第112話 迎え撃つ準備
数年に一度有るか無いかという小規模スタンピードのタイミングでコーチャーに到着とは、なんとなく己の間の悪さに呆れてしまうが、しかし…しかしである。
『カサールを盗賊団が襲った時に現場に居たら…』
など、弱い僕が居ても何も変わらなかったとは思うが、それでも焼け出された住人の方々を見て悔やんだ夜もあった。
なのでコレは、
『スタンピード前で良かった…今からならノリスさん夫婦や娘さん達の笑顔を守れるかもしれない…』
と自分の思考を切り替えて、馬車を操るリーグさんに、
「リーグさん、ブドウパン達には後で美味しいエサをあげるから速度を上げる様に伝えて!」
と、馬車を引く馬魔物二頭にリーグさんのテイマーギフトの力で緊急事態の協力を仰ぐと、ブドウパン号は軽く、
「ブルン」
と嘶いたかと思うと、僕のお願いを聞いてくれたらしくグングン速度を上げる。
ウチの馬車から遅れだす後方の冒険者チームの荷馬車には、リーグさんが相棒のカラス魔物のガーを飛ばして道案内として、僕らは先に馬車で三十分ほど走った東の集落に到着したのである。
どうやら、集落から更に北東にある山の方角に畑を持つ住民が自宅から畑に向かい、山の異変に気がついて集落に報告に戻ったのが昼前の事であり、今は拡声魔道具で周辺の畑で作業していた住民を集落の丸太造りの壁の中に避難させ、通信魔道具にて他の村からの応援を要請し、到着した助っ人達と共にスタンピードに怯えて一緒に暴れても良い様に集落にいる牛魔物などの大型の家畜を手分けして壁の外に放牧したり、弱い鳥魔物などは鳥小屋に押し込み板などで出入口を完全に封鎖したりと、東の集落は籠城に向けての準備を整えていたのであった。
僕たちの幌馬車を見つけた皮鎧姿の住人は、
「旅の方、馬魔物ならまだ間に合うから引き返して! スタンピードが来ちまうからっ」
と叫ぶのを聞いた僕は、
「ヨシ、間に合った」
と、スタンピードを迎え撃つべく、
「ノリスさん夫婦は集落の方々に僕たちの説明と、あと数分で五人ほど助っ人が増える事を伝えて下さい」
とお願いした後に、
「助っ人に来た冒険者です」
と入り口を守る住人の方々に僕から軽い自己紹介をし、リーグさんに、
「魔物達の気配って分かる?」
と聞くと、テイマーギフト持ちが聞こえる魔物の心の声の様なモノに耳を澄ませるリーグさんは、
「やはり、遠くて正確ではありませんがどうやら北東から真っ直ぐこちらに…しかし、小規模と聞いていましたが…もしかしたらこちらに向かう道中に魔物の集団が大きくなっているかも…」
と、若い頃に出会った中規模スタンピード並みの半狂乱状態の魔物の声の数や気配を感じたらしく、僕たちに報告してくれ、
「ここに居たらブドウパン達も暴れるかも知れませんね…」
などと教えてくれたので、集落の方々に説明を終えたノリスさん夫婦に、
「幼子や妊婦さんなどこの幌馬車に乗ってもらって安全な所まで避難して下さい、馬魔物が怯えなくなるまで移動すればスタンピードには巻き込まれませんから…」
と、ダグさんとバルディオさんが荷物を降ろした馬車に乗ってもらっていると、ようやくアンドリューさん達がガーの案内で到着し、
「すみません遅れました…やっぱり中古の荷馬車ではスピードが…」
と言っていたので、状況説明はバルディオさんにお願いし、僕はマジックバッグから魔力供給魔道具を取り出し装着しアンドリューさん達の荷馬車を修復した後に、
「スタンピードの規模が思いの外大きいらしいから、馬魔物がパニックを起こさないようにアンドリューさん達の荷馬車も避難用に借りて、遠くに村人を運ぶのに使って良い?」
と、聞くと彼らは、
「勿論!」
と快く荷馬車を提供してくれ、我が家の幌馬車をノリスさん夫婦が操り、相棒のガーもスタンピードにパニックを起こす可能性がある為にリーグさんに荷馬車の運転を任せ、お年寄りなど戦う事の出来ない方々を集落から遠ざける事にした。
リーグさんは、
「すみません…テイマーギフトではスタンピードで魔物の感じる恐怖が伝わり自分も多分…役に立たないので…」
と、いざという時に僕たちの為に戦えない己のギフトを恨んでいたのだが、以前は何かとリーグさんに厳しく当たっていたダグさんが、この旅を経て色々なわだかまりが解消したらしく、屋敷で働いていた頃の様に、
「戦うだけが坊っちゃんの為じゃないぜ、住人の皆さんを守るっていう坊っちゃんからの役目を果たしてくれや!」
