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35 誘惑

 翌日、デボラとミゲルはビアンカと一緒に馬車に乗り、学校へと向かった。


 ミゲルに続いて馬車を降りたデボラは次に降りてくるビアンカを待った。


 ビアンカが降りてくるとこれ見よがしにビアンカの腕を取り、周りに聞こえるような声をあげる。


「お姉様と一緒に学校に通えるなんて嬉しいわ」


 ビアンカはそんなデボラの態度に少し戸惑った顔を見せた。


「余計な事は言わない方が身のためよ」


 デボラがそう囁くとビアンカは唇を噛み締めて頷いた。


 そんなビアンカの表情が更にデボラの気分を高揚させる。


 教室に向かうとデボラはビアンカの席の側に立った。


 ビアンカはデボラが立っているので、自分の席に座って良いものかオロオロと迷っている。


 そんなビアンカの様子が可笑しくてデボラは笑いを堪えるのに必死だった。


 それほど時間を置かずに担任教師がやってきて、デボラの席は一番後ろだと告げた。


(そんなに離されちゃ監視なんて出来ないじゃない) 


 デボラは両手を胸の前で組んで、潤んだ目で担任教師を見上げた。


「先生、私はお姉様の隣の席がいいんです。変えてもらえませんか?」


 いつもは使わない「私」という言葉に舌を噛みそうになったけれど、そんな事は気にしていられなかった。


 慣れない学校で不安なのだろうと担任教師は勝手に解釈してくれたようだ。


「そうか、そうだよな。よろしい! それじゃデボラ君はこちらの席に座りなさい」


 担任教師の鶴の一声で、デボラはビアンカの隣に座る事が出来た。


 元々ビアンカの隣に座っていた女生徒が、少し不満そうな顔を見せていたけれど、デボラには知ったこっちゃなかった。


 昼休みの時間になるとビアンカはカルロスと一緒に昼食を取ると言うので一緒に食堂に向かった。


 途中で合流したミゲルと共にカルロスがいる食堂に入ると、先に来ていたカルロスはちょっと驚いた顔を見せた。


 デボラはビアンカと、ミゲルはカルロスと並んで座り、昼食を食べる。


 ミゲルとカルロスは気が合ったらしく、楽しげに会話を進めている。


 デボラはビアンカと話をしたいわけじゃないので、ミゲル達の会話に加わりビアンカを放置した。


 学校では常にビアンカと一緒に行動を取っていたので、端から見れば仲良しだと思われているだろう。


 カルロスは時折、ビアンカを訪ねてマドリガル家を訪れていたが、その時は必ず仕事を言いつけて対面を遅らせた。


 その間はデボラとミゲルがカルロスの相手を務めた。


 時にはデボラ一人がカルロスの相手をする事もあった。


 デボラは自分の胸が強調されるようなドレスを身に着けてカルロスの向かいに座った。


 カルロスの視線がチラチラとデボラの胸元に注がれる。


 そんなカルロスの様子にデボラは心の中でほくそ笑む。


「カルロス様、隣に座ってもいいですか?」


 デボラはそう言うなり、カルロスの返事も待たずに隣に腰を下ろす。


「デ、デボラ嬢、何を…」 


 狼狽えて少し位置をずらすカルロスに、デボラは更に詰め寄る。


 そうしてカルロスの腕に抱きつき、胸をカルロスの腕に押し付けた。


 カルロスはたじろぐものの、デボラの腕を振り払おうとしなかった。


(男なんてチョロいわね)


「…私、カルロス様の事が好きなんです…」 


 目を潤ませてデボラがカルロスを見上げると、カルロスは困ったような表情でデボラを見返す。


「デボラ嬢、気持ちは有り難いが僕には既にビアンカ嬢が…」


「分かってます。カルロス様がお姉様と婚約しているのは…。でも、どうしても私の気持ちを伝えたかったんです」


 そう言って一筋の涙を零してみせると、カルロスはたまらずデボラを抱きしめてきた。


「あぁ、カルロス様…」 


 おずおずとカルロスの身体を抱き締めると、カルロスの唇がデボラの唇を塞いだ。


(これで、カルロスはあたしの物だわ)


 デボラは優越感に浸りながら、カルロスと唇を重ねた。


いつもお読みいただきありがとうございます。

次回投稿は2025年1月4日を予定しています。


皆様、良いお年をお迎えください。

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