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第八話 少女の歌声と狂気の神殿

~前回のあらすじ~

あきおにとって初のクエスト、ゴブリン退治。

ワクワクを胸に到着した村で、あきおはこの世界の厳しさを知る。

心の何処かにあった『たかがゴブリン』という奢りを打ち砕かれる。

 村に戻った俺達は、村長にくさ玉を回収したことを報告し、すぐにギルドに戻る……はずだった。

 しかし俺が臭くなってしまったので、村で水を浴びさせてもらった。

 もちろん水浴び程度でニオイは取れなかったが、汚れを落とせただけでもだいぶマシだ。


 感謝してくれる村の人達をあとにして、俺達は帰路についた。


「家畜が半分もやられちゃったって言ってたな。これからまた大変だろうな。」


 ゴブリンの群れも天災のようなものだと思えば、俺達の世界でもそういう理不尽は存在する。

 しかし、だからといって『仕方ない』で済ませるには、俺もまだ人間ができていない。



 ギルドの街、グラントールへの帰り道、ミオは先頭でカートを引きながら歌を歌っていた。

 聞いたことはないはずだが、いつかどこかで聞いた気がする。そんな歌。

 ミオの元気で可愛らしい声は、俺の落ち込んだ心を癒やしてくれた。

 そんな妹を、ミアは優しく見守っている。



 俺達3人はそれぞれに一休みしたあと、ギルドに報告に行った。

 俺は初めての冒険者ギルド訪問にワクワクしながら姉妹のあとについていく。


 冒険者ギルドはグラントールの町の中央広場、噴水を囲む建物の中でも一番大きい。


 入口の大きな扉を開けるとロビーがあり、4人がけのテーブル席が2つ、壁際には長椅子が置かれている。

 正面には受付のためのカウンターに窓口が3つ。それぞれ受付嬢が冒険者の対応をしている。

 向かって右には掲示板があり、そこにたくさんの依頼が貼り出されている。

 カウンターの左側には上階への階段があるが、入口はロープで簡単に封鎖されている。

 更に左側は壁で仕切られており、出入り口としてサルーンドアが設けられている。

 ドアの向こう側は酒場のようで、料理のいい匂いと少しの喧騒が聞こえてくる。


 俺とミオは壁際の長椅子に座り、ミアが報告を終えるのを待っていた。

 ミオはいつものように背筋を伸ばしてちょこんと長椅子に座っている。


 視線を正面に移すと色々な冒険者が出入りをしている。

 掲示板の前で腕組みをしているデカい男は、バイキングのようなイメージの角が生えた帽子だか兜だかをかぶっている。

 あっちの長椅子では痩せた目付きの悪い男が行き交う冒険者を上目遣いに見ている。

 4人がけのテーブル席の一つにはパーティーらしい4人組が座っており、地図を広げてなにかを話し合っているようだ。

 冒険者たちの対応をしている受付嬢はみんなレベルが高い。こうでなくてはな。


 飽きもせずにギルド内を眺めていると、ミアが戻ってきた。


「報告して報酬を受け取ったわ。それと、例の神殿の調査について詳細を知りたいってお願いしたの。そうしたら、2階の応接室に行くようにって。行きましょう?」


 俺達3人はロープを外して階段を上がる。

 なんだか特別感もあるが、少しヤバいことに手を出したのではという不安もなくはない。

 しかしミアが平然としているし、ミオは元気よく歩いているので、なんだか少し安心する。


 応接室に入るとそこは意外と狭く、緑を基調にしたソファセットが置かれていた。

 テーブルの向こうには初老の男性が座っていたが、俺達を見ると立ち上がり、


「おかけなさい。」


 と、椅子を勧めてくれた。


 ソファに座った俺達は一様に柔らかすぎるクッションに驚いたが、ミオは体が沈み込むのに驚いて、


「うわっ……」


 と、小さく声を上げた。慌てて姿勢を直すミオに、ギルドマスターは優しく笑いかけた。

 すぐに女性がお茶を持ってきてくれて、なんだか普通にお客さん扱いだ。


「わたしはギルドマスターの、マルセロだ。」


 そう言ってギルドマスターは俺達一人一人に握手を求めた。

 中肉中背といった感じの男。冒険者の中にあっては、むしろ小柄に見えるだろう。


「君たちが白鍵はくけんの神殿の調査に興味があると聞いてね。」


 なんだか嫌な予感がしなくもない。


「この調査依頼の現状を、なるべく包み隠さず伝えておこうと思っているよ。」


