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72 大団円

 アベラルド王太子は軽く頷いて立ち上がった。


「ニコラス殿。男手が必要なので何人か連れてきてください」


 アベラルド王太子はビアンカに手を差し出して立ち上がらせた。


(私も一緒に行くのかしら? ご遺体は見たくないけれど、ここに座ったままでいるわけにもいかないわね)


 ビアンカ達が率先して歩き出す後をニコラス達と数人の男の使用人が後をついてくる。


 ぞろぞろと足を進めた先はエリシアとセシリオの遺体がある部屋だ。


 シーツがかけられた遺体の顔の部分をレオナルドがめくるとエリシアの顔が現れた。


「確かに義母上です」


 ニコラスがエリシアの顔を確認してアベラルド王太子に告げた。


「…それにしても、随分と穏やかな顔をしておられる…」


 ニコラスがポツリと呟くと、それまで黙っていたエミリオが声を張り上げた。


「お祖母様は!」


 その声に誰もが驚いてエミリオに注目する。


「お祖母様はそんなに悪い人ではありません! 僕に辛くあたる時は何処か苦しそうな顔をしていらっしゃいました!」


 エミリオは一気に吐き出すとボロボロと涙を零し出す。


 そんなエミリオをアウロラがそっと抱きしめる。


 アベラルド王太子が指示を与えて使用人達が首から下をシーツに包まれたまま、エリシアの遺体をセシリオの隣に寝かせた。


 ニコラス達はベッドに横たわった二人に向かって祈りを捧げる。


「父上がちゃんと義母上と話し合ってから私とクリスティナを連れてくれば、義母上もあそこまで憎悪をたぎらす事はなかったでしょう。そう考えれば義母上も可哀想な方です。義母上は病死として父上と一緒に葬儀を執り行います」


 ニコラスは深々とアベラルド王太子達に向かってお辞儀をする。


「そうしてもらえると助かります。ああ、そうだ。もしかしたらビアンカ嬢はこのバルデス侯爵家の娘として僕と結婚する事になるかもしれません。その時はよろしくお願いします」


 アベラルド王太子の言葉にビアンカはドキリとする。


(やはり伯爵家よりも侯爵家の娘の方が受け入れられ易いのね。だからこそ、ここへ連れてこられたんだわ)


 ニコラス達に見送られ、ビアンカ達は馬車に乗り込むとマドリガル伯爵家へと向かう。


 馬車が走り出してバルデス侯爵家から離れると、ようやく肩の力が抜けた。


「ふぅ。まさかあんな展開になるとは思わなかったな」


 アベラルド王太子がため息と共にポツリと零すとレオナルドも頷く。


「確かに…。けれど、エリシア様はああなる事を分かっていたみたいだな。僕がナイフを持って突っ込んで行った時、一切避けようとしなかったからな」


「…そうか。エリシア様が一番許せなかったのはセシリオ様だったのかもしれないな。だからこそ、セシリオ様を苦しめるためにニコラス殿達の母親を殺し、ニコラス殿達にも辛くあたったんだろう。そして今までの罪を償うためにも誰かに殺して欲しかったのかもしれない」


「その貧乏くじを僕が引かされたってわけか…」


 ガクリと項垂れるレオナルドにビアンカは悪いと思いつつもクスリと笑いを漏らす。


「ビアンカ嬢。あなたの不幸の芽はすべて摘み取りましたよ。これからは僕と幸せになりましょうね」


 向かい側に座るアベラルド王太子にガシリと手を握られビアンカは思わず、アベラルド王太子の隣に座るレオナルドをチラリと見る。


 レオナルドは我関せずとばかりに馬車の窓から景色を眺めている。


「は、はい。アベラルド様。よろしくお願いします」


「ビアンカ嬢。そんな堅苦しい呼び方は止めてください。これからは『アベル』と呼んでください。僕も『ビア』と呼んで良いですか?」


 アベラルド王太子に目を覗き込まれ、ビアンカは顔を真っ赤に染める。


(こ、こんな所で! 隣にレオナルド様もいらっしゃるのに!)


 再びビアンカがレオナルドにチラリと視線を向けると、レオナルドは両手の人差し指を耳に突っ込んで聞こえないフリをしている。


「ビア?」


 アベラルド王太子に再び顔を覗き込まれ、ビアンカはポツリとその名前を口にする。


「…アベル」


 スリルと隣に座ってきたアベラルド王太子に抱きしめられ、ビアンカの顔は茹でダコ状態だ。


(まったく! せめて僕が居ない所でやってくれよな!)


 レオナルドのボヤキもアベラルド王太子には届かない。


 馬車は三人を乗せたまま、ガラガラと音を立てながら走って行く。






 それから半年後、ビアンカとアベラルド王太子の結婚式が盛大に行われた。


 世界で一番不幸だった令嬢はいまや、世界で一番幸せな令嬢になったのだった。





  ー 完 ー

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