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18 追憶

 孤児院で生活するようになって一週間が過ぎた。


 慣れない子供達の世話も、年嵩の子供やボランティアで来てくれる女性達の助けを借りてなんとかこなしていた。


「ふうっ、やっと寝てくれたわ…」


 小さな子供達を寝かしつけて、ビアンカはようやく一息ついた。


 孤児院には個室などという物はない。


 男女別に分けられただけの部屋に、皆が一緒に寝るのだ。


 こんな状態ではプライバシーも何もない。


 だからこそ、子供達は十五歳になると就職先を決めて孤児院を出て行ってしまうのだろう。


(置いて貰っている身とはいえ、これはちょっと辛いわね)


 ビアンカは寝ている子供達の布団を直してやりながら、自分のベッドに戻った。


 隣のベッドには年長者であるモニカが寝転がって本を読んでいた。


 向こうの方ではおしゃべりをしている子もいた。


 本人達は小さな声でしゃべっているつもりでも、夜ともなれば割と響くものだ。


 ビアンカは注意すべきかどうか迷った。


(どうしよう…。注意した方がいいかしら? だけど、ここに来て間もない私が注意しても聞いてくれるかしら?) 


 この中で年長者とはいえ、新参者であるビアンカに注意されるのは腹立たしいに違いない。


 ビアンカがチラチラと子供達の方を見ていると、モニカがバタンと本を閉じてベッドから立ち上がった。


 そのままおしゃべりしている子供達の所に行って、小声で注意している。


 子供達はモニカに注意されると、おしゃべりを止めてそれぞれ布団をかぶって寝る体勢に入る。


 隣のベッドに戻って来たモニカにビアンカは小さな声で「ありがとう」と告げた。


「うるさくて本が読めないから注意しに行っただけよ。カリナのためじゃないわ」


 モニカは不機嫌そうに告げると、また本を開いて読書に没頭し始める。


 ビアンカは軽くため息をつくとベッドに横になった。


 天井を見上げていると、不意にアベラルド王太子の顔が思い出された。


(嫌だわ。どうしてアベラルド様の顔を思い出したのかしら?)


 アベラルド王太子とは学校で何度か顔を合わせている。


 容姿端麗で人当たりがよく、何人もの女生徒がアベラルド王太子を取り囲んでいた。


 ビアンカもそんなアベラルド王太子に密かに心を惹かれていたが、既に婚約者がいる身だったため、そんな態度はおくびにも出さなかった。


(アベラルド様にお会いしたいけれど、今の私は犯罪を犯した挙句の逃亡者だもの。ご迷惑にしかならないわ)


 アベラルド王太子の事を思い出しながら、ビアンカはいつの間にか眠りについた。



 *****


 アベラルド王太子は焦っていた。


 ビアンカが崖から落ちて一週間が経つというのに、未だにビアンカを探し出せていなかった。


 そもそも、ビアンカの捜索に人手を割くのを父親である国王に反対されたからだ。


「何? ビアンカ・マドリガル嬢を探すのに騎士団を貸して欲しい? 何を言う! 騎士団はお前の私兵ではないぞ! それに彼女は殺人未遂を犯したと言うではないか! それに崖から転落したんだろう? とても生きているとは思えんな」


「ですが、父上! ビアンカ嬢はきっと無実です! 彼女が殺人未遂など犯すはずがありません! 万が一、生きていないにしてもせめて亡骸だけでも連れて帰ってあげたいのです!」


 アベラルド王太子が国王に訴えたが、国王は頑として首を縦には振らなかった。


「無実だと言うが、騎士団が現場に入った時、彼女の手には血の付いたナイフが握られていたと言うではないか!」


「それも何かの間違いに決まってます。どうかビアンカ嬢を探させてください!」


「それほどまで言うのなら、そなたがビアンカ嬢を探し出して来い。ただし、仕事の手は抜くなよ」 


「…わかりました」 


 アベラルド王太子は唇を噛み締めながら父親の執務室を後にした。


 仕事をしながらの捜索は思うようにはかどらない。


 レオナルドや他の友人の協力を得たものの、進み具合は芳しくない。


 ビアンカが落ちた地点から捜索に当たったが、未だにビアンカの姿を発見出来ずにいた。


「もっと川下に流されたんじゃないのか?」


 レオナルドに言われて、アベラルド王太子は川の流れを見て考え込む。


「確かに、この流れの速さならそうかもしれないな」


 川を下ってようやく流れの緩やかな場所で、アベラルド王太子は一人の釣師に出会った。


「この辺りで川に流された若い女性がいなかったか?」


「若い女性? さぁ、そんな話は聞かないな」


 釣師の言葉にがっかりして帰りかけたアベラルド王太子に、釣師がポンと手を叩いた。


「そう言えば、この先に孤児院があるんだ。もしかしたら、そこの人間が何か知っているかもしれないな。彼等もよくここで釣りをしているからな」


「孤児院? わかった、訪ねてみよう」


 アベラルド王太子は釣師に礼を言うと、孤児院へと向かった。


 


 

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