59 パーティー
馬車はやがて王宮の門を抜けてしばらく走った後で止まる。
外から馬車の扉が開かれ、先にアベラルド王太子が降り立つと、ビアンカに向かって手を差し出してくる。
その手を取って馬車から降りると、出迎えの侍従やメイド達がずらりと並んでいた。
その間を通って進んで行くと、パーティーの開かれている広間に到着した。
既に何人かの子息や令嬢がいて、思い思いに集まって歓談している。
そのうちの一人の令嬢がこちらに気付いて、隣の令嬢に耳打ちしている。
「ほら、アベラルド様がいらしたわ」
「あら、本当。ところで隣にいる方はどなたかしら?」
「確かマドリガル伯爵家のビアンカ様じゃなかったかしら?」
「ビアンカ様って、婚約者がいらしたのではなくて?」
「あら、婚約破棄されたって聞いたわよ」
「婚約破棄? そんな方をエスコートされるなんて、アベラルド様は何を考えていらっしゃるのかしら」
「そんな事より、早く行ってお近付きにならないと」
そんな会話がなされ、いそいそと令嬢達がアベラルド王太子の元へとやってくる。
「アベラルド様、ごきげんよう」
「アベラルド様、こちらにいらして一緒にお話をしましょう」
他にもアベラルド王太子に気付いた令嬢がどんどん近寄ってくる。
アベラルド王太子の隣にいたビアンカは令嬢達に押し出されるように、アベラルド王太子と距離が開いていく。
(ここにいる令嬢達のほとんどはアベラルド様とレオナルド様がお目当てなんだから仕方がないわね)
令嬢達に囲まれているアベラルド王太子を遠巻きに見ながら、ビアンカはふうっとため息をつく。
すぐ横のテーブルではドリンクの提供を行っていた。
ビアンカがグラスを受け取り、喉を潤していると入り口から誰かが入って来るのに気付いた。
(あら? あれは…)
そこに現れたのはレオナルドと見知らぬ令嬢だった。
「あら、レオナルド様よ」
「一緒にいらっしゃるのは、デラトルレ王国のクラウディア様ではなくて?」
「たとえ隣国の王女様といえど、レオナルド様を渡すわけには参りませんわ」
「私達も参りましょう」
レオナルド目当ての令嬢が、レオナルドとクラウディアの元へ押しかける。
ホールの中はあっという間に、二つの人だかりが出来てしまう。
しかし、クラウディアはビアンカのように弾かれる事もなくレオナルドの側にピタリとひっついている。
流石に隣国の王女には令嬢達も遠慮をしたようだ。
(まさか、クラウディア様のエスコートをレオナルド様がなさるとは思わなかったわ)
そう考えたところでビアンカはハッとした。
(もしかして、本当はアベラルド様がクラウディア様のエスコートをなさる予定ではなかったのかしら? だって隣国の王女様だもの。普通はこの国の王太子であるアベラルド様がエスコートされるべきよね。アベラルド様が私のエスコートをなさったから、レオナルド様がクラウディア様のエスコートをしなくてはいけなくなったんだわ)
そんな考えに思い当たるとビアンカはレオナルドとクラウディアに申し訳ない事をしてしまったと後悔する。
そういう目で見てみれば、心なしかクラウディアがアベラルド王太子の方に近付いているようにも見える。
(メイド達が噂していた通り、クラウディア様は綺麗なお方だわ。確かにアベラルド様とは美男美女でお似合いね)
ビアンカがそんな事を考えていると、誰かが後ろに近寄って来たような気配がした。
「え?」
ビアンカが振り返るより早く、誰かの手がビアンカの肩を掴んで後ろを振り向かせる。
「お前、何故ここにいるんだ!」
そこに立っていたのは鬼のような形相をしたカルロスだった。




