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第四話 時計塔と異世界の扉

~前回のあらすじ~

あきおとミアは、ゼルヴァという男に出会うもミオの奪還に成功する。

ミアとこれからのことを相談するが、マナのないこちらの世界に長くいるのは無理そうとわかる。

そしてやっとミオが目覚める。

「お姉ちゃん……おはよう……」


「ミオ!おはよう!体は大丈夫?」


 ミアが嬉しそうに話しかける。ミアの話ではおそらく薬で眠らされているんだろうということだったが、正確な状態がわからなかった。

 目が覚めて一安心というところだろう。


「ここは……?体がおかしいっていうか……マナが……」


 妹のミオはだいぶ弱っているように見える。やはりマナがないと彼女たちは辛いようだ。


「説明がむずかしいんだけど、ここは安全な場所。安全なんだけど、ここにはマナがないの。」


 ミアも調子悪いって言ってたけど、ミオの方はだいぶ不味そうだ。早いところあっちの世界に行ったほうがいいだろう。


「あんまりのんびりしていられなさそうだな。またあっちに行くためのゲートを作るから、まず場所を決めよう。」


 ミアに言うと、ミオがこちらをじっと見ている。


「この人はだいじょうぶ。あなたを助けるのを手伝ってくれたの。」


「俺はあきお。よろしくな。」


 ミオは姉の顔と俺の顔を交互に見ている。

 ミアが微笑むと一応安心したようで、


「あ、ありがとう。」


 礼を言ってくれた。



 早速ミアとモニターを眺めながらゲート設置の相談だ。

 その間にミオにスープを飲ませる。スープっつっても粉をお湯で溶かすだけのやつだが、意外と美味いしあったまるからいいだろう。


 またあっちだこっちだ言いながら、不可視のドローンのような観測装置を隣町まで移動させる。

 隣町と言っても徒歩だと1時間くらい掛かりそうだ。


 途中でスープを飲み終えたミオがやってきて、興味津々で作業を眺めていた。

「なんか魔法みたいね!」

 ミアも最初、そんなこと言ってたな。


 隣町までは街道に沿って移動したわけだが、徒歩や馬、馬車といった手段で移動している人たちを見かけた。ホウキに乗ってビューンみたいなものは、今のところは見ていない。


 ゲートはどこにでも設置できる便利なワープアイテムと言えなくもないが、設置には10分程度かかる。その間安全で邪魔が入らない場所という条件がある。これが意外とむずかしい。


