第141話 森の民の集落
ガーの偵察のおかげで森の民のメイン集落はアッサリ見つかった。
『この調子で地竜も見つけちゃえば…』
とも思うが、郷に入っては郷に従えともいうので、キッチリお作法に従い手土産を渡して協力をお願いしてから狩りに向かう事にしたのである。
目的の集落に入ろうとすると丸太で出来た壁の上から、熊顔の男性が、
「おっ客人とは珍しいな! この前いつもの行商が来たばかりなのに、お前さん達はどんな商品を持ってきたんだ?」
などと言ってきて、馬車の運転台からリーグさんが、
「我々は、ヤトル山脈の近くで魔物狩りをするべく参った冒険者です」
と答えるのだが、やはりというかなんというか、
「許可無き者は通す訳にはいかぬ、帰れ!」
と定型文的な台詞を先ほどとは違う渋い声で言ってきたのを運転台にて前方の警戒を担当していたバルディオさんが遮るように、
「貴殿は甘いのと塩辛いのではどちらが好みだ?」
などと聞くと、熊顔の見張り役の男性は急に最初の声のトーンに戻り、
「えっ、なんかくれるの?」
と驚きながらも、
「甘いのが良い」
と、嬉しそうに即答したのである。
それを聞いたバルディオさんは、
「カルセルの町にて購入した異国の菓子がたしか…」
とマジックバッグをガサゴソと探っている。
激甘党の我が家の鍛冶職人のバラッドさんのお土産にする為に、彼から昔オススメされたカルセルの甘いお菓子をマジックバッグに沢山購入していた僕たちは、
『帰りにまた買えるから…』
と手土産リストに加えていたのであるが、バルディオさんがナニを何個あげるとも発表する前に、見張りの彼は、
「許可、許可、今開けるから待ってて!」
とダッシュで開門してくれ、僕たちは無事にメイン集落に入れ、
『こんな感じで大丈夫?』
と少し心配になる。
そして、バルディオさんから甘党のドワーフ鍛冶師の師弟お墨付きのシロップ漬けの丸いドーナツ風の揚げ菓子の小瓶を受け取った見張り役の男性は、
「ウヒョ、こんなに良いのかい?」
などと、言いながら瓶の木製の蓋をキュキュっと外して十個ほど入ったシロップを吸い込む為に作られたような生地の丸い菓子をゴツゴツした手で器用に一つ摘み上げて、パクっと頬張ると、何故か彼はビクンと直立不動になり足先からゾワゾワっと震えが体を駆け抜けるように波打ったかと思えば、急に、
「ぴょエェェェ~!」
と聞いた事の無い奇声を上げてしまい、彼は慌てて自分で自分の口を塞ぎ、辺りをキョロキョロと見回した後に、大事そうにお菓子の瓶を抱えて、
「なんか有ればオイラに言ってくれ、他の奴には頼んじゃ嫌だよ。 オイラはペイジだ兄さん方!」
と、どうやらあの一撃で血糖値が上がりそうな激甘菓子が気に入ったらしく、専属の案内役として名乗りを上げてくれたのであった。
「見張り役は良いの?」
と聞く僕たちに熊のペイジさんは、
「あぁん、良い、良いの。 どうせ用があるなら客なら門の外で騒ぐだろうし」
などと仕事そっちのけで、
「兄さん方、こちらが長の家です」
と集落を案内してくれ、
「姉さん方にオイラが話をつけて来ますので…」
という彼に、僕は、
「姉さん方ってお家の方は何名程です?」
と、人数分のご挨拶代わりの手土産を用意しようとすると、ペイジさんは、
「正式な奥様が三名と、あとは別の集落から来ている女性が四名ばかりかな?」
などと、何やら怖い説明をはじめているのである。
『ハーレムか…ハーレムなのか!?』
とドキドキの僕はとりあえず、甘いお菓子や新鮮な野菜などを熊のペイジさんにゴソッと渡して、
「良い感じに分けてもらって下さい」
とお願いする。
するとペイジさんはニコニコしたまま動かないので、
『はぁ、分かったから…』
と呆れた僕はマジックバッグから先ほどのお菓子をもう一つ取り出して、
「ペイジさんのはここに有りますから」
