第59話 主演男優
悪巧みにノリノリなピンチョスさんと僕を見守る形のバラッドさんという歪な作戦会議の翌日の昼過ぎに、予定通りに、
『お金をかき集めて来ました』
みたいな雰囲気で奴隷商人のヤンの所に向かい、銅貨ベースに銀貨を混ぜた金袋をジャラリと提出し、
「これでどうか…」
と必死な演技をすると、相変わらず雑に包帯を巻いたヤンの野郎は、顎をクイっと動かし、
「開けて見せろ」
と、ピンチョスさんの話では【無理やり働かされている元冒険者】と思われる男性に指示を出して金袋を確認すると、
「けっ、これっポチか…明日はこれの倍は持って来い!」
などと、今日はわざと僕一人でここに来ているからか、ヤンの野郎は、
『ガキだけなら…』
と、かなり雑な対応で偉そうな事を言っている。
そして、金を受け取ったら奴は、
「さぁ、早く帰って金を集めないと、お前がウチの商品になるぜ…」
などと笑い、元冒険者の借金奴隷と思われる男性に、
「入り口まで送ってやんな…ついでにこの分だと明日辺りにはウチの商品になるだろうから奴隷としての心構えもガキに教えてやれや…」
と、楽しげに命令していたのであった。
そして、
「そんな…僕が…奴隷…」
などと、ショックそうな演技をカマした僕を引っ張る様に奴隷商人のテントの出口まで送ってくれた男性は、
「小僧、この町から逃げろ…奴は怪我もしてなけりゃ、十分な賠償もお前さんは払っている…」
と、苦しそうな顔をしながら小声で僕に話しかける。
『多分、奴隷紋とやらで主人への反抗だと解って行う行為には何かしらの苦痛が伴うのだろうが…』
と、何となくの知識で知っている僕は、そんな苦しみに堪えながらもアドバイスをくれる彼に、
「ご心配ありがとうございます…大丈夫でから…もう…」
と僕は、もうこれ以上苦しまない様にお願いするのであるが、彼は、
「これ以上…俺やここで働かされている皆みたいな被害者が増えるのは見たくないんだ…」
と、更に主人への反抗の罰としての苦痛を奴隷紋から受けながらも必死に訴えてくる。
『僕がここに居ては彼が苦しむだけだ…』
と判断した僕は、彼に深々と頭を下げてその場から離れたのであった。
その後に外町の広場でガーの飛行訓練中のリーグさんとベルに合流したのであるが、ジャンピングキックをかました件で僕が動いている為にベルが気にしており、
「お兄ちゃん…」
と、何か言いたげにしているので、僕は、
「はい、暗い顔しないの…ベルが正義のキックを食らわせた悪い奴は明日、お兄ちゃんがキッチリやっつけて、虐められていたお姉さん達も助けるから任せて…」
と伝えると、ベルはニコッと笑い
「うん」
とだけ言ってくれのであるが、飛行訓練をしていたカラス魔物のガーがリーグさんの肩にとまり、
「お兄ちゃん大丈夫かなぁ?」
とベルのマネをしたので、どうやらガーが言葉をマネする程にベルは繰り返し僕を心配してくれたのであろう。
そしてリーグさんも、
「ガーのやつも、旦那様を心配しておりす…もしもの時は自分が…」
と、何やら決意した顔をしていたので、僕はリーグさんにも、
「大丈夫だから…」
と伝えたのである。
リーグさんは昔居た組織の流儀でヤンという奴隷商人に分からせてやる様な覚悟を決めたらしいが、そんな闇の世界にリーグさんをまた向かわせる事を僕が望む筈もなく、その夜、今の今まで秘密にしていた僕の追放された理由をベルに伝える決心をし、
「ベルが男の子みたいな格好をしている原因は僕の父親のせいなんだ…」
と頭を下げて、リーグさんが怪しい組織に居た事なども含めて説明し、
「だから、奴隷を食い物にする悪い奴隷商人は絶対許せないし、負けたくないから…」
とジャンピングキックの件で苦悩しているベルの罪悪感を少しでも減らしたくて、嫌われるのを覚悟で彼女に打ち明けたのであるが…全てを聞いた上でベルは、僕を責める事なく、
「お兄ちゃんが謝る事なんてないじゃない…」
と言ってくれ、そして、
「ボク、自分のことをワタシって言う練習した方が良い?」
などと、ケモ耳少女を狙う人攫い組織が潰れた事を知ったベルは、お母さんに言われていたらしい『お姉さんになる練習』としての第一歩を踏み出そうとしていたのである。
それから誰に教えてもらったのかは大体想像がつくが、ベルはリーグさんの肩をポンと叩き、
「仕事選びは大切だからね…リーグおじちゃん…」
と嫌々ギルドマスターをしているバラッドさんみたいなセリフを言って、リーグさんの怪しい組織の件も、
