第76話 予定外の帰還
様々な調合レシピを記憶しているライト兄さんとはいえ、僕からの、
「リーグさんの従魔のスカウトや盗賊団の制圧用の殺さないタイプのランチャー用の毒を…」
というリクエストに応じて以前から微調整していた毒薬の出来が気になっていたらしく、元より毒まみれのゾンビや毒が効くのかも怪しいスケルトンでは試せなかった物をチャンスとばかりに襲い来る聖騎士団とパンみたいな聖女に浴びせたという流れなのだが、ライト兄さんは、
「う~ん、バーストショットみたいに弾丸を射ち込むのなら毒の量なんかを決め易いけど、多くかかる対象とそうでない対象がいる範囲武器だから少し威力を弱くし過ぎたか…まぁ、複数の毒を重ねがけ出来る様に素材から厳選したから、その点は満足か…」
などと言いながら鎧等をひん剥いて、縄で縛りあげた聖騎士団の連中に、バーストランチャーで撒き散らすタイプの解毒薬を試して、その効果の記録を取り始めたライト兄さんには常連冒険者チームの皆さんも、
「俺たち、あの兄さんに喧嘩を売って良く無事だったな…」
と、珍しく神に感謝をした程であったそうだ。
という事がダンジョンの奥であり、8人の自称聖騎士団の連中とパン聖女を面倒臭いが連行して、20階層の転移陣で地上へと連れて予定外の帰還を果たした僕たちは、冒険者ギルドにてルールも法律も無視して襲われた経緯と、毒まみれ状態の奴らに尋問した結果を話すと冒険者ギルドの支店長さんも職員さんも、
「冒険者の方々からベーレ聖騎士団の話しは上がっていましたが、現場を見る事は叶わず…その冒険者から話を聞こうとしてもすぐにベーレダンジョンから去ったりと…」
と、今までの一連の流れを思いだしつつも、
「そうですか…ダンジョンを私物化してマジックアイテムを欲しがるリント王国と直接取り引きで稼いでいたんですね…」
と、真実を知り徐々に怒りがこみ上げてきたらしく、
「テメェら良い度胸だな! 教会だか何だかしらねぇが、この世界最大の組織である冒険者ギルドを舐めた事を分からせてやるっ」
と、廃墟になったとはいえベーレは大都市であったために、問題を起こした奴をブチ込む牢屋には事欠かないらしく、
「さぁ、キリキリ歩け!」
と連行された後に、中級ダンジョンの冒険者ギルド支店には必ず設置されている通信魔道具で、その日のうちに近くの町の冒険者ギルド本店やその町の代官さんにも連絡を入れたそうで、支店長さんから、
「教会の奴らはあれで全員ではありません…もし、ダンジョンで遭遇したら皆さんが狙われるかも知れませんので数日は宿屋にて待機して頂けませんか?」
と、ダンジョン禁止のお願いをされてしまい、メンバー達とギルド酒場でご飯を食べながら、
「これは数日暇になったな…」
などと話していたのであるが、僕たちに暇な日はなかなか訪れなかったのであった。
その日の夕方にはベーレの教会から、
「聖騎士団と聖女を解放しろ!」
という武装した圧力集団が冒険者ギルドにやって来て、支店長さんに、
「ダンジョンとはいえ人を集団で襲ったら捕まるのは当たり前だ!」
と至極真っ当な事を言われて引き下がるのかと思えば、代表と思われるゴテゴテした衣装の爺さんが、
「我等のバックには軍務大臣派閥のカルネ男爵様がついておられるのだぞ!」
などと、後ろ楯をしている貴族の名前まで教えてくれており、ギルド酒場ぐらいしか行くところがない僕たちのテーブルまで威張りちらした教会の爺さんとブチきれ気味な冒険者ギルドの支店長さんとのやり取りが聞こえて来てきている。
そして周りテーブルにいる今回の件に直接関わっていない冒険者達も、話を聞き付け、
「あれだろ、兄さん達があの鼻持ちならない聖騎士団様を返り討ちにしたんだろ…」
