第58話 悪巧み
さて、気にくわないが僕のお小遣いを渡して今日という日は乗り越えたのではあるが、この国に示談金に関する明確なルールが有るのかすら怪しいので、あの奴隷商人の気が済むまで金を納めるのが一般的なのだろうが…
『正直、アイツの態度が気に入らないし、奴隷商人っていうのが更にマイナスだ』
という事で、ここは鍛冶師ギルドマスターであるバラッドさんの人脈を頼り、先ずはカルセルの冒険者ギルドマスターに面会して、僕がこの旅の合間にコツコツと修復したゴーレムコアで8個で幾らくらいのお金が手に入るかを相談しに向かったのである。
『金で横っ面をひっぱたいてやる!』
という浅いアイデアしかなかったのではあるが、面会したぽっちゃり系の優しそうなやや垂れ耳系のウサギ耳の冒険者ギルドマスターの男性は、
「やぁ、バラッドさん、退職されると聞きました…まだまだお若いのに…でも五十年近くお疲れ様でしたね」
などと、ニコニコ…というか糸の様な優しい目でバラッドさんと握手しながら、
「で…こちらは?」
と僕を見たのであるが、
『見た…というか見えているのかな?』
などと、あまりに細いニコニコマークの様な瞳を見ながら、
「Cランク冒険者のジョンと申します」
と頭を下げると、冒険者ギルドマスターは、
「なにナニ…困り事なのに冒険者のジョン君は、この町の冒険者ギルドマスターであるボクチンを差し置いてバラッドさんを頼ったの?」
とちょっと拗ねてしまう。
しかし、冒険者ギルドマスターは、垂れぎみのウサ耳をピョコピョコさせながら、
「まぁ、名前も知らない人間を頼りにはしないか…ボクチンは、カルセルの冒険者ギルドマスターのピンチョスだよ」
と、どこかの着ぐるみキャラクターの様に僕にも握手を求めてきたのであるが、「ボクチン」なる一人称と、「ピンチョス」という可愛らしいお名前とは裏腹に、ぽっちゃりという印象を吹き飛ばす程に握手で握ったその手はゴツゴツとした強者のソレであったのだ。
『ひぃ~、カサール子爵様に殺気を飛ばされた時みたいにゾクっとした…まぁ、こんなに大きな町の冒険者ギルドマスターになれるぐらいだから強者なのは分かるけど…ギャップが…』
と、急に緊張して萎縮する僕の代わりにバラッドさんが今回の件を説明してくれ、協力をお願いした途端に、彼のその優しい顔が急にキリッと引き締まり、糸みたいな目が見開いたかと思うと、
「奴隷商人っていうのは外町の北辺りにテントを構えているヤツだな…」
と、少し低い声で聞いてくるのである。
『ピンチョスさん…中の人の強者感が駄々漏れですよ…』
と引いてしまう僕であったが、
『あっ、アイツの名前も知らない!』
と、あの奴隷商人はギャアギャア騒いでいた割に自己紹介すらしていなかったのを思いだし、
「すみません、名前を聞き忘れましたが北側のニルバ王国側の街道に向かう門の近くです」
と報告すると、どうやら現在カルセルの町に奴隷商人はヤツしか居ない様で、冒険者ギルドマスターさんは、
「アイツは依頼を失敗した冒険者を借金奴隷にしている…それ事態は合法だから文句は無いが、強い冒険者はわざと客に売らずに手元に置いて、何年も使い潰すまで働かせ、奴隷商人の仕事を手伝わせては何かとイチャモンをつけて、罰金などと言って借金を増やして抜け出せなくしているクズだ…」
と怖い顔で教えてくれたのである。
そして、ピンチョスさんは少し穏やかな顔に戻り、
「冒険者ギルドからも頼みが…」
と、こちらに向き直ると、
「一緒に奴隷商人のヤンの野郎をこらしめて、タダ働きさせられている元冒険者達を解放させるのを手伝ってくれない?」
と、笑顔そうに見えるが1ミリも笑っていないのが分かる程の気配を漂わせながら僕らに協力を求めてきたのであった。
これを聞いたバラッドさんは、
「いや、ピンチョスさん…ベル師しょ…でなく彼の妹の件を無しにさえ出来れば…」
と、今回の問題点が、
【ベルのジャンピングキックの罪の帳消し】
の一つから、
【ヤツの手持ちの借金奴隷となった元冒険者の解放】
