33 略奪
自分に母親違いの姉がいる事をデボラが知ったのは、デボラが七歳になる頃の事だった。
何処からか戻って来た父親のダリオが何やら悪態をついているのが耳に入ってきた。
「どうしたの? お父様」
デボラが問いかけるとダリオは、それまでの険しい顔からぱっと笑顔に切り替えた。
「おお、デボラか。今日も可愛いな。そんな風に笑いかけてくれて、ビアンカとは大違いだ」
「ビアンカってだあれ?」
初めて耳にした名前にデボラは首を傾げた。
ダリオはちょっと気まずそうな表情を見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「今まで黙っていたが、実は私にはもう一人娘がいるんだ。デボラには姉に当たるが、ほんの数ヶ月しか違わないんだが…」
そこから聞かされた父親の話にデボラは衝撃を受けた。
なんと父親には別の奥さんと子供がいると言うのだ。
しかもその二人は本邸で、裕福な生活をしているという。
デボラは父親のダリオが伯爵家の長男だとは聞いていたが、まさか自分の母親が『愛人』と呼ばれる立場の人間だとは思ってもいなかった。
何しろ父親はこの家でデボラ達と一緒に生活していたからだ。
(あたしが愛人の娘だって言うの? ちゃんと両親が揃っているというのに? 冗談じゃないわ!)
デボラは自分が『愛人の娘』と呼ばれる立場にあるのを憤慨したが、だからといってビアンカと立場が入れ替わるわけではなかった。
十分大きな屋敷だと思っていた今いる場所も、本邸の何分の一にしか満たないと聞かされて愕然とした。
(お父様に見放されているような人達が大きな屋敷に住んで、お父様と一緒にいるあたし達がこんな小さな屋敷に押し込められているなんて…。いつか絶対にビアンカの手から奪ってやるわ)
そう決意したデボラの元に祖父が亡くなったという報せを聞いたのはそれから六年後の事だった。
会った事もない祖父が亡くなったと聞かされてもデボラは悲しくもなんとも無かった。
だが、これで父親のダリオが伯爵家を継ぐ事になる。
父親に連れられて向かった本邸は、別邸とは比べ物にならないほど立派な建物だった。
「デボラ。今日からここがお前の住む屋敷だ。まずはお前の部屋を決めないといけないな」
「お父様、あたしはビアンカの部屋がいいわ」
デボラがそう告げると、ダリオはデボラの真意がわかったようでニヤリと笑った。
「そうだな。ビアンカにはもう必要のない物だからな」
そうして向かったビアンカの部屋は、とても魅力的な物だった。
部屋に入るなり、デボラはサッとビアンカを観察した。
それなりに美少女ではあったが、自分に比べて父親のダリオに似ている所が一つも無かった。
おまけに身体は細く胸も小さい。
母親に似て豊満な胸を持つデボラは、ビアンカの身体を見て鼻で笑った。
そしてわざとビアンカを無視して、部屋の中へズカズカと足を踏み入れ。
「あら、素敵な部屋じゃない。気に入ったわ。やっぱり別邸とは比べ物にならないわね」
そのままベットに向かい腰を下ろすと、そのままベットに寝転んだ。
部屋の中にいたビアンカの侍女がダリオに抗議しているのが聞こえた。
そのままダリオはビアンカにこの部屋を明け渡して、使用人棟に移るように告げているのをほくそ笑みながら聞いていた。
(やったわ。とうとうあの女からこの部屋をぶんどってやったわ)
ダリオから部屋を明け渡すように言われたビアンカが、ノロノロと荷造りをするために動き出した。
「あたしが荷造りを手伝ってあげるわ」
そう言うなりデボラは引き出しに仕舞われていたビアンカの下着を次々と床に投げ出した。
「あっ、何を…」
ビアンカは下着をダリオに見られるのが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして下着を拾い集めている。
デボラは次にドレスを物色して、自分の好みでない物をビアンカに投げてよこした。
「これはあたしの好みじゃないから、あんたにあげるわ」
そう言ってやると、ビアンカは悔しそうに唇を噛み締めている。
そんなビアンカの姿を見るだけで、デボラは優越感を覚えた。
(なんて気分がいいのかしら。これからもこの女の物は何でも奪ってやるわ)
デボラは下着やドレスを抱えて部屋を出て行くビアンカの後ろ姿を見ながらそう決意するのだった。