62 求婚
クラウディアの突然の告白に当のレオナルドはともかく、アベラルド王太子や周りの令嬢達も驚きで固まっている。
勿論、ビアンカもそのうちの一人だ。
(まさか、クラウディア様がレオナルド様を好きだったなんて…。…あら? だとするとアベラルド様はクラウディア様にフラれた事になるのかしら?)
そんな事を考えているうちに、先に立ち直ったらしいアベラルド王太子が横にいるレオナルドを小突く。
「おい、レオナルド。お前がさっさと動かないからクラウディア様に先を越されただろうが!」
「う、うるさい! タイミングを探していたらビアンカ嬢の騒ぎでそれどころではなくなったんだ!」
コソコソと二人でやり合っていると、業を煮やしたクラウディアが更にレオナルドに一歩近寄る。
「レオナルド様。アベラルド様ではなく、わたくしとお話をしてくださいませ!」
近寄るクラウディアにたじろいだレオナルドが一歩下がろうとしたところをアベラルド王太子が後ろから押した。
下がろうとしたところを押し出されたものだから、レオナルドはつんのめった形になり思わずクラウディアに抱きついた。
「…!!」
驚きのあまり声が出ないクラウディアからすぐに身体を離したレオナルドはその場に跪いた。
「クラウディア様。先にあなたに告白をさせてしまった不甲斐ない僕をお許しください。そして改めて僕から言わせてください」
一旦言葉を切ったレオナルドはクラウディアに向かってその手を差し出す。
「クラウディア様、僕と結婚してください」
クラウディアは目に涙を浮かべながらコクリと頷いてレオナルドの手を取る。
レオナルドが立ち上がるなりクラウディアを抱きしめると、クラウディアの顔は茹でダコのように真っ赤になった。
「おめでとう、レオナルド、クラウディア様」
アベラルド王太子が二人に向かって拍手をすると周りの令嬢達もその拍手に加わる。
ビアンカもそれに加わりながらも、不思議な面持ちでアベラルド王太子を見つめた。
(あら? アベラルド様はクラウディア様の事を何とも思っていらっしゃらなかったのかしら?)
頭の中に?マークを浮かべながらアベラルド王太子を見ていると、突然アベラルド王太子がビアンカに向き直った。
その真剣な眼差しにビアンカが胸をドキリとさせると、今度はアベラルド王太子がビアンカの前に跪いた。
「ビアンカ嬢。どうか僕と結婚してください」
「…!?」
まさか今この場でアベラルド王太子に求婚されると思っていなかったビアンカは頭が真っ白になった。
言葉も出せずにいるビアンカに、茹でダコ状態から脱出したクラウディアがそっと耳打ちをする。
「ビアンカ様。今レオナルド様から聞いたのですけれど、アベラルド様はビアンカ様の事が大好きなのですって。それにお二人の衣装を見ればお揃いなのは一目瞭然ですわ」
クラウディアに指摘され、改めて自分とアベラルド王太子の衣装を見たビアンカはその刺繍の柄に驚いた。
(…これって、刺繍の柄が繋がっている?)
よく見ればアベラルド王太子とビアンカの衣装の刺繍は並び立つと一つの図柄になるように構成されていた。
それに気付いたビアンカを今度はクラウディアが後ろからビアンカの背中を押す。
クラウディアに押されてアベラルド王太子に一歩近付いたビアンカに更にアベラルド王太子が手を差し出す。
「…私でよろしいんでしょうか?」
自信無さげに呟くビアンカにアベラルド王太子は力強く頷く。
「ビアンカ嬢でなければ駄目なんだ」
おずおずとビアンカの手がアベラルド王太子の手に触れた途端、アベラルド王太子は立ち上がるとビアンカを抱きしめた。
今度はビアンカの方が茹でダコ状態になってしまったと同時に周りの令嬢からはため息が漏れる。
「ああ、レオナルド様に続きアベラルド様までお相手が決まってしまったわ」
「私達も早くお相手を探さないと売れ残ってしまうわ」
レオナルドとクラウディアがビアンカ達に向かって拍手をすると、それに呼応するように令嬢達も拍手に加わる。
アベラルド王太子とレオナルドが婚約者を決めた事で、周りの子息達も次々と令嬢達に告白をし、あちこちでカップルが出来始めた。
その様子をホールの上のバルコニーからこっそりと見ていた王妃アレクサンドラとレオナルドの母カサンドラはやれやれと胸を撫で下ろす。
「レオナルドったら、先にクラウディア様に告白させるなんて不甲斐ないわね」
「アベラルドも、まさか伯爵家から嫁をもらうとは思わなかったわ。さて、どんなご令嬢なのかしらね」
二人は意味深な目線を交わすとそっとその場を離れた。




