50 牢獄
ジメジメとした石畳の通路の上をコツコツと足音を立てながらビアンカは進んで行く。
先頭を歩いているのはレオナルドで、ビアンカはアベラルド王太子にエスコートされながら後をついて行く。
(どうしてアベラルド様達が一緒なのかしら?)
確かに父親のダリオに会いたいとは言ったが、面会に行くのは自分一人だと思っていた。
それなのに、アベラルド王太子に『面会したい』と告げてから数時間後にはアベラルド王太子がビアンカの元にやって来た。
面会を却下されたのかと思いきや、外出の用意をさせられ、離宮の玄関口に停められていた馬車に乗せられた。
馬車に揺られて着いた先は頑丈そうな石造りの建物だった。
「…ここは?」
ポツリと呟いたビアンカの声をアベラルド王太子は正確に聞き取ってくれたようだ。
「ここは重大な罪を犯した罪人を収容する牢獄です」
アベラルド王太子が説明してくれた通り、入り口からして物々しい雰囲気のある建物だった。
入り口には武装した騎士が二人立っていて、重たそうな鉄の扉が嵌っていた。
(とても一人では開けられそうもない扉だわ)
そう考えながら、ビアンカは自分が入れられていた牢獄を思い返していた。
(私が入れられていた牢獄はここじゃなかったわ。あれは一体どういう場所だったのかしら?)
疑問には思ったものの、今はとても話題に出来るような雰囲気ではない。
ビアンカはアベラルド王太子に手を取られて馬車を降りた。
レオナルドが先に騎士に近付いて行き、書類を差し出している。
一人の騎士がそれを確認した後でもう一人の騎士に渡している。
二人の騎士が書類を確認するとレオナルドの手に戻される。
「どうぞお入りください」
二人の騎士が扉を押すとギィッと重い音を立てて扉が開いた。
「さあ、行きましょう」
差し出された手を断るわけにもいかず、ビアンカはその手にエスコートされて扉をくぐった。
所々に明かりは灯っているものの全体的にはやや暗い。
レオナルドの後に付いて歩いて行くと今度は鉄格子で出来た扉が見えた。
そこにも騎士が二人立っていたが、その横に小さな部屋があった。
レオナルドがその部屋の窓に近付くと窓が開いて別の騎士が顔を出す。
レオナルドが黙ったまま書類を手渡すと、じっくりと検分された後「通ってよし」と告げられた。
鉄格子の扉が開かれ、ビアンカ達はまた先へと進んで行った。
途中の角を曲がって更に進んで行くと、前方にまた騎士が一人立っていた。
(こんなに厳重な警備がされているなんて、重罪人が入る牢獄というのは本当なのね)
レオナルドがその騎士に近寄り
「ダリオ・マドリガルの面会に来た」と告げた。
騎士は壁に貼られている紙に人差し指を当て、上からスッと指を滑らせた。
途中でピタリと指を止めると、今度は横に指を滑らせる。
何が書かれているのかビアンカからは見えないが、恐らく収容されている場所と名前が書かれているのだろう。
騎士は確認したように軽く頷くと、ビアンカ達に視線を戻した。
「付いてきて下さい」
先に歩き出した騎士の後をビアンカとアベラルド王太子が続くと、今度はレオナルドが後から付いてきた。
騎士の後を付いて歩きながら、ビアンカは軽く左右を見渡す。
通路の両脇には幾つもの鉄の扉があり、扉の上の方に小さな窓が付いていた。
その小さな窓の下には番号が書かれている。
通路の中ほどまで来た所で騎士がピタリと足を止めた。
「こちらです」
騎士が指し示した扉には「9」という数字が書かれていた。
(こんな小さな窓でどうやって面会するのかしら?)
ビアンカが疑問に思っていると、騎士は鉄の扉の取っ手を引っ張った。
「え?」
ビアンカの驚きを他所に更に騎士が取っ手を引っ張ると、そこには頑丈な鉄格子が現れた。




