第二話 消えた妹と魔法のモニター
~前回のあらすじ~
ファンタジーがしたくて平行世界に行ったあきお。
ミアという女剣士に襲われる。
色々あって彼女の妹を助けることに。
と、いうことで、現在あちらに置いてある『観測装置』を動かそうとしているわけだが、ミアが小屋をぶっ壊した衝撃で位置がずれたらしく、どっちを向いてるのかもわからない。
観測装置がある空間に強い衝撃が直撃するとこんなことがおきる。物理的に干渉するはずはないので、なんでかはわからんが、以前にも一度あった。
「一応それなりに、自由にあっちの世界を見て回ることはできるから、妹さんの居場所を探すことはできると思う。」
ミアは怪訝そうな顔をしている。
「私は警戒されているから、盗賊団や……下手すれば自警団に見つかるのもまずいかもしれない。あまり自由に探し回るのは難しいと思う。」
そんなんでどうやって助けるつもりだったんだ。でもまあ必死だったんだろうな。
「実際に体で動き回るんじゃなくてな……えっと……これを見てくれ。これ、どこかわかるか?あの小屋の近くなんだが、街道がどっちにあるかわかれば……」
モニターを示してミアに見せる。
解像度が低く少々ぼやけた映像だが、地元ならわかるだろ。
「これはなに?魔法みたい……」
彼女は目を丸くしている。
俺からするとミアのほうがよほどファンタジーな存在だが、あちらから見るとそんな感じに見えるのか。
「んー、まあそんなもんだ。んで、わかるか?」
説明するのも面倒だし、今は魔法でもなんでもいいだろう。
「そこに獣道が見えるから、もう少しこっちの方が見えれば……」
ミアが身振りで方向を示そうとがんばっている。
夢中でモニターに顔を寄せているミアのいい匂いがしてドキッとする。が、ミアの方はそれどころではないらしい。 それはそうだ。
「えーと……こんな感じか?」
なんとか観測装置の向きを変えてみると、
「あ、こっち……えっと、こっちのほうに小屋があって、こっちの方に街道があるはず。」
ミアは身振りで方向を伝えると、デスクに手をついてハァハァとしんどそうにしている。
「その鎖帷子みたいなの脱いだらどうだ?重いんじゃないのか?」
ミアは軽く目を見開くと、
「あ、そうね。うん。」
と言って脱ぎ始めた。が、それなりの重量があって苦労している。
きっと普段はシャツと変わらないような、気にするほどの重さのものではないのだろう。手伝ってやって脱ぐことができたが、これだけでも10キロくらいありそうだ。
そして革製のシャツ?だけになった彼女を見ると、途端に『女の子』を意識してしまった。硬い鎖帷子を着ていたときには感じなかった、女の子特有の柔らかさを感じてしまうのだ。
「これならだいぶ楽。ありがとう。」
素直にお礼を言われるとよけいドキドキしてしまう。我ながら呆れた純情ぶりである。
「ゴホン……えーっと、こっちの方だな。お、街道があったぞ。」
するとまたミアが顔を近づけてくる。いい香りがする。
「あ、こっちのほうが町の方。」
また身振りで方向を示そうとがんばっている。すると彼女の胸が……フルフルと揺れている。巨乳と言うほどではなく、程よい大きさの……
いやいや、落ち着け。今はそんな場合ではない。
「盗賊団ってのはどこにいるんだ?いや、それもどうでもいいのか。妹さんはどこにいるんだ?それさえわかれば、あとはどうでもいいんだよな。」
「たぶん盗賊団のアジトのようなところだと思うんだけど……もしかしたら黒幕の貴族の屋敷とかなのかもしれないけど……」
なるほど、どこに攫われたのか、はっきりわからないのか。まあそりゃそうか。
「見ての通り、これはわりと自由に動かせるんだ。ちょっと操作が難しいけど。これ自体は視覚的に見えるものではないから、例えば人混みの中を動かしてもバレたりしない。」
「そうなんだ……」
「だからこれでまずは心当たりの場所を探して見つけるところからだな。」
「なるほど。」
「見つかればそこにゲートを作って妹さんを連れてくれば一旦は安心だ。」
「わかったわ。」
『魔法』に関する理解が早くて助かる。
「それならまずは貴族の屋敷を探したほうがいいかな。盗賊団のアジトはどこにあるのかよくわからないの。だから盗賊を捕まえて教えてもらうのがいいと思ったんだけど。」
俺を襲ったのはそういうことか。教えてもらうにしては殺意が高すぎるだろう。
「ま、まあ、それなら貴族の屋敷を目指してみるか。俺は全く知らないから案内してくれ。」
そして操作に苦労しながらも、ミアの案内でなんとか屋敷にたどりついた。
「……デカいもんだな。地方の小貴族って言ってもすげーんだな。」
「そうね。私たちのような一般の市民とは比べ物にならないけど、貴族としては小規模な方よ。」
まじか。貴族すげえ。
デカい門があって、門番みたいなのが槍を持って立っている。そして周りはそれなりの塀に囲まれてる。どこまでが屋敷なのかよくわからん。中に見える建物もすげえんだけど、そこまでそこそこ距離があるのがまたスゴイ。
「じゃあ正面のあの建物にいくぞ。」
「うん。」
