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71 ニコラスの話

 ニコラスはビアンカにチラリと視線を移した後、躊躇いがちに口を開いた。


「私とクリスティナが義母上の子供でない事はご存知でしょう? けれど、私達は幼い頃にこの屋敷に連れてこられたので、義母上が実の母親ではないと知らなかったのです。大きくなるにつれて義母上や周りの人の言動で私達は父上が他所に産ませた子供だと悟りました。特別折檻されたりはしませんでしたが、私達を疎ましく思っている事は感じていました。それに義母上が私達の実の母親を殺したとも…。だからこそ父上はクリスティナを早々に結婚させてこの家からだしたのですが…」


 ニコラスはそこで一旦言葉を切ると再びビアンカを見据える。


「義母上はクリスティナの夫のダリオ殿に呪いをかけていました。クリスティナが亡くなったと聞いた時、義母上は少し忌々しそうに私に言いました。『どうしてビアンカも一緒に殺してくれなかったのかしら』ってね」


 ニコラスの話にビアンカはズシリと心が重くなった。


(もしかしたら、私もあの時お母様とお祖父様と一緒に殺されていたのかもしれないのね)


 ダリオがどうしてビアンカを生かしておいたのかはわからない。


 けれど、その後の自分の過ごした時間を考えると手放しでは喜べなかった。


「義母上は私も殺そうと目論んでいたようですが、やはりこの家の嫡男として世間に認識されている以上、迂闊に手は出せなかったようです。そのうちに私はアウロラと結婚してエミリオを授かりました。数年前、父上が倒れて寝たきりになってからは私が家督を受け継ぎました」


 そうニコラスが告げた時、アベラルド王太子とレオナルドは顔を見合わせた。


 ビアンカはそんな二人の様子に思わず首を傾げる。


(お二人共、どうしたのかしら?)


 ニコラスもそんな二人の様子にただならぬものを感じたらしく、二人の顔を交互に見比べている。


「あの、何か?」


 ニコラスがおずおずと尋ねると、意を決したようにアベラルド王太子が語りだす。


「ニコラス殿が家督を継がれたと言われましたが、実はその時にはエリシアの名前で書類が提出されています」


「えっ、まさか?」 


「いえ、本当です。こちらを訪ねるに当たって調べましたから間違いはありません」


 レオナルドの補足にニコラスは信じられないといった表情を見せる。


「…そう、ですか…。そんな前から義母上は私達を亡き者にしようと考えていたのですね」


 はぁっと重いため息をついた後、再びニコラスは語りだす。


「父上が亡くなったのは一週間前の事です。ヘラルドから父上の容態が急変したと知らされて私達は父上の寝室に駆けつけました。義母上は既に父上の側にいて手を握っていました。父上が息を引き取ると義母上はくるりと身体の向きを変えて私達を見据えました。その瞬間、私達は身体が硬直したように動けなくなったのです」


 その時の事を思い出したのか、アウロラがブルリと身を震わせて右手で左腕を擦っている。


 エミリオもギュッと唇を噛み締めた。


「身体が硬直した私達は義母上に誘導されるまま、父上の執務室に入り地下へと連れて行かれました。そしてそれぞれ独房へと入れられたのです。義母上は私達を独房に入れると術を解きました。どんなに乞うても義母上は私達をそこから出そうとはしませんでした。食事は日に一回のみ。それもここ数日は水しか与えられませんでした。後は死ぬのを待つばかりだと思っていた時、アベラルド様達が現れたのです」


 ニコラスは目尻に溜まった涙を拭うと、アベラルド王太子達に向かって頭を下げた。


「本当にありがとうございます」


 ニコラスは頭を上げるとアベラルド王太子に問い掛ける。


「それで、義母上はどちらに?」

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