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37 監禁

 デボラはワクワクした気分で馬車の窓から近付いて来る王宮を眺めていた。


 今まで近寄る事すら出来なかった場所に足を踏み入れる事が出来るのだ。


(あの女が居なくなってから何もかもいい事ずくめだわ。もっと早くあの女が居なくなってくれていたら良かったのに…)


 少しだけボヤいてみるが、そんな不満はすぐに消え去った。


 馬車は王宮へと続く橋を渡り、大きく開いた門から城壁の中へと入って行く。


「うん? こんな所を通ったかな?」


 ダリオが訝しげに馬車の外の景色を見つめて呟いた。


「アベラルド様からの招待ですから、いつもとは向かう先が違うんじゃないですか?」


 パメラも初めての王宮で少しばかり緊張しているらしく、声が硬い。


「ああ、そうだったな。今日はアベラルド王太子からのお召しだったな」


 少し腰を浮かしかけていたダリオだったが、パメラに指摘され納得したように座り直す。


 馬車はやがてこじんまりとした建物の前で停まった。


 外から馬車の扉が開かれ、四人はぞろぞろと馬車から降りると、一人の男性が前に進み出てきた。


「マドリガル伯爵家の方ですね。ようこそいらっしゃいました。ご案内させていただきます」


 ダリオとパメラ、ミゲルとデボラという組み合わせで男性の後に続いて建物の中に足を踏み入れる。


 やけに無機質な廊下がその先に続いている。


 四人は怪訝に思いながらも黙って男性の後に付いて歩く。


 少し先に扉が開いた状態の部屋が見えてきた。


 男性はその前で立ち止まると、部屋の中を指し示した。


「こちらでお待ちください」


 言われるまま四人は部屋の中に足を踏み入れた。


 部屋にはソファーセットがしつらえてあったが、それ以外は何もない殺風景な部屋だった。


「…何だ、ここは?」 


 ダリオが部屋の中を見回して、男性に何か問おうと振り返るより早く、扉がギィッと重い音を立てて閉まった。


「おいっ! 待てっ!」


 ダリオが慌ててドアノブに手をかけるが、鍵をかけられたのか開かなかった。


 こぶしで扉を叩くとやけに重い音がした。


「何だ? この扉は? もしかして鉄で出来ているのか?」 


 見た目は木で出来ているように見せかけられているが、叩いてみると鉄だとわかった。


 他に脱出口がないかと部屋の中を見回したが、窓一つない部屋だった。


「あなた! これはどういう事なの!?」


 パメラがダリオに詰め寄るが、ダリオ自身も何が何やらわからない。


「おい! 親父! どういう事だよ! 俺達は誰かに騙されたのか!?」


 ミゲルがダリオの襟首を掴んでくるが、ダリオはパシリとその手を払い除けた。


「うるさい! 私だってわけがわからないんだ!」


 両親と兄の諍いを見ていたデボラは、ハッと気付いたように呟いた。


「…まさか…。あの女が関係あるんじゃないでしょうね?」


「あの女? ビアンカの事か? ビアンカなら崖から落ちて死んだと…」 


 そこまで言ってダリオは口をつぐんだ。


 『崖から落ちて死んだ』という報告を受けただけで、実際に死体を見たわけではない。


 金であの騎士達を買収したとは思えないから、身体で誘惑したのだろうとダリオは思った。


(忌々しい女だ。多少疑われてもやはり三人まとめて始末すれば良かったんだ)


 今更ながらダリオは後悔したが、既に遅い。


(どうしてアベラルド王太子がこんな事をしてくるのかはわからないが、きっとビアンカが裏で糸を引いているに違いない)


 ダリオは再び扉を叩き出したが、やがて足元からシューッという音が聞こえてくるのに気付いた。


「何の音だ?」 


 ダリオが足元に目をやると、小さな穴から煙が噴き出しているのか目に入った。


「な、何だ? 毒ガスか?」


 この国の死刑執行には毒ガスが使われていると聞いた事がある。


 ダリオは急いで扉から離れて口を塞いだが、それよりもガスの回りの方が速かった。


 パメラとデボラがその場に崩れるように倒れ、ミゲルもガクリと膝をついている。


「……」


 ダリオは三人の名前を呼ぼうとしたが声にならず、やがて意識を失った。


 

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