と伝えると、彼はニチャ~っと微笑み、
「では、行ってきます!」
と元気に長のお宅へと入って行ったのであった。
『何とも面倒な…』
などと思いながら彼を見送った数分後にペイジさんと一人の女性が家から出てきて、ペイジさんは、
「では姉さん、オイラは見張りに戻ります」
と言って、戦利品のお菓子の小瓶を二つばかり抱えて仕事に戻り、目の前のライオンっぽい顔の女性が僕たちに、
「冒険者の方々とペイジから聞いております。 あのような沢山の品々をありがとうございます」
と丁寧な挨拶をしてくれ、僕たちを家へと招き入れてくれたのであった。
長の住む家は頑丈な洞窟の入り口に丸太小屋をくっつけた様な建物であり、いざと言う時の集落の避難所や食料の貯蔵庫なども兼ねているらしく、
「お野菜ありがとうね」
とか、
「焼き菓子なんて久しぶりよ」
などと、誰が奥さんか、誰がそうで無いかも分からない女性達がキャッキャと楽しげに暮らす丸太小屋エリアを抜けると魔石ランプが照らす洞窟エリアとなった。
そして、その広い洞窟の空間の奥には石作りの椅子があり、立派なタテガミを持つライオン顔の男性がひじ掛けにゆったりと体重を預けながら気だるそうに座っていた。
すると、ここまで案内してくれたライオン顔の女性が、
「旦那様、冒険者の方々が参られました」
と報告すると、タテガミの辺りをポリポリと掻きながら男性は渋々気だるそうに座り直し、僕たちに、
「うむ、よくぞ参られた」
と言った後に、案内をしてくれた女性に、
「ンギリの肉が有っただろ、アレを皆さんに焼いて差し上げろ」
と指示を出し、洞窟の奥には長と僕たちだけという空間になり、僕が思わず、
『今日来たばかりの僕たちに護衛もなしで?』
と長の行動に驚いていると、長はタテガミを揺らしながらガハハと笑い、
「無防備な事に驚いているようだな、客人を信頼しているという我々森の民のアピールみたいなものだ」
と教えてくれたのである。
そして長は、
「まぁ、強さで長を決める我々がビビって護衛に守られているのは舐められる原因になるからな…」
とウンザリした様に、椅子に座ったまま軽く伸びをして、
「舐められたら他の集落の猛者が長の座を狙って戦いを挑んで来てしまうからな…」
と、面倒臭い森の民の長としての宿命を話してくれたのであった。
ちなみに丸太小屋エリアの女性達は長の座をかけた決闘により相手方の集落から差し出された人質みたいな方々で、嫁に選ばれたら長から贈り物を送り出した集落にも貰えてラッキーぐらいの感覚でメイン集落に来た方々らしく、
『ハーレムだと思ってたけど何かイメージとは違うな』
と僕がライオン顔の長を眺めていると、長はタメ息をつきながら、
「解ってくれるか旅の人よ。 あれはハーレムなんて良いモノではない、あれは殆ど他の集落の有力者から送り込まれたスパイだ」
とウンザリしながら僕に、
「本当に俺の事を考えてくれている者だけを妻として迎えて他のスパイ崩れ達を監視してもらっているからなぁ…自堕落を装い洞窟の奥に籠っているのもこれ以上決闘を吹っ掛けられない様にする為でもあるんだよ」
と教えてくれたのであるが、そこで僕は、
「あれ、僕…ハーレムって声に出しましたか?」
と聞くと、ライオン顔の長は、
「あっ!」
と驚きながら、
「ゴメン、今の無し、忘れて!」
とお願いされたのである。
だが、もうこちらサイドとしては、
『あれぇ、心が読めるのかな?』
と気がついており、アル君も、
『これは、手土産のお酒を使わなくても…』
と弱みを掴んで手土産を無しにしようと考えたらしく、その考えを読んだらしい長が、
「えっ、酒は欲しいよ!」
などと懇願したのが決定打となり、長の隠された能力を僕たちは知る事になったのであった。
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