などと、楽しそうに話しかけて完全に寂れた町の娯楽と化していたのであった。
ここに居る冒険者達も露骨に教会関係者を嫌っているらしく、僕たちの様に襲われた訳ではないが、折角手に入った光属性の武器で20階層のボスに挑もうとした時に、ボス部屋前で出会った聖騎士団の連中に光属性武器の買い取りを持ちかけられ、
「三人いるパーティーで一人だけ属性武器があっても…だから聖水で武器を濡らして戦えばいいから…」
と、口調だけは優しかったが、10人近い聖騎士団に囲まれて仕方なく取り引きに応じたという冒険者も現れ、ギルド酒場では今までの教会の態度と、今回はじめて発覚したマジックアイテムを一人占めして、それを戦争中から独自のルートで売りさばき財を成していたベーレの教会の悪事が冒険者達にも知れ渡り、ギルド酒場では、
「よし、教会の奴らが仲間を取り戻す為に今夜あたり襲撃に来るか、来ないかに賭けないか?」
などと冒険者達が盛り上がっているのであるが、
『えっ、襲撃に来るの?』
と焦る僕は、ライト兄さんに、
「どうします?」
とコソッと聞くと、ライト兄さんは、
「どうするって、ジョン…来るか来ないかの賭けは成立しないな…やるなら何時に来るかだ…」
と、怖い分析を始めているのであった。
それから暫くして宿屋の部屋に戻ると、ライト兄さんは、
「アイツらとお揃いの装備は癪だな…」
などと言いながら部屋の隅に聖騎士の鎧を足で避けて、自分のマジックバックから通信魔道具を取り出してテーブルにセットすると、
「お食事中でしたら申し訳ありませんが、早急でカサール子爵様にお取りつぎを…」
と、お抱え錬金術師として普段呼び出し用に渡されている通信魔道具にてカサール子爵様に今回の件を報告し、
「なんか我等のバックには軍務大臣派閥のカルネ男爵様が…って自慢してまして…」
と、告げ口をすると、魔道具越しでもわかる程に、カサール子爵様は、
「少し出掛けると…」
と、呆れていたが、
「いや、これは我が派閥の失態…しかしカルネ男爵か…羽振りが良いとは思っておったが、まさか戦争中からリント王国にマジックアイテムの横流しとは…」
と、呟き、
「何か有ればワシの名前を出して構わんし、先日王家よりライト殿を国家錬金術師へとの連絡が来ておるから、敵の後ろ楯が男爵ならば国家錬金術師であるライト殿の後ろ楯はニルバ王家だ…各の違いを見せてやれば良い…」
と言われ、
「あと、ジョン君はなんで錬金術師の試験を受けてないの…陛下が国家錬金術師にしようとしたけど名簿に名前がなかったからって、王都の軍務大臣様から聞かれて…」
と、小さな文句まで言われてしまったのであった。
『いや、修復ギフト持ちだから修復師からだろ…成るとしても…』
とは思うが、面倒臭そうな今回の件のお貴族様関係のアレコレはカサール子爵様が動いてくれるそうなので、通話が終わった後に、僕は、
「ライト兄さん…名前を出して良いって言われてましたが…やっぱり名前を出さないとダメな何かが有るって事ですよね…」
と聞くとライト兄さんは、
「そうだな、今晩あたり来るだろうからオンブゴーレムに魔力をチャージしておくか…俺は作業が有るから先に休んでくれ、何時間かしたら交代してくれよ…」
と、完全に今夜には一悶着あると予定して交代制で眠る提案をしてくるので、
『やっぱり来ますか…』
と諦めた僕は、これから眠るというのに魔合金の装備を身につけて、
「お先に失礼します…」
とライト兄さんに挨拶をしてからベッドに入ったのであった。
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