屋敷の中に入り、部屋の中を見て回る。観測装置は壁などの障害物も貫通できるので探しやすくはある。貴族の屋敷は中の作りもやたら豪勢でスゴイ。そして部屋が多い。こんなにいらんだろ。
あっちだこっちだ言いながら探し回っていると、三階でついに妹を発見した。デカいベッドの上に横になっている。手足を拘束して逃げられないようにされているっぽいが、パッと見は乱暴されたとかそんな感じには見えない。
黒髪をツインテールにしている。ミアよりも小さいようだ。身長とか……色々と。
そして、ミアのような武闘派ではないようにみえる。
もっともミアも黙って眠っていれば、あんな剣を振り回すようには見えないので油断はならないが。でもミアのパワーならあのくらいの拘束はぶっ壊しそうだ。わからんけど。
「ミオ!いた!いたわ!」
ミアがめっちゃ興奮してる。とりあえず見つかってよかった。
ミア、ミオか。姉妹だとわかりやすい名前だ。
「ミオっていうのか。眠らされてるのかな?ちょっと心配だな。」
俺がそう言うと、ミアは解像度の低い画面を食い入るように見ている。
「じゃあこの部屋に『ゲート』を作るぞ。ちょっと待っててくれ。」
「うん、お願い、急いで……」
ゲートの設置には場所にもよるが10分くらいかかる。そして、一往復で消えてしまうため、ある程度誰にも干渉されない場所が望ましい。
今回は行ってすぐ帰って来るから問題ないだろう。ゲートを設置している間は、あっちの様子も見えない。ミアが心配そうにしているが、大人しく待っててもらうしかない。
設置している間にミアに説明する。
「あっちに行って連れてくるだけなんだが、必ず手を繋いで一緒に入ってくれ。一応俺も行くから、帰りは三人でお手々繋いで帰ってくることになる。」
「うん、わかった。」
ゲートが稼働する条件が正確にはわかっていないが、「ある程度以上の大きさの生体が通り抜けたとき」という感じっぽいのだ。ある程度っていうのは、おそらく中型犬とかそのくらい。
で、生体が通り抜けると消えてしまう。だから逆に言うと、生体が繋がっていればいいわけで、お手々繋いで通ればだいじょうぶなはず。たぶん。
「なぁ、ミアの世界ではなんていうか、魔法を撃ったりするやつもいるよな?ミアはできないのか?」
俺のやりたいことリスト上位である魔法について聞いてみる。
「魔法?マナを飛ばすことかな?私は……できなくはないけど、あんまり得意じゃない。」
ミアの世界を観測している時に見た、光る球を飛ばすヤツ。あれはマナを飛ばしてるのか。なるほど。
「なぁ、マナってなんなんだ?俺には使えないのか?」
ミアは顎に人差し指を当てて考えている。気を許してくれているのか、そんな仕草が可愛らしい。
「なんだって言われても……それと使えるかどうかも……たぶん使えるんじゃないかなぁ?」
「そっかぁ……」
今のところこれ以上聞いてもどうにもならなそうだ。
そんな話をしているうちにゲートの準備ができた。
ゲートの準備ができたはいいが、ミアの装備をどうするかという問題があった。
「なにかあったときのために剣だけは持っていきたい。」
という彼女の要求に従い、俺が剣を引きずってなんとか向こうに持っていくことにした。
この剣、マジでデカくて重い。とてもじゃないが持ち上がらない。これをこの娘が振り回していたなんてとても信じられない。
剣だけで精一杯なので、鎧のたぐいはあきらめてもらう。
ミアは何度も礼を言いながら手を繋いで先にゲートに入る。
彼女の小さくて柔らかい手にドキドキしてしまう。特に飾りっ気もないが、美しく優しさを感じさせる手だ。
それにしても剣が重い。普通に鉄の塊じゃないか。鉄なのかしらんけど。
なんとかズリズリ引きずってゲートをくぐる。普通に考えて、こんなもの女の子が持てるわけがない。
そしてくぐり抜けると、
「あれ?いない……」
ミオはさっきまで転がされてたベッドにはいなくなっていた。
「まずいな。一旦戻ってもう一度探してからにするか?」
そしてベッドもなんだかすごい。天蓋?とかいうのがついてるし、モニター越しで見てた感じよりもデカい。
「でも……ちょっとだけ外の様子を見てみる。」
ミアは俺が必死に運んできた剣をひょいと片手で持つと、ドアを小さく開けて外の様子を伺っている。
なんだよマナって。いいなぁ。
運ぶときにミアの剣をマジマジと見てみたが、まったく飾り気がなく、可愛い女の子であるミアには似つかわしくない感じのものだった。一応両刃のような雰囲気はあるが、特にしっかりした刃がついているわけではなく、あれで物が切れるとは思えない。デカい鈍器という方が正しそうだ。
「まずい、ミオが戻ってきたわ。」
ん?戻ってきたならちょうどいいんじゃないのか?と、思ったが、手足を拘束されていたのだから、誰かが一緒にいるということだ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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