ボケをスルーしてはいけない部屋
しいなここみ様の『してはいけない企画』、参加4作目です。
親友の美沙が一日だけマンションの部屋を留守にするというので、私が留守番をすることになった。
留守番とはいっても、じつはお願いしたのは私のほうだ。彼女の豪華なマンションの部屋にぜひとも住んでみたかったのだ。
「置いてあるものは動かさないでね。ゲーム機は好きに使っていいわよ。蛇口も好きにひねってね。猫とも好きに遊んで。スマホも見ていいし、オ・ナラもしていいわよ。カブトムシを放たれるのは困るけど、鏡は見てもいいし、笹門 優にツッコミ感想をつけられてもべつにいいし、ダジャレも言い放題よ」
私を連れて、美沙は部屋の中を案内してくれた。
「いい部屋ね……」
私は心からの感想を言った。
褒められて美沙は嬉しそうに微笑んだ。しかし次には険しい顔つきになると、声を潜めてこう言った。
「ただ……一つだけ注意してね?」
「え?」
「ボケに気づいたら必ずツッコミを入れて。スルーしちゃダメだからね」
「ごめん、ちょっと何言ってるか分かんない」
「このマンションの大家さんがお笑い好きでね、全部の部屋に変なシステムを組み込んでるの。その代わり家賃タダなの」
「こんなすごい部屋がタダ!? なんでそんなことになってるの!?」
「さあ? お笑い芸人でも育てるつもりなんじゃない? じゃそろそろ行くね」
美沙はまるで海外旅行にでも行くみたいな大荷物を身の回りに出現させると、玄関をすうっと出てい…く前に私は美沙の手首を掴んだ。
「待って! やっぱり帰る! なんか面倒くさそう!」
「えー、もう予約取り消せないんだってば! お願い留守番してて!」
どっちが玄関を出るか、部屋に残るかで言い合っていると不意に美沙が黙った。そして静かに頷くのを見て、私は口を開いた。
「三人目がいないから『どうぞどうぞ』出来ないじゃん!」
ピンポン☆
小気味良い音が部屋に響いた。
今ので良いの? なんか無理矢理ツッコんだ感じがしなくもないけど。
「うん、その調子! それじゃお留守番、お願いね」
今度こそ美沙は玄関を出て行った。
美沙のいなくなった部屋で、私は猫と一緒にお菓子を食べながらゲームをしたが、全然落ち着かない。
「ボケに気づいたらってことは、何かが起きるってことよね。何か違和感を感じたらツッコむだけ。頑張れ私」
緊張感と共に喉の渇きを感じ、私は冷蔵庫のドアに手を掛けて開ける…前に考える。
「冷蔵庫といえば麦茶と思わせて麺つゆの流れ、そもそも冷蔵庫と見せかけて実は大型孵卵器で『ヒヨコが孵っとるやないかーい』の流れ、他は……ダメだ思いつかない。勝負だ!」
冷蔵庫の正面に立ち神経を研ぎ澄ませる。世界に自分と冷蔵庫しか存在しないかのような感覚になり、集中力が高まったと同時にドアを開いた。中には普通の食材と、缶ビールのみ。
「ビールしかないやんけ!」
言うと同時に天井を仰ぎみる。音が、鳴らない。
「えっ、これボケじゃないの? 美沙ビールしか飲まないの?」
意外な真実を知りながらも、この際ビールでいいやと一本取り出してすぐ飲み始める。冷えたビールが乾いた喉を潤していく。
「そう言えばボケをスルーした場合のこと聞き忘れちゃったな」
飲みながら思い出したが諦めた。お笑いのシステムなら絶対に血が出たり命に関わるペナルティはないから。
……ないよね? 最近コンプラ厳しいんだからね? システムアップデートしてるよね?
少し不安を感じていると猫が足元に擦り寄ってきた。
「ご飯が欲しいの? お水はあるし、食べ物かな」
戸棚を探すとそれらしい袋がすぐに見つかった。取り出した袋には大きく犬の絵が描いてある。
「えっ! えっと、ドッグフードやんけ!」
ピンポン☆
「あぶなっ! 急に来ると焦るってば! そもそも今のはボケなの!?」
持っていた袋の絵がいつの間にか猫の絵に変わっている。一体どういうシステムなんだろう。不思議に思いつつ猫用のお皿にキャットフードを入れてあげた。
部屋が少し暗くなってきたので電気のスイッチを入れると点いてくれた。真っピンクな明かりが。
条件反射でその場に横座り。
「ちょっとだけよ〜……ってドリフかっ!」
ピンポンピンポンピンポン☆
なんだか慣れてきた気がする。人間の適応力の凄さに感動しつつ、晩ごはんの支度をすることにした。
冷蔵庫を開けて魚を取り出しまな板に置く。脇に見える包丁の取っ手を握って持ち上げると、それは包丁ではなく真っすぐな棒だった。
「ちゃらららららーん。このステッキで魚を叩くとバラバラになります……って手品ちゃうし!」
ピンポンピンポンピンポン☆
「さっきもだったけど何? ノリツッコミすると高得点とかあるの?」
・・・・・
「ってないんかい!」
ピンポン☆
ヤバい、だんだん楽しくなってきた。ビールで酔ってきたかな?
変なテンションのまま晩ごはんを済ませ、眠ることにした。
〜〜〜
玄関からの物音に気付いたが起きたばかりでまだ頭がボーッとする。たぶん美沙が帰ってきたんだろう。
「グッモーニーーン! あっ」
美沙が、何か言った気がする……すぅ…
ピッピッピッ……ブーー
バシャーーン
突然ベッドが二つに割れ、私はすぐ下の水槽に落とされた。
「!? ゴホッゴホッげほっ……」
「ごめん! 眠ってると作動しないんだけどアタシが変なこと言ったから起動したかも…」
「みーーさーーー!!」
いきなりでビックリしたけど、気持ち良い温度のお湯で良かった…………?
違和感を感じていると美沙が口を開いた。
「最後に、一言お願いします」
「〇〇〇〇〇〇〇〇!」
ピンポン☆
関西出身ではないので口調はご勘弁下さい。