という追加の問題も増える事を恐れて一旦冷静になる様に提案するのであるが、既に奴隷商人のヤンを許さない事は決定している僕と、ピンチョスさんの目指す方向は一致しており、僕たちはバラッドさんの心配を他所に再びガッチリと握手を交わしヤツをギャフンと言わせる作戦会議へと話を進めたのであった。
「ちょ…ジョン君…」
と不安そうなバラッドさんではあるが、こちらには【無傷のゴーレムコア8個】なる手札があるので、
「いざとなれば、金に物を言わせて全てを買い戻して、ベルの件も黙らせる手も使えますから…」
と僕が伝えると、ピンチョスさんは、
「ナニ! ゴーレムコアが8個も…」
と驚き、運命共同体となったピンチョスさんの目の前に僕は実物を並べ、
「実は、滅茶苦茶魔力を使いますが、頑張たら修復ギフトで直せましたから…」
と、種明かしをすると、ピンチョスさんは、
「えっ! 壊れたゴーレムコアの修復は王家の修復師でも無理だったから納品は無傷な物だけなんだよ」
と、ビックリ新事実を教えてくれたのであるが、
『出来たんだから仕方ない…』
というしかなく、
『いつか直せるかも…』
と、捨てずに持っていた修復出来なかったゴーレムコアをマジックバックから取り出して、
「こんな感じで完璧に割れたり、この中に刻まれた紋様に傷が入った物は魔力が足りないのか、ギフトの熟練度が足りないのか直せませんでしたが、でも表面の水晶質の部分のヒビだけなら直せましたよ」
と説明すると、ピンチョスさんはニコニコフェイスからニヤリという表情に変わり、
「ジョン君…ヤンに金を渡して解決しても不幸になる人間が増えるだけだと思わないかい?」
と僕に問いかけ、僕は、
「たしかに、金を渡すのは癪ですが…」
と、悔しい腹の内を晒すと、ピンチョスさんは益々悪い笑顔になり、
「そうだよねぇ~、悪い奴にお金は渡したくないもんねぇ」
というと、2度程自分の顎を触り、
「ふ~む…」
と悩んだかと思うと、ピンチョスさんは、
「ところで、ジョン君は演技力はある方?」
と訳の分からない質問をしてくるのであるが、
『何やら一芝居うつのね…』
という事だけは理解できた僕は、
『二周目人生というアドバンテージの見せ所だな!』
と腹をくくり、
「披露した事は無いですが、ご希望とあれば一世一代の大芝居をうってみせますよ」
と告げる僕を見て、ピンチョスさんは再び優しい笑顔になり、
「ファ、ファ、ファ。 これはヤンの野郎は悪い相手を敵に回したな…これだけ腹が座ってたら勝ったも同然だ…」
と笑い、バラッドさんは益々話から置いていかれてしまい、
「ねぇ、ピンチョスさんもジョン君も…」
とオロオロしていたのであるが、その後にピンチョスさんから提案された作戦は、
『うわぁ…えげつない…』
とかなり引く内容であり、更にバラッドさんが、
「止めません?」
というのであるが、あれだけ優しい笑顔だったピンチョスさんがいきなり、
「おぅ、バラッドさんよぉ! 元はあんたが撒いた種の話なんだろ!?」
とドスの利いた声を出したかと思うと、再び優しい声に戻り、
「刈り取るまでが仕事だとは思わない?」
と微笑むのであった。
『いや、ヤンっていう奴隷商人が一番敵に回しちゃ駄目だったのはピンチョスさんだろ…』
と、心の中だけで思いつつ、この日、越後屋と悪代官の悪巧みの様な会議は夕方近くまで続き、
「すまないが、色々と根回しも有るから明日もう1日だけヤンにお金を渡して黙らせれる?」
と、ピンチョスさんが聞くと、バラッドさんが、
「金ぐらい私が出す」
と言ってくれたのであるが、僕が、
「いやいやポンと金を払うと、まだまだ絞り取れると思うだけだから、旅の資金用の金袋と仲間のお小遣いから銅貨メインで銀貨辺りを数枚集めて渡しておきます」
と提案すると、ピンチョスさんは僕の考えが解ったらしく、悪い笑顔になり、
「かき集めてコレだけ…って思わせるんだな…なかなか策士だなジョン君は…」
と感心し、僕は、
「いえいえ、ピンチョスさん程では…」
と越後屋風に返して二人して、
「ファ、ファ、ファ」
「グヒヒ…」
と笑い合うのをバラッドさんが、
「怖い…」
とだけ呟くのであった。
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