 隣町はミアたちの住んでいた町よりも少し庶民的に感じた。

 高級とか安っぽいという意味ではない。たとえば、ショッピングモールと商店街の違いみたいなもの。活気があって、人の顔が近くて、なんだか懐かしいような雰囲気がある。


 そんな中、通り沿いの店先にフルプレートの鎧が飾られているのを見て、俺は一人でテンションが上がってしまった。

 あっちの世界に行ったらじっくり眺めてこよう。


 目当ての宿屋は町の中央、噴水を囲んだ広場の一角にあった。

 放射状に道が延びていて、その中心に立つ噴水がこの町、『グラントール』のランドマークらしい。ちなみにミアたちの家がある街は『アルノーラ』というそうだ。


 宿屋の向かいには、ひときわ目を引く大きな建物があった。これが冒険者ギルドらしい。


「なるほどな。結構人通りがある場所だな。ゲートを設置する場所が難しそうだ。」


 日が高い時間帯だがグラントールの町には活気があり、ゲートを設置する時間、約10分程度の安全を確保するのがなかなか難しい。


 宿屋や冒険者ギルドがある噴水の周りに観測装置を飛ばして見て回る。

 そこで俺はある施設に目をつけた。冒険者ギルドに隣接して建っている時計塔だ。


 高さはギルドの建物よりも少し高い程度。特に華美な装飾などはなく、町の人達の日常に溶け込んでいる、この町の風景の一つといった雰囲気の建物だ。


 時計塔ならば、時計さえ動いていれば人が入ってくる理由もないだろう。


 観測装置で時計塔の中を確認する。


 石造りの壁は飾り気のない灰色で、ところどころ苔が生えている。木製の螺旋階段に沿ってゆっくりと観測装置を登らせる。

 中央には金属の支柱が立ち、部品の多くは木製に見える。中程の高さに、踊り場のような場所があり、そこに工具箱が置かれていた。

 更に登っていくと最上部に出る。広場の噴水、そして、そこから伸びる放射状の道がよく見える。

 木製の部品が時を刻む『コトリ、コトリ……』という心地よい音が響く。


「ここがよさそうだな。時計も問題なく動いているようだし、人が来る理由もないだろう。」


 ミアの賛同を得て、俺はここにゲートを設置した。


 設置は問題なく完了し、3人仲良く手を繋いで異世界へ……とはいかなかった。

 俺にはミアの装備を持っていくという苦手な力仕事が待っていた。


 鎧と鎖帷子をロープで一纏めにして、剣を掴んで引きずる。顔を真赤にしてがんばる俺の腕をミアが掴み、ミアとミオは手を繋いでゲートを通る。


 なんとかくぐり抜けると俺は尻餅をついた。まったくかっこがつかないことこの上ない。


 時計塔の中は思いの外ひんやりしていて心地よい。


 姉妹がマナを得て体調が戻るまで待っていようと思ったが、ミアはすぐに動き出した。

 軽々と鎖帷子くさりかたびらを身につけると、鎧のパーツを慣れた手つきで装着していく。そして剣を持った姿は紛うことなき異世界の剣士だった。かっこいい。


「ありがとう。ミオの体調もすぐに戻ると思うわ。」


 ミオの方はまだ少し調子が悪そうだ。マナのせいだけではなく、眠らされていたときの薬の影響もあるかもしれない。


「まずは宿屋かな?この世界のルールはわからんから、ミア頼むよ。」


「うん、もちろん。でもその前に……あきおのその服装はちょっと目立っちゃうかも……」


 Tシャツにジーンズにスニーカー。近所のコンビニにでも行く雰囲気だ。

 確かにこの世界でこんな格好してるやつはいないだろうなぁ。


「ちょっと待ってて。」


 ミアが螺旋階段を降りて、時計塔を出ていく。



 残された俺は、ゲートを閉じながらミオと少し話してみる。


「体調はどうだ?こっちに来たら少しは楽になるのか?」


 大きな時計の構造を興味深げに眺めていたミオはこっちを見ると、


「ありがとう!助かったわ!調子はもうだいぶいいから安心してちょうだい!」


 思いの外元気がいい。もしかして普段のミオはこんな感じなのか?


「お、おう、よろしくな。」


 このミオの変化を見て、彼女たちには本当にマナってものが重要なんだと改めて実感した。


「なぁ、なんで貴族に捕まってたんだ?」


「うーん、お姉ちゃんがいるときに詳しく話すけど、よくわからないの。」


「そーゆーもんかー」


「そーゆーもんねー」


 こんな会話をしていたらミアが戻ってきた。


「はい、これ。一応ごまかせると思うの。」


 ミアは茶色くて薄い革製のフードのようなポンチョのようなものをくれた。RPGの盗賊なんかが着ていそうなやつだ。


「おお、ありがとう。」


 ミアに礼を言って羽織ってみる。が、自分ではどんなあんばいかよくわからない。


「どお?いけそう?」


「羽織るだけでフードは外したほうがいいね!なんだか盗賊みたい。」


 ミオが面白そうに笑っている。


「そっか、じゃあこんな感じでいくか。」


 俺はフードを外して顔が見えるようにした。


「これならだいじょぶそう。」


 と、ミアからも言われ、この世界で人前に出られそうな出で立ちになった。




 俺達一行は宿屋に向かった。まずは部屋をとって拠点を確保だ。といっても俺はこっちの常識がわからないのでミア頼みだ。


 宿屋の建物は木が多く使われており、年季の入ったいい色をしている。木の床を踏む足音もいい感じだ。


 受付の横には階段があり、二階の客室にいけるようだ。その向こうにはテーブルがいくつか見える。テーブルの上には調味料の容器のようなものが見えるので、たぶん食堂なんだろう。ここでの食事も楽しみだ。


 宿の受付は簡単なものだった。ほとんどイメージ通り、宿帳を書いてお金を払う。鍵をもらっておしまい。


 俺達が通されたのは二階の奥まった部屋だった。やっと落ち着いて話ができると思ったが、ミアは先にギルドに行くという。


「ちょうどいい依頼があるか見てくる。それと、情報収集もできたらと思うの。」


 この世界ではミアたちが頼りだ。俺とミオは見送ると、また話を始める。


「ミオは姉ちゃんみたいに鎧とかつけないのか?」


「あたしは知力で戦うの!お姉ちゃんみたいな大きな剣は持てないし、鎧もいらないわ。」


 知力で戦うってなんだ?


「ミアは明らかに剣士っていうか、パワーが尋常じゃないタイプに見えるけど、ミオは知力でって、どうやって戦うの?」


 俺の質問にミオは少し考えているようだ。


「そういえば『マナが使えない』って言ってたわね。使えないだけじゃなくて、マナのことについて本当に知らないのね。」


 本当に何も知らない。そのとおりだ。


「知っていることといったら、マナの力でミアはあのとんでもない力を得ているってことくらい。あとはわからん。」


 知らないものはしょうがない。見栄を張ってもなんの得もないので素直に答える。


「ちょうどいいから、簡単にマナのことを説明するわ!」


 ミオ先生のマナ講座が始まる。

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