第106話 ご恩返し
現在カサールの町は建設ラッシュとなっている。
それは今年の春に王都で行われたゴーレムファイトやその後に正式に通達されたゴーレムと魔力供給魔道具についての免許制度に伴い、鼻の利く商人が集まって来たからである。
特に魔力供給魔道具については魔法師を目指す貴族や大商会の子供が通う学校からの情報で、カサールとマーチンの2ヵ所でしか生産されていない事も知られており、
『貴族が魔道具を買いに来るなら…』
と、大商会の方々が我先にと、貴族向けの高級宿の建設にのりだし、続いて高級料理店や貴族や金持ち向けの宝飾店などを出店しはじめ、そして、マーチンとは違い新型ゴーレムの生産も行っているカサールには、更に多くの商会が集まってきているのである。
盗賊に派手に燃やされてから色々あって新町を作ったりしたカサールの町は、カサール子爵様が調子に乗って壁を広げ過ぎた事もあり、本町も新町も復興したとはいえ空き地が目立っていたのだが、今ではそれも売れてしまい、まだまだ土地を求める人が集まりカサールの土地の値段が高くなる程であり、
『今、我が家の評価額って…』
と、売る気は無いが知りたくなる自分が居るのである。
さて、そんなビジネスチャンスに伴い、僕には先日やっと恩返しのまねごとが出来たジル君一家に続いて、どうしても恩を返したい人物がいる…それは、ギャンさんである。
彼は戦争で家や家族を失った方々に先祖から受け継いだ財産を切り崩しながら売れるかすら怪しいゴミまで買い取り、スラムに暮らしていた方々の生活を支え続けていたのだ。
そんな、世話焼きのギャンさんのおかげで今の僕やベルは勿論、我が家の全員が不自由なく暮らせるきっかけを作ってくれたのは間違えないので、
『次はギャンさんに儲けてもらわねば…』
と、僕は寝る間を惜しんでエルバート師匠と一緒にグロースの町のゴミ置き場から回収してきた壊れかけの魔鉱鉄の装備を修復しているのである。
ギャンさんの助けで育ったスラムの子供達の中で冒険者になった者も少なくはなく、その冒険者の若者達も、
『そろそろ修理した中古でなくて一流冒険者も使っていた物をリペアの魔法で完璧に直した新品同様の中古なら買えるだろうし、役に立つだろう』
という考えからである。
何と言ってもカサールの町の鍛冶屋は殆どゴーレム作りに参加しており、ギャンさんの店からも鉄製武器が素材として消えており、スラム出身の冒険者達の装備の更新も滞り、修理もままならない状況だったので、
『僕は恩が返せるし、スラム出身の冒険者は強くなるし、ギャンさんは儲かる…言うことなしだな…』
とナイスなアイディアであり、しかも、武器の元手は無料だし修復の為の魔石だって我が家の子供冒険者チームがレベル上げのついでに集めてくれ、それを正規の値段で子供達から買い取りしたとしても我が家全体で見れば家族が強くなった分プラスであり、しかも、エルバート師匠が、
「ジョンが魔石の代金を出すのならワシも…」
と、新型ゴーレム作りでも使った硬化コーティングを我が家の作業小屋にて僕が修復した装備に施してくれ、ここに仕入れ値無料でギャンさんの店に卸す最高級装備の山が完成したのである。
一般冒険者には正規の値段で売れば良いし、顔馴染みのスラム出身冒険者には格安で販売してもギャンさんは痛くも痒くも無い商品達を時間停止機能は無いが荷馬車2台分ほど入るダンジョン産のマジックバックに詰め込み、
「よし、これで倉庫に余裕が出来たぞ…」
と満足気に師匠と僕は、ベルも含めた我が家の女の子冒険者チームとい一緒にギャンさんの店に向かったのであった。
さて、今から何をするかと言うと、ギャンさんの店の不良在庫…というか、鍛冶職人さんや錬金術師の師匠やライト兄さんなど壊れた装備品の修復に携わっていた職人に気軽に手直しを頼めなくなり、結局積み上げられていたゴミ…いや商品を僕が全て買い取り、ギャンさんの店を職人さんが既に直した商品と、今回僕と師匠が直した魔鉱鉄シリーズのみにして、ついでにギャンさんの店を綺麗に掃除してしまう作戦なのだ。
最初ギャンさんは、
「いや、そんな悪いよ…」
などと、不良在庫の引き取りなど遠慮していたのであるが、エルバート師匠が、
「お前さんが無理して頑張っておったのは見ていた…今度は恩を返してもらう順番だと思って諦めてくれ」
と、笑いながら僕に、
