第3話 入学に向けて
九歳の春…僕は嬉しさのあまり躍りだしそうになっていた。
それは昨年借りていた畑が牛魔物達の良い放牧場となり、土も良い具合になったのか例年よりやや豊作気味の収穫が出来たと報告が入り、その結果を実際に見た農家さん達が自ら組合を立ち上げ、放牧する畑を持ち回り、畑を休ませる農家の方々は、牛の世話で日当が出る仕組みをベックさんが農家さん達と話し合って調整してくれたのである。
それだけでも領地の農家さんには朗報なのだが、この一年で色々な事が噛み合い父も知らない所で皆の役に立てている事が僕は嬉しくてたまらないのである。
フライドポタタから始まった揚げ物の屋台は、働き手を先の戦闘で亡くしたご家庭の奥さんを主戦力としてヒッソリと開店したのであるが、
「酒場で売れますぜぇ」
という料理人のダグおじさんの読み通りにアレヨアレヨという間に人気に火が着き、辺境伯領のあちこちから酒飲みの冒険者などが噂を聞きつけて足を運ぶまでになり、近隣の町からも
「レシピを使わせてくれ」
と要望が来ているのであるが、暫くは我が町の名産とする為にレシピ使用料よりも多少儲けが少なくなるがペアの町だけで屋台を増やして売る事にしたのだが、それでも農地改革の軍資金としては十分な稼ぎとなり、父に、
「使用人の買い出し用の魔物を飼いたいのですが…」
と言うと、
「お前が金を出すのなら好きな魔物を飼えばいい…厩舎は空いているし世話はリーグにでも任せておけ…」
と面倒臭そうに許してくれた為に、
稼いだ資金から大型の犬魔物を購入し、メリーさんが農家さんなどに伝言等のお使いに行く時は某アニメのパトラッシュタイプの荷車を装着して街乗りの小型車の様にカラコロと軽快にメリーさんの足として働いてくれている。
ちなみにブラウンハウンドという犬魔物の名前も、そのアニメからもらいパトラッシュなのだが、最近では十歳になり教会で祝福の儀を受けた者に神々から賜るギフトなる能力で、僕が少しでも良い恩恵を賜れるようにと、お使いついでにメリーさんは僕の事を教会で祈っているらしいのであるが、僕としては、ギフトなんて何でも構わないから、これから暑くなってもメリーさんが脱水症状にならないか心配だし、雪が降ったら尚の事、
「眠いんだ…パトラッシュ…」
なんて事が有ったら堪ったものでは無いし、そうでなくてもお歳的に心配である為に、
「あまり、無理しないでねメリーさん…」
というのだが、当の本人はパトラッシュとの散歩代わりに乗り回す特製荷車でのお使いが楽しいらしく、
「ジョンお坊ちゃまが学校に行かれても、学校のある領都への片道3日ほどならばパトラッシュで駆けつけますよ」
などと笑っていたのだが、彼女のバイタリティーならば本当にやりそうな為に、
『これは、ベックさんにお願いしてパトラッシュと乗れる長距離用の荷馬車も入学までに用意しないとダメかな…』
と、長距離移動手段を用意しないとメリーさんがパトラッシュと辺境伯領を西へ東へと駆け回る未来が見えて不安になるのであった。
しかし、これから領地の皆と楽しくなって来たと思った矢先、ベックさんから、
「後の事は爺や達にお任せくださり、ジョンお坊ちゃまは入学の為の準備を…」
と僕だけ仲間外れ宣言を食らってしまったのである。
しかし、それもその筈で、領地の皆が少しでも没落する我が家の巻き添えにならない様に頑張っていたが、僕が貴族社会で上手くやれないと、そもそもお話にならないのだ。
どんなギフトを授かるかも分からないが、前世の記憶というアドバンテージもあり、余程怠けない限り学業で遅れを取る事は考え難い、しかし、貴族家の男子に生まれたからには、強さも必要なのである。
裕福なご家庭であれば金で凄腕冒険者を雇ってダンジョンに潜り、
「俺は入学前に初級ダンジョンの三階層まで行ったんだぜ…」
などと箔をつけるらしいが、我が家は何せ貧乏な為にそんな箔はつけれないので、武力に関しては放牧地に牛魔物の餌や糞を召し上がりに来たスライムや虫魔物を「えいやぁ!」と鍬で叩き切る事により足腰を鍛えるのが関の山である。
しかし、本人的には十分、
『うわぁ、魔物狩りだ…放牧地でも休まずにコレを続けたら人類最高レベルに届くのでは…』
と甘い事を考えていたのだが、初めの町で最高レベルを目指すには日にちが足りなさ過ぎたらしく、いつものスライム達より強敵であるホーンラビットという大きめの兎魔物に遭遇した際に、その素早さに翻弄された僕は手も足も出ないまま太ももを角で刺されて、お弁当を持って付き添ってくれていたメリーさんの操るパトラッシュ号の荷台にて教会の治癒院に搬送されるという失態を晒してしまい、この事を知った父から、
