第83話 ちょっと一杯
カサール子爵家にバルディオさんと一緒に向かい、
「マーチンに行ってきます」
と報告すると、子爵様は、
「春にはマルダート家も返還された町がやっと落ち着いたらしく我が家でパーティーを開く予定でいるから必ず帰ってきて欲しい」
とだけ言われたが、完全に、
『あぁ、文部大臣派閥の貴族と会うんだ…ふぅ~ん…』
みたいは雰囲気を感じた僕は、
「パーティーには必ず…あと、マルダート男爵家のお子さんに魔法系ギフトの方がいましたよね?」
と質問すると、カサール子爵様は蕩けそうな笑顔になり、
「そうなのだ、王都の学校に行っておるが久しぶりに帰って来るらしくてな…」
と教えて下さったので、
「では、我が家に滞在中の魔法師ゼルエルガさんの簡単なテストの後ですが、魔石から魔力を引き出して魔法が放てる魔道具をお孫さんにカサール子爵様が贈られてはどうですかね…マーチンの近所のタンカランダンジョンで魔道具作りに必要な鉄鉱石や魔鉱石などを買い付けてきますから…」
と、提案するとカサール子爵様だけではなくクリスト様も、
「それはマルダート男爵一家も全員喜びそうですね、父上」
などと、どうやら今我が家に居るカイン君程ではないが、マルダート男爵家のお子さんが魔力が弱いのに魔法ギフトがある事を悩んでいたらしく、カサール子爵様はご機嫌が直り、
「では仕入れの旅、気をつけて…」
などと僕を送り出してくれたのであった。
カサール子爵様のお屋敷から出た後に僕の少し後ろを歩くバルディオさんが、
「主殿は緊張されないのですか…子爵様に…」
と、心配そうに聞くので、
「まぁ、元とはいえ僕も貴族だったし、カサール子爵様は敵として対峙したらビビるだろうけど、良い人だって知ってるからな…むしろ娘さんが嫁いだマルダート男爵様って方には緊張するかも…少々リント王国で取り潰しになった我が家と色々あったから…」
と、今になりマルダート家の方々に会うという事の重大さに気がつき、
『ヤバい…現当主のパパさんの死に直接でないけどシッカリ関係してるよ…』
と青ざめる僕に、バルディオさんは、
「マルダート騎士爵…あっ、今は男爵様でしたね…あの奴隷小屋にて戦争奴隷として数年、雑用ばかりしておりまして、その間に世の中はかなり変わった様子ですが、若様…いや、今のマルダート男爵家のご当主様であれば…」
と、『優しい人だから…』みたいに言ってくれる。
それもその筈で、戦争の時にマルダートの町にて、当時の代官であったマルダート騎士爵様の騎士団が雇った傭兵の中にバルディオさんと、成人したばかりのイデアさんが居たのである。
なので今のマルダート家のご当主様の若い頃も知っているらしく、戦争の時に大怪我をして逃げる事を諦めたバルディオさんとイデアさんは、最後までマルダートの町にて当時のマルダート家のご当主様と共に戦い続け、町を占領したリント王国側の兵士の手により拘束されて捕虜になり、身代金を払い釈放してくれる筈の雇い主のマルダート騎士団長は主に殉じており、バルディオさんは片足、イデアさんは片目の戦争奴隷に落とされたという経緯が…
『なんだか、微妙にウチのクソ親父が死んでからでも僕の人生に要らぬ影を…バルディオさんとイデアさんの十年近い奴隷小屋生活にまで関わってたんだもんな…』
と、やんわり目をそらしていた真実を叩きつけられた様で益々元気が無くなる僕に、バルディオさんは焦りながら、
「主殿? 如何なされました…ご気分でも…」
と聞いてくれるので、僕は、
「なんか、美味しい物でも食べたいね…付き合ってよ」
と彼にお願いし、ライト兄さんの工房に行く前に、カサールの町の裏路地にある穴場的な料理の美味しい酒場へと向かったのであった。
