表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/72

26 襲撃

「キャアッ!」


 ハサミがビアンカに向かって振り下ろされる瞬間、ビアンカは咄嗟に身を躱した。


 ハサミの先端が、ビアンカが座っていた椅子の背もたれを切り裂く。


 ビアンカは身を躱した弾みで床に倒れ込んでいた。


 メイドは再度、ビアンカに向かってハサミを振り下ろそうとする。


「ガブリエラ! あなた何をしているの!?」


 イリスの叫び声にガブリエラと呼ばれたメイドは、ハッとそちらを振り向く。


 その隙にビアンカは床を這うようにガブリエラから距離を取ろうとするが、思うように身体が動かない。


「待ちなさい!」 


 ビアンカが振り向くと、ハサミを持ったガブリエラが目に入った。


 だが、その腕が振り下ろされるよりも早く、騎士に取り押さえられていた。


 騒ぎを聞きつけて、扉の前にいた騎士が飛び込んできてくれたのだった。


「離してよ! この女に制裁を加えてやるんだから!」


 騎士に取り押さえられたガブリエラは、その手から逃れようともがいている。


 ビアンカはそのメイドの顔を見て、見覚えがある事に気付いた。


「…あなた、もしや…」


 それは学校で同級生だった子爵家の令嬢だった。


(聞き覚えのある名前だと思ったら、やはり彼女だったわ。だけど、どうしてここでメイドをやっているのかしら?)


 不思議に思いながら、ビアンカはイリスに助け起こされて立ち上がった。


「ビアンカ様、お怪我はございませんか?」 


「大丈夫です。それよりも何故、ガブリエラさんが…」 


 そこへアベラルド王太子とレオナルドが、ビアンカの元へ駆けつけてきた。


「このメイドがビアンカ嬢に危害を加えようとしただと? 一体どういう事だ?」


 アベラルド王太子が、騎士に取り押さえられているガブリエラに向かって問いただす。


 ガブリエラはビアンカを睨みつけたまま、すぐには答えない。


「さっさと答えるんだ!」


 騎士に腕を捻り上げられて、ガブリエラは噛みつかんばかりの勢いで話し出す。


「この女が悪いのよ。カルロス様と婚約していたのに、『自分に相応しくない』とか言って婚約破棄して妹に押し付けて…。挙げ句に今度はアベラルド様に取り入って離宮に乗り込んでくるなんて。私がこうして家の為に働きに出されているっていうのに…」


 ガブリエラの言葉にビアンカは困惑を隠せなかった。


(私がカルロス様をデボラに押し付けた? 一体何処でそんな話になっているのかしら?) 


 ビアンカ同様、アベラルド王太子とレオナルドも怪訝な顔をしている。


「何処でそんな話を聞いたんだ? 答えろ!」


 アベラルド王太子の剣幕にガブリエラは一瞬、身を縮こまらせた。


「何処って。先日行われたカルロス様とデボラの婚約披露パーティーよ。そこでデボラが愚痴ってたわ。『お姉様ったら、急にカルロス様とは結婚しないって言い出したの。我が家にはもう一人娘がいるんだからって。学校を卒業してから遊び歩いてばかりで困ったものだわ』ってデボラが嘆いてたもの」

 

 どうやらデボラ達はビアンカの事件を隠す方向で進めているようだ。


 カルロスはビアンカに捨てられた可哀想な男性で、デボラは奔放な姉に婚約者を押し付けられた純真無垢な異母妹を演じるつもりなのだろう。


 そのパーティーで二人は参加者から同情を集めていたようだ。


 ガブリエラもそんな参加者の一人なのだろう。


 彼等の話を信じ、憤慨している所へアベラルド王太子に連れられてビアンカが姿を現したから、今度はアベラルド王太子に手を出そうとしていると勘違いしたようだ。


 だからといってビアンカを傷付けようとするのはお門違いだと思うのだが、ガブリエラは働きに出されている事への鬱憤晴らしでもあったようだ。


「もういい。彼女を連れて行け。この瞬間をもってメイドは解雇する」


「はっ!」


 騎士達は暴れるガブリエラを二人がかりで引きずるように連れて行った。


 その後ろ姿を見送りながら、ビアンカは安堵のため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