63 招待
パーティーもお開きの時を迎え、それぞれが帰路についていた。
アベラルド王太子とビアンカ、レオナルドとクラウディアもそれぞれ帰り支度をし始めた時だった。
そこへ現れたのは数人の侍女を従えたイリスだった。
「クラウディア様、ビアンカ様。お帰りになる前に寄っていただきたい所がございます。どうか私についてきてくださいませ」
「あ、はい」
そう返事をしたものの、ビアンカは何処に連れていかれるのかわからずにアベラルド王太子をみやった。
アベラルド王太子も怪訝な顔をしていたが、すぐに何かに気付いたようだ。
「イリス、一体何処へ…? まさか、母上のところか!?」
(アベラルド様のお母様って、王妃様!? その方に今からお会いするの? まだ心の準備も出来てないのに!!)
心の中でビアンカは叫ぶが呼ばれている以上、行かないわけにはいかないだろう。
「僕も一緒に行くとしよう。レオナルドもいいだろう?」
だが、アベラルド王太子の提案はイリスに却下される。
「申し訳ございません、アベラルド様。クラウディア様とビアンカ様のみを連れてくるようにと仰せつかっております」
イリスにピシャリと告げられて、アベラルド王太子はすごすごと引き下がらざるを得ない。
「わかった。それならば僕達は別室で待機していよう。その代わり、早めに解放していただくように母上に伝えてくれ」
アベラルド王太子とレオナルドが見送る中、ビアンカとクラウディアはイリスと侍女達に連れられ、ホールから王宮の奥へと進んだ。
「こちらへは来たことはありませんわね」
クラウディアの呟きにも改めて周りを見回した。
(確かに王宮のこんな奥までは来たことがないわね)
王宮の中を奥へ奥へと進んで行き、そろそろプライベートゾーンにさしかかるのではないかと思われた頃、ようやく一つの扉の前に行き着いた。
「王妃様。クラウディア様とビアンカ様をお連れしました」
イリスがノックの後にそう告げると、扉が開かれ中にいた侍女が顔を見せた。
「どうぞ、お入りくださいませ」
イリスも扉の横に立ち、ビアンカとクラウディアに道を譲る。
一瞬、クラウディアと目が合ったが、ここではクラウディアが先に入室するべきだろうと思い、ビアンカは少し後ろに下がった。
クラウディアはちょっと躊躇っていたが、ここでビアンカと譲り合うのは得策ではないと考えたのだろう。
軽くビアンカに頭を下げると、先に部屋の中へと入って行った。
ビアンカもクラウディアに続いて部屋に入ると、扉の横に立っていた侍女が音もなく扉を閉めた。
どうやらイリス達はここへ案内をしただけで、中には入ってこないようだ。
前を歩くクラウディアの身体が少しずれたおかげで部屋の中の様子がビアンカに見て取れた。
前方の応接セットのソファーの中央に王妃が一人で座っている。
その向かって左側サイドの一人掛けのソファーに座っているのがレオナルドの母親だろうとビアンカは当たりをつけた。
ビアンカとクラウディアが応接セットの手前で立ち止まると、王妃が二人に椅子を勧めた。
「クラウディア様はそちらにお座りになってください。ビアンカ様はこちらにどうぞ」
王妃の向かい側のソファーを勧められたが、クラウディアはカサンドラに近い方、ビアンカは王妃と向き合う形となった。
(これって、それぞれのお母様に対峙する形になるんじゃないかしら?)
明らかに将来の嫁姑の立場になる者同士で向き合う配置である。
ビアンカとクラウディアは内心ドキドキしながら二人の言葉を待っていた。