この世界では15歳で成人となり酒は普通に飲めるのであるが、前世の記憶もあり、既に前世で酒の味は知っているが、『二十歳までは…』と我慢している為に、
「バルディオさんは飲みなよ」
と彼にだけ酒を薦めるが、バルディオさんは、
「いえ、主殿の護衛任務中で…」
と断るのを、
「大陸中でカサールの町ほど安全な町は無いから大丈夫だって…冒険者だって顔見知りが多いし、兵士の方々や騎士団だってバーストショットも配備されて、大概の奴なら一撃当てれば特殊弾で制圧できるから…」
と僕が説明するのだが、彼は、
「しかし、主殿が飲まないのに…」
と食い下がるのを僕は悲しい顔で、
「お酒は好きじゃないんだ(ウソ)…それに育ち盛りのチャンスを食べ物が少ない環境で過ごしたからね…ほら…見た目が…」
と、
『全部言わせないでよ…』
という、低身長を気にする雰囲気を漂わせるとバルディオさんは、渋々であるが、
「では、失礼して一杯だけ…」
と、僕のヤケ食いに付き合ってくれる事になったのだ。
しかし、彼は知らない…前世では田舎生まれの僕には歳上の方に飲ませる技術が備わっている事に…
『村祭りなんかの集まりを思い出すなぁ…』
と、あの時は気分良く村の長老集団を酔わせて集まりを一刻も早く切り上げる為に鍛えた技術であるが、今回はバルディオさんを酔わせてイデアさんの情報を引き出す作戦である。
話の導入として、マルダートでの防衛戦の話をしなければならないのが、僕のハートにかなり堪えるが、
『これも、ライト兄さんの為…しかし、イデアさんのタイプにライト兄さんが完全に当てはまらない場合はイデアさん側に家族として加担しますがね…』
と強い気持ちでのぞみ、
「へぇ」
「それで!?」
「なるほど…」
などの聞き上手ワードを駆使しながら隙を伺いバルディオさんの葡萄酒のコップを飲んでも飲んでも一定の量を保つようにピッチャーがわりの素焼きの壺を使い満たしてゆく、
「あ、主殿!」
と、注いでいるのに気付かれたとしても、
「まぁ、まぁ…それより、それからどうなったなの?」
と話をすり替えていくうちに、普段は無口気味なバルディオさんもほろ酔いとなり、お口が軽くなったご様子だったので、
『よし、チャンスだ!』
とばかりに僕はイデアさんの恋愛についての話題に切り替えて、パパの意見を伺ったのであるが、バルディオさんは、
「戦争奴隷の中でも欠損奴隷として人生を諦めていた我ら親子に、主殿はここまで良くして下さっているのに、娘が嫁に行く姿を見たいと願ってしまう…自分はなんと欲深い男なのかと、恥ずかしくなります…」
と泣き出してしまったのを、
「そんな事ないよぉ~」
「パパなんだから当たり前だからねぇ~」
などと慰めつつも、僕は、
『ヤバい…飲ませ過ぎたか?』
と反省したのであるが、次の瞬間に、バルディオさんの口から、
「ライト殿は本当に焦れったい…あれでしょうか…国家錬金術師といえば一代限りの騎士爵や準男爵と同じ…ウチの娘では釣り合わぬと…」
と自分の耳を疑いたくなる様な発言が…
「そんな事ある訳…」
などと言ってはみたが、僕の心の中では、
『ライト兄さん…イデアさんにバレているかは解りませんが、少なくともパパにはバレてますよ…全部、解りやすいライト兄さんが悪いんですからね!』
と、言い訳をつけて、
「よし、このまま本人に聞いてやりましょう!」
と、いうことでライト兄さんの工房にパパを連れて娘への気持ちを確認する為に突撃…いや、訪問したのであった。
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