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断罪されたけど元気にトレジャーハンターしている悪役令嬢です。黄金の骨伝説? 私なら即ゲットですわ!

作者: 丹羽坂飛鳥

 幼い頃から、ずっと我慢して生きてきた。

 王子殿下と婚約しているから、言いたいことがあっても言えず、羽目を外さないよう楚々として生きてきた。


「お前はつまらない女だな、リシャール」


 鼻を高くする、金髪に青い瞳のロラン殿下は隣に女性を迎えた。

 私を前にして花瓶の水を撒き、自分にかけるために私がやったのだと主張する、綺麗な庶民の女性をはべらせた。


「リシャール様が、私を襲ってっ……ロラン様、助けてっ」


 水の放物線がどう描かれているのかも関係なく、私は断罪された。

 立ち位置を逆転されるなんて無理やりな論理展開だったけれど、王子殿下の指示に従うことを宣言した私は、静かに頭を下げて国外追放を受け入れた。


 リシャール・エ・ミエレット。

 立派な名前が、私の名前だった。


「でも、もう今は関係ありませんわ。

 おーっほっほっほ!!!」


 頬に手を当て、高らかに何もない砂漠に叫んだ。

 私は自由になった。

 砂を蹴立てて移動する高速船に乗り、トレジャーハントの道具を全身につけて、目的地へ向かっていた。


 砂漠の国オーローには『黄金の骨』伝説がある。


 全てが金で出来ていて、願いをなんでも叶えてくれる、魔法の骨……とかなんとか街で聞いた。

 場所も何もかも調べ尽くした私は、うっとりと両頬を押さえて、月明かりの向こうで近づく洞窟を眺めていた。


「黄金の骨……売ったらいくらになるのかしら。

 うふふ、今の金相場は価格高騰中……たまりませんわ……」


 安定した資産の金は、買い集める投資家も多い。

 全てのお宝を集める夢のために、価値換算が止まらなかった。


 追放? 上等です。

 私が生きていた国では数年前に政変が起こって、王家も代わったらしい。

 けれど、もう関係ありません。


「私の前に広がるのは黄金の砂漠、黄金の荒野、黄金の骨っ……おーっほっほ、黄金にまみれておりましてよーっ」


 高らかに叫ぶうちに、巨大なドクロ型の洞窟に辿り着いた。

 雇った高速船を止めさせて、黄金伝説の洞窟を開ける呪文を唱えた。

 暗号は残されていたけれど、誰も解けなかったと言うのを各国の暗号様式と重ね合わせて解読したもので、見事に扉が開いた。


「まあ……真っ暗ですわ……」


 洞窟内にはガスが溜まっていることもあるから、検知器で調べてから突入する。

 罠を建物の形から推測し、安全な光の魔法を使って少しずつ進むと、辿り着いた棺の中には骨が収められていた。


「……真っ白ですわ……」


 黄金の骨伝説は、ただの白骨だった。

 メッキでもないのを触れて確認したけれど、黄金はどこにもなかった。


 しかし。

 白い骨が、突如として明るく光り始めた。


『我の骨を埋めよ……』


 なるほど、パズルを解けば黄金になるのかしら。

 ぴーんときた私は、お父様が送ってきた荷物の中から、誰のものともわからない骨を一つ取り出した。


『大切な娘への贈り物だ』


 そう書かれていたけれど……きっと宰相だったお父様は頭がいいから、私が黄金の骨伝説に挑むとお分かりになって、最後の鍵を持っていらしたのね。


 だってぴったりの喉仏ですもの……カチャリ。


 足りない骨を埋めると、あたり一面に閃光が走った。

 サングラスでカバーした私が何が起こるのかを最後まで見ていると……骨が喉を押さえて苦しみもがいていた。


「グワァっ、誰だお前っ、俺の骨じゃねえっ、や、やめろ、俺はこの世界を支配する最強のま……っグァアアアア!!」


 よくわかりませんわ。

 骨はそれきり黙ると、立ち上がりました。

 カシャカシャと乾いた音が鳴って、つながりました。


「……」


「……まあ。黄金にはなりませんでしたのね」


 骨に立ってもらっても、困りましてよ。

 頬をそっと押さえる私の足元が揺れた。

 暗い洞窟は、お決まりの如く崩れ始めた。


「大変、逃げますわよ!」


 黄金にならなかった骨に、人は価値を見出さないでしょう。

 天井を見上げて、骨も落胆しているように見えた。

 再び揺れる地面に眼窩を向けて、肩が少しだけ落ちた。


 なるほど、この骨には意思があるのね。


 ぴーんときた私は、すぐさま骨をお姫様抱っこで担ぎ上げた。


 足元が崩れれば、ハイジャンプで華麗に飛び越える。

 上下左右から飛んでくる弓矢は、培ったダンスの足捌きで避けた。

 なんとしてでも逃げ出そうと、迫り来る石の壁があればギリギリでもすり抜けた。


「なあ、俺は置いていけよ。もう骨なんだ。……潰された方が……」


「ごちゃごちゃうるさくてよ、私のトレジャー」


 お姫様抱っこしているのは、ただの骨。

 そう、黄金にもならなかった、今は無価値な骨。

 でもパズルがはまって、立ち上がって、喋る骨なんて世界のどこにもなかったのです。


「あなたはもう私の収集物ですのよ。今後も可愛がって差し上げますわ」


 骨の目に光はないけれど、真っ直ぐに見下ろした。

 軽い骨は言葉もなく、横抱きにする私に身を預けた。


 噴霧された毒ガスは、吸わないまま無呼吸で走る。