 ギルドマスターはそう言うと、お茶を一口飲んだ。


「なるべく詳しく聞かせていただけるとこちらも助かります。」


 ミアはまったく動じていないようだ。

 ミオは柔らかすぎるソファのすっごい端っこに腰掛けて、やはりいつものように背筋を伸ばしている。


 俺はというと、応接室に飾られているものが気になって仕方がない。

 剣と盾を組合わせた装飾品や、大きな地図。なにかの角の一部のようなもの。

 そして、まるで鏡で装丁されているようなピカピカのゴツい本が目に付く。

 この世界のものは、いくら眺めていても飽きない。

 ミアやミオは全然気にしてないようだけど。


「まず、この依頼が持ち込まれたのは、ほんの2週間ほど前なんだ。」


 ギルドマスターは神殿の依頼について話し始めた。俺もキョロキョロしている場合ではないと、改めてギルドマスターに目を向けた。

 この世界に無知な俺は、なるべく無口な人になっているつもりだ。


「神殿を調査して欲しいという漠然とした依頼だが、報酬が悪くないのですぐに引き受け手があった。」


「そうですね。正直言って、私も報酬を見て興味を惹かれました。」


 ミアが率直に話す。ギルドマスターは頷くと、


「最初に向かったパーティーからの報告は、『近づくと目眩や吐き気がひどく、とても神殿の中心部には行けない。』というものだった。」


 この前ミアに聞いた話と同じ感じだ。


「神殿に近づいただけでそんなことがあるのか?と考えたが、その旨、注意を喚起して、次のパーティーを派遣した。しかし結果は同じだった。」


 2つのパーティーが同じ異常を訴えたのなら、何らかの原因があるのだろう。


「ギルドとしても『なにかの異常はあるが、何もわかりません。』ではな。メンツというものもある。」


 それはそうだろうが、本当に正直に話すんだな。


「そこで、報奨金を上げて、実績のあるパーティーを送ったんだ。そこで事件が起きた。」


 ギルドマスターは少し身を乗り出した。


「パーティーの一人が一時的に錯乱してしまい……まぁ、端的に言うと、仲間を殺してしまったんだ。」


 ……俺達は誇張された話だろうと思っていたが、この一番ヤバい部分は事実だったようだ。


「そういうわけで、未だにほとんど何もわかっていない。起こったことを考えると、リスクも高い。」


「錯乱は『一時的に』とおっしゃいましたよね。すぐに治まったということですか?」


 ミアの冷静さには救われる。


「神殿を離れたらすぐに正気に戻ったと聞いている。」


 ギルドマスターは声を低くして、


「しかし、ギルドの体面だけでこのまま危険な依頼を続けていくわけにもいかない。次のパーティーでなにもわからなかったら、この依頼は取り下げて神殿を封鎖するという話になっている。」


 冒険者を守るという立場もあるだろうから、賢明な判断だと思う。


「うーん……精神を乱すなにかが神殿にあるということ……でしょうか。でも、まったく原因がわからないというのは……」


 ミアはこの世界に魔法なんてないと言っていた。マナを使ってこんな精神汚染のようなことができるのだろうか?


「原因はわからないけど、白鍵の書だけは取り出さないとだめじゃない?」


 黙って聞いていたミオが口を開いた。

 たしか、その神殿にある魔導書って言ってたよな。


「できればそうしたいが、そのために何人もの冒険者を犠牲にはできない。」


 それもそうだ。


「お姉ちゃん、行ってみようよ。」


 ミオはやる気のようだが、だいじょうぶなんだろうか?ゴブリン退治とは比べ物にならないヤバさを感じる。


「パーティーのリーダーは君のようだが……どうするね?これは強制するものではない。断っても君たちになんの不利益もないことを私が保証しよう。」


 この人は信用できそうだ。もちろん断るのも全くありだ。ミアの判断に任せよう。

 ミアは顎に人差し指を当ててしばらく考えていた。そして、


「引受けさせていただきます。ただし、3日ほどの猶予をください。今回の依頼に挑むにあたって、大切な魔導書を取りに行きたいのです。」


 ミアの要望にギルドマスターは、


「ああ、問題ないよ。くれぐれも気をつけてくれたまえ。」


 そう言ってミアと握手をかわした。


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