「治療費がかかる様な狩りは控えろ…学校を出て冒険者にでもなるつもりか…」
と呆れられてしまったのであった。
貧乏ゆえのレベル上げの中止命令に、
「ホーンラビットが狩れるまで強くなれば素材を売って錬金ギルドで安いポーションなら一本ぐらい買えたのに…」
と悔しがる僕に、あの惨劇を目の当たりにしたメリーさんは、
「お坊ちゃま…あの傷は高い方のポーションでも傷痕が残るかとメリーは思いますよ…」
と言いながらも、とりあえず2日ほど自室にて大人しく過ごす事にした僕にソッと甘いお菓子を出してくれたのであった。
それからは、庭先で木剣の素振りやら前世の知識が有ってもどうとも成らない教科である王国の歴史書の読み返しやら、あとは、
「貴族には必要ですから…」
とメリーさんがダンスの手解きをしてくれたのだった。
実はメリーさんはお金持ちの商人の娘さんだったらしく、僕が入学予定の学校の先輩にあたるそうで、
「いいですかお坊ちゃま、学校では三年生から卒業となる五年生の三年間に社交のシーズンに合わせてダンスの授業とダンスパーティーが行われます…そこで意中の令嬢をメロメロにして婚約まで進めるのがイケてる男性ですからね…売れ残ってからのお見合いや縁談は…」
と、メリーさん自身も何か思うところが有るようで、
『何としても結婚相手は自分で決めなさい』
的な圧が凄いのである。
後からベックさんに聞いた話では、引っ込み思案だったメリーさんはダンスパーティーで意中の男性にアタック出来ずに、少し良い雰囲気だったその男性は、他の女性をダンスだけでなく生涯のパートナーとしてしまい、傷心のメリーさんは卒業後も実家でかなりの期間ウジウジと過ごした後に、なかば無理やり親の薦めた男性の元に嫁いだのだが、やはり上手くいかずにすぐに出戻ってきてしまい、世間体を気にした親が泣きついたのが先代の領主で、メリーさんのお父さんと親交のあったウチのお祖父さんだったのだという。
なので、彼女は同じく無理やり嫁がされて来たという僕の母とは何故か気が合い、どうしても好きになれなかった父と、その父と何処と無く似ている僕を避けて家に寄り付かない母の気持ちも少し解るのか、メリーさんは母や既に他界しているお祖母ちゃんの代理として必要以上に僕を気にかけてくれている事をこの時知ったのである。
そして月日は流れ…僕は両親に関しては少し残念だったが、周りの人々は良い人に恵まれ、十歳という節目を迎える事が出来たのだった。
貴族の子供はギフトを授かると、そこから将来に向けての勉強に移り、学校に通わない平民の子供は、ギフトを生かす為に職業を選ぶ時期である。
まぁ、ギフトにより無敵の超人になる…なんて事はなく、神々から一芸を賜る程度で、ギフトに頼らなくても努力と根性で何だって出来るらしいので個人的にはあまり期待しない様に気をつけてはいる。
たとえばベックさんは【記憶】というギフトであり、見聞きした物を鮮明に思い出せるという能力で、
「学生の頃は重宝しましたが…今となっては死んだ妻を思い出す度に涙が溢れてしまい…困ったものです…」
と言っていたし、庭師のリーグさんは【テイマー】といって魔物の気持ちを感じたり、特別仲良くなった魔物とはパートナーとして会話も出来るのだとか…何故にそんな彼が庭師なのかというと単純に花や植物が好きだという理由らしく、庭先に良く居る鳥魔物が彼のパートナーだそうで、庭木に来る虫魔物をキャッチ&イートするのが仕事なのだそうだ。
という風に微妙に役に立っているギフトもあれば、料理人のダグおじさんの様に【水魔法】などという誰もが憧れそうなギフトでありながら魔力量が少ないという欠点から、
「まぁ、皿洗いの時に水魔法の基礎である水操作を使えば洗い物の水切れが良いかな?」
ぐらいの恩恵の場合もあり、メリーさんに至っては、【打撃強化】というかなり武闘派なギフトであるが、本人も、
「洗濯物をパンパンとするのには使えますが、やり過ぎると自分の手が痛くて…」
と、使い道に困るギフトも有るようで、あまり期待しないで居る僕ではあるが、やはり心の何処かでは、
『稲妻とか出せる様になったらどうしよう…ダンジョンで名を上げる冒険者なんて未来も…』
などと思ってみたりもするのであった。
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