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23 治癒魔法

「痛えっ! 何しやがる!」

  

 ビアンカに噛み付かれた男は、ビアンカを振り払った。


 その弾みでナイフの先がビアンカの頬を掠める。


 男に振り払われたビアンカはその場に倒れ込んだ。


 両手を後ろ手に手枷をはめられているせいで、手をつく事も出来ず肩から倒れ込む。


 男からビアンカが離れた事を見てとったアベラルド王太子が即座に男に近付き、ナイフを持った腕を捻り上げる。


「貴様! よくもビアンカ嬢を!」


 アベラルド王太子に腕を捻り上げられて、男はたまらずナイフを取り落とした。


 アベラルド王太子は騎士達に男を任せると、倒れているビアンカに駆け寄った。


「ビアンカ嬢、大丈夫ですか!?」


 アベラルド王太子はビアンカの手枷を外して助け起こすと、その頬には一筋の血が流れている。


「顔に傷が…。治癒魔法をかけますので、少しお顔に触れますね」


 アベラルド王太子がビアンカの傷にそっと触れると、ポウッと淡く光り、傷が消えていった。


(…王族が治癒魔法を使えるというのは本当だったのね…)


 ナイフが掠っただけとはいえ、それなりに痛みがあった頬の傷はあっという間に消えてしまった。


 ビアンカは思わず頬に手をやったが、もう何処に傷があったのか、自分でも分からなかった。


「…ありがとうございます、アベラルド様」


 立ち上がろうとしたが、倒れた際に足首を捻ったらしく、痛みに思わず顔を顰めた。


「足にも怪我を? こちらも治して差し上げますね」


 再び淡い光りがビアンカの足首を照らし、ビアンカはようやく立ち上がる事が出来た。


 ビアンカは立ち上がったものの、正面からアベラルド王太子の視線を受けて居た堪れなくなる。


(アベラルド様の前でこんな格好をしているなんて…。早くこの場を立ち去りたいけれど、何処にも行くあてがないわ…)


 ホールの中に居た人々は既に騎士達によって外へ連れ出されたようだ。


 その中にはロサリオ院長も含まれているのだろう。


 ロサリオ院長が居なくなったとすれば、この先あの孤児院は一体どうなるのだろうか?


 元々ビアンカの年齢の者が孤児院に居ていいわけではない。


 ロサリオ院長の代わりが誰か来れば、ビアンカは退去を命じられるだろう。


(…もしかしたら、アベラルド様は私を捕まえに来たのかしら?)


 ビアンカは強制労働所に送られる途中で崖から落ちたのだが、生きているかもと探していた可能性だってある。


 孤児院の子供達に聞けば、名前はともかく、人相や年齢などからビアンカだと判明したのかもしれない。


 そしてビアンカを捕まえに来た所で、たまたま人身売買のオークションの場に遭遇し、一網打尽にしたのかもしれない。


 ビアンカはそう解釈すると、アベラルド王太子に向かって両手を差し出した。


「アベラルド様は私を捕まえにいらしたのですね。もう覚悟は出来ておりますから、どうかこのまま強制労働所に送ってください」


 ビアンカがそう告げると、アベラルド王太子は驚いたような顔で目を見張っている。


(…どうしてそんなに驚いた顔をなさっているのかしら? まさか、私がこんな風に素直に両手を差し出すとは思っておられなかったのね。きっと崖から落ちて行方不明になったのも、私の偽装工作だと思われていたのかもしれないわ…)


 ビアンカがじっとアベラルド王太子を見つめると、アベラルド王太子はワタワタと手を振る。


「ち、違います! 私はビアンカ嬢を助けに来たんです! 決して捕まえに来たわけではありません!」


 アベラルド王太子の弁明にビアンカは更に首を傾げる。


(助けに? 何から助けに来られたのかしら?)


 ビアンカが考え込んでいると、パンパンと手を叩きながら、レオナルドが割り込んできた。


「はいはい、お二人さん! こんな所で立ち話もなんですから、とりあえず馬車に移動しましょう。騎士団の捜査の邪魔になりますからね」


 レオナルドに促され、アベラルド王太子はすかさずビアンカに手を差し出してきた。


「ビアンカ嬢、馬車までご案内いたします」


「わ、わかりました」 


 ビアンカはアベラルド王太子にエスコートされるまま、馬車へと移動した。

 

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