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58 馬車の中

 馬車の前で立っているアベラルド王太子はビアンカを見てニコリと微笑んだ。


 アベラルド王太子が着ている衣装は、薄いパープルの生地に銀色の糸で刺繍がされている。


 まるでビアンカの髪と瞳の色を纏っているようにも見える。


 しかも刺繍のデザインはまるで同じ物だった。


 思わず立ち止まったビアンカの背中をハンナがそっと押し出す。


 ギクシャクとした動きでビアンカが近付くとアベラルド王太子が手を差し出してきた。


「ビアンカ嬢、お待たせいたしました」


 アベラルド王太子にじっと見つめられ、ビアンカはポッと頬を赤く染める。


 アベラルド王太子の助けを借りて馬車に乗り込むと、その奥にはイリスが座っていた。


 ビアンカが座る席の隣でいつも以上に小さくなっているように見える。


「ビアンカ様、申し訳ございません。馬車の中をお二人だけにするわけには参りませんので、私が同席させていただきます。私の事は居ないものと思ってくださいませ」


 イリスにそう告げられたが、だからといってまるきり無視するわけにもいかない。


「イリスさん、お久しぶりです。お変わりないようで安心いたしました」


 ビアンカが挨拶をすると、イリスも座ったまま頭を下げてくる。


「このような形で挨拶する事をお許しくださいませ。ビアンカ様もお元気そうで何よりでございます」


 イリスとビアンカが挨拶を交わしている間にアベラルド王太子も乗り込んできてビアンカの向かいに腰掛けた。


「僕としてはビアンカ嬢と二人きりでも構わないんだが、皆に止められてね」


 ニコリと笑うアベラルド王太子にビアンカはちょっと頬を引き攣らせながら疑問を口にする。


「今日はレオナルド様はご一緒ではないんですね?」 


「ビアンカ嬢の口からレオナルドの名前を呼んでほしくはないんだが…。レオナルドも今日のパーティーの参加者だからね。自分の準備に余念がないんだよ」


 そう聞いてビアンカは、なるほどとばかりに頷く。


(いつもアベラルド王太子の側にいるから失念していたけれど、レオナルド様も公爵家の跡取りだものね。今日のパーティーに参加するのは当然だわ)


 そう考えた所で、ビアンカは今日のパーティーがどういった目的で行われるのかを聞いていない事を思い出した。


「ところで、今日のパーティーはどういった主旨の集まりなんでしょうか?」


 するとアベラルド王太子は一瞬、グッと答えに詰まったような顔で視線をあちこちに彷徨わせる。


 すると、ビアンカの横で空気に徹していたイリスが「コホン」とわざとらしい咳払いをする。


 イリスに目をやったアベラルド王太子は一瞬きつく口元を引き締めたが、真っ直ぐな目でビアンカを見据えてくる。


 アベラルド王太子のその視線を受けてビアンカは思わず背筋を伸ばした。


「僕とレオナルドがなかなか婚約者を決めない事に僕達の母親が業を煮やしてね、今日のパーティーの開催を決めたんだ。だから、今日招待されているのは独身で婚約者のいない者に限られている」


 そう言われてビアンカは納得した。


(確かに私もカルロス様に婚約破棄されたんだったわ。そんな私がパーティーに呼ばれるなんて。きっと参加しづらいと思われたから私をパートナーに指定されたのね)


 そう思ったビアンカはアベラルド王太子に向けて感謝の言葉を述べる。


「そうだったんですね。婚約破棄された私が参加しやすいようにアベラルド様は私をパートナーに選んでくださったんですね。ありがとうございます」


「えっ、いや…、あの…」 


 ペコリと頭を下げるビアンカにアベラルド王太子は狼狽えたまま、次の言葉を告げられずにいる。


 それを見たイリスが馬車の壁の方を向き、こっそりとため息をつく。


(アベラルド様。もっとストレートに告げないとビアンカ様には届きませんよ)


 そんなイリスの言葉もアベラルド王太子には届かなかった。

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