第三話 妹救出と二つの世界
~前回のあらすじ~
美少女ミアにドキドキしながらも、貴族の屋敷で妹を発見する。
しかし簡単に救出とはいかない雰囲気。
囚われのミオを肩に担いで部屋に戻ってきたのは、長身の男。
整った身形だが、特に武器は持っていないように見える。
「ゼルヴァ卿……なぜこんなところに?」
どうやらミアの知り合いのようだ。
「うん?お前は?……待てよ、どこかで……」
どこか冷たい印象の男は記憶を探っているようだ。
俺は小声で聞いてみる。
「おい、知り合いなのか?敵なの?」
ミアはゼルヴァ卿という男から目を離さずに答える。
「王族の親衛隊に所属している人よ。敵かどうかは……」
王族の親衛隊って要人のSPみたいなもんか?なんか強そうだ。
ゼルヴァもミアを思い出したようだ。
「たしか、守備隊にいた女だな?その大剣に見覚えがある。」
は?!こんな美少女相手に、大剣の方を覚えてるとかありえない。
「……なぜここにいる?この階には誰もいないはずだが。」
「その子は私の妹です。お返し願いたい。」
ミアの言葉に、ゼルヴァは少し意外そうな顔をした……ような気がした。
「なるほど。少し質問を変えよう。どうやってここに来た?入口は封鎖していたはずだが。」
どうやら侵入できるはずのないところにいる俺達を警戒しているようだ。
それはそうか。
「俺は魔法使いだ。あんたの知らない魔法が使える。その子を返してくれれば大人しく帰るがどうする?」
思いつくままハッタリをかましてみた。まぁ、この世界の人間が使えないであろう技術が使えるのは本当なので、ギリギリ嘘ではない。
ゼルヴァは少し考えて、
「……いいだろう。今回は退いてやろう。ただし、これは始まりにすぎない。心しておくことだ。」
特になにかしてくる感じではないが、威圧感がすごい。しかしこれ以上牽制し合うことは望んでいないようで、ミオを肩から降ろすとミアに預けた。
「……ありがとう。」
ミアは大切な妹を受け取ると、そっと肩に担いだ。
俺はゼルヴァを警戒しながら部屋の中に入ると、ミアの手を引いてゲートに駆け込んだ。
研究室に戻ってくると、『ゴトトン……』と、己の重量を主張する音が響き、ミアの大剣が転がった。
ミオを抱えてよろよろと倒れそうになるミアを支えて、ミオを受け取る。
彼女に触れるといちいち柔らかくてドキドキしてしまう。
なんとかミオを背中におぶると、今度はミオの小さな胸が背中に当たってまたドキドキしてしまう。
健康な男だからしょうがない。男なんてこんなもんだ。勘弁して欲しい。
とにかく、隣りにある仮眠室にミオを寝かせることにした。
仮眠室と言っても、今は俺しかいないので、粗末なベッドの周りに漫画だのカップ麺の空いたやつだのが転がっていて女の子に見せられたものではないが、そうも言っていられない。
ひとまずミオを横たえると、大きく息をつく。
「ぶはー……おっかなかったー」
ミアはクスリと笑うと頭を下げた。
「ありがとう。おかげでミオを助けることができたわ。」
正直、口からでまかせのハッタリをかましただけで、大したことはしていない。
「うん、まぁよかったよ。それでさ、聞きたいことがあるんだけど……」
疑問はいくらであるが、まずは特にヤバそうなあの男のことだ。
「あいつはなんなんだ?正直かなりヤバそうだったけど。」
ミアは優しい姉の顔で、未だ眠っているミオの手を握っている。
「彼はゼルヴァ。王城の親衛隊の一人で、剣も魔法もかなりの腕前って聞いてるわ。彼に憧れているっていう兵士が守備隊にも何人かいたから。」
「んで、アイツは敵対してるのか?」
ミアは顎に人差指を当てて考えている。これは彼女のクセなのか。可愛らしくてよい。
「よくわからない。そもそも彼があんなところで何をしていたのかもよくわからないし……」
「あの貴族の手下じゃないの?」
俺が聞くと、ミアはちょっと驚いた表情で、
「彼は王族の親衛隊よ。地方の貴族に仕えるわけがないわ。」
そういうものなのか。じゃあ、あんなとこで何していたのか、本当に謎だ。
「そっか。一応要注意人物ってわけだな。」