と、リーグさんの背中をパンと叩き、住人の方を荷馬車へと案内していたのであった。
『ヨシ、あとは魔物の群れを何とかするだけだな…』
と、かなりの集落の住民を馬車で避難させる事ができて、最悪集落まで攻め込まれても大量の死傷者を出す事は避けられそうであるが、その魔物の群れを何とかするのが一番大変なのである。
魔物のスタンピードとは一種のパニック状態であり、大型魔物に襲われて逃げ出した群れを見た他の魔物が、
『なんか逃げてるからとりあえず…』
などと走り出すという、きっかけは些細な事から始まるが、そのうち、
『何で逃げてるか分からないが…』
とか、あやふやな参加者が増えはじめ、前方の魔物を襲っていただけの捕食者まで集団になって走る魔物達を見て、
『えっ、なんかやばいの?』
と、不安になり狩りを止めて、同じ方向に走り出し、逃げ足の早い小型魔物を先頭に後方の魔物に追いかけられて逃げる魔物と、小型や中型の魔物が一斉に同じ方向に向かい走り出したので、
『あっちが安全なのかも!』
と全力で追いかける強い魔物という勘違いの負の連鎖が加速するのである。
そんなスタンピードを止めるには、集団の鼻先を叩いて道を塞ぎ渋滞を起こさせて魔物同士の衝突事故をスタンピードの中間や後方で起こさせて、事故った魔物達が痛みから我に返り解散するのを期待するか、まだ弱い魔物が中心の先頭集団を狙い、
『あちらは危ない!』
と思わせてスタンピード自体を町などから反らして安全を確保し、あとは気が済むまで魔物達にマラソンを楽しんでもらい自然解散を待つのが一般的と、学校の図書室の本で読んだ記憶がある。
まぁ、普通なら通せんぼ作戦も迂回作戦も多大な犠牲を払うのであろうが、僕は違う…いや、やっと違う側の人間になれたのだ。
『一般通過の追放者からそこら辺の駆け出し冒険者になり、現在ようやく人生2周目の転生者として物語の中心…そう、主役となる時が来たのかも知れない…』
などと自分を奮い立たせ、アンドリューさん達に僕が念のためにジャラジャラ着けていた魔合金製の身体強化アイテム等を外し、
「これ腕力強化と、速度強化に気配消しのマジックアイテムです」
と前衛の三人に渡して、時間停止機能の無い大容量のダンジョン産のマジックバッグから、
「これがファイアボールでこっちがストーンバレットの魔道具の杖の束です」
と、もしもの時の為にライト兄さんの工房から根こそぎ持ってきた売り物の杖をならべ、
『ビスティア地方の獣人族の多くは魔力が少なくて魔道具の杖が高値で売れると聞いていたから多めに持ってきて良かった…』
などと思いつつ、僕は、
「後衛のお二人が使って、残りは集落を守る兵士さんに貸してあげて下さい」
と伝えて、前衛チームにはバルディオさんに参加してもらい、後衛チームには魔力供給魔道具で遠距離から水魔法が飛ばせるダグさんを助っ人に出すと、僕は、
「土埃が舞ってるから多分魔物は北東からもうそこまで来ています、このまま南西に向かわせるとこの国の中心らしいから東に押し返すのは難しいかもしれないけど南に受け流す為に先頭集団の側面を狙って下さいね」
と伝えると、アンドリューさんが、
「前衛組より前に出られては!」
と止めるのも聞かずに僕は、
「一番最前線で群の邪魔をするから…」
とだけ言って皆に手を振り走り出し、そして、
「よし、これくらい離れたら丁度かな?」
とマジックバッグを地面に向けてパカッと開き、中の物をムンズと掴み引っ張りだすと、そこには急遽持って来る事にした初期型のカサールタイプ…つまりカサール子爵様のお下がりの拳で戦うゴーレムフレームに魔合金の装甲を追加した改修型が現れたのである。
そう、元より馬車の荷台に乗せる為に設計されたゴーレムフレームだから馬車2台分の容量のマジックバッグなら余裕なのだ。
僕は、待機姿勢のゴーレムの背中のハッチを開けて乗り込むと、起動させる為に鍵を差し込みコックピットに並ぶ指示ボタンの一つを三回押すと、鉄の塊のゴーレムに魂が宿り鉄の巨人は立ち上がる。
そしてコックピットに設置してある拡声魔道具にて、集落に向かい、
「僕が前でスタンピードを引っ掻き回すから後ろはお願いねぇ」
と告げ、これでスタンピードを迎え撃つ布陣が完成したのであった。
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