38 尋問
「…う…」
ズキズキとした頭痛にダリオは目を覚ました。
頭に手をやろうとして自分の手が後ろ手に縛られている事に気付く。
「…な、何だこれは…?」
自分の身体を見下ろして初めて椅子に座らされている事に気が付いた。
胴体と足はそれぞれ鎖で椅子に括り付けられている。
それが椅子から落ちないようにするためか、椅子から立ち上がれないようにするためなのかは判断がつかない。
何とか外れないものかと身体を動かしてみるが、ジャラジャラと鎖の音が鳴るだけだった。
(くそっ! アベラルドめ! 何のつもりでこんな…。…まさか…)
心の中でアベラルド王太子に向かって悪態をつきながら、ダリオはこんな状況に陥った原因に思い至る。
(…あれがバレたのか? いや、決定的な証拠などないはずだ。しらを切ればすぐに解放される)
ダリオはそう自分に言い聞かせながら辺りを見回した。
先ほど入った部屋とは別の部屋らしく、それほど広くはない。
ただ、扉はすべて鉄格子になっている。
しばらくしてコツコツと足音が聞こえて来たかと思うと、鉄格子の向こう側にアベラルド王太子の姿が見えた。
騎士が鍵を外すと鉄格子の扉が開き、アベラルド王太子とレオナルドが入ってくる。
「やあ、目が覚めたかい? 椅子の座り心地はどうだ?」
笑みを浮かべて話しかけてくるアベラルド王太子にダリオは歯噛みをしたくなったがすぐに顔を取り繕う。
「アベラルド様、これは一体どういう事ですか? 何故私がこんな目に遭わなければならないのでしょう? いくらアベラルド様と言えども何の罪もない私をこのような状態にしてしまっては王位継承に問題が出てくるのではありませんか?」
このガルメンディア王国にはアベラルド王太子の下に二人の王子がいる。
現在はアベラルド王太子が次期国王とされているが、何か問題が起これば王位継承権は他の王子に移る事になっている。
ダリオが無実の罪で捕らえられたと訴えれば、それを問題視する貴族も出てくるはずだ。
そう睨んだダリオはアベラルド王太子に揺さぶりをかけるが、アベラルド王太子はただ冷ややかな目をダリオに向けるだけだった。
「自分が何をしたか忘れたとでも言うのかな? マドリガル伯爵家の次期当主をビアンカ嬢から自分に書き換え、更には実の父親と自分の妻を毒殺したじゃないか。忘れたとは言わせないぞ!」
アベラルド王太子にピシリと突き付けられ、ダリオはワナワナと唇を震わせる。
だが、すぐに哀れそうな表情を作り、アベラルド王太子に訴えかける。
「私が実の父親と妻を殺したと言うのですか? そんな恐ろしい事を私がするわけがないでしょう。それに次期当主は始めから私になっておりました。ちゃんと父上からそう言われていたのです!」
必死に訴えかけるダリオにアベラルド王太子はフッと鼻で笑った。
「証拠? そんなに見たいのなら見せてやろう。…おい」
アベラルド王太子が後ろに控えるレオナルドに合図を送ると、レオナルドは頷いて鉄格子の扉を開けた。
すると後ろ手に縛られたマルセロが両脇を騎士に抱えられるようにして入ってきた。
「な、マ、マルセロ?」
突然のマルセロの登場に狼狽えるダリオにレオナルドが持っていた紙を目の前でヒラヒラさせる。
「ほらほら、これ見覚えがあるでしょ? あんたがマルセロに言いつけて買ってこさせた薬のメモ書きだよ。まさかこんな物が残っているなんて思わなかった?」
レオナルドの茶化したような物言いにダリオはグッと喉を詰まらせたが、すぐに反論を始める。
「そんなメモ書きだけで私が父上とクリスティナを毒殺させたという証拠にはならないぞ!」
するとレオナルドはニッと笑うとポケットから何かを取り出した。
「じゃあ、これが何か知ってる? …そう、録音の魔導具だよ。じゃあ、これを再生させてみようか」
そう言いながらレオナルドは魔導具のボタンをカチリと押した。