「そうね……彼が最後に言っていた、『始まりに過ぎない』っていうのも気になるし。」
そういえば何か言ってた気がする。
「これ以上アイツのことはよくわからなそうだな。ミアたちはこれからどうするんだ?」
あのへんを仕切ってた貴族の屋敷に殴り込んで、親衛隊のヤバい奴と揉めたとなると、あっちの世界では肩身が狭そうだとなんとなく想像してみる。
「うーん……そうね……」
また顎に人差し指を当てて考えている。
「なんならこっちにいてもいいぞ。俺はそれなりに高給取りだから、居候の二人くらい養える。」
実際、俺の仕事は国家機密レベルの中身で、本当はこんなことをして遊んでる場合じゃない。
「うん……ありがとう。ミオが目を覚まして、少し落ち着くまでお世話になってもいいかしら……?」
「もちろん。部屋はけっこう空いてるからな。」
今はこの研究施設の中でも、俺しか居ないこの『観測棟』。空き部屋はたくさんある。
「ベッドはこんなヤツしかないけど、勘弁してくれ。」
仮眠用のベッドはたくさんあるが、あの貴族の屋敷で見たものとは比べ物にならない。
あれがあの世界のスタンダードに近いとしたら、これでは不満かもしれない。
「ううん、十分よ。ありがとう。」
ミアがニコリと微笑む。
翌日、ミアが真剣な面持ちで
「相談がある。」
というので、聞いてみた。
「気を悪くしないでほしいんだけど……こちらの世界にいると、体調が悪くなってくるみたい。」
曰く、その理由はマナにあるという。
「この世界がイヤとかじゃないの。こっちの世界にはマナがないでしょう?」
そう言われても俺にはわからないが……
「まぁ、ミアを見ているとそんな感じだな。悪いが俺にはマナがわからないんだ。」
「あ、そうか。それでね、どうやらマナがないと私達は体調が維持できないみたいなの。」
たしかに、ミアがこっちに来たとき、パワーが大幅に弱体化しているようだった。
普通の女の子程度になっただけと思っていたが、その普通は『こっちの世界での普通』であって、ミアたちにとっては異常な状態なのだ。
「なるほど。まぁ、わからなくはないよ。そうすると、こっちにあまり長く居られないってことだな。」
「うん。状況的には元の世界は危険ではあると思うんだけど……あなたはあっちの世界でなにも感じなかった?」
たしかに、逆に俺もあっちへ行ったらなにか変化があっても良さそうなものだが。魔法が使えるとか。
「残念なことになにも……」
俺が鈍感とかそういうことではないことを祈っている。
「そっか。それならよかったわ。」
ミアがニコリと笑う。その笑顔がずるいんだって。
「じゃあ、あっちへ帰るとして、どこへ戻ったらいいんだ?ミアたちの家に行ってもだいじょうぶなのか?」
ミオがさらわれたわけだから、大丈夫とも思えないが。
「うーん……ちょっと考えてみるね。」
ミアは顎に人差し指を当てて考え始めた。
「当面家は危ないと思うの。でも家には大事なものもあるし、なるべく早く取りに行きたい。」
「なるほど。うーん、どうしたもんか。」
「一度、隣町の冒険者ギルドの近くに宿をとろうと思うんだけど。」
唐突に出てきた!『冒険者ギルド』だと?キタコレ!ファンタジーの王道じゃないか。
「お、おう!いいなそれ!」
「そ、そう?家に戻れないと生活費もないから、ギルドで依頼をこなして生活する。で、家の様子もたまに見に行くような感じで。」
俺の反応にミアは若干引き気味だったが、しょうがない。ファンタジーなんだから。
「あ、冒険者ギルドっていうのは、色々な依頼を冒険者に斡旋する場所。剣の腕には自信があるから、生活費を稼ぐくらいは問題ないと思う。」
「うんうん、俺も手伝うよ。」
そう言ってから思ったが、戦力的には当てにならない。俺。
しかし情報を探ることはできるだろうし、ゲートを開いておけばいざってときに逃げられる。
せめて銃でもあればと思ったが、この平和な国では手に入らない。
スタンガンでも持っていくか……あっちの人間に効くのかな?ミアで試すわけにもいかないしな……
そのときベッドから声がした。
「お姉ちゃん……」
ミオが目覚めたようだ。