 目指す洞窟の入り口には、最後とばかりに魔法の封印壁が立ち上がった。

 強力な魔法を斜め読みする合間にも、背後は徐々に崩れ落ち、奈落へと消えていく。


「俺のせいで、お前も骨になるのか……」


「あら。私、まだまだ骨にはなれませんのよ」


 私の人生は、始まったばかり。

 楚々と生きてきて、抑圧された全てから解放されたのですから。

 世界中のお宝を集める夢のためにと、目の前の魔法を読み続けた。


「見ていらっしゃいな。

 ピンチがあるほど、人生は楽しいものですわ」


 読めるということは、理解出来るということ。

 なら、逆に解除する魔法を練り上げれば良い。

 ついに背後まで崩壊が近づく中、骨を抱えながら指を鳴らすと、高らかに叫んだ。


「では、お食らい遊ばせ。ディスペルマジック!」


 どれだけ強い封印であっても、私の敵ではありませんわ。


 石の扉が弾け飛ぶほどの衝撃が走った。

 崩落が続く洞窟の外に出ると、全てが砂の海に沈んだ。

 周辺を回っていた高速船が戻ってきて、骨をお姫様抱っこしている私へ叫んだ。


「それ、白骨死体じゃねー!?」


「そうかもしれませんわー!」


 良いのです。

 お宝を手に入れた今日の爽快感こそが、私を前に進ませてくれるのですから。


 砂を撒き散らす風の中で、私は腕の中でおとなしく抱かれる骨を見下ろしました。


「骨。お前の名を聞いていませんでしたね」


「名前……」


「私はリシャール・エ・ミエレット。今はただの探検家リシャールですわ。

 お前も古い名がよければそれを名乗り、新しい名がよければそれを名乗りなさい」


「俺は……骨……俺は、ホーネット……」


「ホーネット。強力な毒バチですわね。

 よろしくてよ、ホーネット。お前のことはそう呼びましょう。

 ……まあ。いつの間にか、夜明けですのね」


 砂漠の切り刻まれるような極寒を、骨はきっと知らない。

 少しずつ登ってくる朝日を見ながら、赤に染まる砂を見ながら、それでも自由って素晴らしいですわと、ツインテールの縦ロールを靡かせる私の熱い心にも、冷気など関係なかった。




 ※




 内乱が起きた。

 バカ王子を地獄の果てに叩き落としてやると、宰相が全てを後ろから操って、国が転覆した。

 そばにいた庶民出身の女性には裏切られ、身を隠していた場所を知らされて、呆気なく捕まった。


 いつも夢に見ていた。


「つまらない女だな、リシャール」


 何を言っても静かにして、全部耐えているようなリシャールが嫌いだった。


 はちみつのように輝く金の髪に、夜色の瞳。

 可愛らしいのに、……本当はずっと活発だったはずなのに、婚約した途端に塞ぎ込んだ彼女を、認められなかった。


 俺にはまだ……小さい頃は自由に蝶を追い、転んでも笑って、大輪の花が咲き誇るようだったリシャールが変わってしまった理由もわからなかった。


 架空の罪で断罪される時ですら、リシャールは静かに受け入れて国を後にした。

 その手を取ることもなく、庇いもしなかったことを、宰相は恨んでいた。


 燃やされて人生が終わる時だった。

 最後に思い描いたのは……落ちていた石を拾って宝物のように価値をつけ、渡してくれた小さなリシャールだった。


「ロラン様。

 これきっと、う⚪︎この化石なんですよ」


 そういうことを言うから、あの子は父親に静かにしろと言われて育ったのだろうか。


 骨になった。

 気づけば金髪縦ロールのトレジャーハンターが目の前にいた。

 夜色の瞳で、可愛らしくて、でも数年前よりも大人になっていた。


「……まあ。黄金にはなりませんでしたのね」


 白骨に何を期待していたのだろう。

 全身は、よくわからない魔法使いが使おうとした骨になっていた。


 もう俺の人生は幕を閉じた。

 最後に……元気なリシャールに会えただけでも良かったと思うしかない。


 洞窟が揺れる。

 無価値な白骨は潰れて終わるはずだと、その方が良いと、何も言わなかった。


「大変、逃げますわよ!」


 彼女は俺を抱えて逃げた。

 かつての活発さを見せて、何もかもを乗り越えて、走った。

 俺なんて離して、両手を使えば良い。

 裁判の日、静かに何もかもを飲み込んで、ただ頭を下げたリシャールを捨て置いたように……今度は俺がそうなる番だと思っていた。


 リシャールは、違った。


「ごちゃごちゃうるさくてよ、私のトレジャー」


 過去を振り切って、何よりも明るく笑って見せた。


「あなたはもう私の収集物ですのよ。今後も可愛がって差し上げますわ」


 う⚪︎この化石を差し出したように、自信満々で。

 どれだけのピンチがあっても、跳ね除け続けた。


 白骨なのに、洞窟の外へ出た。

 抱えたままのリシャールに、新しい名前を告げた。


 ロランはきっと、もう彼女の中にはいない。


 骨の差し出す手を怖がることなく握ったリシャールは、高速船へと駆け出した。

 自由になった元婚約者は、ただの骨になった俺に明るく笑った。


「さ、ホーネット。

 ともに参りましょう、新たなトレジャーハントへ!」


 世界中の宝物を探し出す、探検家リシャール。

 やがて伝説へと至る女性のそばには、ホーネットという骨がいた。

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