「さぁジョン、ギャンの店のゴミを買い叩いてやれ、お前さんなら直して売れば元は取れるだろ…」
と指示を出し、僕は、
「はい、師匠!」
と元気よく返事をしてベル達と手分けしてゴミ…いや、不良在庫を一旦店の外に出し始めたのだが、
『これは無理だな…裏通りとはいえ道を完全に塞いでしまうぞ』
と焦り、体力ギフト持ちのターニャちゃんにひとっ走りお願いして、我が家から助っ人チームを呼んで来てもらうことにしたのである。
馬車も入らない裏通り、我が家に残っているダンジョン産のマジックバックは無く、
『こんなに不良在庫があるのならテイカーさんが居る時に来れば良かったよ…マジックバックを買い出しに持って動いてるから…』
と悔やみつつ、マジックバックの魔鉱鉄の装備を出せば不良在庫は詰め込めるが、魔鉱鉄の装備を出す場所が無く、
『せめて店の端っこだけでも綺麗にすれば…』
などと思っても、その作業すら難しい程に散らかっているのである。
そうこうしているとターニャちゃんが帰ってきたのであるが、裏路地でも入れるサイズの我が家特製の荷車部隊…そう愛犬であるパトラッシュとその嫁と3匹の子供達の計5匹には我が家のお掃除リーダーであるメリーさんを先頭になぜか新町の住人の方々を引き連れて現れ、ターニャちゃんが、
「私が急いでいるのを見たおばちゃん達がね、メリーさんとパトラッシュちゃん達の準備をしてたら、どうしたのって…」
と、話を聞いた新町の奥様達が、
「世話になってるギャンさんの店の片付けならアタシ等が手伝うから…」
となったらしく、メリーさんが、
「家ではリザさん達が待っておりますので」
と、不良在庫の我が家への搬入準備も整っていると報告してくれ、後はゴミ置き場の様なギャンさんの店からベルとララちゃんとターニャちゃんが順番にパトラッシュ一家の荷車を操り、我が家へと不良在庫を搬送し、新町の奥様方は残っている荷車に店の不良在庫を押し込みつつ、
「はい、ギャンさんも、ジョン君も退いた、退いた!」
と、僕たちを店先に追い出し、店先ではエルバート師匠がギャンさんに、
「ほれ、この犬の引っ張る荷車で幾らになる?」
と、値段を聞いて帳面に記入していたのであった。
それから新町の奥様方の勢いは凄まじく、
「ギャンさんの店ってこんなに広かったのかい?」
とか言い出したかと思えば、
「奥さん、新町の暇そうな大工を二人程連れてくるよ!」
などと言って走りだし、暫くすると、大工道具と板材を持った男性数人と現れ、男性達は、
「息子がお世話になったから商品棚ぐらい直させてくださいや」
と店内の棚を修理しはじめ、その日の夕方にはギャンさんの店は大通りの一流店の様な品揃えの店になり、エルバート師匠が、
「ここに並んだコーティング済みの魔鉱鉄の装備はワシとジョンからの新装開店祝いじゃが、こっちの棚に今から並べる魔道具の杖は、売れたらきっちり分け前を貰うからな…ワシに払う代金から今回ジョンが払う予定の金額は差し引いておいてくれ」
と、不良在庫の代金を肩代わりしてくれたのであった。
ジョンさんは、
「いや、引き取り料は…こんな沢山の商品を頂いたから…」
と言い出したが、僕も師匠も、
「それはそれ、これはこれっ!」
と言って、ギャンさんを納得させると、掃除の助っ人に来ていた奥様の一人が、
「こんなに立派なお店になったし、良い商品も入ったんだから、ギャンさん、ウチの娘を雇ってくださいな…ギャンさんの店なら娘は大喜びで飛んで来ますよ」
と、ギャンさんにお願いし、ギャンさんは、
「いや、お給料が…」
などと渋っていたのだが、奥様から、
「女冒険者なんて親としては心配だから…なんならお給料も娘を嫁にもらってくれるなら要らないから…」
などとグイグイ迫られて慌てていたのであった。
『まぁ、どうなるかは分からないが、新町でギャンさんの嫁になりたい女性は多そうだからな…この後、女性関係で揉めない事を祈るよ…』
と、エルバート師匠は息子の様に心配していたどう考えても儲かっていなさそうなギャンさんの店が生まれ変わり一安心であり、僕は受けた恩を少しでも返せた事に満足しながら我が家に帰ったのであるが、我が家にて僕は、
『これ…どうすんの?』
とドン引きする量の不良在庫達を呆然と眺める羽目になったのである。
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