「退職出来て良かったね」
と、嫌がったり不信に思ったりせずに受け止めてくれた様子であり少しホッとしたのであった。
さぁ、そうなれば僕の心に引っ掛かっていた家族同然の仲間への隠し事は…まぁ前世の記憶だけとなった…いやこれは、
『いっぺんに伝えると情報量が…』
と考えたからであり、別に、
『人攫いの息子と嫌われた上で、頭のおかしい奴…』
とベルに思われたくないなどという保身の為…です…はい。
『明日、一世一代の大芝居をうつのにメンタルやられ過ぎたくないんだモン…リーグさんだって新事実を知って引くかも知れないし…』
などというイベントを終わらせた翌日、ヤンの野郎に贈るヤンの野郎の為だけの大舞台に主演男優として僕は、冒険者ギルドマスターであるピンチョスさんと向かったのである。
到着した奴隷商のテントでは売り物のとしてヤンに借金奴隷として買われたが、
「売れない奴はここで働いて金を返さないと…」
などと強制的に働かされている冒険者の中でピンチョスさんを知る者は、
「ギルマス…」
と驚いていたのであるが、昨日僕を気遣って「逃げろ」とアドバイスをくれた男性だけは、僕が今日もノコノコとテントに現れた事に愕然としていたのであった。
そしてテントの中でふんぞり返っている今日も大怪我風の格好のヤンが、
「おや、今日は助っ人にギルマスまで…以前言ったように冒険者達を買い戻す金を用意出来たのですか?」
と、毎日懲りずに金を集めてくる馬鹿なガキ判定の僕ではなく、ピンチョスさんだけを警戒している様子である。
しかし、今日の主演男優は僕であり、
「す、すみません…お金を持って来たかったのですが、僕の手持ちのアイテムでは、すぐにお金が用意出来ないからと冒険者ギルドで言われまして…現物をお見せして暫くの猶予を頂ける様にとギルドマスターが立会人として…」
と、ビクビクしながら理由を伝えるという迫真の演技を始めると、ヤンは勝ち誇ったように、
「だ~か~ら~、昨日も言っただろ…昨日の倍は持って来いって! でないと借金奴隷になってもらうから…あっ、そうかギルマス殿は借金奴隷に落ちるお前の見届け人か!!」
と、包帯を巻いた両手をパンパンと叩きながら大笑いをしている。
隣から漏れ出るピンチョスさんの殺気を肌で感じながらも、僕は、
「そ、そんな…これだけ有ればかなりの大金に成りますから…」
と、ゴーレムコアの入った袋を取り出しヤンの方へと差し出すと、勝ちを確信しているヤンは怪我をした設定も完全に忘れて袋の中身を確認すると、
「けっ、大金に成るって言ったから何かと思えばレアな割りにガラクタアイテムのゴーレムコアだろコレ…俺様だって奴隷商人の前は色んなモンを商ってきたから知ってるが、これの買い取りは大体小金貨1枚ってところだ…」
と呆れるのであるが、僕もだがピンチョスさんもこの言葉を聞いて、
『勝った!』
と感じたらしく、ピンチョスさんからはスッと殺気が消え、彼が、
「それでも足りないのですか…」
とガッカリしたふりをすると、ヤンの野郎は、
「あぁ、ウチ損失は大金貨二枚は貰わないとな…」
と、初めて具体的な金額を言って来たのである。
『今まで曖昧にしてきたのに…僕が払えないと確信した金額を後出しで…クソ野郎だな…』
とは思うが、ここからは仕上げの一芝居の時間であり、僕は必死にヤンにすがりつき、
「頼みます。 どうかソレの買い取りを待って頂けませんか…もうそのゴーレムコアしか僕に稼げる手段が…」
と懇願しながらわざとブンブンと揺さぶると、ヤンの野郎は、
「あぁー、鬱陶しい…離せ小僧! お前には大金だろうが、こんなガラクタアイテムでは足りないと言っているっ!!」
と、ゴーレムコアの袋を足元の僕に向けて投げつけるのだが、勿論、
「どうか、お願いします!」
と強めに揺さぶっている為に僕に当たらずに床に力一杯叩きつけられた袋の中から、
「カシャン!」
とガラスが砕ける様な音が響いたのであった。
それを聞いたピンチョスさんは、
「あーあっ(棒読み)」
と言って立ち上がり、僕も、
「こーわした、こーわした…領~主様に言ってやろっ♪」
と、歌いながら立ち上がり膝の土を払っていると、ピンチョスさんのゴーレムコア袋チェックが始まり、
「コア六つ破損ですっ!」
との声がテントに響くと、外に待機していたメンバーが突入し、この芝居はグランドフィナーレへと向かうのであった。
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