いたのである。
反射的に、
「す、好きですぅ…」
と答えてはみたものの、状況をやっと把握したライト兄さんが、絶賛恥ずかしさのあまり死にそうに悶えているのであった。
床に転がりながらも、
「ジョン…」
と、全てをバラした犯人扱いで僕を睨んでくるライト兄さんに、
「違うから!」
と必死に伝えるが、ライト兄さんは納得してくれずに、
「じゃあ、何、で、だ、よっ!」
と床でピチピチと跳ねている。
それを見た本日ライト兄さんの護衛担当の女性騎士さんが、
「ライト殿は解りやすいですもんね…」
と部屋の隅でクスクスと笑っているを見たライト兄さんは、
「えっ、セシリアさんまで…そりゃないよ…」
と、再び悶えはじめてしまう。
どうやら護衛騎士の方々にも既にイデアさんに夢中という情報が広がっていたらしく、ライト兄さんと女性騎士さんの仲が良さそうな雰囲気にバルディオさんが、
「ライト殿はウチの娘とはこんなに気さくに話して無いのに…」
と酔った勢いで女性騎士さんにまで絡むというカオスな現場であったが、彼女は『あらあら…』といった雰囲気で、
「あら、私は既婚者でしてよ…ご希望ならば旦那も王都からゴーレムマスターとして来ていますから、お会いになりますか?」
などと、酔った男のあしらい方を熟知している様で、サラッとバルディオさんを落ち着かせ、
「私も聞きたいですね…ライト殿の娘さんへの気持ちとやらを…」
と、バルディオさんに味方して、ライト兄さんを追い込み始めたのであった。
まぁ…その後、様々なお話がこの部屋で繰り広げられたのであるが、
「では、マーチンから戻った時に…」
とライト兄さんの肩をポムン、ポムンと楽しそうに叩くバルディオさんに、
「では、我々はライト殿に悪い虫が着いたり、ライト殿がフラフラ~と、よそ見をしないように見張りますのでご安心を…」
と言ってバルディオさんとガッチリ握手を交わすセシリアさんと呼ばれていた女性騎士さんの間に挟まれ完全に真っ白になったライト兄さんに、
『左右からイデアさんの件を詰められて完全に恥ずか死んだか…お気の毒様…』
と、追悼の意を表しつつ、我が家へと帰る道中で僕は、
『あぁ、ライト兄さんって記憶ギフトだったよね…今日の一件を死ぬまでずっと鮮明に思い出せるんだ…』
と理解すると流石に可哀想に感じて、
「マーチンの町でライト兄さんにお土産でも買ってきてあげるか…」
と、僕は今回のライト兄さんとイデアさんの一件からは、一旦手を引き、あとは本人と後見人の方々に任せて逃げる事にしたのであった。
『だって、もう僕が出来る事なんて、見守って楽しむ事ぐらいしかないから…あと、ラベル先生には報告の手紙を出すくらいかな…』
という事で、冬が始まる前にササッとマーチンに行く為に翌朝にはカサールの町を出発したのであった。
昨年と違い冬場の野菜は畑から収穫出来て、肉集めも子供チームが増えたことにより、思いの外早くホーンラビットなどの小型魔物から鹿や猪系の中型までバリエーションも豊富に集められたので時間や気持ちに余裕を持って出掛けられるのは良いが、
「すみませんね…折角カサールに帰ってきたところなのに…」
と僕が、マーチンの町にトンボ返りさせることになった件を我が家の幌馬車の運転席にいるテイカーさんに謝罪すると、彼は笑いながら、
「気にしないで下さい旦那様、儲け話の匂いがする所になら喜んでお供するのが商人ですからね」
と、実際にゼルエルガさん達が使用している魔力供給魔道具を見て、
『これは儲かる!』
と、商人としての本能が叫んでいるらしくテイカーさんはウキウキであり、その横に座り前方を警戒しているバルディオさんは、昨晩お酒が抜けた辺りで、
「なんて事を…」
と、ライト兄さんの工房に突撃した事を悔いていたのだが、僕やメリーさんの、
「良いきっかけに成ったから大丈夫」
という洗脳…いや、説得で吹っ切れたらしく、
『帰ったら娘は…』
みたいにテイカーさんの隣で同じ様にウキウキしている。
しかしリーグさんは相棒のカラスの魔物であるガーを偵察に出し、帰還したガーの報告を受けながら、
「前方の街道に異常なしです…」
と、少し元気がないのである。
僕はリーグさんにも、
「ごめんね、リーグさんは数ヶ月ぶりにやっと帰って来たのにすぐに戻る事になって…」
と謝ると彼は、
「いや、旦那様…違うんです」
と、元気の無い理由を教えてくれたのだった。
どうやらリーグさんは、かなり広い魔物牧場が手に入ったのが嬉しくて、男の子チームを連れて遠征中の間にテイカーさんに家畜の追加をお願いしたのであるが、家の皆の希望を聞きながら、
「ミルクも欲しいし…」
「冬の手仕事に毛織物も…」
などと、予算内で買い集めてもらった魔物達に先日初対面したのだが、
「失敗しました…厩舎の数に合わせて購入した魔物達ですが、牛魔物なんかもですが、かなりのメスがお腹が大きくて…春には何匹か売るか食べるかしないと…厩舎が…」
と、計算をミスして家畜を買いすぎた事を悔やんでいたのだった。
僕は、
「もっと深刻な悩みだったら本当にどうしようかと思ったよ…」
と安堵しながら、
「放牧エリアは広いんだし、厩舎が足りなくなったらボンドさんが追加してくれるよ…」
と伝えると、リーグさんは、
「良いんですか?」
などと驚いていたが、畑を担当してくれているノリスさんとアイラさん夫婦がリーグさんの留守中は牧場の面倒も我が家の奥様チームと手分けして管理してくれており、既に牛魔物達の出産に向けての準備もしてくれているので何の問題も無いのである。
不安がなくなったリーグさんも元気を取り戻し、この幌馬車の中での不安は、
『知らない貴族と面会か…』
と、少し僕が面倒臭く感じている事と、
『バルディオさんがウキウキ過ぎてイデアさんにバレないかな?』
という、ライト兄さんのサプライズ告白前にネタバレする事ぐらいである。
『こんな事なら、リーグさんを我が家で待機してもらってイデアさんを女の子冒険者チームの引率にしてバルディオさんと離せば良かったよ…外堀を埋めつつ、本丸であるイデアさんにライト兄さんの良いところをジワジワとプレゼンする予定だったからなぁ…まさか外堀が全自動で埋まって、ついでに本丸までライト兄さんという愛の戦士が戦場に到着する前に土に埋めてしまう勢いとは…』
と、なかなか上手く行かない諸々を考えながら、幌馬車の荷台の後方で、キャッキャと女子会を開いている女の子冒険者チームとイデアさんを見て、
『まぁ、バレたらバレでよしにするか…バルディオさんにまで気がつかれていたライト兄さんが悪い!』
という結論にたどり着いた僕は、この秋晴れの空ぐらい晴れやかな気分でマーチンの町へと向かったのであった。
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